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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いの出会いと再会。
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おまけ編 年末の大掃除騒動。

年末更新の四回目になります。

おまけ編になります。

────年末の大掃除。

それはこの世界でもある行事であった。


真冬の一件からしばらく経ったある日の話である。

今年もあと少しで終わろうとしていた、とある休日であった。


「ゼェ、ゼェ……」


ジークは今、窮地に立たされていた。


「も、もうだめ……」


汗だくの顔でガクリと膝を折り崩れ落ちるその様は、とても世界最強クラスの冒険者とは誰も思えないだろう。


なぜ、彼ほどの人間がここまで疲弊しているのか…………それは。


「ダメじゃないよジーくん。ほら次はこっちの椅子を動かして」

「ヒェぇぇぇ!? ……鬼過ぎるだろアイリスぅぅぅ」


目の前で疲れ切った彼に厳しげな眼差しで見る女性が原因であった。



◇◇◇


二時間ほど前の話である。


「はぁ〜〜、難解だなぁ」


学園が休みなジークは、外でお出掛けでも────などと考える筈もなく、当然ギルドの方にも行こうとも思わず。のんびりと寮の部屋でダラダラと過ごしていた。


「何処がスイッチかな? ここか? こっちか?」


ちなみに今はミーアのお店で買った狸の置物を……彼女曰く、魔道具であるこの品を弄っていた。

彼女から聞いてみたところ、風系統と闇系統の魔道具であるそうだが、効果と起動方法についてはイマイチ判断がつかないとのこと。


状態からしてだいぶ前に造られた物のようで、何処で見つけたかというと、遺跡ダンジョンで偶然発見した冒険者がただの古びた置物と勘違いして、彼女の店に売りに来たのがきっかけだそうだ。


その時は気付かなかったが、後から調べてみて魔道具であると知ったミーア。だが匠の称号を持つ彼女でもその構造の奥まで分からず、どうしたものかと悩んでいたところでジークが店に来たのだ。……その際、恒例のようにジークにからかわれてしまい出鼻を挫かれてしまったが。


で、魔法知識は一応人並み以上はあるジークにこの魔道具を預けようとしたが、ジークの方から面白そうだから是非売ってくれと言って持って帰ってきた。


理由はミーアでも手を焼く物であり、彼女が調べることができたその魔道具の能力に興味が注がれたからだ。


「闇の時空間が備わった、収納用の魔道具か」


先ほど判断がつかないと言っていたが、全部でない。少しであるが、能力については判明できている部分あった。


その効果の一つがこの魔道具に組み込まれている闇の空間系統である。ミーアの話によると恐らく武器や衣類などをしまう物であり、魔物などの死体なども収納できる便利な代物とのことだが。


「やっぱり……闇だけじゃなくて風のも混じっているようだな」


問題はこの魔道具には、風系統の能力も隠れていることだ。

そちらについて分かったことは攻撃系統でないこと、さらに防御系統でないことぐらいしか調べがついてない。……どうやら相当の変わり者が造った物のようで、ミーアから見ても構造が複雑極まりないとのことだ。


「昔から変人が多いから、職人は」


そんな職人のミーアですら手を焼いた魔道具を今度はジークが相手にするのだが、……思った以上に難航しているようだ。


「はぁー、分からん。たぶん闇系統に合わせた物だとは思うが」


こういう物を調べるのは酷ではないが、分からないままが嫌な彼はずっとこの魔道具に掛り切りであった。


その証拠に魔道具の狸を置いた机の周りには大量の本や魔法紙などの資料が……普段学園の授業をサボっている彼からしたら、想像もできない真面目な光景である。……先生が見ていたら逆に心配される姿だろう。


