私の小さな世界
――世界は、とても広く、素敵なんだよ。いつか誰かが言っていた。
そんなに素敵なものなら、私は外の世界を見てみたいと思った。
けれどそんなもの、どこにも無かった――。
私だって、元々こんな風に生きたかったわけじゃない。
だけど、それを周囲は許してはくれなかった。
自由に生きることを、許してはくれなかった。
それでも私は、今でも自由に、外の世界を見てみたいと、思っている。
それは、いけないことなのだろうか?
ただ、思っているだけで、行動することなど許してはくれないというのに。
この思いは、罪であり、許されるものではないらしい。
私が外を見れば、とても嫌なお仕置きが待っている。
お仕置きされることが分かっていたとしても、それでも私は外を見ることが諦めきれないのだ。
「外には、どんな世界が広がっているのかなあ?」
たったこれだけの言葉だけで、私の一日は終わる。
その言葉を誰かに聞かれただけで、私の一日は、終わってしまう。
「もう、耐えられないよ……」
ずっと、今まで耐えてきた。それでも、私の世界が変わることはなかった。
いつか誰かが言っていた、素敵な世界。ただそれだけを願っていただけなのに。
私はついに、閉ざされた世界から逃げ出した。
私が履く為の靴なんてない。裸足のまま、外へ飛び出す。
外には砂利や尖った石があり、歩みを進めるほど、足の裏が痛かった。
けれど止まってはいけない。あれほど私のことを外へ出すまいとしていたのだから、必ず追手が来るだろう。
だから、休むこと無く、私は前へと進む。
足を前へ、前へ、進めていくけれど、私の視界には緑ばかり。
以前、本で見た木々が覆い茂る森の中のようだった。
長い時間、進み続けた。けれど、追手がやってくる様子はない。
私はとうとう、疲れで歩みを止める。
近くの木にもたれかかって、体を少しでも休めることにした。
もたれかかった木はひんやりとしていて、気持ちいい。
疲れきった体は、それだけで眠ってしまいそうだ。
「私は、まだ何も知らない……」
まだ、何も知らない私は、こんな場所で止まってしまうわけにはいかなかった。
体を起こし、また、歩き始める。
ひたすらに求めて、やっと、出られた外の世界。
だから、私は浮かれていた。
いや、ただ必死だったのかもしれない。
どちらだろうと結果は同じで、ずっと外を知らなかった私には、体力なんてなかった。
だから、木の根に足が引っ掛かり、転んでしまった私は、それまでの疲労のせいもあって、立ち上がれなくなってしまった。
――そして、そのまま日が落ちてしまった。
私は、真っ暗なこの場所で、不安ばかりだった。
折角、外に出られたのに、世界を、知ることが出来ると思っていたのに。
結局、見られていない。それどころか、私がどうなってしまうのかさえも分からない。
私は、無謀で一人では何も出来ないままの、子供だった。
段々と、疲労のせいか、眠気がやってきて、不安で一杯だったけれど、私は眠りについた。
次の日に、目を覚ますことが出来るのか、分からなかったけれど。それでも私は、何も知らない子供のまま、眠りにつく。
……目が覚めると、そこはいつも私が使っているベッドの上だった。
外へ出たことは、夢だったのだろうか?
いいや、私の体全体が、それを否定していた。
私は部屋を飛び出して、私以外のこの場所に住んでいる人間を探した。
何人もの私以外の人間達に話を聞いても、誰もが素っ気なく返事を返すだけだった。
いつも通り、ただ事務的に。感情なんてないかのように。
それでも少しだけ、昨日までとは違っていることがあった。
私がふと、窓の外を見たりすることに対して、お仕置きが行われなくなったのだ。
これが何より私が外へ出たという証拠だった。
――少しだけ広くなった私の世界。
それは、まだ私が知らなかった世界。
私の世界はとてもつまらない世界だけれど。
いつか誰かが言っていた、とても素敵な世界が見られる日が来るように。
私は、このつまらない日常を過ごし続ける――。