レベルが上がった~♪
ただ今準備してます。
ガチャガチャと金属が擦れる音が部屋の外から響いてくる。
音のする方に視線を向けていると、私の目の前に大量の鎧を持っているイフラフトが現れた。
「ほら、ヨルが気に入った物を装備して行くと良いよ」
ニコニコ笑顔のイフラフトであったが、持ってきてくれたのはどれも兵士の鎧であって、普通の女の子の服は皆無であった。
「イフラフト……気持ちは有り難いんだけど、これは全部鎧じゃないの?」
「うん?もちろん鎧だよ?ヨルにはこれが鎧以外に見えるのかい?」
見えるわけねぇだろっ!と、怒鳴り着けたい気持ちを抑えて、他に何か無いのか聞いてみる。
「えっと……鎧以外は無いの?」
そう聞くと、イフラフトは考えるように斜め上の方を見ながら答えた。
「鎧以外には、後はマントとか武器ぐらいしか無かったけれど?」
「それだよっ!それっ!!マントを持ってきて!それと、針と糸もお願い!」
「別に良いけど………」
イフラフトは怪訝そうな表情をしつつも、どうやら持ってきてくれる様だ。
暫くすると、イフラフトが大量のマントを持って戻って来た。
マントの色は青一色で、全部同じ光沢を放つ生地のマントであった。
「これ………どこの国の兵士のマント?」
「あっはっはっ!決まってるだろう?我が集落より最も近いのは、ハインツ帝国だ。帝国兵のマントに決まってるだろう?ははははは!」
何がそんなに可笑しいのか?別に私はなんら面白い事など聞いてはいないのですが?
人型になれるといっても、所詮は魔獣か…………。
笑いのツボが、私には意味不明だ。
私は笑い続けるイフラフトを、無視して早速裁縫に取り掛かった。
作るのはワンピースタイプの服と、その上に羽織る旅装のローブと、背負えるタイプの袋を作る予定だ。
***
数時間後に出来上がった物の微妙な仕上がり具合は、半端じゃ無かった。
自慢じゃないが、私の家庭科の評価は3だ。
5段階評価では無い。10段階評価で……だ。
パラリラッパラ~♪ヨルは、レベルが上がった。
【グダグダのワンピース(?)を手に入れた!】
【ツギハギの袋を手に入れた!】
【マントそのままのなんちゃってローブ?を手に入れた!】
【指と肩に10の、合わせて20のダメージ!】
【器用さと精神力が5上がった!】
って自分で言うとめっちゃ情けないな……これ。
でも、自分にしては頑張った方だと思う。自分で自分を褒めてやりたい。
だって自分で褒めなきゃ、ここでは誰も褒めてくれないからね?
よっしゃ、頑張って作ったワンピースを着てみるとするかっ!
いそいそと着替えてみると、中々の着心地。
元々質の良い生地のお陰か、光沢のある青色が爽やかな印象だ。
そしてパッと見ではグダグダ感溢れる縫い目は、あんまり目立たない。(あくまであんまり…だが)
その場でクルリと回って見ると、膝下のスカートの裾がフワリと広がり、私にしては上出来な作りじゃないかな?
私が自我自賛していると、パチパチパチと拍手が聞こえてくる。
その音に、ギクッとした。
私が恐る恐る振り返ると、ニコニコ笑顔のイフラフトが部屋の入り口で拍手をしていた。
その瞬間、私は顔面から火が出るかと思った。
だって、イフラフトの奴……一体どの辺りから私の姿を見ていたのだろうか?
着替え後か、着替え前かで、対応に差が出ますよ?
私はどうやってイフラフトに白状させようかと、考えたが、なんとイフラフトは自ら口を滑らせた。
「うんうん、何時間も飽きもせずに、良く頑張ったな!その服もヨルの薄い体型を良くカバーしていると思うぞ?素晴らしいっ!」
えっ?おまっ………お前今、何て言った?
私の薄い体型を良くカバーしているって言った?
確かに私は普通の女性よりも、その……小さいですけどね?でもワザワザそんな事を言わなくても、良いと思うし、それにその発言で良く分かったよ……私が着替える所を見てたなぁ~~~~~!!!
ぶん殴るっ!!そのイケメン面を、ボコボコに歪ませたるっ!!
ポキポキと指を鳴らしながら、イフラフトに近付いて行くと、イフラフトが不思議そうな顔で私を見てくる。
いわゆるキョトン顔だ。
今更そんな顔をしたって無駄だ。絶対に殴ると決めたんだからな。
私の中から熱い思いが溢れて、効果音を付けるとするならば、きっとドドドドドドドドドドだろうな、きっと。
私はイフラフトの顔面目掛けて拳を振り下ろしたのであった。
まだ行きませ~ん!
もうちょっと……だと思うよ。うん。




