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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは姉妹を護る。
35/265

第0話 それぞれの対話。

魔法大辞典の更新をしました。

修正:再修正

「ハァー、まったくあの少年めぇ……。先に一言くらい伝えておかんか」


「やはり彼の指示で投降しに来たみたいですね」


「うむ、“赤髪の魔法使い”なんぞ、奴以外おらんだろう」


「で、その約一時間後には複数の関係者(・・・)も送られて来たと」


「うむ、友からいきなり連絡が来たと思ったらアレだ。対処を任せた連中が目を白黒しておったわ」


ギルド長室では二人の人物が会話をしていた。

一人はちっこいロリの金髪ロング。部屋の主でウルキアギルドマスターことシャリア・インホード。いつも通り白の上着に黒のワンピース姿で専用の椅子に腰を掛けて仕事していた。


二人目は、薄緑色の髪ロングで清楚な雰囲気ある黒スーツの女性。ギルド職員で受付嬢を務めているキリアであった。


二人はこの小一時間で起きたことをまとめ上げている。普段の業務も一時的に部下たちに任せてギルド長室で情報交換していた。ただ、キリアが抜け出す際に同期や冒険者の男性陣から不満の声があったが、そこはすべて先輩の受付嬢が立ち塞がって見事に黙らせたそうだ。


ちなみに彼女たちが口にする“少年”、“奴”、“彼”、“友”というのは勿論、密かに協定を結んで現在外で暴れ回っているジーク・スカルスであった。


そのジークがこの数時間の間で起こしたこと、これから起こすであろう事態を想定して、どう動いて大事にならないように(・・・・・・・)もみ消すか、二人で頭を捻って検討していた。


「う、うむ……一度整理するか」


考えると頭が痛くなるが、この数時間で起きたことは以下の通りである。

・一時間ほど前に突然キリアを通して、ギルドへ自首の意思を伝えに来た《七罪獣》の幹部で学園に潜入していた少女。

・三十分ほど後には、ジークからの連絡と同時に送られて来た幹部率いる《七罪獣》のメンバー約二十名。

・少女はジークに脅されて出頭して、乱暴に送られて来た者達はジークにボコボコにされて連れて来られたそうだ。

・そして現在、ジークとは通信不能。何かとんでもないことをしている可能性・大であった。


「情報をまとめるとこうなるが、……いったい何を考えているんだ」


「ジークさんのことですから何か考えがあると思いますが……」


いざ情報を整理してみるが、余計にややこしくなっただけな気がする。そんな現状にシャリアは難しい顔で、キリアも彼女ほどではないが、少なからず唖然として口数が少なくなっていた。


「少しくらい報告があってもいいだろう」


「多分……いつものようにお忙しいのでは?」


「ぬぬっ、やはりそうなるか……」


仕事を与えた立場な為、ハッキリとは言えないが、それでも不満そうに呟く彼女に、キリアは苦笑混じりであるがジークを擁護した。


「まぁジークさんの巻き込まれ体質なのはいつものことではありませんか。ギルドマスターもそれはお分かりでしょう? 彼に“通信石”を持たせてるとはいえ、常に報告義務を求めるなんて無理な話ですよ。彼の性格を考えれば尚更ですし」


