特別編 裏切りの魔神は狩人であり兄弟。
魔神とは元は神であった逸れ者。
欲望や憎悪に呑まれて、神としての使命を放棄した者たち。
世界のバランスを掻き乱す、全ての世界にとって害悪な存在であった。
彼らは全員、神族を嫌っている。
神族たちは使命を優先し彼らの存在を否定する。
魔神たちを恥晒しと非難して、歴史の汚点と神々の記録にも残されていた。
屈辱かつ不当な扱いだと魔神たちが激怒した。
勝手に神々の輪から外して、自分達を害悪と一方的に告げる神々に対して、魔神達の中である結論が出た。
世界を縛っている神々を滅ぼして、自分達が全ての世界を自由を与える。
そして始まったのが、神と魔神との世界を巻き込んだ戦い。
神々が後継者や守護者な存在を生み出しているように、魔神達も後継者以外に魔王と呼ばれている存在を生み出していた。
いくつもの世界を巻き込んで、終わりなき神と魔神の戦いは続いていく。
やがて魔導神の後継者としてジーク・スカルスと呼ばれる神の子が誕生するが、物語はそこから少し先かつズレた世界の話。
頑丈なガラスが割れる。
封鎖されたドアのガラスを侵入者達が強引に破ってビルから出て来た。
「に、逃げろ!」
「くそ、なんでバレたんだ!?」
「セキュリティは切ってあったよな!?」
別世界にある機械都市の夜の街。
研究施設であるとあるビルに忍び込んでいた『魔神の使者』とその部下である工作員数名。
目的は施設で密かに研究されている技術と開発されたマシンの奪取。万全の準備を整えて問題なく出来ていた筈だった。
「……ミスったか」
だが、困惑する工作員達を他所に魔神の使者である男だけは、この異常事態に心当たりがあった。
事前に主人である魔神に忠告されていた事もあり、逃走し始めた時点からまさかと予想は付いていた。
「全員すぐに散るんだ! これはこの世界の者達の仕業ではない!」
「は、はぁ? どういう事だよ!?」
事情を詳しく知らない工作員の一人が先を走りながら置いてある車の方へ。運転席を叩いて待機していた仲間に脱出を促そうとするが……。
「魔神狩りだ。奴が来t──」
耳を傾けながら男が窓を叩いた途端、待機していた車が爆破した。
「がぁぁぁああああ!?」
「っ」
叩いた男は吹き飛んだが、辛うじて生きている。顔に大火傷をして絶叫しているが、使者の男は放置して周囲に視線を巡らせて警戒。
「無視しろ」
「お、おい」
「分からないのか? 既に攻撃されてる」
他の者達が倒れた男に向けている意識を断つ。多少言いたそうな顔をする者ばかりだが、男の言葉に爆破した車の惨状と倒れた男を見て表情が引き攣る。それでも納得し切れない様子であったが、緊急事態だと無理矢理納得させて周囲を警戒すると……。
「……来る」
「「「っ!」」」
いち早く察知した使者の呟きで、工作員達の緊張がいっそう増した。
持って来たレーザー銃などを構えて逃げ道を探そうとするが……。
辺りが一面、真っ黒闇に染まった。夜でも灯りがあったが、全ての電灯が消えて僅かな夜の光も閉ざされた。
「ラ、ライトを……ガハッ!?」
慌てて一人が灯りの手持ちライトを出そうとしたところ、何者かに腕を掴まれて一発。拳で打ち抜かれた顎から脳へ。振動が一気に届いた男の体が消える意識と共に倒れた。
「な、なんっ、グギャァァァアアアア!」
別の男が呻き声と音のした方へ銃を向けた。次の瞬間、持っていた銃が叩き落とされて喉元に鋭い電気が全身まで駆け巡る。
抵抗出来ずブルブルと体を震わせるだけであったが、暗闇の中で電撃は光なって痺れている男とその者を照らした。
「やはりお前か!」
さっきから気配は感じていたが、使者でも視認し辛い暗闇の所為で見えるとその者に向かって、魔神の魔力による暗黒の雷を放つ。……しかし、攻撃はその者には届かない。
「や、やめ──」
拳の先から出した電撃で痺れさせていた男を盾にする。意識が完全になくなってなかった男が悲鳴に似た声を漏らしかけたが、使者は容赦なく雷を放ちその者も遠慮なく男を盾にして暗黒の雷から逃れると、撃ち終わったところで男を放り捨てて真っ黒な翼のような背中のマントで上空へ飛ぶ。
「ち、上だ! すぐに撃てッ!」
その翼のようなマントに暗黒の風が溜まっていく。使者が他の者達が撃ち易いように灯りの魔法を空に向かって発現すると、暗黒の風を束ねていく翼を生やした悪魔の姿が皆の視界に入った。
『邪罪の災害者』
