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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いの苦難な予選会。
66/265

第0話 過去の記憶と剣士の最後。

第五章に入りました。

ちょっとした過去の話になります。


注意:残酷描写が含まれています。苦手な方はご遠慮ください。

これはトオルの過去の話である。

永きに渡って続いた大戦が終結する、二ヶ月ほど前のことである。


彼の父はエリューシオンの冒険者に────殺されたのだ。


「ハアっ……ハァっ……!」


────轟音が鳴り響く戦場を


───少年は死に物狂いで走り続ける。


「ハーッ! ハーッ!」


息が切れ、かすれ声で漏れ出すほどトオルは緊張状態であった。

住んでいた街が襲撃に遭い、不運にも戦場と化した街を父と共に逃げ惑うこととなった。


その精神状態はもう限界一杯であった。


「頑張るんだトオル! 走るんだ!」

「ハァっ、と、父さん!」

「大丈夫だ私に任せておけ!」


当時の彼はまだ子供で戦争経験など皆無であったが、トオルの父は元戦役者、戦争経験がある者であった。

既に引退した身であったが、街でも有名な剣士であるトオルの父は、経験と持ち前の感で安全地帯を見極め、息子を連れて逃げていた。


「───こっちだ!」

「う、うん!」


腕を引っ張られるように、父と共に街を駆けるトオル。


「っ……!」


周囲に映るのは、もう見慣れた街ではなかった。

破壊し尽くされ瓦礫となった建物の合間には、逃げ遅れた人の手や足、胴体などが見え隠れしている。


瓦礫の下敷きにされて者達である。中には呻き声をあげまだ生きている者もいるようだが、トオル達にそんな彼らを助ける余裕などない。


逃げねばならい。遠くへ、母や姉が待っている、戦火が届いてない安全地帯まで────




「むっ!? 伏せろ!」

「うっ!?」


必死に走っていると、突然地面にしゃがみ込まされるトオル。

父の方を向くと、彼は視線を息子に合わせず、鋭い目つきで遠くの方を見ていた。


「ひっ!?」


視線につられてトオルも追うように視線を向けると、そこには─────死体の山があった。



死体が全て血塗れ染まっており、冒険者、傭兵や騎士と思われる男の死体や女の死体。なかには魔道師とも思われる老人や老婆の死体が積み上げられて、トオルの視界に映った。


そして、そのどれもが酷い状態であった。


「うっ──!」

「見るなトオルっ!」


慌てて息子を視界を覆う父であったが、既に遅かった。


「お、オエエエっ!」


胃の中にあるを全て吐き出す勢いで嘔吐するトオル。それだけ彼の目に映ったモノは衝撃過ぎたのである。




「───誰だ?」

「っ!」

「うっ!?」


嘔吐に苦しむトオルの耳に、この戦場では違和感ある子供の声が届いた。


「き、きみは……」


トオルの父が押し殺したような声で呟く、トオルは視界を閉ざす父の手を退かすと、声のする方へ視線を向けた。


「……残党か?」


そこに居たのは自分と同じくらいの背格好で紅い(・・)ローブと付いているフードを被った子供が立っていた。

声からして少年であろうか、顔がよく見えないトオルはよくそのフードの少年へ視線を集中していると。


「──っ」


その姿に妙に違和感があるなと思った瞬間、トオルは息を呑んだ。


(あ、アレって……全部────血っ!?)


