犬ってやっぱ最高~!
こんなんできましたけど?
逃げ出した外は夜であったが、夜空には月が出ていて薄暗かった。
若干失敗したかも……。だって月は出ているが、こう視界が悪くては思うように逃げられない。
一応舗装されている道を進んでいるのだが、日本のようにアスファルト舗装などでは無く、ただたんに雑草を引っこ抜いてならした程度の道だったので、走りにくい事、この上ない。
ちっしょう!本当なら今頃は町で働き口を見つけて、一息付いている筈だったのに………本当にツイてない。
そもそも何故、私はこの世界に来たんだろうか?
シャルドネさんに説明を受けている最中に、シオリが部屋に入ってきて、地下牢に入れられたんだったな。エイアスは、聖女がどうとか言っていたような?
と、言うことは牢屋に入れられた私は、聖女では無いな。シオリが聖女だったという事だろう。
だからシオリは神殿に毎日お祈りとか捧げに行ってたという事だな?
そっかそっか~………って、じゃあ結局私は要らなくね?
シオリの巻き添えか?ガッデムッ!!
全く………シオリに係わると碌な事が無いよ。
以後絶対に近寄らない様にしなければ。
私はそう固く決意をすると、月夜の道を走ったのであった。
***
うっ…うげえっ……。体力にだけは自信があったのに、もう駄目だ。疲れたし、何よりお腹が空いたよっ!
昼から何も食べて無いから身体がフラフラする。
私は近くにあった巨木の根元に座り込むと、巨木に背中を預けて、一先ず休憩することにした。
ゴリッ……。
痛っ!腰に何かがゴリッて…………あっ!
私が着ている制服の、ポケットの中を探ると、キャンディがみっつ出てきた。
それは私が王城からくすねてきたキャンディであった。
私はこっそりポケットにキャンディを忍ばせた自分を、良くやったと褒めてやりたい。
みっつの内のひとつを口の中に放り込む。
コロコロと口の中で転がすと、甘い味が口に広がった。どうやら味はイチゴ味の様だ。美味し。
疲れた身体と心に、糖分が染み渡るねぇ。
私がマッタリしていると、私の直ぐ横の繁みがガサガサと左右に揺れ出した。
むっ?もしや………追っ手か?と、緊張した私でしたが、繁みから現れたのは小さな犬の様な動物でした。
「キューン……キューン……クゥン……」
犬の様な動物は、私にプルプルと震えながら近寄ると、足元に丸まったのだ。
なっ!なんというあざとい可愛らしさでしょうか?
ぐはっ!動物好きのツボを押さえていらっしゃるっ!
犬は昔飼っていたので大好きだ。むしろ動物の中で一番好きだと言っても過言ではない。
私は犬の様な動物の背中を優しく撫でてやると、犬の様な動物……面倒なので犬と呼称する事にする。
犬は、気持ち良さそうに「キューンキューン」と甘えた声で、何度も鳴いた。
ハアハア……可愛い……ハアハア……。
うん。客観的にみると、今の私は多分マジでキモいと思う。いや、だってこんな薄暗闇の中で、ニタニタしながら犬を撫で回してるんだよ?
自分がそんな奴に出会ったら、まず近寄らないし、もしも近寄らないといけない状況だったら、相手の意識は奪うね、確実に。
だから………だから、こんなことになった現在の状況は一応頭では把握しているつもりだ。
そう、私は現在先程の犬を大型にした動物に襲われている。私を地面に倒して、片足で私の鳩尾を押さえている……といった状況だ。
大型犬の足元では、私が撫でていた小型犬が大型犬に「ワンワン!ワンワン!」と、吠えまくって居る。
そのお陰かどうかは知らないけれど、まだ私の意識は刈り取られてはいない。
勝手に察するに、大型犬は小型犬の親か何かじゃ無いだろうか?
まあ、そうですよね?こんな小さくラブリーな生き物が一匹でウロウロしてませんよね?少し考えれば近くに親とかいるよね?普通。
だが、まぁ……親がこんなに大きいとは、思わないじゃん?こんな……3メートルはあるよ……。でけぇ…。
『息子よ……そんなに吠えたてないでくれないか?父は人間に捕まったお前を、助けてあげたのに…』
「ギャワンッ………ワンワン……ワンッ……」
『うっ……。そんなにこの人間が気に入ったのかい?しょうがないな……』
「ワッフーン……キュンキュン………」
えっ………?なっ…何今の?大型犬……何か……あるぇっ?人語喋ってね?えっ?これ夢?それとも私の妄想か?
ポカーンと口を開けっぱなしにしながら、大型犬を見詰めていると、私に見詰められているのに気付いた大型犬が、話し掛けてくる。
『うん?どうした人間よ?魔獣など、珍しくは無いだろう?いつものように、悲鳴を上げて攻撃してきても良いぞ?返り討ちにしてやるからな?』
はぁっ!?魔獣……?何それ?えっ?それなんてファンタジー?
すっげぇ……すっげぇぞっ!!犬がっ!犬が喋ってるぞいっ!!!
「私……いま犬と喋ってる………意思の疎通が可能とは………流石異世界………ぐへへ…最高……」
デロデロリーン………という擬音が聴こえて仕舞うほどに、相好を崩しきった私の私の表情に、驚いたのか、大型犬がこんな事を呟やいた。
『うっ……う~ん…。この人間……我々に敵意は無い様だが、若干……気持ち悪いな……』
ガーン………。犬にまで気持ち悪いって、言われたよ。ヘコムわ。
「ううっ……酷い言い草だ……こんなにか弱い少女に対して………」
『………………………………か弱い?』
ふうっ……また疑問系ですよ。
何でこっちの世界の住人には、伝わらんのかねぇ、この私から溢れ出てるか弱さが。
というか……会う人会う人に、か弱さを疑われるってどんだけだよっ!最後なんか人じゃねーし!
『お前は十分図太いよ。だって我々が魔獣だと教えたのに、一向に怖がらないしな?』
えっ……普通怖がるの?それがこの世界の常識だったの?
でも知らんよ。
こちとらピチピチ(死語?)の日本人だし?こっちに来てから、外を出歩くのが初めてだし?常識知らずは、私のせいじゃない。誰が悪いのかって話をするならば、やっぱエイアスの野郎かねぇ?
こりゃた精神的苦痛を訴えて、奴から慰謝料をガッポリせしめてやろうかな?
そんな事を私が考えていると、大型犬がいきなり片耳を、ピクリと持ち上げた。
『おや?遠くからこちらに向かって来る数人の人間の足音がするな……。う~ん…何かを探しているようだが……』
ビクッ……………。
大型犬のその発言に、私はつい反応してしまった。
『ふうん………。その反応からして、お前はどこからか逃げ出して来たんだな?』
ドキッ……………。
またも反応してしまう。
『ふぅ~……お前、そんなに正直でどうするんだよ?人間なんて、人を騙して生きてるのに……』
「キキューン……ワフアフ……キューン…」
小型犬が、私の足元にまとわりつく。
『………息子もお前を気に入ったみたいだから助けてやるか………』
そう言うと、大型犬は私の襟首を咥えて立ち上がった…………………………のだが、咥えられたシャツで私の首が絞まってしまい、あえなくこの運び方は却下させてもらった。
仕方がなく私を背中に乗せてくれた大型犬は、しっかりと掴まっていろと言うと、物凄いスピードで森の中を駆け抜けて行ったのであった。
あっはっはっ……。
どうしてこうなった?
もう、どうにでもなれよ。
はあっ…。




