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オリジナルマスター   作者: ルド
オマケ編 その1
32/265

妖精と魔法使い その1

オマケ編、番外編とでも思って下さい。

一応全三話となっています。

あと、魔法大辞典の更新を終えました。

修正:再修正。

──今から一年程前。

ギルドに入ってから約数ヶ月が経過した頃。深夜を過ぎて人気もなくなったギルド会館でのことだ。

寝たい気持ちを堪えながら、ジークは訓練場でギルドマスターことシャリア・インホードと向き合っていた。


「では、始めようか」


「はぁ、本当にやるんですか?」


「無論だ。実は楽しみ過ぎて、まったく仕事に集中出来なかった」


「いや、仕事はしてくださいよ。俺なんて逆にハラハラして仮眠も出来ませんでしたよ」


やる気満々ではしゃぐシャリアに対し、子供相手に疲れたかジークはがくりと肩を落としてしまう。ニコっとした笑顔は大変可愛いが、軽く動かして準備運動をする姿を見ていると異様に疲れを覚えてしまう。


(まぁ、約束だしやるけどさ)


一方的なお願いでもあるが、意外と律儀なジークは寝不足で出来たクマの目をほぐし、長い息を吐くと顔をパンパンと叩いた。


「はぁー、お二人とも準備は宜しいですか……?」


そんな二人の前に立つのは、シャリアの秘書でもある彼女だ。スーツ姿で秘書のような印象のある、緑髮の女性の登場にシャリアとジークは同時に口を開いた。


「「キリア(さん)」」


「やっとサボられた分の(・・・・・・)仕事が終わったと思ったら、何故こんな時間に模擬戦を?」


いったい何を考えているのかこの上司は、と言いたげな顔で見つめてくる。さりげなく残業したことを強調しつつ、ジークには優しい目で、上司には冷め切った零度な瞳で凝視していた。……その視線が辛いのかシャリアの方は、吹けもしない口笛を「ふーふー?」して気付かないフリをしながら顔を逸らしていたが。


しばらく睨み付けていたが、長い付き合いの所為かやがて諦めたキリアが深いため息をして切り替えた。


「はぁ、実力を確かめる為の模擬戦が必要なのは分からなくもないですが、もっと早いうちに報告して欲しかったです」


そう、これから行われるのは模擬戦。バレないように深夜に行って、キリアまで呼んだのは、大規模になる可能性が高かったからだ。


ジークと協定を結んでから二週間程が経った。その間にシャリアから来た個人の依頼は三件ほど。どれもBランク以上のチームでないと困難なものばかりであったが、長い間生きている彼女ですら驚愕するほど速さで、彼はいとも簡単に攻略してみせた。


改めてSSランクの《超越者》なのかと感じたが、同時に今の実力が知りたいとシャリアは思っていた。だからまったく乗り気でなかった彼をどうにか説得して、この訓練場での自分と模擬戦までなんとか漕ぎ着けた。


「すまない、バレるのは避けたかったんだ。それに実際に戦ってみようとしても平常時間は職員も冒険者も沢山残ってて無理だ。あの姿(・・・)なら難しくもないが、間違いなく面倒ごとが増える」


「いえ、それは理解できますよ。私が言いたいのは……」


「その為にも時間外の夜、それも絶対人が居ない時間を狙うしかなかろう?」


「で・す・か・らっ! なんでわざわざギルドマスターが自ら模擬戦を行わないと駄目なんですかッ! 被害が増大するだけでしょう!」


ただ軽く力量を確かめるだけなら自分が相手の方が被害は少ない筈だ。なのにこの上司は、余計な雑務を押し付けるだけでなく、さらに余計な被害まで増やそうとしている。精神的に疲労が溜まっているキリアのことなどお構いなし。こんな時間帯に厄介事を持ち込もうとする彼女の所業に、とうとうキリアの不満が爆発してしまった。


「んー、私が戦ってみたいから……だが?」


「はぁ!?」


「お怒りはごもっともですが、落ち着いてキリアさん。お顔が受付嬢として絶対お見せできないモノになってます!」


彼から可愛らしい小首傾げる仕草であるが、怒りに震えるキリアには火に注ぐ油だったようだ。なんだか不穏な魔力を彼女から感じたジークは、必死に止めながら落ち着かせようとするが、後先考えないシャリアの方は空気を読まずに次々と爆弾を投下した。


「ずっと机の上で書類ばかりと格闘してきたからなぁー。折角本気を出しても大丈夫な相手が居るんだ。是非とも戦って日頃の疲れを発散したいのだ」


「なら最初に貴女が私のストレス(疲れ)の発散相手になってください。あとデスクで格闘してるのはこっちですよぉ」


ふふふっ、と笑み浮かべるキリアから非常に恐ろしい気配が漏れている。思わず黙り込んでしまうジーク、すぐさまこの場から逃げたかったが、キラキラとした子供のような笑顔を浮かべる幼女を見ていると、放置する罪悪感が凄まじかった。


