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オリジナルマスター   作者: ルド
護る魔法使いの裏方。
26/265

第8話 訪問。

章の変更をしました。

修正:再修正

「つまらん。動けんというのは実につまらな過ぎるぞ」


「我慢してください。《伝達者(メッセンジャー)》から指示があるまで、目立った行動は控えるようにと言われたでしょう?」


軽く酒を摘むように飲む大男が不満そうに呟く。獰猛そうな見た目通り待機するのが苦手なのか、退屈そうに座っている椅子をギシギシと揺らして、今にも外に出たそうにしていた。


「む」


現に部下に止められて不満そうにしている。仮にオーケーだったら間違いなく出て行った顔だ。


「……軽くそこらへん斬っちゃ駄目か?」


「何処を斬る気ですか!?」


軽く柄を抜いて大剣の刃をチラつかせるが、止めていた部下からしたら悪寒が走る光景にしか見ない。それは他の部下たちも同様だった。


「ちょっとくらい……」


「「「「絶対ダメですッ!!」」」」


「お、お前らまで」


聞いていた他の部下全員からの言われ、落ち込んだように肩を落とす。これでも組織の中でもトップクラスの一人であるのだが、こういう時だけは皆からの扱いが結構雑であった。


彼らが居るのはウルキア街にあるとある家宅。

ルールブ家の『オリジナル魔法』を狙う貴族が雇った。『裏ギルド』の《七罪獣》が利用している拠点である。

現在は学園に潜入している同士からの連絡待ちと、目的の日までまだ六日も期間がある為、現在は待機中であった。


「ハァ〜準備どうだ?」


「問題ありません。街の見取り図も例の家の見取り図も確保済みです」


「武器類の整備は完了済み。今は予備の武器類の整備に移ってます」


「他の部下達の手順もオーケーです。念の為、具体的な作戦内容は控えてます」


暇そうに確認するリーダーの大男に部下達が順々に答えていく。流石は裏で暗躍する大ギルドだけあって、動きに無駄がない。待機中であるが、各々最適な状態を作り上げるため行動していた。


「ん。問題ないか……ハァ〜どれどれ?」


特に問題がない確認を終えて、大男は頷きつつ地図を見だした。


「後は“イフ”からの連絡さえ来れば、標的の状況に合わせて細かな手順の変更が出来る。例の“エサ”を用意出来ればこっちもんだな」


いかにも筋肉ばかりな見た目とは裏腹に意外と智略派のようだ。部下達の報告を聞くと不満そうな顔を少し緩めて、皆に言い聞かせるように口にする。

部下たちも頷き同意を示し、各自止めていた作業へ移った。


「……」


そんな部下たちを見回すと、もう一度つまらなそうに表情を歪める。確認の為の報告も終わってまた暇になった。


「やっぱ暴れてきて良い?」


「「「「だからダメですッ!!」」」」


「くれぐれも軽率な行動は控えてくださいね? 《伝達者(メッセンジャー)》から釘を刺されてるんですから、暴れたら即ボスから説教ですよ?」


またバカのことを言い出したリーダーに対し、作業の手を緩めず視線も合わせず部下たちは言い捨てる。

まとめ役の部下も呆れた様子で溜息を吐きながら、止めるだけでなく冗談抜きで本気の脅しも混ぜてきた。

効果はてきめんであった。


「グっ……それはカンベンだな」


見た目通りの飢えた猛獣だが、知能は一般の猛獣よりはある。苦笑顔で間違いなく説教コースだと予想して、渋々であるが、大人しくすることにした。

ところが。


「ダガンさん!」


落ち着いた空気を壊すように、勢い良く扉が開く。何ごとかと男たちの視線が集まる中、部屋に入ってきた部下の一人は血相変えた顔で、大男のダガンの側まで駆け寄る。

咄嗟にまとめ役の部下が止めようとしたが、ダガンと呼ばれた大男が視線に制止する。


暇そうにしていたその表情が一変し、鋭い目付きと幾戦も潜り抜けた戦士の表情へと変わっていた。


「何があった」


既に何か異変が起きたことを前提とした問いかけである。裏で活動することが多い為、現れた部下の動揺に共鳴して落ち着かなくなる他の部下たちと違う。冷静な顔で何があったのか問い掛けるが。


