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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いの出会いと再会。
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第7話 朝前と二日目。

年末一回目の更新です。

──────やめてくれ。


燃え上がる地で少年と少女が向かい合っていた。


『ごめんなさい』


生気の失った顔の少女は、申し訳なさそうにして少年に謝った。


──────やめろ、謝らないでくれよ。


少年は否定する。彼は謝罪など望んでない。


『救えなくて、ごめんなさい』


少女は、彼の救いを求めた。彼を助けることができれば、全てが終わりを迎えても構わないと思うほどに。


──────やめてくれ、俺は救いなんていらない。


少年は拒否する。彼は自身の救いなんてもう叶わないと理解しているから、代わりに彼女の救いを求めているんだ。


『邪魔ばかりして、ごめんなさい』


自分の存在が彼の阻害でしかない。彼女は寂しげな顔で言っている。


──────そんな事はない。大丈夫だ。俺が……俺が助けるから……。


少年は必死に繋ぎ止めようとする。彼は一度たりとも少女の存在を邪魔だと思った事はないのだから。


だが、そんな少年の想いも虚しく、彼女は彼との繋がりを断つ、最後の言葉を──────


『でも大丈夫、あなただけは─────絶対死なせない』



◇◇◇



「────ッッ!!」


夢から覚めたジークは、目を見開き起き上がる。


「ハァ……ハァ……」


悪夢から覚めた彼の顔は酷く青ざめ、額から大量の汗を流す。


「……くそ」


小さく吐き捨て、周囲を一瞥する。

少し離れた場所で寝ているシャリアと彼女をあやすようにして眠っているキリアを確認した。


どうやってみんなで寝るか悩んだところ、一緒に寝ようと主張したシャリアをはね退けたキリアの提案を通した。

設置してあるベットにシャリアとキリアが眠り、少し離れた場所でソファーをベットがわりにジークは寝たのだ。


……その際、何度かシャリアがソファーの方へ侵入して来ようとしたが、その度にキリアに首根っこ掴まれて戻された。


「はぁーー」


一度息をつくジークは、ソファーから下りると二人を起こさないように部屋を出ていった。……そんな彼の姿を横目で見ていたシャリアの視線に気づかないまま。



◇◇◇



「汗かいた」


彼が立ち寄ったのはギルドに設置してあるシャワー室である。

夢から覚めた際、身体中汗だらけだと気付いき、気持ち悪くこのまま寝直すのは厳しいと考え、一浴びしようと立ち寄った。


一応シャリアの部屋にもシャワー室はあるのだが、寝ている二人を起こしてしまうかもしれないので、こうして少し離れた場所のシャワー室を選んだのである。


「あ〜〜」


べっとりと染み付いた汗をシャワーで流すジーク。


「もう忘れようと思ったんだけどなぁ」


────どんなに願っても戻りはしない。


そう自分に言い聞かせ、これまで自由気ままに生きてきた彼だが、不意に夢に映った光景を思い出すと、一緒になってあの日々も思い出してしまう。


「……はぁ」

「何をため息をついているんだ?」

「いや、ちょっとトラウマが…………え?」


シャワーから出る水滴の音を掻き分けて、彼の耳に届いたのはよく耳にする声。……具体的にはほんの数時間前、寝る寸前まで聞いた幼女の……


(なんてこった……)


……そこまで鈍くも思考が回ったジークは、恐る恐る背後を振り向いた。


「ん、どうしたのだ? シャワーが緩かったか?」

「え、いや、全然ちょうどいいよ。寧ろ冷たいぐらいが─────て、待とう」


振り返った先で、たった今、シャワー室に入ってきたであろう幼女─────シャリアが全裸なのだと全体を見る前に理解した瞬間、ジークは冷たくしていたシャワーの温度を上げて勢いよく出した。


「む?」


すると湯気を立てて、ジークの視界外にいるシャリアの体を隠そうとする。


────だが、まだ足りない。


(勿体ない気がするけど『氷の霧(アイスヴェール)』!)


さらに氷系の霧を起こして、さらに湯気を起こしてみせた。……そこまでする必要があるかは、不明であるが。


「ぬあ!? なんだ?」


突然大量発する湯気に驚きの声を上げるシャリアを無視して、ジークは突如現れた彼女に背を向けた状態で言う。


「なにをしてるんだシャリアさん?」

「ぬ? 一緒に浴びにきたのだが?」


湯煙に驚きながらも、ジークの問い掛けにさも当然のようにシャリアは答える。……残念なくらい緊張した様子が欠片も感じられない声で。


「あ〜〜、なるほど」


────こういう時にキリアさんがいないのがツライなぁ。と他人事のようにジークは心の中で呟いた。


かろうじて裸幼女の視界に大公開は防げたが、正直ギリギリだと判断した。


以前にも説明したかもしれないが、ジークはロリコンではない。

知り合いにロリが多過ぎるので、自分でも実はロリ好きなのではと疑いたくなるが、決してそれはない。


「絶対ないな」

「なにがないんだ?」

「こっちの話だ。で、一緒に浴びるって本気か?」


とりあえず正気かどうか、寝惚けてるかどうか聞いてみるジークだ。

まずあり得ないと思うし、シャリアであればそういう行動も取るかもしれないが、ストッパー役のキリアがいない現状である。


(とっとと移動すべきかもしれないが、大袈裟な気もする)


