第6話 飲み会と談話。
「ハァーーー、疲れた……」
ようやく一人になれたジークは、自分のベットにうつ伏せで倒れてた。
ティアとの試合の疲れがある中、相性の悪いリンとも戦った影響もあり、さすがに疲れてベットに飛び込んでしまっていた。特に言うなら切り札の《消し去る者》の干渉がより疲労感を膨らませていたのだ。
「師匠に言われて、ティアにバレるのは覚悟してたが、まさかフウにまでバレるとは……」
幸い、フウにはちゃんと口止めをしたし……やり方はアレであったが、闇魔法で閉じ込め置いたリンは、出してからも意識が混濁していたので騒ぎになることなく、フウに魔法で連れ帰ってもらった。
……あと床が壊された件については、ティアが責任を持って対処すると言っていたので、ジークの責任になることはない。
……だが。
『なんじゃこりゃァァァ!?!?』
『天井が貫かれとるぅぅぅ!??』
『いやァアアアア!!』
『落ち着けオマエらッ!! いいから自分の部屋に戻れっ!』
「……」
扉の向こうや下の階から聞こえる叫び声を聞くと、とてもそう簡単に済みそうな気がしない。寮長あたりが騒ぎを鎮圧している声が耳に届く。どうやらティアが去る前にフォローしておいてくれたようだ。
不安はあるが、眠りにつくべく眠気に身を任せようとする……だが。
『この上の階って、……スカルスの部屋じゃねぇか?』
『あ、ああ確かに、アイツ一人で住んでいた』
『アイツ、途中で試合を棄権してるから……今部屋じゃないか……?』
『『『────!!!』』』
「……」
不穏な会話を部屋のベットの上でうつ伏せになりながら聞こえていた。良い具合に睡魔がやってきた最中であったが、こんな会話のせいで目が覚めてしまう。ついでに二階に駆け上がって来る足音も耳に入る。
「ハァ……」
いずれ部屋にでも乗り込んできそうな勢いと人数に、眉間辺りを摘み起き上がったジークは、チラリと穴が空いている床や破壊された家具などを見据える。
「……どのみち、直るまでこの部屋で寝るのは厳しいか」
迫り来る集団の足音を聞き流し、ジークは目を瞑って魔力を練りだす。
(……よし、捕捉した)
「『長距離移動』」
探知によって目的の場所の魔力を探り当てると、ジークは空間を移動する空間魔法を発動させた。ドア越しに扉を叩かれる音と同時にジークの体を魔力の渦が飲み込んで、彼の姿を消した。
◇◇◇
「で、ここに来たんですね。ジークさん」
「ハイですよキリアさん。いやぁ〜! やっぱキリアさんのコーヒーは落ち着きますわぁ」
笑顔で飲み物を手渡してくれたキリアに感謝を述べ、ジークはカップに口を付ける。
ジークが飛んだ先はギルド会館にある個室。彼がギルド会館に空間移動する際、他者達に見られないようにするため、キリアとシャリアが用意した部屋である。
「あ〜、しんどかった」
「予選会に出ることは以前聞いてましたが、まさか第二王女が……」
「随分疲れた様子で来たと思えばそういう理由だったか……。そなたも苦労してるな」
部屋にはジークを含め三人が集まっている。飲み物を配ってくれたキリア、そして小柄の金髪幼女……ギルドマスターのシャリアだ。
ジークの話を聞き今日の予選会で何があったかを知って、二人揃って同情眼差しを向けていた。
「さらに部屋に踏み込んで来た直属の護衛との戦って、部屋が滅茶苦茶とは……本当にお疲れ様です。一応この部屋にもベットは付いてるので、今日はここで寝泊まりして頂いて構いません。宜しければ、部屋が直るまでの間、ギルド経由で宿を提供しますが?」
ギルド会館にやって来た理由も知り、普段誰も使用してないジーク専用の部屋で寝泊まりすることを勧めるキリアだが、……その隣で聞いていた上司、シャリアがだったらと予想外の案を口にする。
「ここにあるのはあくまで仮眠用だから休めんだろう。だったら、私の部屋で泊まっていくといい」
ナイスアイデアとでも言いたげな笑みと雰囲気で言うシャリア。
「ギルドマスターっ!?」
「……」
シャリアの言葉にキリアが驚きの声を上げ、ジークは彼女らしいなと寧ろ感心していた。
「ダメに決まってるじゃないですかっ!! というか、それは何度もダメですって言いましたよね!?」
「いいじゃないか! 友とのお泊まり会! 最高だ!」
お泊まり会などあり得ない。そう言いたげな口調のキリアだが、当のシャリアは乗り気であるが。
「そうだなぁ。シャリアがいいなら、俺も構わないかな?」
断る筈と思った矢先、本人から賛同の言葉が飛んできた。
「ジークさん!?」
「おおっ!」
普段とは違う予想外のジークの返答に狼狽の声のキリアと大喜びのシャリア。