彼の巻き込まれ体質は一年前から知っている。当然シャリアもキリアに言われるまでもなく知っていたが、それでもお気に入りの友だからか納得がいかない様子だった。


「むむ〜〜〜まったく要領の悪い友め! 帰ってきたら即遊んでもらうからなっ!」


しかし、無理言って頼み込んだのは自分であることに変わりない。結局不満そうな顔であるが、今度遊んでもらうことで妥協したが──。


「いや、遊ばせませんから仕事してください、ギルドマスター」


「むむ〜〜〜!!」


「って聞いてないですね」


と、いつものように苦労人なキリアが突っ込んだ。疲れか嘆息の溢していたが、シャリアは気付かず決意の顔で小さな拳を掲げていた。



◇ ◇ ◇



とある貴族の館。飾り付けられた豪華な絢爛な一室で、また高そうな椅子に深々と座り込む男性がいた。


「ふむ、情報の撹乱も上手くいったようだ。あとは《七罪獣》と《魔境会》に期待するか」


“期待”と言っても口にしているだけ。信頼など裏の仕事の中では意味を為さない。最低限の条件は達成して初めてマシだと思った。


「まだ年端もいかない娘達だ。ルールブ家には申し訳ないが──余計な()だ、摘まなくてはならん」


ただ、その最低限でも相手側には到底受け入れられない内容だろうが。

神妙な面持ちで呟く男性の声は、広い室内に小さく響いた。



◇ ◇ ◇



「は、離してください!」


サナの妹であるリナ・ルールブは危機に瀕してした。

ウルキア内にある公園の奥。周りが森林ばかりの人気のない場所で、複数の男から腕を掴まれ押さえ込まれていた。


「大人しくしろ小娘っ!」


「痛い目をみたいのかっ!」


「うっ!」


彼女が彼らと接触してしまったのは、父に継承の話を聞かされてから二日後だ。姉の友達で最近仲が良い同級生の女子から、最近ストーカー紛いな行為にあっていると相談されたのが切っ掛けだ。


最初は姉に相談を持ち掛けようとしたそうだが、妙にピリピリしているように感じて、話し掛け辛かったと聞いてリナも「あぁ」と納得した。

継承の話があった所為だろう、周囲を警戒するようになって最近は自分に隠れて何かしているのを、確証はないが彼女も察していた。

だから姉に変わって相談を受けようと考えた。


しかし、その時点で学園側に相談すべきだったと今になって後悔している。普段ならしていたかもしれないが、無意識か彼女も周りを警戒していた。


ストーカーの話も最近エスカレートして、このままでは学園の外に出れないと涙混じりに聞かされたのも、冷静さを欠いた原因だろう。彼女の話を聞いて感化されて迷わず手伝うと了承してしまった。


そして今日の夕方、そのストーカーを彼女と一緒に対峙すると決めた。

彼女から相手は魔法も使えないただの変質者だと聞いたので 、最悪襲われても姉に鍛えられた自分と彼女の二人なら問題なく対処出来ると考えたのだ。



──それが罠だとも知らずに。



待ち合わせ場所であった公園。その奥の森林に彼女は居らず、なぜか燕尾服で薄黒髪と無精髭の男性が現れて、十人くらいの黒フードの男達が取り囲むようにして出て来た。


「リナ・ルールブ様ですね。私どもは《魔境会》の者でございます」


「──ッ!? 《魔境会》っ!?」


代表として話すのは燕尾服の男性。危険な匂いを漂わせる者達の中で唯一落ち着いた雰囲気で恭しくお辞儀をしているが、そんなことよりも口にした単語だ。恐怖から血の気が引いて、額に冷や汗も出て息が荒れ始めた。


《魔境会》とは、一種の宗教のようなものであるが、実態は犯罪裏ギルドに並ぶ犯罪宗教。世界中にある魔法の独占をするという馬鹿げた目的の為、手段を選ばず常軌を逸脱した行いをして殺すことも厭わない。必要なら関係者や周囲の者も殺してしまう。子供や女性にも拷問をしていて裏ギルドと同列か、それ以上の危険な集団と認知されている。


(な、なんでこんな人たちがここに……?)


目の前の人物達が自分の想像を超える危険人物達だと知り恐怖で震える。同級生の女子に騙されたことすら気づかず、絶望的な状況に足が竦んでしまっていた。


「急な申し出で申し訳ありませんが、一緒に来ていただけますか?」


「「「「……」」」」


(っ、狙いはボク!? に、逃げないと!)