「は、はい。たった今、イフが戻って来て」


返ってきたのは、ダガンが想像したものとはまったく異なる内容だった。一瞬だけ何を言っているんだと首を傾げたが、同志の名を聞いて咄嗟に困惑した内容が頭に入った。


「イフが? 何故急に? “通信石”はどうした?」


何か間違いでは、といった感から探るようにダガンは部下に話を促すが、部下も驚いているのか、何度も頷いて口にした。


「そ、それが学園の警備が強化されたとのことでっ。用意してた“通信石”も傍受される可能性が出たからと直接此処へ」


「にしては急過ぎないか? 返って学園側から不審がられるだけだろ?」


詳しくは知らないが、学園ではまだ授業が行われてる筈。ヘタに動けばそれこそバレてしまう可能性があるというに。……いったい何故とダガンは首を傾げる。


「なんでも例の標的のことで大至急知らせないといけない案件があるとのことで、リスクを承知の上で抜け出して来たそうです」


部下もダガンの疑問に同意なのか、不思議そうにしながら理由を伝える。だから急いで駆け付けたのだが、実際にどうするかはリーダーであるダガンだった。


「標的の案件か。うむ……まぁ取り敢えず訊いてみるか。連れて来い」


「はい」


報告に来た部下は返事をすると、今度は慌てず落ち着いた歩みで部屋を出て行った。


「案件か」


いったい何があったのやら……。

ダガンは難しい顔のまま出て行った部下の戻りを待った。



◇ ◇ ◇



「尾けられてないだろうなぁ? 《死狼》イフ」


「そんなヘマを私がするとでもお思いですか? 《悪狼》ダガン」


顔を合わせると二つ名持ち同士の間で重い空気が発生する。緊迫した状態に圧され、部下たちの額に薄っすら冷や汗を流し、二人を見守るように離れている。


部下に連れられて現れた女性──名はイフ。

小柄な体型で例の標的がいる学園の制服を着ている。

と言っても名の方は組織内での呼び名であって、本名はボスしか知らない。そして潜り込み易い見た目と容姿から組織内でも貴重な戦力であり、ボスからも気に入られていた。


組織内でもその容姿から色目で見て下心で声を掛ける男も多く、逆に一部の女性メンバーからは、彼女へのボスの好感的な評価に羨望や嫉妬など忌み嫌う者が多数いる。

だが、今回の仕事ではその容姿と優秀さが役立ったとボスもダガンも喜んでいた。潜入場所が学園である以上、送り込めれるのは学生に化けれる者に限られる。教員も考えたが、時間が足りなく容姿的に十分学生に見えるイフが選ばれた。

そんな彼女からの急な訪問。ダガンは嫌な予感を感じながらも訊いてみることにした。


「それでイフ、オレに報告したいことってなんだ? それも急に学園を抜け出すなんて無茶をして。これで大したことがなかったらどうなるか分かってるよな?」


まさかとは思うが、一応釘を刺しておく。目の前の女性に限ってそんなことはないと思うが、もし本当に大したことでなかったら、鬱憤晴らしに叩き斬って責任のすべてを押し付けようかとも考えた。


「実は対象のサナ・ルールブのことで重要な情報が入ったんです。『継承の儀』についての」


「! それは本当だろうな?」


彼女からサナ・ルールブの名が出たことは驚かなかったが、『継承の儀』に関することなら確かに重要な話だった。どういったことなのかとダガンは訝しげながら話に耳を傾けようとした。

──が。


「どうやら『継承の儀」を受けるのは妹のリナ・ルールブのようです。理由は不明ですが、サナ・ルールブは我々の行動を阻害する為に囮役を「誰だ」……はい?」


重要な内容を伝えていくイフだったが、そこで部下たちも聞き入っていた彼女の説明を遮るようにダガンが切り出した。


「聞こえなかったか? お前は誰だと訊いたんだ」


「え? ダガン? あなた何を言って?」


ダガンの予想外の発言に茫然とするイフ。部下たちも同じようで、ダガンの意味不明な言葉に首を傾げるだけであったが……。


「変わった魔法だな? 見た目だけでなく声も本人と同じになるのか」


「なっ!?」


「「「「──ッ!」」」」


ダガンの次の言葉でようやく理解した部下たちが動いた。動揺した驚愕の顔をするが、すぐさま切り替えて各々武器を取り出し、イフへ向けて構えを取る。

余りに突拍子のない言葉であったが、長い間部下として追て来た者たちは少しも疑う素振りを見せなかった。

鋭い目付きでイフを敵として判断していた。


「ダガン!? なにを──」


だが、向けられた刃に困るのは疑われたイフだ。茫然とした表情から一転、狼狽した様子で向けられた刃と視線に焦る中、なんとか反論しようと声を上げっ──。



「やっぱり無理でしたか。流石トップ三の一人《悪狼》」



──ようとはしなかった。

女性の声だったが、最後の部分のみ男性特有の太めの声音へ変化している。

同時に女性姿がボヤけだし消えると、彼らの前に白いローブを着た赤髪の男性が姿を見せた。


「敵を見分ける鼻もあるらしい」


「「「「ッ!!」」」」


「やめろお前ら」


堂々とした敵の登場に気を引き締め身構える部下たちだが、ダガンが手で制した為、飛び掛かることもなく、ダガンと彼の様子を見ることにした。


「誰だ? お前は?」


この質問に深い意味などなかった。それだけ目の前の男の危険度を経験で察知したダガンは、右手で机の横で立てていた大剣に手を伸ばす。猛獣のような笑みを浮かべて男に視線をぶつける。


(こりゃ……無事には済まないな)


さっきまで暴れたがっていたが、さすがに拠点の中で暴れたいとは思っていなかった。

しかし、目の前の敵の脅威度を瞬時に本能で把握した為、最悪拠点の崩壊も視野に入れないといけないと、壊す前から諦め気分であった。


「「「「……!」」」」


戦闘する気満々のダガンの姿勢に部下たちは少しずつ後ろへ退がり出す。先程のダガンの制止を思い出し、目の前の男が自分たちの手に負えないと判断した。


「誰ですか……か。そういえば、さっきも同じような質問をされた」


問い掛けられた男はふと思い出したように腕を組む。余裕の動作でダガンに近寄り不敵な笑みを浮かべると。


「一言で答えるなら……雇われ冒険者ですかね? 隠れてやってるんでストーカー紛いですが」


間を空けたのち口にしたのが、まさかのストーカー宣言。

肩を竦めて困ったように言っているところを見ると、本人も褒められるとは思ってない。自覚しているだけまだマシかもしれないが、このタイミングでそんな台詞が出ている時点でまともな思考の持ち主ではなかった。


「……は、は、ハハハハハハっ、ハハハハハハハハハっ、ハハハハハハっーー!! 大歓迎だッーー!! この糞餓鬼ぃーー!!!!」


何処の言葉に受けたか、大気に響きそうな程の大爆笑をするダガン。同時に大剣を引き抜いて猛獣の如く飛び掛った。

それが開戦のゴングとなり、一室の内に空気が一瞬で爆発した。


赤髪の男──ジークと《悪狼》ダガンとの一戦が始まった。


次回は何がどうなったのかネタバレをしながらバトルをする予定です。


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