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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いの出会いと再会。
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第2話 引っ掛かりと最強。

「……フウ?」


移動しようと踵を返したところで、リンは後ろでついて来ようとしていたフウから突如発した動揺の気配に、不思議に思いながらも振り返ってみた。


「……──! フウ!?」


後ろを向くとそこには信じられない光景が見える。

普段、無表情でほとんど感情を表に出さないフウが、これでもかというほど、その瞳を大きく見開いて驚愕の顔をしている。


視線はどこか遠い方へと向けており、何か唖然とした様子でこちらを向くリンを無視し、遠くに視線を固定していた。


「フウっ! 一体どうしたんだ!?」

「───っ!」


驚きのまま茫然としているフウの体を揺すってリンは問いかける。

大きく揺すって大声で呼び掛けたおかげか、魂が戻ったようにハッとした様子で、リンへと視線を向けたフウが真剣な表情で口を開いた。


「リンさん予定変更です。今すぐ姫様のもとへ向かいましょう……!」

「っ!? ティア様に……何かあったのか?」


いつになく真剣な表情で口にするフウにリンは一度、狼狽の色をみせるが、次の瞬間、冷静な表情と声音でフウに問い掛けていた。


そして、リンの問いかけにフウは真剣な表情を徐々に鬼気迫るものへと変えて口にする。


「この方向からして、恐らくガンダール伯爵がいる学園内だと思いますが、……その場所から姫様の魔力が感じ取れます。それもここまでハッキリ届くほど(・・・・・・・・)の膨大な……!」


焦りの声音を滲ませながら口にするフウ。

彼女の言葉にリンは驚きの顔をさらに強めて額に汗を流すほど。


先ほども言ったが、彼女らが仕えるティア王女は冒険者レベルでいうSランク級の実力者だ。

剣術も魔法技術も達人級といってもいい。


そんな彼女が本気を出す事態……いや、出させる事態が起きていた。


「まさか、何処かの刺客が!?」


フウの言葉を聞いてリンがそう言う。

ティアの立場上、そういった暗殺者達に狙われた経験が何度もあり、護衛として何度も排除してきたリン。今回もそのような奴らの仕業かと彼女は考え口にしたのだが、聞かれたフウは懐から飾り付けがされた魔石に触れると、首を小さく横に振る。


「分かりません。魔石を通して、姫様の状況を確認しようとしてますが、不思議と相手の魔力は感じ取れないんです。姫様の魔力はハッキリと感じ取れるのに」


フウが取り出した魔石は感知系の魔石で、ティアにも同じ物を持たせることで彼女の魔力の変化を敏感に感じ取ることが可能なのだ。


魔石が今、これまでにないほど激しくフウに警告をしていた。


「魔力が感じ取れないということは、相手は気の使い手(・・・・・)か、武器に特化した者か」

「いえ、少しだけですが、何か別の物が……」

「フウ?」


突如言葉を紡いでしまうフウにリンが問い掛ける。

するとフウは何か感じたか、ローブ越しに腕をさすって心なしか忙なそうな雰囲気を出していた。


「魔力でも気でもありません。……けど、何か懐かしい気配がします」


─────以前にも、似たような気配を感じたような気が……。とフウは口にはしないが、心の中で呟いた。そして脳裏の中で何か引っ掛かるものを感じた。


二人は短めに会話を終えると、目的地を変更して主人がいるであろう学園の方へと駆け出した。



◇◇◇



『〜〜〜』

「……」


部屋に設置してあるシャワー室から聴こえる鼻歌交じりのティアの楽しげな声。

そんな鼻歌声が聴こえる中、ジークは難しい顔しながら飲み物を口にする。


「変わってないと思ったけど、やっぱり変わったな……あいつ」


小さく息を吹き軽く呟くとそっと首筋を撫でる。

先ほどまでナイフの刃が添えられ、少し切れている感触を感じる中、ジークは先刻の会話を思い出す。






「この人殺し」

「……」


冷たい瞳をしたティアからの一言がジークの胸に突き刺さる。

首筋に添えられているナイフの感触もあるが、それも気にならないほどに。


「……人殺し」


腹の奥から溢すような低い声で呟くティア。

ナイフを持っている手に力が入り、徐々にジークの首筋にくい込んでいく。


(あ、血が……)


とうとう刃がジークの皮膚を切って、血が少しずつ溢れ出たところでようやく自分の状態に気が付いたジーク。


反応は鈍いが、このままいけば危険であることは呆然とする思考の中でも分かっていた。


(……まあ、それもいいかな)


が、ジークは抵抗しようとはしない。

食い込んでいくナイフを首筋から感じ取りながら、ジークはティアを見据える。


「何か、言うことはないのですか?」


視線の先にいるティアの表情には冷たい殺意が溢れ、部屋中が満たされていた。


「……」

「……ふ、そうですか黙秘ですか」


ティアの返答に黙秘で通すジークに彼女は諦めた顔をして、首を軽く横に振るとナイフを掴む手に力を込め────────


「はぁ、もういいですよ」


パッ───とその場で食い込ませていたナイフをジークから離して、壁に突き刺すのように投げてみせた。


そして、ジークに接近していた体を後退させ、頭を大きく左右に振るう。溢れ出ていた殺意を払うかのように。


「……なぜやらない?」


そこで黙っていたジークが不思議そうに口を開く。

四年前の大戦時、最後にティアに会ったのは亡き彼女の兄の亡骸を届けた時だ。

何度も口にしたティアの疑問にまともに答えることもできず、ただただ謝罪を口にするしかなく、ジークは逃げるように戦場へと戻っていった。


そのまま戦争終結の時まで戦い続けたジークは、ティアがいる王都には行かずに姿をくらました。


だからジークはそれ以降、ティアがどう思って生きてきたのかを知らない。自分のことをどう思っているのかも分からなかった。


(けど、それでも殺したいほど恨んでると思っていたけどな)