それはキリアも同感だったようだ。次第に怒気のオーラが薄れていくと徐々に殺気も弱まっていく。


「はぁぁぁぁ! もう分かりましたよ! どうせここで何言っても強行するでしょうし、バックアップに専念しますよ」


「おお、助かるぞキリアよ!」


これも付き合いが長いからか、手を顔に当て俯いてしまうキリア。もうこれは最初の段階で巻き込まれに行ってしまった自分が悪いのだと、好奇心に負けた天罰なのだと、頭を抱えつつも受け入れることにした。


「なんか、俺なしで話が終わってません? 了承したけど、戦うの俺ですよ?」


途中から沈黙を貫いてはいたが、終わってみればなんだか寂しく感じる。

そして、彼が少なからず落ち込んでいる間に、シャリアとキリアは模擬戦の具体的な内容を話し合っていた。



◇ ◇ ◇



「では、用意はいいですか?」


まだ先程の疲れが残っているキリアだが、これからもっと大変になるのだと、自分に言い聞かせて気を引き締める。一応訓練場には第三者が巻き込まれないように結界が張られているが、それはAランクまでを想定した結界であった。


Sランク……ましてやSSランクの模擬戦など想定されてはいなかった。


ジークもシャリアもその辺の配慮はするつもりであるが、お互い結界の許容範囲を超えている。しかも、まだ相手の力量を測り切れてないので、どのような戦闘になるかも分からなかった。


「その為の私ですから、いざとなったらどうにかします」


と、苦笑気味にキリアが伝えると、ジークは「ああ、確かに」と納得顔で頷く。

キリアは元Aランク冒険者でさらには魔導師としてもエキスパートであったと、以前シャリアから聞いたことを思い出す。

特に捕縛系、結界系の魔法に関しては、ウルキア切っての腕前であることも聞いていた。数ヶ月前に自身の身で実際に体験していたので、その腕には一切疑問を持っていなかった。


「ですね。キリアさんが居てくれるなら、少しは本気を出しても……」


「全然大丈夫じゃありません。お願いですから本気なんて出さないでください」


「あははははっ、善処します」


「そこは「任せて」って言って欲しかったです」


冗談のつもりだったが、笑みのない真顔で返されるので、彼もぎこちない乾いた笑みが漏れてしまう。

本当に切な願望なのだろう。キリアの瞳が光が消えて闇が出始めていた。




そして、準備が終わった。


()くぞ、ジーク」

「ははは……、どうぞ」


様々な不安要素がある中、模擬戦が始まろうとする。逃げるタイミングを完全に逃したジークは、やる気満々なシャリアにまたため息を吐く。もうさっさと終わらせて少しでも苦労者なキリアの残業時間を減らすかと、諦めたように頷いて……。


「「ッ!」」


交差する視線が合図となる。

次の瞬間、ジークとシャリアの戦いが始まった。


先に動いたのは──シャリアだ。


「では一手目……『氷の投槍(アイス・ジャベリン)』!」


彼女が手を振り上げると瞬間、複数の氷の槍が空中に生まれる。振り下ろすと一斉にジークめがけて放たれた。


【氷属性】Bランク魔法『氷の投槍(アイス・ジャベリン)


「あはははっ、……いきなり容赦ないなぁ」


苦笑しながらジークは人差し指を立てる。円を描くと目の前に炎の壁を出現させた。


『火属性』Dランク魔法『火の壁(ファイア・ウォール)


どうしても性能が落ちる『無詠唱』で発動した炎の壁。しかもランクもシャリアの氷魔法よりも二ランクも低く相性も悪いが。


「下級魔法で中級魔法を防ぐのか……」


何本もの氷槍が炎の壁に直撃して貫こうとしたが、どれも貫通することなく、霧散するように蒸発していた。

複雑な心境でシャリアは消えていく槍を眺めていた。


「無茶苦茶な魔力量だ。……まだまだ楽しめそうだ!」


しかし、その光景は僅かにあった彼女の遠慮を消し去った。

面白そうな笑み浮かべながら、内にある魔力を滾らせていた。


「俺は楽しめませんけどね」


逆にずっと苦笑いなジーク。最後までこれぐらいならまだ安心出来るが、それで終わる筈がないのは彼女の顔を見れば一目瞭然であった。


「そうだなぁ、……なら、これならどう──だ?」


イタズラっぽい笑みで呟くと、彼女から溢れ出る程の魔力が吹き出した。

ジークもそれに呼応するように、体内魔力を高めていき臨戦態勢へと移ると。


「『水球(アクア・ボール)』!」


再び先手を取ったシャリアから【水属性】の魔法が繰り出される。複数の水の球が生み出されると、氷の槍のように彼に向かって放たれた。


(発動速度が速い下級魔法の威力が上がってきたが、このぐらいなら簡単に対処出来るぞ?)