「ああ、せっかくだから、キリアさんもどうですか?」
「ジークさん、何を……」
「お話したいこともありますから、やりましょうよ。お泊まり会」
意外と楽しげに口にするジークに対してキリアの方は困惑してばかりであったが、ジークまでシャリア側に付いてしまい、断るという行為が取れなくなってしまったのだった。
◇◇◇
「乾杯〜〜!」
「乾杯」
「……乾杯」
時間も経過して夜を迎えた。
ギルドの業務を終えたシャリアときリア、そしてジークの三人は、ギルド会館に設置してあるシャリアの個人部屋へ。
普段いるギルド長室とは違う、完全なプライベートルーム内で三人はお泊まり会を始める。手始めも飲み物で乾杯をしているが、ジーク以外は意外なことにお酒であった。
「んーーぱぁ!」
「おお〜、一気飲みとはキリアもやるな」
「失礼。ですが、お酒に頼らないとこの場はツライです」
受付の業務で男性の冒険者などに言い寄られるのは慣れているので平気だが、こうした共に寝泊まりをするというシュチュエーションが初なキリア。
相手がジークということもあってか、緊張を忘れようとグビグビとお酒を飲む。
「ふふっ、にしてもジーク。遂に力を晒したな。どうするのだ? 今後」
「ん、今後?」
キリアほどではないが、シャリアもそれなりに飲みペースが早い。そんなシャリアが訝しげなジークに問い掛けるのは、ズバリ今後の学園での活動である。
「大会中はおそらく問題ないと思うが、終わってからはそうはいかない。もう前にみたい誤魔化すのは不可能だぞ」
「う……そうだよなぁ」
シャリアの言葉に嫌そうな顔をして呻くように答えるジーク。
「というか、その原因の一端はお二人にもあるよ?」
「「その節はすまなかった(申し訳ありませんでした)」」
ジト目でジークに言われ、迷わず頭を下げて謝罪する二人。
シャリアは依頼関係で、キリアは妹関係で……協定を結んでいるのに色々とやらかしていた。普通なら協定違反であるが。
「まあ、それはいい。もう終わったことだ。問題はシャリアの言う通り今後だ」
冗談だと話の腰を折り、飲み物のグラス内の氷をカラカラと回しながら考えるジークだが、さらにその思考を惑わす……つもりは勿論ないが、シャリアが口を開く。
「探し物は見つかってないのだろう? 前以上に行動が制限された状況で探せるのか?」
「だからヤバイんだよ。本当はもっと上手く誤魔化すつもりだったんだが。おかげで予定が狂った。……はぁ、まだ見つかってないのによ」
相づちを打つとジークは深いため息をつく。現実を改めて見つめるとやはり厳しいものだと痛感している。
目的の達成から明らかに離れてしまっている現実に。
「そなたの師が学生時代に残したオリジナル魔法が組み込まれた魔道具。リグラの奴が知ったら大騒ぎだな」
「やっぱりそうなるのか」
「当然だろう。もしかしたら、奴も知ってるかもしれない。見つけてないが、見つけ次第どう扱うか」
────オリジナル魔法が組み込まれた魔道具。
それこそがジークがウルキア学園に入学した理由。
大戦後、とある目的のために、オリジナル魔法を手当たり次第集めることにした彼に彼の師が言ったのである。
─────かつて、通っていた。聖国にある学園のどこかに、当時発見した原初魔法を友人と共同製作で魔道具に組み込み、そのまま隠されていることを。
ちなみに製作携わったのは彼の師の仲間でもあるカムという職人である。アレンジが難しいオリジナル魔法を魔道具に取り組む卒業研究。
彼の師は完成したソレを発表しようとしたようだが、余りにも規格外なその魔道具、ヘタに公開発表をしてしまうのは自分達の不都合になり兼ねないと判断したため、机上の空論であることとして発表をしたのである。もちろん実際に完成した魔道具は公開せず。
だが、ここで問題が起きたそうだ。
一部の者に魔道具の存在を疑われたらしく、教員などから見張られることもあったようで、卒業間近で実は完成しているのだろうと、理由は疑いを抱く者からの挑発的な発言に協力したカムが買い言葉でうっかり口を滑らせたからである。
あるなら提出しろ、公開しろと教員や同じ生徒から言われて続けた。
さらに当時、相性の悪い厄介な相手もいたとのことで、このまま卒業して一緒に魔道具を持っていくのは色々と危険だと判断したジークの師は、一計を案じ一旦、学園内に隠すことにしたのだ。
それによって調べられても証拠が出ず、疑いも無事に晴れて問題なく卒業できたのだが、……その後も色々とあったと隠した魔道具のことをすっかり忘れてしまった。
