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オリジナルマスター   作者: ルド
オリジナルマスター外伝『神の魔法使いの弟子と時空を超えた空の塔(ダンジョン)』
246/265

第21話 最終決戦と全員の切り札。

ま、間に合ったぁ〜(汗)

長くなりましたが、最終決戦の前半です。

闇に同化したソレは、哀れにも濁った黄金の存在に声を掛けた。


【これはお手上げのようだねぇ、シャドウくん?】

『っ! 貴様は!?』


腹立つ楽しげな声、反応して振り返ると彼も知っている女が立っていた。


【せっかくボクが提供したこの塔も殆ど壊れてるし、肝心の儀式祭壇もムダになったようだ。希少価値の高い龍人族だから期待したのに、……やれやれ、困ったことになったねぇ】

『く、想定外な事態が多く発生したんだ。それよりも貴様が提供したダンジョンだぞ!? どうにか出来ないのか!?』

【やれやれ、最後の最後でボク頼みとは】


なんとも、一方的な要求なのかと、呆れた声を溢す女。

半笑いといった感じで、馬鹿にしたようにシャドウを一瞥すると、つまらなそうに視線を逸らした。


【ボクはあくまで品物を用意しただけさ、不運なこともあったけど、キミの扱い自体も十分問題だったよぉ?】

『な!? 何を……!?』

【前に言ったよね? “他所の世界に行く時は、注意を怠らないように”と。なのにキミは盗賊荒らしのように、次々と目立つ骨董品を盗んでいって。神々を刺激するように、次々と世界を踏み渡って行った。あれほど慎重にと言ったのに……神の怒りに触れた当然の行為だねぇ】


小馬鹿するような口調にギリと歯切りするが、目の前の女の手はどうしても必要なシャドウ。とにかく最後まで堪えて、話だけは聞いてやることにしたが。


【その上、要注意人物として警告指定していた《死神》と《四神》にマークされて、挙げ句の果てには《魔導神》の手札の1つ、《剣導王》まで呼び込むとは……もうダメだねぇ、───潔く諦めたらどうかなぁ?】


『ッッ!!』


──ブチッ


完全に見放した女の言葉。

途端、抑えていたモノが千切れる音がした。


『ふ、ふざけ──ッ!?』

【ん、悔しい? 復讐したい? うんうん、なら、貸してあげるよっ?】


しかし、激情のままに踏み込もうとした瞬間、掴まれる首元。

戸惑うシャドウを無視して、女はにこりと微笑んで小首を傾げた。一見可愛らしく無垢そうな瞳であったが、目が合うと震える程の寒気が走った。


【その憎しみなら、まだ試す価値はあるからねぇ? ちょうど興味深い面々も揃っているようだし、どうなるか見てみたいなぁ】


触れている箇所から全身に流れてくるのは、彼女が持つ闇のチカラ。

首元から全身の皮膚、血管、骨にまで浸透しようとし、最後には魔力体に染み込んでいく。


『よ、よせっ……!』

【ははっ、遠慮しなくていいんだよ?】


途端、全身に駆け巡る悪寒を感じて手を振り解こうとするが、華奢な手とは思えない程の力と加減で首を絞めないまま拘束して。


抗えないチカラが一気に満たされて、自身のチカラと混ざり合った。




【さぁ、龍人族としての本能を起こして(・・・・)?】





『──う、オ、オ、オオォォォォォォォォオオオオオオーーーーッ!!』


かつて、ある世界に光の戦士“ホーリー”と呼ばれていた龍人がいた。


稀少な種族である龍人族だった彼は、孤高の戦士とも呼ばれていたが、力の弱い人族だけでなく他種族の者にも危機と知れば、無償であっても助けに駆け着けた。


気付けば彼に付き従いたいと願う者達も集まり、孤高の戦士と呼ばれたホーリーは、いつの間にか世界に守る守護者のような存在となっていた。


目の前の女と出会うまでは。初めは警戒して排除しようとしたが、一瞬の隙を突かれて闇が彼を飲み込んだ。


そして、闇に魅了された彼は姿は淀み性格も変わって、人々をゴミのように見下ろし、配下を道具のように扱い出した。


さらにより絶大な力を求めて、世界を混沌に帰す存在と言われた神族──『魔神(・・)』になる為、ある禁忌な儀式を実行しようとした。



しかし、それを一早く察知したとある世界の《魔導神》が儀式の封殺に動き出した。

世界に与える影響を最小限に抑える方法で、《魔導神》は打って出た。


そうして、集められた面々は覚醒状態の龍人“シャドウ”と対峙する。

仕組まれた時空の塔での、最後の戦いが始まった。





『ギィィギギィィギィギギィィィィアアァアアァァアアァアアアアアアアアァアーー!!!!』


「龍だと?」


呆然と見上げた俺の視線の先には、濁っているが黄金の巨大な龍がいた。


最上階と思われるフロアは、教会の中みたいだが既に崩壊している。無傷なのは奥にある祭壇と設置されている……何か箱か? 濃度の高い魔力を感じる、相当強力そうな魔道具らしき物が置かれていた。 