ジークにとって非常よろしくない状況であったが、抜け出すべきか少々迷っていた。


「見えにくいな。なにか魔法でも使ったのか?」

「保護処置だよ。キリアさんに怒られたくないから」


バレたらこちらに非がなくても責められそうだ。いよいよ危機感を覚えたジークはやはり空間移動で、無人の別室にでも移動しようか考えてみる。


しかし、


「まあ、いいではないかジークよ。キリアもまだ眠てるんだ。少し早いが朝食ついでに話でもしよう」

「話?」

「キリアの気を遣って言わなかったことだ。まだ、あるのだろう?」

「……」


シャリアにそう言われて、離脱の考えが消えてしまった。


「ん、このままでは風邪をひくかねないな。一緒が嫌なら終わったら替わってくれ」

「……了解」


結局その後、特に問題も起きることもなく湯煙の中、二人で交代してシャワーを浴びた後、少し朝日が出かけてる朝空を窓から眺めながら、ジークとシャリアは早めの朝食を取ることにした。


「で、なにを言わなかったんだ? 王女のことがあったから、恐らくそれに関係することだと思うが」

「全くもってその通り」


流石はシャリアだ。内心そう呟くと、ジークは特に隠したつもりはなかった、あの件────というか剣について。


「昨日、去る前にティアに言われたんだ。王宮で今、俺の所持している魔法剣で問題が発生しているって」


朝食は溶けたチーズが乗った焼きたてのパンであった。

ジークとシャリアはモグモグと食べ終え、共にコーヒーを飲む最中、ジークがそう切り出した。

言おうか言わないか、悩んできた事柄を。


「お〜、あの剣か。確か長き年月を掛けて自然界で生えた『マジックツリー』の枝から造られた結晶剣だったか」

「ああ、名は知らないが、相当な名剣であるのは間違いない。俺の魔力を受けても壊れなかったのは『神隠し』以外でアレが初めてだ」


異質かつ異常な性質であるジークの魔力は、武器類との相性が非常悪いのである。


修業時代から剣や槍などを使っていたが、大抵の武器が魔力の波動を一回か二回流すだけで、耐え切れず壊れ、酷い時は流すだけで壊れてしまうこともあった。


「唯一、ギリギリ保ってくれた師匠の仲間から貰った剣も大戦時に壊れてしまったしなぁ」


装飾のない無銘の銀剣であった、かつてのジークの愛用剣で、壊れてしまった時は結構落ち込んでしまった。

ただ、当時は色々あったため、改めて認識し落ち込んでしまったのは実は大戦後であって、かなり経ってからであるが。


「ライン……亡くなった王子から貰った剣だが、どうやら大会時にそれを飾りたいらしい」


話の内容はジークが持っていた剣の話である。ティアから言われたことを簡単に説明する。


大会場所が王都である以上、国王陛下もそして王女である彼女、他にも姉や妹達も観戦するようだ。そしてその際、亡き兄が使用していた二本の剣────練氣剣と魔法剣を展示する予定なのである。


だが、その片割れであるクリスタルの魔法剣は、ジークが所持している。

前の所持者であるラインから亡くなる寸前に託され、以降使い続けたジークは、一応国王陛下にも許可は取っていたので問題ないと思っていた。


「返して欲しい……といことか?」

「少し違う、返しては欲しいが、兄が譲った物である以上、それは避けたいらしい。とりあえず、展示するのは大会期間中だけのようだから、その間だけ貸してくれないかとさ。本来はあっちの物だから、俺が貸すというのもおかしな話でもあるが……あ、それと陛下には居場所については内緒にしてくれるらしいから、そこらへんも問題ない……筈だ。たぶん」


王子が使っていた剣をジークことシルバーが現在所持していることは、恐らく王宮の陛下を含む王族や貴族。

そして大戦時に共に戦った者達だがこちら少人数であろうが、展示の際、剣があるの見れば当然シルバーが近くにいるのでは、……或いは王族がシルバーの居場所を知っているのではと疑い、面倒になるのは間違いなかった。


