第11話 当日の朝。
今回の章ではバトルが全然ないと後から知って焦りました(あるとしたらクマさんとの異種格闘戦ぐらいですし……)
やっぱりバトルがなきゃ楽しくないですからね。
次回も一応バトル要素が含まれていますが、今回はあんまりバトルに入れなかったので反省です。
修正。
そして、二日が経過した予選会当日の朝早く。
ジークはウルキアから少し離れた『森の道』。そこから更に遠くの『岩の道』と呼ばれる人気のない岩壁ばかりの危険区にて……。
「グルルルルル!」
「ガルルルル!」
「グルル!」
「はははっ、ウジャウジャですなぁー!」
五十は軽くいるであろうウルフの大群を相手にしてた。
「よっ────、とっ」
「ギャッ!」
ジークのクリスタル剣が横に一閃して灰色のオオカミ。六星の《上位級》ヘルウルフを切り裂いた。
「グァグア!」
「フッ!」
その横から来る噛み付きを素早く躱して次の敵を見据えるジーク。
仕留めたウルフを確認する暇もなく次の獲物だ。
赤い毛皮のウルフ。五星の《中位級》レッドウルフである。
「っ」
「ガァー!」
ジークはすぐさま剣で縦に切り裂こうとするが、ウルフは持ち前の脚力を屈してそれを躱して、威嚇するように吠え上げ牙でジークの頭部を噛みつこうと────
「はははっ躱すか。でも」
(───その程度はなにも変わらないぞ?)
そんな風に心の中で続けて言ったジークは、剣を持たない片方の手を前に出し、人差し指の先を突き付けて────発動した。
(『零の透矢』!)
ジーク専用の技。オリジナルとは違うが、使い易い魔法の一種である。
一瞬だけジークの指先が無色に光ると、指先から鋭い矢の先端のような物が魔物に向かって疾風の如く放たれた。
「ギャっ!?」
【無属性】の弾丸として放たれたソレは、注意して警戒していたウルフの察知能力を上回り、避けることも出来ず眉間を撃ち抜かれた。
「ふぅ〜これで三十匹目くらいかな?」
チラリと周囲を見渡しながら呟くと。
「グア〜〜!」
「ガァ〜!」
「グ〜〜〜」
「アハハッハ、捕まえるにも首輪が足りないや」
複数のウルフ。様々の種類のウルフがジークを取り囲むようにして、いつでも飛び掛かれるように姿勢を低く整えていた。
「いい具合に集まって来たか」
ウルフ、アッシュウルフ、レッドウルフ、ダークウルフなど四星から六星レベルの魔物が群れとなってここ『草原の丘』に集まっていたのだ。
それを偶々、予選会に向けて魔法練習で『森の道』の修行場に来ていた時に親切にも知り合いのクマが教えてくれた。
「教えてくれたクーには感謝しないと───な!」
おかげで練習相手に事欠かないと群がるウルフに向けて、『零の透矢』を無数に放った。
結果、無数の矢が弾幕となってウルフ達の行く手を阻んだ。
「「「「ギャ、ギャンっ!」」」」
今にも飛び掛かろうとしていたウルフ達は、壁となった弾幕を恐れ警戒するように尻尾を振りながら距離を取るが────それこそがジークの狙い。
「さて、そろそろ潮時だ」
左手首に装着している銀の腕輪型の魔導具『神隠し』。
それに前もってチャージしていた魔力を全方位に向けて開放した。
(『光天の流星群』! 『混沌の暴風』! 『烈風の円刃』! 『振槍の方電光』! 『水瀑の地雷原』───ッ!!)