そう、血塗れなのだ。

紅い模様だと思っていた彼のフードは、実は血で染まっていた。


そしてフードから見え隠れしている銀の髪も所々に血が付着していた。


「もう一度聞くが、残党か?」

「質問を質問で返すが、何処の残党だ?」


慎重な面持ちで相手に質問するトオルの父。


彼は直感で感じていた。

目の前の少年は危険だと、そして恐らくこの目に映る死体の山は彼が────



「ん? 何処のって、こいつら(・・・・)の知り合いかってことさ」

「っ」

「あ、ああ……」


さも当たり前のように口にする少年に、トオルの父は嫌な予感が当たってしまったと眉間に(しわ)を寄せる。

トオルはこの死体の山を作ったのが自分だと、平然と口にする彼に恐怖し、青ざめた表情で自然と声を漏らし出す。


と、その時、死体の山の端から知ってる声が聞こえた。


「た、タツマ、トオル……!」

「っ!? ゲンゾウ!」

「ゲンおじさん!?」

「───ん?」


それはトオルそしてトオルの父タツマの知人である、同じ街に住んでいた剣士のゲンゾウであった。


身体中血塗れの状態で地に伏せたままこちらに目を向けていた。


少年も不思議そうに顔向けて、まだ生き残りがいたことに少しであるが瞳に驚きの色をまとわせていた。


「わ、ワルい、ヘマしちまった……ゲフォっ!」


苦笑を浮かべ血反吐を吐きながらゲンゾウは口する。


「あ、あ」


子供のトオルでもすぐに分かってしまった。

ゲンゾウは、既に瀕死なのだ。いつ死んでもおかしくない程、身体中血を流している。


「お、お前がやられたのか!?」

「ゲンおじさんっ!!」


街でも父に並ぶ凄い剣士だと聞かされてきたトオルであったが、まさかそのゲンゾウがこうも無惨な姿で倒れていようとは、夢にも思わなかった。


「へ、へへへっ、と、トオル坊やにまで、な、情けねぇとこ見せちまったな。ハハ───っカハッ!?」

「なんだ。まだ生きてたのか」


しかし、そんな親子の動揺など知らない少年は、つまらなそうな声音でゲンゾウに向けて呟くと、彼の上に一瞬で移動して背中を踏み潰すかのように片足を下ろした。


「──グブッ!」

「っ!? ゲンゾウッ!」


再度踏みつけるようにする少年に呻くゲンゾウ。叫び出すタツマの視界に、少年の足から目に見えるほどの高密度の魔力が集まっていたのが、確かに視えた。


その魔力の気配がどこか薄ら寒いものを感じたような気がしたが、タツマの思考はすぐに切り替えられた。


「もう楽になれ」

「ガ、ガアアア〜〜!」

「ゲンゾウっ……!」


恐らく部分強化の魔法であろう。三回目の踏み下ろしに、吐血して苦痛の叫びを上げるゲンゾウを見て、タツマは覚悟を決めたような表情をして、肩に掛けていた鞄を手に持ち、伏せたまま固まっているトオルに声をかける。


「トオル、お前は逃げろ」

「父さん!?」

「私はゲンゾウを助ける。これを持って他の避難民と合流するんだ。運が良ければ母さん達に会える筈だ」


そう言ってカバンをトオルに渡すと、タツマは腰に差していた刀を抜き、未だゲンゾウを踏みつけている少年に剣先を向けた。


「おい! 彼から離れろ!」

「……ん? なぜだ?」

「友人だ、離してもらう。抵抗するなら……斬るッ!」


首を傾げる少年に剣先を向けたまま、そう口にするタツマ。

目つきは先ほど以上に鋭くなり、全身から闘気が溢れているようにトオルからは見えた。


父はこんなに凄い人だったのかと、トオルはこのような状況であるのに誇らしく嬉しく思ってしまった。




───だが。


「友人だから……離せ?」


淡々とさっきまでしゃべっていた少年の声音に、なにか別の感情が混じりだした。

そう思った瞬間、トオルの背筋に強烈な悪寒が走った。


「ふざけるな。貴様らにどういう繋がりがあるか知らないが、ここは戦場(・・)だ。戦場にいる者はどんな理由であろうと戦火に巻き込まれるんだよ。たとえ戦う意思のない者であっても、懸命に救いを求める者あってもだ」


低く胸の奥から吐き出すように口にする一言一句がトオル、そしてタツマ、ゲンゾウの耳にハッキリと届いていた。


「友人だからという理由でなぜ離さねばならい? 貴様らの都合などオレが知るかッ」

「アアっ! ガッ〜〜!?」


苛立ちをぶつけるようにゲンゾウをグリグリと踏みつける少年に、とうとうタツマの堪忍袋の尾が切れた。


「ゲンゾウっ──!? っ、ハァアアアアアアッ!」


地面を踏み砕くように脚を蹴り、少年へ向けて駆け出す。


「ミヤモト流『八式・青桜』───!」


蒼く煌めく刀を少年へ向けて横に斬り捨てようと─────




「────『絶対切断(ジ・エンド)』」




そんな声がタツマの耳に届いたと思ったら、斬り捨てようとした自身の刀が半分に切られていた。



「……今のは」

「……」


少年の真ん前で呆然と呟くタツマ。

手に持つ刀、半分のみとなった刀を見下ろしながら、先ほど起きた現象を思い返した。


(速さではこちらの方が上だったが、交差した瞬間、紙でも切られたかのように────切られてしまった)


