第15話 暴王。
少し多めです。
本日は二話出す予定です。
二話目は18時くらいの更新になると思います。
修正:ジークの技名、ルビの変更しました。
「ジーク、おめぇの戦い方って……なんか面倒だよな」
「そうか……、で、デスか?」
「───ブフッ!」
修業時代、ジークは師匠の指示で魔法勉強と実戦に分けて修業を行なっていた。
そんなある日、当時実戦担当であったバルトとの模擬戦中に、彼からそんな言葉を投げかけられたのが、事の始まりだった。
ちなみにこの頃のジークはこれまで敬語を使ったことがない子供であった。
勉強担当を務めている師匠の影響で、少しずつ目の上の人に敬語で話をするようになってきたが、まだ以前の名残があるのか、ついぶっきら棒な口調に戻って思い出しかのように敬語口調に戻すので若干言葉使いがおかしくなっていた。
「ぷっ、ひ、ヒヒヒっ、あ、ああ……」
ジークの珍妙な言葉使いに鍛え上げた腹筋が割れてしまい苦しむバルト。
この頃のジークはまだ幼く見た目は本当に小さな子供であったが、どこか大人のような落ち着きと雰囲気を持っていたため、することなすことがついついツボに入る大人達であったのだ。
表情は真面目そうであるが、口調はぶっきら棒……しかし、性格は結構真面目。
彼のことを知っている者達にはジークがすることの一つ一つが面白く、微笑ましく見えてしまっていた。
「バルト?」
笑い転げそうになるバルトを不思議そうな表情のジークが見つめる。
バルトは込み上げってきた笑いに気が散って、ジークのことを放置してしまっていた。
「あ、スマンスマン。オホンっ、……つまりだな」
一度は咳払いをするとバルトのジークの戦い方について、指導者として彼に説明した。
「ようは魔法を使う度にわざわざ無理な調整をしてるから後手に回ってんだよ」
「そんなこと言われても……」
バルトが口にしたのはジークの魔法発動についてであった。
師の指導のおかげでだいぶ扱い易くなっていたが、それでも暴れ坊、易々とは使わせてはくれないのだ。
「昔から変なんだ……デス。魔力切れする度に回復後に量が増えてる、魔力を通して魔法を使うとすると好き勝手に暴れようとして、制御しようとすると余計に暴れようとして……はぁ、後手にも回るよデスヨ」
疲れた息を吐きながらそう言うジークの顔には哀愁の色があった。
この魔力のせいで昔から散々な目にあってきて、もういい加減どうにもならないと諦めの心境であった。
そんなジークにバルトは苦笑していると不意に思いついたのか、試しにジークに尋ねてみた。
「だったらいっそ抑えるのを完全にやめて、力任せに使ってみたらどうだ? おめぇの魔力も抑制なしに使う分にはそんなに暴れないんだろ?」
「何言い出してんだよ……デスかッ!」
「もう敬語はいいから言ってみ、どうした?」
面白ろ半分、呆れ半分の表情をしてバルトがジークに言う。
「……分かった。バルト、簡単に言うが、それは無茶を通り越して自殺行為だって」
敬語する必要がなくなり、楽な口調でジークは口を開く。
バルトの無茶振りな案に容赦なく否定の言葉を口にした。
「師匠も言ってたけど、オレの魔力は異常なんだ。物心ついた頃から使えるようになって、その頃から制限らしい制限がないんだよ」
思い出したくないか、嫌そうな顔で話すジークにバルトは苦笑顔から真剣な顔つきに変わる。
彼も師匠の仲間の一人、ジークの境遇は少しであるが、ジークの師匠から聞いていた。
「限界があるのか怪しい魔力、それも容量がどれだけあるか判断がつかないほどだ。そんなヤバそうな魔力を制御せずに使ったら……師匠からくれぐれも制御を忘れずにって言われてるんだ。力任せなんて……絶対ムリだよバルト!」
「……」
悲痛ようにバルトに向かって声を上げる。
そこまで聞いたバルトは深妙な顔で言葉を選ぶように慎重に口を開く。