しかし、その時には悪魔のような角のマスクを被った黒一色の者が放つ、災害の風が地上の者達を災厄を与える。
使者の男は咄嗟に暗黒の障壁するが、暗黒の風は鎌のような鋭利な刃とって障壁を切断。あっという間に風の悪魔が使者に喰らい付いた。
「で、情報は聞き出せたのか? なんか悲惨な光景にしか見えないが」
「アレが持ってる情報などたかが知れている。新兵器に繋がるギアパーツの奪取、それに技術の流出を阻止出来れば貴様も文句はないだろ?」
「あ、いやー、そういう問題じゃないと思うんだが……あ、阻止してくれたのは助かったけど」
分身のジークがその世界に到達した頃には全部が終わっていた。
重要な建物も含めてそんなに被害はなく、無関係の住人にも影響はほぼないと言っていい。確かに男の報告を聞く限り問題ないようにも思えるが、その男の付近で転がっている無数の死体、それにバラバラにされた使者と思われる惨状を見ると素直に喜べない。
「殺すしかなかったのか?」
「相変わらず甘いな」
「それしか選択がなかったのかと訊いてる」
「なかった。と言えば信じるか? オレ様を」
訊き返すと無言となって二人は数秒ほど睨み合う。
因みに夜で騒ぎにもなってないので、静かな夜の街だ。車が爆破したり攻撃などによる爆音なども響いていたが、事前に男が何かしたようでこの場の騒ぎは外には一切漏れていなかった。
「これがオレのやり方だ。良いな魔導神?」
「……分かった」
渋々、本当に渋々であるが頷くジーク。
男の方はマスクを取っているので、仕方ないような苦笑顔が見える。もう結構な付き合いの彼もジークの優しさや気持ちを知っているので、こういうのはなるべく避けてほしいのだと……一応分かってはいるのだが。
「その優しさはいつか身を滅ぼす。最悪周りも巻き込むぞ」
「あははは、人間の頃から言われてる気がする。……神になった事で出来る事が増えたと思ったけど、出来ない現実が増えただけな気がする」
何処か悲しげで疲れたような表情で自然と言葉を漏らすジーク。
魔神との抗争が続いている所為で平穏から遠ざかっている為か、ジークは情けないと思いながらも弱音を吐きたくなっていたが……。
「だが、お前は神になった。母である先代の意志をお前は受け継いだんだジーク」
本来敵対する筈の魔神の男はジークの肩に手を乗せて告げる。
「皆と世界を守るんだろ? だったらこんなところで挫けるな。神の座に付いた時点でそんな情けない姿も弱音も許されん。お前が折れたら何もかも終わりなんだぞ」
その表情は決して優しくないが、今までにない真剣な眼差しと強い意志が見える。自然とその目に引き寄せられるジークはゆっくりと魔神の手を取った。
「……今でも思うよ。魔導神にはやはりお前がなるべきだった」
「ふっ、まだ言うか」
「魔神に堕ちる必要なんてなかった筈だ。完璧主義な母もそこには強い後悔の念を……」
「たとえ抱いていたとしても、オレの道は変わらんよ兄弟」
バシッと取っていた彼の肩と上に乗せられていた手を払う。
もう用はないと背を向けようとしつつ、不敵に笑う横顔でジークを最後に見つめた。
「悪には悪をと言葉があるだろ? オレは魔神として魔神を滅ぼす」
「最後の一人になるまでか? 娘はどうするつもりだ?」
彼が辿ろうとしている物語の最終地点。そこで待っているであろう最悪な結末。
ジークはそれを見据えて、本当に理解しているのかという意味も込めた問いかけであったが、魔神の男は笑みを崩さず不敵に笑う。
「最後の一人は何もオレである必要はない。オレの望みが叶う時、アイツは───」
本当の自由を手にできる。男はそう言うとジークから視線を外して、辺りに広がっている惨状も無視。また暗黒の翼のようなマントを出して飛び立って行った。
「それがお前が魔神に堕ちた本当の動機か? アーク」
その姿をジークは静かに見送る。その視線は兄弟を見るように、心配そうにして消えていく彼の姿をずっと見つめていた。
物語は【神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜 第5章】へ続く。
……そして物語は【オリジン・ユニヴァース 破滅の序章(仮)】へ続きます。
今回は重要人物になるかも?な人の話になりました。大変久々ですが。
あと続きの物語及びタイトルは変更もあるので、ご理解の方をよろしくお願いします。作者の気分でコロコロ変わります。