違和感を覚えながら、それらに対し『身体強化』で対処に動く。素早さを上げて『水球』を躱して接近しようと試みる……が。


「ん? ──ぐッ!?」


背後から気配を感じ取り、防御態勢を取りながら振り返った途端、彼の両腕から衝撃が走った。


「ぬっ! 浅いか!」


両腕に防御の魔力──『魔力層』を固めたが、重い衝撃が和らぐ気配がない。

それどころか、防御の方に意識を集中してしまい、敵の接近を許してしまった。


「はぁー!」


咄嗟に守りに徹したことが悪手となってしまい、敵の攻撃に対して反応がワンテンポ遅れてしまった。


「っ!」


背中に蹴りが飛んで、さらに前からも重みのある蹴りが繰り出された。


「うっ! 〜〜〜!」


幼女の身体からはありえない脚力。『身体強化』と分かっていながらも、転倒してしまいそうになるのを堪えて、追撃しようと突撃してくるシャリアの接近を手刀の横一線で牽制し距離を取らせた。


「ハァ……」

「フフフっ、惜しかったな?」

ホーミング(・・・・)ですか」

「フフっ、いかにも」


ペッタンな胸を張りながらシャリアが大きく頷く。不敵な笑みを浮かべながら、背中をさすって膝をつくジークを見据えた。


そう、彼を背後から襲ったのは、先ほどの彼が躱した『水球(アクア・ボール)』。どうやら魔力操作のホーミング技術で密かに操り、彼が油断したところで背後から襲い掛かったのだ。


(思った以上に衝撃が重い、どれだけ魔力を込めたの?)


「その「こいつ無茶苦茶だなぁー」という顔は、そなただけにはされたくはないがな」


防御魔法に異常な量の魔力を注ぎ込んだ彼には、異常者扱いされたくはない。若干不満そうな様子で腕を組んでいると、から笑いしながらジークが立ち上がり息を吐いていた。


(操作はあっちの方が上か、魔力量と放出量なら負ける気はしないが、流石はSランクの《魔女》だ。的確に厄介なところを突いてくる)


水球(アクア・ボール)』は殺傷能力の低い下級魔法であるが、それでも攻撃魔法であることに変わりない。一応強化して魔力層も纏った状態で防御したが、予想外の凝縮された水球に魔力層がグラついて、本人にも衝撃を与えてしまった。


否、それよりも問題は鈍くなっている危機察知と対応の遅さだ。


「油断し過ぎだな。戦場なら致命傷だったぞ?」


「……」


これは反省せざるを得ない。同格に近い相手との実戦から離れて、さらに対人戦自体にも苦手意識が出来てしまったのも理由だが、心の何処かで彼女のことを格下として見ていたことが、大きな隙を作ってしまい判断を鈍らせたのだ。


いくら実戦から離れて数年が経つとはいえ、これではかつてのSSランクの称号も泣いてしまう。……別にその称号にそれ程深く思い入れはないが。


(もし、師匠が見てたら即説教だな)


いや、寧ろ病気か呪いか偽者かと心配されるかもしれない。何処か他人ごとのように天然な師のことを想像していると。


(でも……やる時は、ちゃんとしないと駄目か)


現実逃避もここまでにする。さっきまでの嫌々な雰囲気から一変、その表情から戦う意思を持った戦士の顔が浮かび上がってきた。


「──っ!」

「ほうー」


瞬間、女性二人の顔色も変わる。

何か感じ取ったキリアは微かに体を震わせると、表情を引きつらせた。

つまらなそうにしていたシャリアは、嬉しそうな笑みを浮かべると鋭い眼光で彼を睨み付けた。


そして、とうとう模擬戦に前向きになったジークは、ここにきて初めて攻撃姿勢に入る。最後に申し訳なさそうにして彼女に謝罪を口にして宣言した。


「見苦しいところを見せて大変失礼しました。──次は俺から行くぞシャリア(・・・・)


彼女が不満だった敬語を無くしたのは、遠慮をやめた結果だ。

そして、示すように噴き出す魔力が蒸気となっていく。シャリアだけでなく審判役であるキリアすらも震撼させてる程の魔力が溢れ出していた。


シャリアさんもジークもまだまだ全開ではありません。

特にジークはやっと戦う気になったので、次は彼からのターンとなるようです。


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