「そうか。確かに力任せって言ったのは悪かった。……けどよ」
だが、謝罪を口にするとバルトは彼の話から新たな問題点を口にした。
「やっぱよ、神経質なんじゃないか? おめぇもアイツもよ。少しはリラックスした状態じゃないとそれじゃ逆効果だって絶対よ」
「ん、……そうかもしれない……けどなぁ」
バルトに言われて、ジークは少し思い返す。
……確かにバルトの言葉も一理あった。
だが、それでもやはり今のジークには師匠のやり方以外に良い案がなかった。
「少しでも気を抜くのはリスクが高過ぎる。そんなバルトみたいな自然体で戦うのはオレには─────」
「──そうかッ! それがあったか!!」
「絶対ムリ……え、バルト?」
「なるほどな〜確かに試してみる価値はあるかもな、ヒヒヒっ! 楽しくなってきやがったぜ! ……ジークよ、ちょっと付き合え」
「え? 修業は?」
楽しげにそうジークに告げるバルト。
突然バルトそう言われてしまい疑問符を浮かべるジークだが、バルトの方は一切待とうとはせず、疑問符を浮かべたままの彼を抱えて何処かへ駆け出して行ってしまった。
後日、実戦指導を放っぽり出てジークと遊びに出かけたことが彼の師匠にバレて、木に縛られ宙吊りで折檻を受けるバルトであった。
ジークの方は師匠からのお仕置きはなかったが、親しい同年代の女の子達からのお説教プラス正座に年相応関係なく、男性らしい苦しげな表情をしてお叱りを受けた。
だが、この頃からジークは師匠から受ける修業以外にも師匠の仲間の男性陣より、色々な変わった指導……という名の娯楽や男同士の語り合いなどをすることとなる。
それを通じて、ジークは自身が宿す魔力との向き合い方について少し考えるようになるが、それよりも問題であったが、その語り合いなどの影響で彼の性格が大きく変化し始めていることにまだ当事者を含め誰も気づいてなかった。
◇◇◇
ジークの相手をしている彼女は歓喜に震えていた。
「遂に、やる気になったのね……!」
解放されたジークの魔力に呑まれて、膝をつきそうになるのを堪え彼に向かって嬉しげな表情で視線をぶつけていた。
ジークの魔力は感じ取れないが、寒気や圧力などへと変化して彼女もまたそれが重圧となって身に掛かっていた。
彼女にとって、この展開は嬉しい限りであった。
これで漸く、僅かであるが本気のジークと戦えれると。
かつて間近で彼の本気の戦いを見ていたために、いつか自分もそんな彼と戦ってみたいと願い修業してきたのだ。
「やっと本気になったのね。……少しだけど」
「まあ……さすがに、少しはね」
苦笑を浮かべて肩をすくめてジークは答えると解放の反動よって放出してしまった大量の魔力が落ち着いたのを確認した。
(ヤバイな、ついうっかり解除しちゃったよ)
封じ込めていた魔力は全体の八割ほど。
これまでの試合では二割程度の力で戦ってきた。
だが、解放された魔力の荒ぶってるところを見て、ジークは少しだけ後悔したようなしかめ顔となる。
(ちょっと押さえ過ぎたか……。暴れたくてしょうがないって言ってるみたいだ)
宿している本人でさえその特性の半分も把握していない謎のシロモノである以上、このように暴れたがってる印象を宿主に感じさせてもおかしくない。
(う〜ん……)
ジークは不意に周囲に視線を向けてみた。
「あちゃー」
視界に映った惨状に今更ながらやってしまった感を覚えてしまった。
「まあ、しょうがないか」
けど、それも一瞬だけ。
すぐに思考を切り替えて彼女の方へと意識を向ける。
(通常魔法で攻めるのもありだが、彼女のオリジナルが相手だと少し厳しいか)
オリジナルに通じるのはオリジナルのみ。
それが魔法世界の常識であるが、ジークの魔法ならその常識を破ることができる。
(確かあの聖剣は七属性に対して上位の存在で攻防共に厄介だったか?)