師からティアがやって来ると聞いた時、ジークはこんな光景を脳裏で浮かべていた。こうなる未来は少なからず高いと思ったからだ。


だが、実際は起きた現実は少し違っていた。


「恨みがないというわけじゃありませんよ? けどそれは別です」


少々思案気味のジークにティアが溜め息をついて口にした。


「別にあなたが兄様を殺したわけじゃないでしょう? それであなたを恨むのは間違ってます」

「死なせたさ。勝つために見殺しにしたんだ」


動揺は一切ない。ティアの殺意が再び戻るかもしれない発言だが、ジークは迷うわず彼女に言う。


その言葉は事実であった。

ティアの言葉も事実であるが、結果として彼女の兄を見殺しにしたのだ。

自分は裁かれるべき存在だと、彼は常に思っていた。


だが、ティアは─────


「……《最凶の鬼神》────《デーモン》《破滅を呼ぶ不滅王》────《デストロイロード》《凶暴王の災厄》────《バーサーカー》《暗黒異形の最強生物》────《ダークモンスター》……最悪と言われる異名ばかりを持った帝国の冒険者、デア・イグスですよね。兄様を殺したのは」


悟ったような面構えをして、自分の兄を殺した者の異名の数々と名を淡々と口にするのだった。

さらにジークの動揺を探るように彼の瞳を見詰めて。


「……」


顔には出ていなかったが、見詰めていたジークの瞳には僅かであったが、動揺の揺らめきが映っていた。


「ティア、おまえ……」

「わたくしがなにも知らないとでも? 父には口止めしてあったようで話してはいただけませんでしたが、その件を知っている方は……もう一人いましたよね?」

「ギルさんから聞いたのか?」


本当は戦後、ジークは師にも事実を話したが、ティアの口振りからしてそこまでは話してないことは分かっていた。だから思い付く人物は国王陛下を除けば一人だけであった。


「あの方も最初は話そうとはしませんでしたが、……少し涙目になったらあっさり教えてくれましたよ?」

「ホント女性に甘いなぁ、あの人は!」


─────それさえなければ尊敬できるんだが……。


瞳を見つめられ、心の奥を見透かされた気分になる中、女性にだらしのない同格の冒険者である男性の性格を思い出しながら……あの時の死戦を観念したかのように話し始めた。


「俺やギルさんと同じSSランク(・・・・・)の《超越者》だ。通り名の通り、危険なヤツだった。SSランク冒険者の中でも最強と呼ばれていたのも頷けるレベルの化け物だ」


当時のことを思い出し、辛そうな顔をするジーク。詳しくは話そうとしないが、その表情を見るだけでティアの脳裏には、その時の過酷さが視えて映っていた。


「ギルドレット様と兄様と一緒に挑んだんですよね」

「……ああ」


ティアの返答にコクリと頷くジークは当時のことについて説明し出した。……一番知られなくない極一部の事実(・・)を隠して。


ギルドレットも恐らくそこまでは話してないと信じて。


「陛下からの極秘の任務だったんだ。聖国領域まで侵入して暴れ回る《鬼神》を倒すべく、俺とギルさんの二人で動く筈だった」

「最強のSSランクを相手にするためには、やはり同じSSランクの冒険者しかないですものね」


ジークの説明に対してティアは納得顔で口にする。


自分の父である国王陛下から二人に対して与えた、SSランクの冒険者の討伐任務。

それがどれほど過酷なものであったのかなど、考えるまでもなく容易に想像ができた。


そして────


「そんな危険な戦地に兄様もついて行ったんですね」

「……」


哀しみが混じったティアの言葉にジークは言葉を紡ぐ。

しかし、その反応がティアには肯定と示してるように見えた。


「兄様は正義感の溢れた方でしたから。……シルバーとギルドレット様だけに任せるのは次期国王として我慢できなかったんでしょうね」


どこか呆れたような口振りと表情のティアに、ジークは苦笑を浮かべて返答に困ってしまう。


(よくご存知だな。流石に妹か、兄の考えることはお見通しか)


全てティアの言う通りであった。

ティアの兄、ライン・エリューシオンという人物は良く言えば義理堅く、悪く言えば頑固者であり、一度決めたことは最後まで曲げない硬い芯のある王子であった。


当時の実力はだいたいSランクレベルほどはあったため、ジークと同じ戦地で共に戦うことも珍しくはなかった。

だからお互い顔を見知りとなって話をすることも増えていき、そうして妹で当時の戦地に出ていたティアとも知り合うようになった。


もっとも、ティアと最初にあったのは、彼が戦場に出てまだSSランクの《超越者》となる前であったが。


(本当にあの時ことを思い出すと後悔しかないな)


同じSSランクでもっとも危険な相手だった。勝てる保証のない戦いであるのは間違いなかった。だから最初はジークもギルドレットも意地でもついて行こうとするラインを必死に止めたのだ。


しかし、止めきれなかった。

次期国王の覇気か、SSランクの自分たち二人に対して、一歩も引かない彼の姿勢にジークもギルドレットも気を押されてしまった。


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