「迷ってるようだな。王都に行くべきかどうか」

「そう、その通り」


ジークの心境を読み取ったシャリアの言葉に、ジークは力強く頷く。


「剣を貸す───というか返すのは別にいい。気に入ってたけど、物が物だしなぁ」

「だが、そのせいで居場所がバレるのは絶対イヤだ……と」

「はぁ……」


どうしたのもかと悩む。ティアは父である陛下にも内緒にしてくれると言ったが、それでも陛下がその気になれば、ティアからの数少ない情報だけでジークの居場所を見つけてしまいそうである。……それが原因で貴族たちの耳にも。


そう思うと非常に────


「……いやだ。本当にそれだけは嫌だ」

「そんな哀しげな顔で言うとは……」


過去の貴族との問題事を思い出し、若干鬱になって項垂れるジークを慰めるようにして、シャリアがそんな彼の頭を撫でた。


しばらく慰めが続き、そろそろキリアが起きて来るであろう時間になったところで、頭を撫でられながらジークがシャリアに本日の計画を口にした。


「今日────《知将》のリグラがティアと会談するため、学園を留守にするらしい」

「?」


ティアから聞いた情報を元に、ジークが予想したリグラの今日の予定を頭の中で表にした。


「動くなら昼食時だ。《老師》のガーデニアンがいるだろうが、抜け道はある筈だ」

「ジーク……、そなた何を言って」


なにやら企ててを口にしているジークにシャリアは撫でていた手を止めて、俯いている彼の表情を覗き込むように顔を近付ける。……すると、そこにあったのは─────悪人顔。


「昨日シャリアの話を聞いて思ったんだ。かなり本気を出して探しても、一向に見つからない。一年の頃、一度リグラに呼び出しを受けてしばらくの間、探られた時があった。俺がやり過ぎた部分もあるが、それでも俺は、シャリアの可能性に注目すべきだと感じた」


そこまでジークが口にしたところで、シャリアも彼が何を言っているのか理解をする。


まさかといっ驚きの顔で彼を見るシャリアは、続いて口にするであろう彼の言葉を聞き間違えないよう、さらに近付いて耳を向けるが。


それよりも前にジークが顔を上げて目の前のシャリアと視線を合わせた。


「アレは()がないと外に持ち出せれないから間違いなくリグラの部屋にある筈だ。留守を狙って部屋に隠したであろう師匠の魔道具を返して貰うのさ。こういう時に便利なオリジナルがあるが、久々だから少し緊張するな」


苦手とする戦いではないため、少しばかり楽しげに言うジーク。

多少のリスクも承知の上でジークは、この好機を逃さないと、シャリアに決意を口にした。



───ただ


「とてもこの国を守った英雄と思えない台詞だなぁ……。冒険者ではなく、盗賊に転職したらどうだ?」


それに対しシャリアは、なんとも言えない呆れ感ある顔をしてそんな風に口にしていたが、ジークは特に気にせず、キリアが降りてくるまでのんびりとコーヒーを飲むのであった。



◇◇◇



予選会、二日目が特に問題もなく幕を開けた。


『みなさんおはようございます! 魔道杯、参加者を決める予選会、二日目が始まりました! 私は本日の試合の進行を実況する新聞部のカリア・ネイルです! みなさん宜しくお願いまぁ〜〜す!!』


『『『おおお〜〜〜!!!!』』』


司会を務めるカリアの声に観戦席で見る生徒達が声を上がる。


以前も話したがカリア・ネイルはギルド受付嬢のキリアの妹である。昨年あった人騒動の資料を姉のデスクからこっそり盗み見たことと、それをリナに話したことがバレて姉のキリアに折檻を受けることになった彼女だが。


『ふふっ、そしてこちらにいらしゃるのは、先日の試合で会場に大きなどよめきを与え、なんと二日目のこの試合に参加することなく魔道杯、参加が決まった高等部二年、陰で色んな(・・・)呼び名で注目されているジーク・スカルス先輩です!! ────さぁスカルス先輩! 何か一言!!』


テンション高く、ジークに顔向けるところを見るとあんまり懲りてないのでは、と思ってしまう。


どんなお仕置きを受けたのか一応知っている彼だが、正直アレだけやられたらさすがに自重するところだが。


(キリアさんにチクろうかな)


現在、ジークは初日に使用された予選会場にいる。だが、今日は参加者としてではなく、なんと司会者であるカリアと一緒に実況する解説者として、観戦席に設置された司会者席の隣で試合会場を眺めるようにして座っていた。


『先輩?』


しばし待っても返答がなく、訝しげな顔で聞き直すカリアを見てジークは、手元にあるマイク……風の魔石で音が増幅されているマイク型の魔道具越しに口を開く。


『あ〜〜〜……よろしくぅ〜』

『軽い!』


ジークの返答に不満ありありといった顔でつっこむカリアをジークは、苦笑を浮かべてどう対応するか考えてみた。


一日目の戦いとは全く異なる、慣れない解説者としてジークは、咳払いをしながら口を開くのであった。


次回から戦闘に入ります。

……主人公は戦いません。

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