「魔力はもう十分充電されてる。あとはスイッチだが、……それが何処かだな」


だが長期で調べたお陰か、徐々に内部構造が分かってきたジークは、慣れた手つきで狸を扱う。決して適当ではなく、ある程度確信を持っての行動であった。



と、そんな時であった。


─────ピンポーン


「ん?」


突如部屋の呼び鈴が鳴ったのは。


「誰だ?」


特に感知して調べようとも考えず、疑うことすらせず、ドアの前まで来て締めている扉を開けた。……それが彼の命取りであったが。


「ジーくんー!」

「……」


開けた扉の前で待っていたのは、現在彼が扱いに困ってしまっている女性。同じ学園で同じクラスの生徒の女子。


名は────


「あ、アイリス」

「もうジーくん? ア・リ・ス、でいいんだよ?」

「いやいやいや……!」


アイリス・フォーカス。ふんわりとした水色のロングヘアでどこか和みがある顔つきの女性である。


「勘弁してくれないか。流石に愛称で呼ぶと周りや……特にサナが黙ってない。それにここは男子寮だぞ? なにしに来たんだ」


呆れ半分、困惑半分といった感じの表情でジークが尋ねる。

すると、アイリスは得意げな顔してジークに近付き口にした。


「大・掃・除、だよっ!」

「……へ?」


キスしかねないほど間近まで近寄るアイリスに、内心冷や汗をかきながら彼女の言葉に戸惑うばかりであった。



◇◇◇



そして時間は戻り…………ジークは彼女を部屋に入れてしまったことを後悔していた。


掃除が始まってすぐ、ジークに待っていたのは肉体労働であった。


「ゼェゼェ……!」


机やらタンスやら……物など動かす役はジークがやっているので、始まって二時間が経ち、もう息切れ状態である。体力には自信がある方であるが、精神的な疲れもあって早くバテてしまう。


(つ、辛い! 何がってこの状況がだよっ!)


そんな彼にお掃除姿のアイリスは遠慮なくコキ使った。

現在彼女は水色の髪を束ねて、ホコリから守るようにタオルで結んでいた。さらに私服にエプロン姿……見た目的には若妻にも見えなくない。


(拷問か! 生殺し的なやつか! 素直に喜べるか!)


が、ジークからはそんな風には見えてない上、仮に見えたとしても彼からしたら複雑極まりない心境であった。


「次はそっちをお願いね」

「あの……それさっき動かしたヤツだよね? アイリスさん」

「置いた場所の汚れも落としたいの。嫌なら週一でもいいから掃除したほうがいいよ?」

「……さいですか」


もうどうにでもなれなジークは、昔散々扱き使われた気分を思い出しながら従う。

が、そんな彼の心境を他所に、アイリスは部屋に入った時から何気なく気になっていた物に視線を移した。


「ねぇジーくん、ここに来た時から気になってたけど、……このタヌキさんって何?」

「え? あ、それは待っ────」


机に置いてあった狸の置物を持ちツンツンと触り出すアイリスに、ジークが慌てて止めに入るが、……そこで予想外の事態が発生した。


ジークの魔力が込められ、充電が完了してある狸の置物姿の魔道具であるが、起動方法が分からずのままであった。


────ガチャッ


(おい、ガチャッってなんだ? 何を押したこの小娘!)


その魔道具をアイリスは、偶然にも起動させてしまったのだ。


「へ……?」

「な! アイリス貸してくれっ! 早く!」


鍵が開いたような音がしたと思ったら、突如口を開いてみせた狸に持っていたアイリスはポカンとした顔し、ジークは「ゲっ!」っとした顔をして慌ててアイリスの手元から狸を回収するが。


───キュ〜〜〜〜〜〜ィィィ!


(何っ! この吸い込みは!)


手元に持った時には狸は動き出していた。

口元から風が発生したと思えば、周囲ものを吸い込むようにして吸引が開始された。


「いっ、そういうことか!」

「え、ジーくんこれって……!」


一早く狸の能力を察したジークは、戸惑うアイリスを無視して、どうにかしてスイッチを切ろうとするが、吸引はドンドン強くなり、部屋の内部で台風にも似た風が発生していた。


「あ、アイリス……! 部屋から出」

「キャァァアアっ!?」

「────は?」


抑えきれない狸を見て危ないと感じたジークは、振り返ってアイリスを部屋から出るよう促すが。


(え)


振り返った先で吸引風のせいで、凄くはためているスカートを必死に抑えている彼女が視界に入り、口を開けて目を点にしてしまうジーク。


(あれまー、────って、なんてことに……!?)


視界に入った綺麗な飾りのある水色のアレを見て惚けてしまった。


「み、水色って」

「ぇ? イヤァァァァァァァ!?」


抑えはしているが、正直になところ全然隠せてないソレを見て、ジークは無為意識にも凝視してしまっていた。

茫然として呟いたそれに反応して、アイリスはジークに見られていることに気付いて思いっきり焦り出す。パニックと言ってもいい。


「ああァァァ〜〜! ジーくん見ないでぇぇぇ!」

「え、あ、はいっ!」


何故が敬語で答えてしまうほど彼は動揺していた。


(ええい、くそっ! 反則過ぎるだろう!)


