第7話 狙い。
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再修正。
一通り説明を終え用意されたコーヒーを飲むジークは、彼の話を聞いて難しい顔するキリア、シャリアと話し合っていた。
───ついでに言うが、説明している際もシャリアは、まだジークの膝の上で座ってる。
もう開き直ってご褒美気分に浸ろうかと思うが、その一線を超えてしまったら間違いなくキリアに見捨てられるので、ヘタに意識しないように飲むコーヒーに意識を向けていた。
(おぉ、いい苦味じゃ〜〜)
意外とコーヒーに目が無い。
一通り報告を聞いたシャリアがなぞるように内容を読み返した。
「捕まえた当日奇襲役を務めようとした《七罪獣》。そしてその裏で蠢いていた謎の魔法師集団の筆頭としているのは燕尾服で灰色の髪の《メッセンジャー》と呼ばれる五十代くらいの男か」
「ギルマス」
なぞり終えると再び難しい顔で思案するシャリアに、何か言いたそうな声音で言うキリア。それを見たシャリアは、ため息混じりに頷き答える。
「あぁ間違いなく《魔境会》、《伝達者》のダハク・ラールであろうなぁ」
「はい、狙われたリナ様からも情報が上がっています。敵は間違いなく犯罪協会《魔境会》かと」
「……《魔境会》か、面倒だな」
彼女たちの話を聞いていたジークも《魔境会》については知っている。やることなすことの下衆ぶりに何度も胸くそ悪い気分になった。
(あ、嫌なこと思い出した)
《魔境会》は本部となる帝国『ネフリタス』を中心にして活動している。イカれ宗教会である。
彼が参加した大戦でも何度か戦場を引っ掻き回した一派の一つで、シルバーであったジークにも何度か絡んで来た。ハッキリ言って不快一色の連中である。
「奴らが狙ってくるのは納得はいくが、まさか奴らのような危険な連中を雇うバカ貴族がこの街にいるとは……」
「ですね。彼らの非道さは何処の国でも知られていることなのに、雇おうなどと普通は───」
「それだけ潰したいということだ。まったくッ、うっとおしい連中だ!」
どうやらシャリアは《魔境会》が出て来たことによりも、呼び寄せた者の方へ敵意を大きいようだ。
思案するようなキリアの言葉を遮り悪態を吐いたほど、その顔には明らかに嫌悪感を滲めせていた。
「ん? 雇った奴が分かったのか?」
そんな会話を聞いて、ふと会話の中で気になる内容が聞こえたので、ジークが二人に対して訊いてみたところ、難しそうな顔をするキリアが頷いた。
「はい、ケーブル家と呼ばれるウルキアでも力のある名家の一つですが、あろうことかそこの当主自らが加担しているようで、出来れば今すぐにでも確保したいところなのですが」
「え? ……ああ、そういうことですか」
「腹立たしい話であるがな」
なにやら言い難そうにするキリアを見て、ジークは何が言いたのかすぐに察した。
言葉を濁すキリアを置いて、代わりに膝に座るシャリアが吐き捨てるように続ける。
「肝心の証拠がない。一応《七罪獣》の幹部からの証言も取れたが、相手は名家の貴族だからな。確かな証拠でないとこちらも動けん。ハァ─! まったく腹立たしいわっ!」
ここまで機嫌が悪いシャリアを見るのは初めてだ。内心自分と同じくらいシャリアも貴族が嫌いなのかなと推察したが、それでもやはり自分よりはまだマシな方であろうと、自分の貴族嫌いに嘆くばかりであった。
「敵が《魔境会》か、もうこうなっては友に姉妹をまとめて守ってもらうしかないか」
「そうなりますね。ジークさんお願い出来ますよね?」
「おいおい」
対策らしい対策も思いつかず、とりあえずジークに丸投げといった感じで、引き続きサナと伝え損ねたリナの護衛を彼に言うが、彼からすれば、何を無茶なことをといった表情で呆れてしまった。
「あのシャリアさん? 言っとくけど、俺一人じゃ二人を同時に守るのは不可能だからな? 姉の方は同じクラスだから見失わずになんとかなりそうだが、妹の方は初等部にいるから、今日みたいにどっか出掛けてたら守れない。どうしても護衛が必要なら俺以外、貴方が信頼できる冒険者に頼んでどっちかの護衛に付かせるか、ちゃんと向こう側と話を付けて、継承を受ける方の護衛だけに絞って欲しいんだが」
今回の騒動で動き辛さを痛感した。両方の護衛は不可能だと、どちらが継承を受ける者なのか早急にルールブ家に問い合わせて欲しいと、シャリアとキリアに注文した。
────しかしシャリアは。
