第12話 異常。
活動報告でも言いましたが、この章はまだ続きます。
キリのいいところまで出す予定です。
「これより、二年ミルル・カルマラと二年ジーク・スカルスの試合を始める」
もう慣れた審判の言葉を流して、ジークは向かい合うミルルを見据える。
「……」
「フフ……」
見つめるジークに対してミルルの方は笑みを浮かべ状態で、凄まじい殺気の込められた鋭い目をしてジークを見つめ返していた。
─────ざわざわ……
普段の彼女から想像も出来ない目つきに、彼女知る者達からは何事かといった目で驚きの顔をしている。
だが、その大半は対戦相手であるジークが何かしたのではないかと、疑いの眼差しを向けていた。
「……」
そんな数々の視線を浴びてる中、ジークはいつもの笑みを消して、殺気はないが鋭い眼差しでミルルと向き合っている。
(なるほど暗器か)
見た限り、彼女の身体中に武装がされていた。
両太ももにはナイフ用のホルスターが装着されており、腰にも小型のバックが取り付けられている。
彼女の体型にも違和感があった。
それも体型というより、服の盛り具合に。
透視魔法を使ってないのでジークには判断がつかないが、おそらく服の中にも何かしら武器を隠しているのであろうと予測する。
「準備はいいな?」
「「……」」
「そ、それでは───」
二人に確認を取る審判であったが、睨み合って返事をしない二人の空気に気圧されてしまいそのまま進めた。
そして試合開始の直前。
ジークは軽く腕振って慣らすと静かに構えを取る。
特に違和感のない準備体操のようなものではあるが、普段と違い若干であるが気を引き締めているふうに見える。
ミルルは両手をぶらりと下げて脱力した体勢を取る。
左右の太ももに付けてある、ナイフ用のホルスターにいつでも触れるようになっていた。
────そして
「第五試合……始めッ!」
審判員の宣言で試合のゴングが鳴った。
「「──!」」
二人の試合が始まった─────────ところで、
「『零の……』」
「───ハッ」
「!」
ジークが魔法を発動するよりも早く───────ミルルが先手を打ってきた。
懐から粉の入った三つの小瓶をジークに向けて放り投げた。
(アレは……)
ミルルが放り投げた小瓶。
三つの内一つは衝撃で爆破する発火薬で、残りの二つは連鎖爆破を引き起こす粉型の爆弾であった。
もっとも投げつけられたジークにはぞれぞれがどんな効果のある薬なのかなど知るはずもない。
「……『零の透矢』」
思考は一瞬、ジークは飛んできた小瓶に向かって魔力の矢を放った。
ジークが放った魔力の矢によって、パリンッと音をたて割れる小瓶。
────その瞬間、連鎖爆破玉が発生した。ジークのすぐ前で。
「……」
降りかかる爆裂の玉、ジークは特に動揺した顔を見せず素早く次の魔法を発動した。
「『零の透盾』」
無属性の盾を張って爆裂から身を守った。
───そして爆裂を防ぎ切ると。
「『零の透矢』」
盾を消して、十数発以上の矢弾を放った。
「──!」
向かってくる矢弾にミルルは左右に横跳びして躱す。
「遅いわ───ね!」
全て躱しきったところでミルルが挑発的な笑みをジークに向ける。
その拍子に複数の小瓶、数本のナイフを投げつける。
「!」
飛んでくるコースを見切ると一瞬だけ動きが止まるジーク。
(動いても動かなくてもやばいか!)