が、やはり相性がある。
威力を高めれば、なんとかなるかもしれないが、ジークは通常魔法を苦手としている。
コントロールに不安がある物を遠慮なしに使用できるはずがない上、相手のオリジナルの特性を考えるとやはり先ほどと同じで、無属性での戦法でいくべきだと判断した。
とそこまで思考するジークはふと、思い出したかのような顔をして何を思ったのかで苦笑を浮かべていた。
(まぁしかたないか、解放状態だし、久々にアレでいこうか)
────それでも無理はしないようにと心の中で決めると軽く首をコキっと鳴らした。
「さてと……」
「───!」
ジークの呟きとともに彼女の方も構えを取った。
大剣サイズの光の剣を両手で持ってジークと向き合う。
「あ〜やっぱやる気か」
「当然よ」
「んーけどいいのか?」
「?」
ジークの発言に訝しげな顔をする。
するとジークはニコーと満面な笑みを浮かべて口にした。
「制限を解いたシルバーの魔法をもろに食らうんぞ? 覚悟はいいか?」
「ッ───上等! できるのもならどうぞっ!」
ジークなりの助言であったのだが逆効果であった。
彼の言葉を聞き集中力を高め、彼女から発している空気がさらに鋭くなっていった。
どうせ大してコントロールできず、結局セーブしながら仕掛けてくるのだと言ってるような彼女の口ぶりであったが、それはフラグ……とは言わないが、口にすべきではなかった。
「ふぅー……そうか」
少し残念そうな声音で言う。
ジークはその場で脱力するように小さく息を吐いた。
「ふぅ──、ふぅ──」
緩やかな呼吸をする中、彼には視えていた。
大気中、そして自分の体内からギチギチと抑制されながらも蠢めく魔力の放流を。
ジークは目でそれを確認して、無意識にも魔力を抑えようとしている全身の感覚器官を閉じるや、荒れ狂い大波のように暴れだそうとしている魔力に無造作に手繰り寄せた。
「─────」
強引に抑え無理矢理制御するのではなく、荒れる波に添うように手繰り、少しずつその波を自分のモノのように乗りこなしていく。
自然体のまま身をまかせ、自分の中にいるモノと対話する。
(……そうだ。そのまま、少しの間でいいから──────自由にやらせてくれ、《消し去る者》)
吹き荒れて落ち着きのなかった魔力を徐々に落ち着いてゆく。
そして放出され切った魔力の奔流に手を伸ばすと、その無限の近い量の泉から少量ではあるが、水をすくい上げたジーク。
─────ドッ─────クン!!
─────ドッ─────クン!!
「────ッッ!!!!」
胸の中心で破裂しかねないほどの大きな脈動を感じたジーク。
暴王のような彼の魔力──────すべてではないが、ジークの思い通りに操れるようになった。
『同調』
『対話』
『掌握』
この三工程を通ることによって、ジークは真の意味でに戦うことができる。
シルバー・アイズの頃の力を行使することができるのだ。
(全体の三割強ほどか……けど十分だ)
ジークはできることならこの手だけは使いたくなかった。
この方法は日に三回しか使えない。
強力な分、掌握仕切った魔力量に関係なく使用後ジークを疲弊させる。
「……よし」
自分が掌握した魔力量を把握したところで、ジークは右手を前に出した
「まずは千ぐらいでいってみるか─────『零極・千の矢』」
「ッ! ────ハッ!」
ジークが呟いた時、彼女の背筋に悪寒が走った。
気づけば両手の剣をクロスさせてジークから身を守るように盾して前に出していた。
直感からの行動であるが、それが迫っていた敗北を回避させたのだ。
「ッーー!?」
剣を盾にした瞬間、吹き飛ばされかねないほどの衝撃が彼女を襲った。
オリジナル魔法の剣でなければ貫けられそうな威力に彼女の顔色から僅かにあった余裕が消え危機迫るものへと変化した。
「ほう、受けきったか。流石だ」
盾にした剣を下げると視界に右手を上げたままニコリと笑みを向けているジークが映った。
そんな余裕な顔がイラっときたのか、剣を握る手に力を入れると不敵な笑みを浮かべた。
「フフっ……舐めないでほしいわっ!」
「分かってる『零極・千の矢』」
一度目の攻撃を受けきり向かってきた彼女にジークは再び上げままの右手から自身の魔法を行使する。
すると指先から長く巨大な槍のような矢が疾風の如く放たれた。
「だから……舐めないで! 『月光の聖剣』ッ!」
一度目を受けきれば問題はなかった。
放たれた矢槍のスピードと間合いを見切った彼女は片方の剣で容易く矢槍を迎え撃った。
「ふッ! ─────っっ! な!?」
距離感を掴み飛んできた矢槍を彼女はなぎ払ってみせた。
だが、矢槍を斬ることはできたがその際、振るった彼女の腕に予想外の負荷が掛かったのだ。
(か、硬い! この矢、大きさに比べて密度がおかしい!)
まるで分厚い鋼でも斬ってるかのような感覚。
振るった腕からくる微かな痺れ取るように腕を軽く振るっていると、ジークの方から驚きの発言が飛び出す。
「まあ、聖剣が相手じゃさすがに千発分だけじゃ足りないなぁ。────あと二千くらい増やそうかな?」
「な!? い、いま何て……!?」
彼の呟きに目を見開き驚愕するが、そんな彼女を置いてジークは緩やかに掌底のように緩かに前へ押し出した。