「うん? そうか? そなたがその気になれば、どちらにも迅速に対応出来ると思って、私もキリアも推薦したんだがなぁ」
その気になれば、つまり本気でやれば造作もないだろう? とシャリアはジークを煽るように言う。
「マーキングによる空間移動の魔法もある。そなたなら無茶な護衛でも無い筈だが?」
彼女の言うことは正しい。
ジークが本気で姉妹を守るつもりなら、その護衛対象に空間移動のマーキングを取り付けて置けば空間を飛んで確実に守れる。
だが、この話の流れを見て、彼はどうしても心中で納得いかないものがあった。
(この魔女さんのように都合の悪いところははぐらかして、貴族とのもめ事を回避する為に、俺だけに押し付ける気なだけだろう)
なんとも無理矢理感のある話に、今にも口から悪態を吐きたくなるが、ここは堪えるべきだと心胸に言い聞かせる。……何故なら。
(そもそもそんな面倒なことをしなくても、もう手はあるんだ)
彼には一応打開策はあった。こんな面倒な会議をしなくても済む。一日あれば済む最高の策を。
(まぁ、いいか。ここまで俺を振り回したんだ。……シャリアには精々書類地獄を満喫してもらうか)
「しかし、ジークの言葉にも一理ある。事態は我々の予想を超える方向へ発展しかねない。……いや、しかけている」
内結論付けていると、シャリアが新ためてキリアにも言い聞かせるように、敵の脅威について口にする。
「継承式まで残り五日だ。我々も可能な限り情報を集めねばならない。キリア、万が一の場合ジークが動けないような時は……」
そう口にするとチラリ、と視線をキリアに向ける。
最悪の場合は自分やキリアが動く。そう言い終えようとしたシャリアに頷こうとするが。
「はい、いざという時は私も介入してジークさんの援護を「その必要はありません」」
了承の返事をするキリアに対して割り込み。
隠して進めても内心良かったかと考えたが、またグズられて無茶苦茶な目に遭わされても困る。……後始末のあたりは誤魔化しつつ、ある程度は伝えることにした。
「ジーク?」
「ジークさん?」
キョトンとする二人に、一方的に淡々と告げ始めた。
「五日も待つ必要なんてありません」
ただし、声はハッキリと二人に聞かせる。自然と彼の言葉に耳を傾けるようま意思を含ませると。
二人とも口を挟まず、彼の言葉の先を待つ。
「一日あれば十分さ。明日……客人を街から追い払うよ」
そう告げると彼はニヤリ顔を浮かべて。
「あぁ〜〜やっぱり眠いな」
大きく欠伸をした。説明を終えた途端、落ち着き出した眠気が戻ってきた。
「とりあえずルールブ妹は帰らせてあげてくださいな。俺も用事済んだら帰りますんで」
単に早く帰宅したいだけなようで、さり気なく凄いことを聞いて呆然とする二人を置いて、さっさと作業へ移ろうとしていた。
「あ、あの?」
「ん? なんですか? キリアさん」
「い、いえ、せっかく護衛対象もいますし、何か彼女に聞きたいことなどはないんですか? せっかく会ったのですから、何か説明などは──」
「あ、ないですね。というか今俺が……いや、ジョドが彼女の前に出ると、色々と面倒なことになるので……」
「え?」
「まあこっちの話です。それに迎えも来たようだ」
防音防止など細工が施されたシャリアの部屋であるが、逆に此方からだと下の階の状況を把握するのは難しくない。
「流石姉妹だ。何か見えない繋がり、絆でもあるのかな?」
魔力探知により下の階にいる妹に溺愛する姉の存在に気づいて、苦笑いするジーク。どう行き着いたか知らないが、恐らく学園や寮を探しても見つからないと、捜索も兼ねてやって来たのであろう。大変行動の早い姉だと感心する。
或いは勘であろうか、どうでも良さそうなに考えたが、すぐにどうでもいい枠に放り捨てた。
(姉の方もヘタに鉢合わせすると厄介だし、一応変装しているけど油断ならないからな)
意外と勘が鋭そうだと困ったような顔して、もう少し上の階で身を潜めようかと思案する。
すると、シャリアが心配そうな表情で尋ねてきた。
「正体、バレそうなのか?」
今回の依頼に対して、複雑な立ち位置にいる彼の心中を考慮してか、遠慮混じりに問い掛けてきた。
「いえ、さすがにそこまでは……ただちょっと」
「ただ?」
「……」
何も語ろうとはしなかった。
結局その後、やっておきたいこともあった為、彼がギルド会館を出たのはすっかり日が暮れた夜。
人気も無くなりかけた時間帯、眠気に苛まれる中、その夜道をてくてくと歩いて、寮まで真っ直ぐ帰っていた。