小瓶を避けようとすればナイフに襲われて、ナイフを無視して動かなければ、危険な薬品の餌食なる危険があった。
飛んでくる物を障壁なで受け止めるという選択もあるが、飛んでくるナイフの刃が魔力を帯びているのが見えたため、防御して乗り切る選択はジークにはなかった。
「『零の透盾』『零の透矢』!」
なのでジークがとった手はいたってシンプルだった。
食らうと危険そうな薬品入りの小瓶は届く前に盾で防ぎつつ、飛んでくるナイフを矢弾で撃ち落とした。
「やはり大した者ね。普通なら避けるか受け止めるか、どちらかなのに」
「ふぅ〜……やりづらい (『魔力探知』)」
ジークの方はさして気にした様子を見せず、冷静にミルルの状態を観察、分析をする。
(身体強化か……)
素早く動いてみせた時点で予想はついていたジーク。
だがこれで矢弾を当てるのは難しくなってしまった。
(数を増やして放っても、あのスピードなら余裕で射程外へ逃げれるな)
ならばとジークは、優位につくため近接戦闘で攻めることに決めた。
(『部分強化・敏捷性』『跳び虎』)
より動き易いよう強化をするジーク。
これでミルルの動きに追いつくつもりなのだ。
「フフっ、ならわたくし────んんっ! 私もこういうのは無しにするわ」
途中で口を紡ぎ言い直す。ミルルは手元でいつでも投げれる状態であった小瓶を腰の小型バックに仕舞った。
「使い慣れない武器を使うのは大変ね。こっちもそんなに使ってないしね」
しまった瓶の代わりに両太ももに着けてあるホルスターからサバイバルナイフを取り出して、数回クルクルと回すと残念そうに肩をすくめるミルル。
「……」
それ見て直接何か言うとはしなかったが、ジークからは十分使い慣れてるようなナイフさばきに見えてしまった。
「万が一受けると痛いかな、やっぱ。────『零の籠手』『零の防脚』」
ミルルのナイフを見て嫌そうな顔をすると、両手両足に無属性の鎧を纏ったジーク。
「フフフ……イイわね」
「こわ……」
嬉しげな冷笑みのミルルに苦笑を浮かべてぶるりと体を震わすジーク。
「フフフフっ」
「……」
しばし、睨み合う二人。
自然と体を動かして間合いを詰めてゆく。
「「───!」」
動いたのは同時であった。
「シッ!」
「ハッ!」
互いに敵の間合いに一瞬で詰めると、無属性の鎧の籠手を纏った拳と魔力を纏ったナイフが激突した。
「っ、強力……ね!」
「……!」
攻め技合う二人。
ジークを斬りつけようとするミルルのナイフをジークが魔力の籠手のパンチで叩き落としている。
「ふっ!」
「くっ……!」
ジークのストレートがナイフ越しにミルルを殴り飛ばす。
スピードはほぼ互角である。
左右の拳で疾風の如くミルルを殴りつけて、隙を狙って蹴りを入れようとするジーク。
パワーではジークの方が上であった。
だが─────このままやられる彼女ではなかった。
「フッ! ハァ────ッ!!」
蝶の舞のようにナイフを扱いだしたミルル。
何かの剣舞なのか、ジークの攻撃を余裕を持って躱して切り裂く。
「っ、攻めが、強烈だなぁ……っ!」
鋭い魔力刃のナイフを扱うミルルの斬撃に今度はジークが押されて、攻め切れないでいた。
(っ、昔よりも魔力練度が上がってる! 師匠から実戦からはもう離れていると聞いていたが、鍛錬は欠かさなかったようだな)
本人は不慣れだと言っていたが、十分脅威だと叫びたくなるジーク。
そんな中、エリアの外で─────────
「ね、ねぇ……ミルルちゃんって、あんなに強かったけ……?」
「え、えーと、強かったと思うけど……あんなにすごかったかな」
ミルルの友達と思われる女子達が普段は見たことがない剣舞を扱うミルルの戦いぶりを見て、目を点にしたまま互いに確認しながら首を傾げていた。
「というか二人してスッゴイ速いんだが……」
「ああ、これじゃマジの実戦じゃねぇか……」
「百歩譲ってカルマラが強いのは分かったが……」
「スカルス……だよな」
「……どうなってんのアイツ?」
と、一部の男子達が圧倒的にレベルが違うジークとミルルの戦い見て、どっと冷や汗を掻いていた。
二人戦いは既に学生レベルを軽く超えていた。
ついでに今になって、ジークの戦闘レベルの高さに疑問符を浮かべるのだった。
「シッア────!! ヤァァァ─────!!」
そんな学生達の会話が行われる中、ミルルの剣撃がガードに使ったジークの籠手に当たる。
(思った以上に痺れる。もう少し強化すべきか?)
かなり力を込めたようで、その衝撃が籠手を通してジークにも届くほどだった。
ミルルの攻撃を受けながら、ジークは付けている鎧の硬度を高めるため、注いでいる魔力を強めようか検討していた。
だが、ここでジークにトラブルが発生した。
ガッキィィィ───────ピキキ……ッ!!
彼の耳元に不吉な音が届いた。