男性の発言で周囲の男達が構えを取り、ジリジリとリナに近づいて行く。

囲っている檻を狭めるように近づいて来る男達に、リナの頭で「危険過ぎる逃げろ!!」と警報が鳴り響いた。


「し、視界を遮れ! 『水かける雨(ウォーター・レイン)』!」


【水属性】Cランク『水かける雨(ウォーター・レイン)

近付いた男性達の頭上よりゲリラ豪雨が嵐のように降り注ぐ。前も見えなくなる程の豪雨で敵から彼女を隠した。


(っ、今のうちにっ!)


果たして抵抗となるのか、この隙に少しでも遠くに逃げようと視界遮断の水の魔法を使用して駆けた。


どうやら妨害には成功したか、混乱する男性達の声が辺りに響き渡る中、間を抜けて人通りの多い森林の外に出ようと──。


「まぁまぁ皆様落ち着いてください」


……したが、その直後、一人の男性の静かな呟きが耳障りな豪雨の中でも彼女の耳に届いた。


「『無力無価(オーダー・キャンセル)』」


パンッと両手を合掌のように合わせて男性が叩く。するとさっきまでの豪雨が嘘のように消える。霧のように雨が消失すると広がる夕焼けが森を照らした。


「──え?」


突如起こった景色の変化に呆然としたリナの声が溢れる。背を向けていたが聞こえなくなった豪雨の音が気になり、恐る恐る振り返ってしまう。


「捕らえなさい」


そこには、最初から雨など降っていなかったか、地盤には水溜りどころか濡れた形跡もない。男達の服も一切濡れておらず、無慈悲な命令をした燕尾服の男性の声で冷静さを取り戻した部下達が一斉に動き出した。


その後の展開はあっという間であった。

慌てて逃げようとしたが、身体強化で一気に接近され、包囲するように距離を縮めていった。

リナが出来たことは得意な水魔法で敵を撹乱させるか防御魔法で防ぐしかなく、次第に動きを魔法で封じられて身動きも取れなくされていた。


「さぁ、リナ様。一緒に参りましょう」


「うっうっ! い、いやですっ!」


こうなったら届くか分からないが、大声を上げて助けを求めようか、大きく息を吸い込もうとするリナであったが。


「一応言っておきますが、この周囲には防音結界が張らせていただいております故、気品ない怒声を上げるのはやめられた方が宜しいかと?」


既に先手を取られていた。恐らく防音結界だけでなく人避けの結界も張ってある筈。こんな状況下でも……いや、こんな絶望的な状況だからか普段よりも冷静に状況が見えてしまった。


もう逃げ切れるとは思えない。いくら幼い頃から姉や両親に鍛えられた身であっても、明らかに自分よりも戦闘経験が豊富そうな人間が十人もいる。得意とする魔法も効かず抵抗が薄れてしまうのも当たり前であった。


(っ、せめて姉様にこのことを伝えることが出来れば……)


あいにく“通信石”といった伝達手段やそういった魔法も覚えていなかった。もっとも仮に覚えていたしてもこの状況かで使用出来るかと言われれば否であったが。


(恐らく敵の狙いはお父さまが言っていた『原初記録(オリジナル・メモリー)』。けどボクはそれを持ってないしどういう物なのかも知らない。仮に自白されそうになっても情報は流れない)


逃走こそ諦めていたが、この者達に一切の情報を与えるつもりはない。そして、最悪の場合も想定しつつ相手を睨んでいたが。


「では皆様、他の方々に気付かれる前にお連れしてください」


「はっ、もし抵抗され逃げられそうになったら如何致しましょう?」


「そうですね。私もこれから報告しに行かねばなりませんし。……最悪死体だけあれば事足りますので、逃げそうになっら──始末しなさい(・・・・・・)


「はっ!」


燕尾服の男性の指示でリナを連れて行こうとした部下の一人がそう質問すると、思案顔をして僅かに考えた後あっさりと告げる。部下の人も特に戸惑わず返事し彼女を縛るためロープを用意していた。


(……殺される?)


