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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いの苦難な予選会。
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第8話 学園長。

リグラ学園長とジークが初めて対面したのは、ジークが入学してしばらく経ってからである。


「やぁ、君がスカルス君か」


椅子に座り、肘をかけてジークを見据える男性。


リグラ・ガンダールである。


「……どうも」


聞かれたジークは向かい合うように立って、適当に返事をするだけである。

視線も合わそうとしてないが、これは警戒してのことでもあるのだ。



(できれば、対面して出会いたくはなかった)



《知将》リグラ・ガンダール。


ルールブ家、フォーカス家、ケーブル家に並ぶ名家の一つ。

彼もまた、ルールブ家の当主のように大戦時、国に尽力を注いだ数少ない貴族の一人でもあるのだ。


と言っても、ルールブのように自ら戦場に赴いたというわけではなく、貴族の一人として上から指令を出すなど、作戦指令の立場を務めていたのだ。


長く続いた大戦の結果、広がっていく戦場の中でリグラの知略ある策は何度も国に貢献したのだ。


それによって戦場に参加していた冒険者、騎士、傭兵といった沢山の戦役者の助けともなっていた。


──────ジークこと、シルバー・アイズも同じであった。


(大戦の時、この人の作戦に何度も参加してみて恐ろしい人だと思われた)


戦う相手に対しそれほど恐れを感じてこなかったジークでも、リグラの策には何度も驚かされ…………恐ろしく思ったのだ。


(この人、俺の正体知ってるのかな?)


口元に微笑を浮かべ自分を見据えるリグラを探るような視線で見るジーク。


シルバーの頃は話すこともなく直接対面することもなかったが、もしそんな機会があったとしたらと思うと……。


自身の隠し事など容易く看破してた可能性があることを否定しきれないジークなのである。


そしてそんな要警戒人物であるリグラが今、目の前にいる。



警戒してしまうのだ。

この人間の底を測ることができないから。




「ちゃんと挨拶せんか!」


────ゴツンっ


「──うぎっ」


とそこへ、彼の後ろで控えていたガーデニアンが、拳骨で黙り込んでいるジークにお見舞いした。



この頃にはもう、この絵図が日常となっていた。


「す、すみません」


端から見たら、ボーと突っ立ていただけと気づいたため、慌てて謝るジーク。


「はぁー! まったく」

「ハハハ、なかなか愉快な青年だ」


ジークとガーデニアンの一連のやりとりを見て、微笑みを少し崩して可笑しげに笑うリグラ。



場所は理事長室。

部屋にいたのは、部屋の主であるリグラと教員であるガーデニアン、そしてジークの三人であった。



学園トップのリグラと魔法教師トップのガーデニアン、そんな二人に囲まれるようにして立ち尽くすジーク。


なぜ、彼がこんなメンツのに呼ばれたのか───────



──────……一言でいうなら『詰問(・・)』である。────学生相手に。



「さて、聞かせてもらえるかなスカルス君。なぜ、再三のガーデニアン教員の警告を無視して、真夜中に高等部、そして初等部の校舎にある立ち入り禁止(・・・・・・)の場所を巡り回ったのかを」

