いつもの日常
誤字脱字に注意。
「………助け…て!…たす……け……て…………」
遠くで誰かが必死に助けを呼んでいる声が聞こえる。
返事をしてあげたいのに、こちらの声は届かず、段々と意識は遠のいていき、目が覚める。
高校生になってから、見始めるようになった不思議な夢は、覚醒時に若干の頭痛をもたらしていた。
身体をベッドから起こすと、ツキンツキンとこめかみが痛んだが、今日は学校がある。この程度の頭痛では、流石に休めない。
ノロノロとパジャマから制服に着替えると、階下に降りていく。
キッチンでは父が新聞を広げており、兄も日経新聞に目を通していた。
そして幼馴染みの雷がノンビリと朝食を食べていた。
いつもの光景だ。
隣に住む雷は3人兄弟の末っ子で、両親や兄達が朝早くから働いているので、いつもうちの家で朝ご飯を食べるのが、習慣化している。
「あれ~?夜、今日はなんかいつもより少し遅くない?体調でも悪いの~?」
モソモソと食パンをかじりながら、雷が首を傾げながら聞いてくる。
流石幼馴染み………。長い付き合いであるので、起きてくるのが少し遅い=調子が悪いと把握されている。
しかしながら、私の家の家族は心配の声を全く上げない。
母は洗い物をしているので、しょうがないとしても、父と兄め………読んでるものから視線すら上げないとは、どういうことなんですかね?
まぁ、心配されても、二人ともそんなキャラじゃ無いから、気持ち悪いだけだけどね……。
「うん……まぁ…大丈夫。死にはしない…きっと」
私が頭痛薬を棚の中の薬箱から出しながらそう言うと、雷は怪訝な声音で聞いてくる。
「また頭痛?と、言う事はまた例の夢?」
心配げに聞いてくれる雷には、最近夢見が悪いことを言ってあったのである。
「そうなんだよ……。一体何なんだろ?」
「まぁ、気にし過ぎても、しょうがないよ~。ただの夢なんだし」
「雷の言う通りだ。余り気にしない様にするよ……」
本当は胃が荒れるから、何か食べてから薬を飲んだ方がよいのだが、食欲が湧かないので仕方なく白湯で頭痛薬を飲み込んだ。
少し経つと、痛みが少し楽になって来たので、用意されていたジャムトーストを、チビチビ食べ始めた。すると洗い物をしていた母が、私に声を掛けてきた。
「あら~?夜ちゃん、起きたの?お早う~!」
「ああ……うん、おはよ………」
「ん~?どうしたの?元気ないみたいだけど」
「いつものアレだよ………」
「いつもの………アレ……?ああ~!生理?」
「ぶーーーーーーーーーーっ!!!」
「うぎゃっ!なっ…何すんだ、夜!!」
母のとんちんかんな発言に、私は飲んでいたコーンポタージュのスープを、勢いよく口から噴出させた。
そしてその噴出したコーンポタージュを、涼しい顔で経済新聞を読んでいた兄の顔面に、吹き掛けてしまったのであった。
「ゴホッ………ゲホゲホッ……ゴホゴホッ…」
うん。兄よすまんな。見れば分かるだろうが、現在私は噎せている。
しかも元凶は私じゃないっ!母だっ!
母にもここ最近、夢見が悪く、頭痛がする事は伝えてあったので、つい面倒くさくてアレと言ったが、どうやら母には正しく伝わらなかったようだ。
「あら?夜ちゃん大丈夫?朝くんも何か拭くものいる~?」
母は噎せる私の背中を擦りながら、兄に拭くものを用意するか聞いている。
「結構だっ!!」
短く返事をした兄は、足音荒くキッチンから出て行った。
部屋で着替えでもするんだろう。ごめん!!
「ふむ……時間だ。私は会社に行ってくる」
ただ一人、我関せずだった父が家から出ようとすると、母がその後を着いて行き、玄関先でいってらっしゃいのキスをしている。
もう新婚でも無いのに、ラブラブな事ですな。
それにしても、母はあんな面白味も愛想も無い父のどこが好きなのだろうか……娘の私には分からんが。
「僕もご馳走さま~!」
モソモソ食パンをかじり終えたのか、雷が両手を合わせている。
「……コホッ……。雷、もう少し待ってて……」
「うん、構わないよ~。テレビ観てるから、終わったら教えて~」
「分かった……」
そう言うと、雷はテレビを点けてニュース番組の占いコーナーを、真剣に見始めた。
私はその姿を視界に入れつつ、残りのご飯を食べたのであった。
続けて更新するので、気をつけて下さい。




