女の子はファーストキスに思い入れが、大体ある
また唐突です。手直しはいずれ………。
「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ~!!!」
月夜に私の叫び声が響き渡る。
私は現在大型犬の背中に、振り落とされない様に必死にしがみついている。
最初に大型犬の背中に乗ったまでは、良かったんだよ。憧れの犬の背中に乗って、移動できるとか、胸がワクワクして熱くなったさ。
でも、な?
考えて見てご覧なさいよ……手綱も何も無い状況で、犬が猛スピードで走るんだよ?
普通に考えも、振り落とされるやろがっ!
はい、だから落ちましたよ。まぁ、地面にグシャッとなる前に、大型犬に助けて貰ったんだけど、危うく16歳でチビる所だったわ。
そんな私は苦肉の策を用意した。私が着ていた制服をよっつに切り裂いてもらい、それを繋げて紐状にした物を、大型犬の首に巻かせてもらいました。
若干短かったけれど、しがみつくようにすれば何とか振り落とされない。私って……天才?
う~ん……でも端から見たら、私は死にそうな顔をしている事でしょう。
だって……このしがみつくの、死ぬほど力が要るからね。
体力も限界に来てたし、休んだ時間は僅かだし、お腹は空いてるしで、もうグロッキーでした。
でも、絶対に誘拐犯の元に連れ返されるのはごめんだったし。
もう気力だけでしがみついてましまよ。ええ。
そして最終的に私は、しっかりと簡易紐を掴んだまま、意識を失うという荒業まで編み出してしまったのです。やはり…天才か?
***
そして、次に私の意識が戻ったのは、何と次の日のお昼近くになってからで、両手に走る痛みで目が覚めました。
「うっ…うぎ~~~~~うぎ~~~~~」
少し動かしただけで、ビリビリとした痛みが両手に走ります。
私が痛みでうーうー唸って居ると、聞いたことのおる声が、背後より掛けられた。
「おいおい?お前は猿か何かか?一応メスだろう?もう少し可愛らしい声で鳴けんのか?」
極力両手を動かさない様に、ゆっくりと声のした方を見ると、ワイルドなイケメンがこちらを見ながら私に近付いて来ていた。
誰でしょうか?声は聞いた事がある気がするのに、顔が誰だか分かりません。分からない事は本人に聞いてみれば良いですよね?
「えっと……貴方は…だれ…ですか………?」
私の声はガサガサにひび割れていた。
そりゃそうだ……昨日あれだけ叫んだら、誰だって声がこんなになるわっ!
「ははっ……酷い声だな?ほらこれでも飲め……って、そうか……お前、いま両手が使えないんだったか?」
なっ……!よく知ってるな、このイケメンはっ!
もしやストーカーか何かか?
私が警戒を露に、身構えるとイケメンは怪訝そうな表情をしながら、私に飲めと言った物を自分で飲む。
って、お前が飲むんかいっ!!と、突っ込みをするつもりだったのだが、イケメン次に取った行動により、私は固まってしまったのであった。
その行動とは、イケメンが私の口に、自身の口を使って液体を流し込んで来たのだ。
私は驚きに固まりつつも、その液体を嚥下してしまった。
そして口の端から零れた液体を、イケメンは舌で舐め上げると何の気負いもなくニコリと、微笑んだ。
「これで直ぐに声も元通りになるし、手の痛みも引いて来るからな?」
イケメンは優しく私の頭を撫でると、そう言って部屋から出ていった。
あうあうあう……えっ?なっ…?何?今……えっ?
私は両手の痛みなど忘れてしまう位に混乱していた。
だって……だって……今のが私の……ファースト……キスだったんだよ……。
私だって変わってると言われて居ても、16歳の女の子ですから、一応理想のファーストキスってものもあったさ……現実はこんな感じでしたが。
くっそ!私のファーストキスがぁ……何か薬臭かったしよぅっ!全然素敵なシチュエーションじゃないしっ!!ちきしょう……ちきしょう……。
そっ…そうだっ!忘れよう!そう、人工呼吸とかと同列だよ!こんなのノーカウント…ノーカウントだよね?しくしくしく……。
私は違うことを考える事にした。私のファースト…ゴニョゴニョ…の話は、もう引っ張らない。
そう!これも気になってたんだけど、ここは一体どこなのだろうか?
現在私は何かフワフワでお日様の匂いのする、敷布団に寝かされてます。
私がキョロキョロと部屋の中を見回していると、先程のイケメンが出ていった場所から、今度は小型犬が尻尾をフリフリ入って来る。
「ワンワン……キャワーン……」
わあっ!昨日の小型犬っ!この子が居るのならば、あの親犬も一緒に居る筈であろう。
小型犬は可愛いのだが、意思の疎通が難しいからねぇ……。
「ねぇ、ねぇ…小型…じゃなくって、子犬ちゃん。えっと……お父さんかな?呼んできてもらっても良い?分かる?」
う~ん…?何か声が出しやすくなった。えっ……まさかさっき飲まされた液体が効いたのかな?効き目早くね?流石は異世界。不思議に満ちてるな。声が出て痛くないから、まぁこの件については、いっか。飲まされた液体に付いて、思い起こすと余計な事まで思い浮かべてしまいそうだし……ね。
小型犬は小首を傾げて、まるで「なあに~?」とでも言っている様だ。あざと可愛い。
「うっ…う~ん……だから、お父さん……う~んパパ?それとも……父上とか?」
最後の言葉に、小型犬がピクリと反応を見せた。
父上…か?父上ならば分かるのか?
「貴方の父上を…呼んできてっ!お願いっ!」
両手でパンッと拝んでみると、まるで「分かった~」と言わんばかりに首を上下に首肯すると、小型犬はパタパタと部屋から出ていった。
少し待っていると、部屋の外から「ワンワン」と吠える犬の声が聴こえて来て、さっきのイケメンが小型犬と共に部屋に入って来る。
おいぃぃぃぃ~!このキス魔のイケメンじゃなくて、貴方の父上を呼んで来なさいよっ!
やっぱり通じて無かったのかぁ~と、私がガックリしていると、イケメンが心配そうに話し掛けて来る。
「どうした?大丈夫か?息子が呼ぶから体調でも悪くなったかと思ったが、そんなに悪そうに見えないな?」
うん?息子が呼ぶ………とな?
「キャウン…キャンキャン……ワンフ~?」
「うん?そうかそうか、お前もいっちょまえにコイツの事が心配だったか~。ふふっ優しいな……」
えっ?何か……会話してませんかね?
「キキュン…ワフアフ……ワンワンワン~」
「おっ?照れてるのか?可愛い奴めっ!」
イケメンと小型犬が楽しそうにキャッキャッしてる。何やら意思の疎通が出来ている模様だ。
それに……息子って言ってませんでしたかね?
まっ……まさか、ね?
うん……聞けば良いんだよ……それでハッキリするじゃかないか。
私は何気なくイケメンに、問い掛けた。
「あっ……あのぉ~。つかぬことをお聞きしますが、貴方は……昨日の……えっと……魔獣さんですか?」
イケメンは私の問いに、ケロリとこう答えた。
「そうだけど?」
「うええぇぇぇぇぇぇ…………?」
私の混乱した叫びが室内に響いたのであった。
魔獣にファーストキスを奪われる夜でした。
まぁ、でも魔獣でもイケメンなんだから、文句を言うなっ!と思う。
えっ?思わない?そうですか……。