そして年月が経ったある日、弟子であるジークが突然、オリジナルを集めため旅に出ると言い出した。
もともと大量に持っていたのに何故さらに集めようとしたのか、理由はここで省くが、ジークの師は結果として、当時の自分らが製作した原初魔法が組み込まれた魔道具の存在を思い出した。
弟子のことも想い学園に通わせるよう誘導した。
と、理由でジーク一年の頃から学園内を探し回って、その魔道具を探したのだが、禁書や表に出たら危険そうな資料、魔道具があっても目当ても物は全然見つからなかった。
その行いの所為で彼は問題児扱いを受けることとなるが、それについては本人は気にしてない。代わりに目的の物が見つからず、慣れない学園生活に辟易していた。
「学園を辞めるのは別にいい。というか辞めたいとすら今は思ってる」
「だろうな」
「ですよね」
疲れたような顔で言うジークに二人とも納得顔で頷く。二人ともジークの学園生活を少なからず噂や本人の口から聞いていたので、寧ろ何故今まで辞めなかったのか、不思議でなかった。
オリジナル魔法の魔道具欲しさに我慢して通い続けていたのだ。
「……けどまあ、最初の頃はそこまで嫌でもなかったがなぁ」
「そうなんですか?」
呟くように口にするジークの言葉に、キリアが不思議そうに首を傾げなら問い掛けてきた。最初の頃でも既に問題児として扱われていた筈なのに。
「……ちょっと、色々と出逢いがあってな」
返答をぼかすしながら飲み物を口する。ふと思い出したのだ、ジークがウルキアにやって来てすぐ出会った彼女の誇りを。
いつかは来て、一目だけでも見てみたいと思っていたが、魔道具探しのため、偶然にもこの街に来ることとなったこともあり、遠目から顔だけ見ようとしていたが。
(……まさか入学した学園にいるなんて──────誰が予想できる?)
顔にはなるべく出さないようにしていたが、それでも当時のことを思い出すと心臓が激しく鼓動するのが聞こえた。
「あははは……」
思い返すといったい何をしてきたんだと、自分自身に問い掛けてしまう。
(おかげでティアにまで勘ぐられるし、……まあ最悪の事態だけは回避できたみたいだし、よしとするか)
─────もし出会ったら絶対、間違いなくバレる。
そう確信してしまうジーク。
シャリアから言われたこともあり、さらに以下のこともあったジークは─────もうこれ以上は限界だと判断した。
「シャリア、それにキリアさん、以前俺とした約束覚えてます?」
「ん? ───っ!! ……まさか」
「……! ジークさん、それって……」
ジークの言葉を聞き、良い具合に酔いが回っていた、二人の顔から酔いの色が消える。真剣な表情となって二人してジークの顔を見つめていた。
「潮時なんだよ。そろそろ」
「……そうかもしれないな」
「ジークさんが良いのであれば、私は歓迎します」
諦めた表情で言うジークに二人とも特に反対せず、彼の行為を受け入れる姿勢であった。
こうして予選会一日目が終わりを迎え─────
「よし! 気分を入れ替え、風呂にでも入るか! みんなで!」
「なッ! なにを馬鹿なことを言ってますかギルドマスターっ!! 過ちでもあったら、どうするつもりですか! ジークさんだって男の子なんですよ!?」
「俺が襲うの? ……キリアさんの中で、俺ってそんな信用ないの?」
騒がしいような静かなような夜が過ぎてゆくのであった。
◇◇◇
翌日、予選会二日目が行われる。
参加者は会場に設置してある掲示板に載っており、それで自分が何時、何処で試合をするか知るのだが、……その掲示板に朝早く見に来ていた生徒達から、戸惑いの声が上がっていた。
そしてそれは、その後その掲示板を見ることとなるジークも驚くこととなる。
見る者達、皆が驚くその掲示板の試合表には、ある筈の名が無く、別の箇所にある記載が含まれていた。
『予選会に参加している二年のジーク・スカルスに告ぐ。
臨時に行った学長の協議によって、本日行われる試合への参加を全戦不可とするが、十分な力量あると評価し、魔道杯のウルキア高等部二年枠からの参加を認めることとする。
さらに試合に参加を免除とする代わりとして、本日行われる新聞部による司会進行に解説者として参加することを指示する。
追伸─────
この者の参加を認めない生徒は予選会後、行う予定としている模擬戦でこの者との試合を認める。その際の結果次第では、改めてこの生徒の大会参加ついて協議し直すことも検討することをここに伝える。
学園長リグラ・ガンダール』
続けておまけ編も明日出す予定なので、良ければそちらもどうぞ。
 