タツマが斬りに掛かる瞬間、少年は一瞬で金の装飾がされたクリスタルの大剣を片手で持ち、そのまま刀と剣を交差したところで、タツマの刀をあっさり切った。



「まさか我が家でも業物のコレが、こうも容易(たやす)く折られるとは」


折れた刀を見てそう呟くタツマに、呆れたような声音で少年が聞く。


「呑気に喋ってるとこ悪いが、逃げないのか?」

「無理だろう。それとも見逃してくれるのか?」

「ないな。そうゆう情けは…………もうしないことにしたんだ」


そうして告げた後、少年は剣を持つ手を上げていつでも振れるように構える。

タツマは抵抗しない、地に伏してるゲンゾウも何も言わず、黙して目を瞑る。


「それでも頼みがある。……息子だけは見逃してくれないか?」

「……」


タツマの願いを聞き、少年は離れた場所で呆然と立ち尽くすトオルに目を向ける。


「っっ!!」


目を向けられ怯えたように身を震わせるトオルに、少年はつまらないものでも見るかのような冷めた目で見た後。


「オレは向かってくる奴には遠慮しないが、戦えない奴までいちいち狙うつもりはない」


その言葉に、願いを聞き入れたと解釈して、タツマは心の底から安堵を示した。


「助かる」

「こんな時に礼を言うな。死ぬんだぞ?」

「そうだな……」


また呆れたように言う少年にタツマは、少し笑みを浮かべて疲れたように首を垂れる。そして横目でトオルを捉えると、笑みを浮かべたまま申し訳なさそうに口を開いた。


「お前は生きてくれトオル」

「ッ! と、父さんッ!」

「母さんとシオンを守ってくれ……」

「父さんッッ!?」


ハッとして駆け出すトオル。転びそうになるも必死に父に元に駆け寄ろうとする。


「……」


がむしゃらに走りだすその姿は、少年の目にはとても哀れに映っていた。


─────弱いな。本当に弱い。心も身体も。オレのように(・・・・・・)


がむしゃらに駆け出すトオルの耳に不意にそんな言葉が届いた。その瞬間、心臓を握り締められたような気がした。


トオルにはそれが父の死の宣告に聞こえてしまったからだ。



そう。もう手遅れであったのだ。

少年が魔力を剣に込めて纏わせると、そのままタツマの首元を狙って─────



「じゃあな」

「……ああ」



───斬った。






───ドサッ


「────」


目の前で何が起きたかトオルは理解出来なかった。

彼が見たのは斬り捨てられた父の首が地面へ転がったところである。

その拍子に首から下が糸が切れたように倒れ込んだ。


「……」


斬った少年はその後、倒れ伏してるゲンゾウの背中に剣を突き刺しトドメを差した。


こちらに駆け寄ろうとした状態のまま固まったトオル。

光を失った瞳でこちらを表情のない顔で見るト彼に─────


「二人ともオレが殺した。憎いならいつかオレを殺しに来い」


そう言い残して少年はその場から去って行った。





「父さん……ゲンじいさん」



誰もいなくなった戦場にただ一人取り残されたトオルは、只々、茫然とした表情で倒れている二人を。



父と世話になった知人の名を呼び続けるのであった。




その後、母と姉、そしてその知り合いの人たちと合流できたトオルは、父の死、そしてゲンゾウの死を告げて彼らの形見として二本の刀を持ち帰り、それを皆に見せて事実であることを証明した。


母は項垂れるように泣き崩れ、姉も号泣して暴れるように喚き散らした。



場が悲しみと絶望に包まれる中…………彼は誓った。



───仇をとる。あの男を。

───あの銀髪の魔法使いを殺す、と。



彼は(のち)にあの銀髪の魔法使いがエリューシオンの冒険者で、世界で四人目となるSSランクの《超越者》あることを知ったが、彼の復讐心は少し揺れることはなく、恐れなどもなかった。


そして姿を消して、何処にいるか誰も知らない中でも。



───諦めるものか。いつか必ず見つけて、絶対殺してやる。と彼は強い意志でもう一度誓ったのであった。





そして彼の知らないところで、そのチャンスがやってくるのだが、彼はまだ─────なにも知らない。


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