だが、その会話の中心人物なリナだけは冷静にはいられなかった。覚悟を決めていた筈の心が凍りつき、さっきまで消えていた筈の恐怖が戻ってきた。


(い、いや! やだ、し 、死にたくない……!)


本来なら泣き叫んで聞こえなくても助けを求めただろうが、冷たく浸透してくる恐怖の氷で身心が氷漬けにされて言葉が上手く出ずにいた。


「さぁお嬢ちゃん? 大人しくしようねぇ?」


「なぁ、どうせならエロい縛り方にしねぇ?」


「あぁそりゃ良い、いざ向こうに人質として拝ませた時、愉しめるかもなぁ」


「だったらよ。少しくらいお触りしても良いじゃねか?この貧相なケツとかたまんねぇーよ」


「「「……ロリコン(・・・・)」」」


「え!? ダメなの!?」


「当たり前です。一応人質なのですから、さぁさっさと縛って袋に入れてください」


「し、失礼しました!」


動きを封じられ地に伏せていた彼女には、聞こえてくる全ての声が恐怖となって、徐々に精神の奥深くへと沈み浸透していく。名家の娘でありながら情けないという想いもあるが、彼女もまだまだ子供だった。次第に諦めの色が濃くなって抵抗する気持ちが消えてしまった。


(ああ、もうダメなんだぁ。このまま誰にも気付かれず知らない人達に連れてかれて……っ、助けて姉様……お父様……お母様……だれか、だれか、たすケ)


「──やいやいこのロリコン変質者共、子供相手に寄ってたかって何してらっしゃいますカァ? ローププレイですカァ?」


(────ッ!?!?)


心中で助けを求める彼女の声が届いたのか、姉でも父でも母でもない、全く聞いたこともないふざけた感のある男性の声。だが、不思議なことに彼女の耳はその声に対して不快感を抱かず透き通るように届いていた。


男達のような悪意がなかったのだ。


「あ? なっ!? なんだおめ──ブァ!?」


「こんな人気のない場所で不埒な……。変態ロリコン集団ですなぁ?」


「「「「っ!?」」」」


角度から見えなかったが、ちょうど縛ろうと彼女に触れかけた男性だろう。謎の呻き声が鈍く響くと他の男達の息を呑む声が聞こえた。


「……ロリコンも変態も戴けませんが、──どちら様でしょうか?」


狼狽している部下達に対して燕尾服の男性は冷静だった。感情を無理やり抑え込んだ低い声であったが、それよりも気になる人物がすぐ側に居た。


魔法で拘束されながらも顔だけをどうにか動かし、声のする方へ顔を向けた。


(だ、だれ? 赤い……髪?)


視界に映ったのは真っ赤な赤い髪。声からして男性なのはなんとなく分かっていたが、彼女の視界には後ろ姿のみ。微かに被っているフードの端から赤髪が見えた。

その男性から少し離れた場所で、木に背を預けた状態で伸びいる男性が一人。先ほど彼女を縛ろうとした男性である。どうやら一発KOで落ちていたようだ。


(すごい、ま、まさかこの人が?)


以前、父から継承の話を受けた際に続けて言ったことを思い出す。


『一応お前達も自分の周囲には気を配るように。恐らく学園内は安全だと思うが、念の為こちらでも対応策(・・・)を用意しておく』


『対応策?』


『まぁ簡単に言うなら護衛(・・)だな』


自分と同じくその場で聞いていた姉が訝しげに問うと、父は厳しい顔付きでそう告げていた。具体的な話は省かれたが、リナには言い表せない確信があった。


(間違いない! この人だ! この人がお父様の──)


「誰って…………ストーカーかなぁ? (たぶん内容的に)ボソ」


(──言っていたストーカーさん(・・・・・・・)ですね!? …………え?)


未だに恐怖と混乱から声が出せなかったリナだが、心の中では嬉しそうな活気溢れる声音で叫んでいた。……すぐにおかしい発言に気付いて固まってしまったが。


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