八つのうち五つの魔石を開放した。
「「「「ギャン〜〜〜っ!?!?」」」」
断末魔のように鳴き叫ぶ魔物達を襲ったのは────空からの無数の光の流星、周囲を埋め尽くす闇の暴風。円を回るように切り裂いて行く鎌鼬、突如光に紛れて降り出した槍の形をした稲妻。そしてそれらの影響で爆発を起こしそこから大量の水が足場を崩して敵を沈めていった。
◇◇◇
『で、これは何だ?』
いつもより若干渋い顔に見える熊ことクーから尋ねられたジークは。
「あー……そのなんだ」
頰を掻きながら言いづらそうに視線をクーから逸らそうとするが、クーが『目を見て話さんかッ!!』と目だけで訴えかけてきたので苦笑い混じりに口にする。
「……ちょっとやりすぎた?」
『いや、どう見てもやり過ぎだと思うぞこれは』
全方位重ね掛け殲滅魔法の使用後。ウルフ達の全滅を確認したジークはいつもどおり闇系統の魔法で残骸を持ち帰り、情報提供者のクーにプレゼントしようと見せたが。
『むぅ……』
出した物を見たクーの顔は見るからに嫌そうな感じであった。
事前にジークから倒したウルフを土産にして持って帰ると聞かされていたので、少しばかり楽しみにしていたこともあり、その出された土産の有様にショックを隠しきれない。
『悲惨なものだ。泣きたくなるわ』
なので非常に言いにくいジークであったが、本人もあまりこの土産については必要と────というか普通に邪魔なのでこの熊に処理をお願いしてもらいたかったのだが。
「で、どれがいいかな? この平べったいカーペットにしたら素晴らしくちょうど良さげなのもあるけど……?」
『絶対要らんわ』
「即答ですかい……」
熊からの返答は非常に拒絶的だった。
「まあ俺としても牙とか魔石とかがあればいいからな」
クーからの返答にジークも苦笑しながら同意を示した。
正直状態が状態だからミーアの店で売っても高くならないだろうと予想した。
(ヘタしたらただの厭がらせと取られそう)
普段の行いでの報いがここきて自分に返ってきたのかとジークは朝空を見上げなら軽く嘆いた。
(けど練習にはなった)
リナを脅かした次の日、ジークは授業を終えると『森の道』にある隠れ別荘に泊まり込みで大会用に使用する魔法を模索した。
結果として『零の透矢』を含め何種類か準備を整えたが、正直用意した手札だけで予選会を勝ち進めて行けるのかと、少しばかり不安を覚えていた。
◇◇◇
「なんとか間に合ったか」
若干眠たそうにしてジークはとあるフロアを見渡す。
普段よりも少し遅めの登校をしたジークは、広々とする訓練場内に来ていた。
最初は眠たそうな顔をしていたが、場内に入ってしばらくすると顰めっ面に変わっていた。
(騒がしいなぁ)
場内は初等部、高等部の生徒で埋め尽くされていた。それによって生まれる喧騒や騒音によって表情に出るほど不快になる。
訓練場内では各ブロックに分けられ、既に予選会が行われていた。
ジークの視界には設置されているブロックの番号と自分の番号を見比べる自分と同じ参加生徒。
これから戦う相手を見て剣呑な表情をする者やビックつき逆に押され後ずさる者。知り合いだと知ってお互いに健闘を祈り合う者同士など。
他の参加者は自分のモチベーションを整えようと目をつぶり瞑想したり、軽く剣を持ち素振りをする者。あとは今行われている試合を眺めている者などである。
ちなみに二階にある観戦席では、初等部や高等部の生徒達が参加している者達の観戦をしたり知り合いの応援をしていた。本日は授業がお休みなので大半の生徒は予選会の参加やその見学しに来ているのだ。
(応援は俺には無縁だけなぁー)
寧ろ罵詈雑言が飛び交ってメンタルが削ぎ落ちてしまいそうだなとジークは思ったが、次に苦笑を浮かべるとかぶり振る。
(それぐらいで削ぎ落ちるメンタルならもう辞めてるか)
とりあえず自分の試合は一番最後であったと記憶しておりまだ時間に余裕があるので、ジークはぶらりと見て回ることにしようとしたが。
「よぉジーク。遅かったな」
「トオル」
声が掛かったと振り返ってみれば、学園で数少ない友人のトオルが呆れた表情でジークに近づいて来た。
「幾ら俺たちの出番が遅いからって寝過ぎだろう」
「あはははっ、いやーちょっと夜更かしをだなぁ…………て、アレ?」
呆れた口調で言うトオルにテレ顔で答えようとしたジークだが、トオルの言葉に引っかかりを覚えた。
次回は来週の木曜か金曜あたりになります。
あと次回でこの章も終わりです。