「──うッ!」


微笑のまま問い掛けてくるリグラに言葉を詰まらせるジーク。

額には脂汗を流して、リグラの視線から必死に逃れようとしている。



そう、今回ジークがこの場に呼ばれたかというと、入学してから頻繁に行っていた真夜中による校舎探検のことであった。


入学してかなり経っていたが、彼は夜中になるとこっそり校舎に侵入しては、生徒が立ち入ってはいけない場所に何度も侵入して中を漁ったりしていたのだ。


……そのたびに見回りしているガーデニアンに見つかっては、毎度お叱りを受けていたが。……ガーデニアン以外の教員が見回ってる時は、見つかったことは一度もない。



ガーデニアンが何度注意してもやめなかったジーク。


そしてその探検が長く続いてしまい、とうとう学園長の耳に届いてしまったのであった。


そして今現在、ジークはガーデニアンに連れられて学園長室に来て、こうしてリグラに詰問を受けている。


「先日、高等部校舎二階にある資料庫。防犯魔法や結界魔法を取り付けてあったというに」

「あ、ははは……」

「まだあるぞスカルス、三日前初等部のほうの校舎にある教員用の実験室に無断侵入した件じゃ。あそこは本来教員が付き添いでない入れん場所だぞ」

「はは……」

「それと、数日前に初等部の校舎の─────」


二人の教員にあれこれ言われて、汗をダラダラと流してしまう。

否定要素が皆無で、何も言えないのが余計に辛いのだ。


「他にも───」

「それに───」

「っ!? グっぐぎぎっ……!」


数えたらキリがない感じで次々と言ってくるお二人に、徐々に苦しみ出すジーク。

いざこうして言われてしまうとやはり堪えるものがある。


「で、スカルス君。何故このようなことを?」

「………………」

「スカルス君?」


一通り罪状を言い終えたリグラが改めて、ジークに問い掛けてきた。

その時には、すでにジークの顔から魂が抜けきった、真っ白な状態で突っ立ているだけであった。


「だから、ボーとするでないわっ!」

「───ぐぎゃっ!?」


ガーデニアンの拳骨で復活したジークだが、結局リグラの問い掛けに対して明確な回答をせず、二週間の停学処分を受けるのであった。


だが、その時ガーデニアンははぐらかされて気付いてなかったが、リグラの方はそれ以降、ジークが何故誤魔化してまで隠したのか気にり、個人的にしばらく調べてみることにした。


しかし、結果として彼がなぜ学園内の散策をしていたか、分からなかったが。


一つだけ、あり得ないが、思い当たる事があったのだ。


だが、リグラはその可能性についてはそこまで深く考察しようとはしなかった。



……なぜなら、


もしその考えが的中していたとしたら…………彼を学園を脅かす敵として──────殺さねばならいと。


リグラはそんな起きてはならい考えを振り払ったのであった。



◇◇◇



「君と話すのはあの件以来だね?」

「その節はすみませんでした」


ハハハっと微笑するリグラに向かって、苦笑気味に会釈するジーク。


(あの時は途中で学園長が探ってるって気付いたから……アレ(・・)を探すの、一旦やめたんだよな)


ジークはリグラが自分について調べていることに気付いてた。

どうやら何度も校舎を散策している自分の行動に違和感を感じていたようで、ジークもこれ以上はマズイと判断して、当初の目的の一つを断念することに決めたであった。


(まあアレは師匠が見つけたらあげるって言ってたから。興味本位でだったし、どういうのかこの目で見たかったからなぁ)


あの散策には彼なりの理由があるので、それを悟られると色々と困るのである。


「あの時の事柄はよく覚えています。非常に……興味深かったからね」

「へ、ヘぇ〜……そうですか」


なるべく表情には出さないようにするジークであるが、やはり相手が相手なので少しばかり辛そうである。


「ところで、学園長殿がどうしてこちらに?」


とそこへ、ガーデニアンがリグラに問い掛けてきたのだ。

助け舟のつもりはなかったが、結果ジークとしてはナイスタイミングであった。


「えぇ。仕事が一段落ついたので、私も予選を見て回ろうかと」


そこまで言うとジークの方へ目を向けてニコリと笑みを見せた。


「勿論君の試合も見てみたいものだよ」

「……」


(笑みがこわい! 笑みがこわい! 何!? なんなのこの人!? 笑みだけで人を殺せるんじゃないのか!?)


ニコリ顔が怖過ぎて固まってしまったジーク。

何気にリグラが危険な発言をしているが。


「 それでそちらは、どんな話を?」

「ミヤモトの件です。スカルスは処分は不要そうじゃ」

「ほう」


先ほどのトオルの件についてリグラに話すガーデニアン。


その彼の返答に少しだけ感心したような表情をすると、リグラは微笑みを浮かべたままジークに視線を向ける。


「君は失格を希望すると思いました。やはり噂はアテになりませんね」

「あながち間違ってませんよ?」


別に良い評価されてたくて決めたわけではない上、リグラに印象よく見られるのも何か恐ろしい気がしてならないジークである。


「言っちゃなんですが、俺って結構適当ですよ? そこらの不良よりもかなり」


と、つい付け加えておくジーク。

余計だとは思ったが、ついつい自分を卑下するような発言をしてしまう。


「何故そこで余計なことを口にする……」


隣で聞いていたガーデニアンも彼と同じ心境を言葉にする。

呆れた表情でジークを見るその目は、残念な生徒を見るかのようなものである。


「ふふっ、期待しているよ」


そしてリグラの方は最後まで微笑みを消さなかった。

二人のやりとりが面白ったのではなく、ジークの対応に愉快に思ったわけでもなかった。


見透かすような目を挙動不審なジークを見ているのであった。


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