目に毒過ぎる光景である。

嬉しいような悲しいような……複雑な心境の中、彼の手元で現在も吸引風を起こしている狸が吸引力を上げて……。


恐ろしいことを仕出かそうとしていた。


「だ、ダメぇぇぇ!? 脱げちゃうよぉ!?」


さらに吸引風が上がった影響か、アイリスのアレが徐々にずり落ち始めていた。そのせいでお尻をつくようして座り込んでしまったアイリスだが、それが良くなかった。


「ジ、ジーく〜〜〜んっ!?」


そのせいで勢いよくあれこれがご公開状態のまま、アレが勢いに乗ってアイリスから脱げ─────


「『立入禁止の境界(ボーダーライン)』! 発動っ!」


色々とアウトになる前にジークは遂に動いた。

結界系統のオリジナル魔法によって、狸の置物を球体状に閉じ込めてみせたのだ。


「あ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ……! た、助かったぁぁぁ」


吸引風が収まり、涙目で安堵の声を漏らすアイリス。

バレないうちに空間にしまったジークは、申し訳なさそうな顔で座り込むアイリスに手を差し伸べた。


「大丈夫か」

「う、うん、なんとか……」


疲れ切った状態で差し伸べられた手を掴むアイリス。その表情は汗と羞恥のよる赤面のせいか、色ぽいものであったのが、差し伸べたジークに少なからず精神ダメージを与える。先ほどの事故の影響もあってか、彼女を直視するのは少々憚れる。


「……」

「……」


二人とも無言になって沈黙する室内。

ジークからしたら、なんとも居心地の悪い、毒々しい空気であるか。あまり吸い過ぎると気が変になってしまいそうだ。


「ふぅー」


だが、ここで理性を崩壊させるわけにもいかない。というかしてしまったら最後、彼は後悔のあまり自殺してしまいかねない。


(なにか言わないとな)


いつまでも黙ってるわけにもいかない。

ジークは頰を真っ赤にして、未だに下が半脱ぎ状態のアイリスに向かってフォローを口にしようと思う。



と、その時であった。


「アリスっ! 無事!? ジークに何か変なことされない!?」


お呼びしていない、と言うより今いると非常に面倒であるアイリスの親友のサナがやって来たのは。……最悪過ぎるタイミングである。


「サナちゃん!? 何でここに!?」

「友達からあなたが男子寮に入ってくのを見た……って……聞い、て…………」

「あ」


徐々に口を閉ざし目線を下向けるサナに不審そうにするアイリスだが、その視線を追って自分の格好を見ているのだと気付いて思い出した。


上の服はエプロンのお陰で、多少マシな状態であるからそこまで心配はなかった。


しかし、下の方はどう見てもヤバかった。

色々と半脱ぎで若干、普段見えてはいけない箇所の布がズレ、肌色が公開している様など……、そこまで確認したところでサナの瞳から光が消えた。


「ジーク……」(闇の底から吐き出した声)


(あ、これ死んだわ俺)


場の空気が二〜三度下がったのを肌で感じながら、ジークは軽〜く自分の死を予感してしまった。いつの間にか前に立っていたサナにジークは、予感にも似た確信があった。


「ジーク……、あなた……」

「あー、ちょっと待っ」


絶対零度な瞳に命の危機を確か感じ、どうにか取り繕うとするジークだが、もう彼女の耳には届いてはおらず。


「取り敢えず、死になさい」

「あーーー!?」


その後、何があったか、それはこの場にいた者しか知らない。

一応死人は出なかったが、被害を受けたジークや居合わせたアイリスの心に深いトラウマが生まれることとなったが。


あと狸の魔道具については、ジークの魔力の反動をギリギリ耐えていたが、止めた途端、反動で壊れてしまった。ミーアの方で修理の依頼はしてあるが、いつ直るかは未定である。








異常なようで平穏な日々。

だが、その時間も─────あと僅かであることを、まだ誰も…………当事者である筈のジークですら、この時はまったく気付いてなかった。


何気なく書いてみましたが、やはりこういうのは思うようにいきませんね(汗)


次回の更新は2017年1月7日になります。

本編の続きを出したいと思います。


これまで『オリジナルマスター』が続いたのは、やはり読んで頂いている皆様方のおかげです。まだまだ拙い字ばかりでありますが、これからも『オリジナルマスター』をどうか宜しくお願いします。


ではよいお年を


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