だが、中心で立っている龍はそれ以上だ。

発せられている魔力も大きいが、その濃度がおかしい。


たとえば最大100まで濃度が高くなるとするなら、普通の魔法使いが約20ぐらいだが

、あの龍は100を超えて150〜200はありそうな、触れるだけでも危険過ぎるモノが漏れていた。


まるで世界から外れた異物な存在。

まずお目に掛かれることはない、領域外な存在。


……俺は2人だけ覚えがあったが。

そんなことは、今は後のようだ。


「っ、一旦散れ!」


咆哮前に何か言いかけたトオルさんが叫ぶ。トオルさんも危険だと感じたか、黄金の龍を前に俺達は左右に移動した。


『ギィアアアアァアァアッーー!』


黄金の龍が標的にしたのは、まどかだった。

大きく口を開けて胸元を膨らませる。その動作だけでも龍がブレスを狙ってるのは、よく分かった。


だから、繰り出された濁った金色のブレスを、まどかは無詠唱で出した闇の障壁で逸らす。

威力が高く魔力の濃度も高いが、力任せなブレスなのでまどかは、正面から挑まず軌道を逸らすことを優先した。


「『土石壁(アース)』──“打撃形態(ナックルモード)”」


総合の残量魔力……残り4割弱。

右腕に装着した金属のような巨大な拳を構えた。


トラックぐらいのサイズな龍の頭くらいある、土魔法で作り出した拳。その分、消費する魔力の量も大きかったが、振り上げたソレで左右に揺れている、尻尾の真ん中あたりを肉体も強化し潰すつもりで拳を叩きつけた。


「……!」

『ギィィイィィァアアーーァア!!』


っ、硬いな。

タイヤ並みの太さがある尻尾の鱗は、鋼のように硬く拳を弾いてくる。“剣撃形態(ブレイドモード)”に切り替えて斬りに行くか考えたが、この強度だと俺の技量ではたぶん厳しい。


トオルさんのミヤモト流も教わったが、残念ながら俺の剣技量は中級クラス。達人どころか上位クラスにも届いていない。ほぼ凡人レベルだった。


「オレが斬ろう」


なので、横から代わりに尻尾を斬ってくれたトオルさんに感謝する。いつの間にか抜いた刀を鞘に戻すと、鮮やかに斬り裂かれた尻尾が真ん中のあたりから2つに分かれた。


『ギイィイィアィィイアァァアアアアァアァアーーー!?』


すると、先程よりも数段増した雄叫びを上げる龍が、まどかを無視して振り返った。

……すっごい睨んでる。まぁ当然かと思いながら、隣のトオルさんの肩をポンと手を乗せた。


「ようやく出番ですね、トオルさん」

「良い笑顔で言い切ったなオイ!? ……まぁ、遅れたオレが悪いしやるけど!」


複雑そうにしつつ、刀を抜いて片手で構えるトオルさん。作り笑顔なのがダメだったかな? まどか程じゃないが俺も表情硬いから、素の笑顔なんて…………修業時代に入った混浴カg──ゲホゲホ、話が逸れたわ。


「オラァッッ!!」

『ギィィィィアアアアアア!!』


鋭く破壊力も備わった一閃と、豪腕から繰り出す龍の爪が激突する。

肉体サイズが違い過ぎる、両者の衝突。龍の手なんてトオルさんの身体を握り潰せれるほど大きい。それこそデコピンの要領で弾けれるのではと思えた。


──斬ッッ!!


『ギィィイ!?!?』

「ラァアァアア!!」


が、結果は逆だった。

一体どこまで気で強化したか分からないが、巨大な腕ごと爪を弾いたトオルさんは飛ぶ斬撃で、頑丈な龍の胴体に亀裂を入れた。血飛沫は上がらなかったが、何かドス黒い魔力らしきモノが亀裂から溢れ出た。


「アアァアアァア!!」

『ギイィィィアアァァァアアアアーーー!?』


そこから気で注がれた連続の豪剣を振るう。

身体中に亀裂が出来ていく度、苦しみの叫びを上げる龍。


尻尾の部分よりも頑丈なのか、皮膚の鱗には亀裂こそ入るが、その先の血管や骨、臓器までには届いていない。何でも斬れる豪剣を振える筈のトオルさんでも苦戦する程の強度。


それは、やはり師匠や魔王と同じ存在なのだ、という証明に近い結果だった。


「フンッ」


完全に斬れない龍の鱗にトオルさんは、気の圧力を加えた破壊力のある突きを繰り出す。

大きな風圧を乗せた気の突きが龍の胸元を、ハンマーで打つように放たれた。呻き声を漏らすと後退する龍だが。


『ギィィイィアアアア────ッッ!!』


突かれた胸を大きく膨らませると、後退と同時にブレスの弾をトオルさんに向けて吐く。

巨大な顎門から吐かれただけあり、淀んでいるが金色の炎は大きく、隕石にも思えたそれは一瞬でフロアの景色を金色に染めた。


「っ」


嫌な予感がする。トオルさんも感じたか、斬ろうとした腕を止めると回避に動いた。俺も巻き込まれないように、両手と脚から出した『火炎弾(ファイア)』の飛行技術で回避するが。


「ジンっ!」

「──っ!?」


回避の際に視線を逸らしていたが、トオルさんの叫びに視線をブレスに戻すと。


ブレスがなんと、3つに分裂していた。

壁に激突する前に左右に分かれたブレスは、それぞれ俺達に迫って来る。


「「「──ッ!」」」


追尾機能か何か知らないが、分かれたことで若干小さくなった所為か、急激加速した炎の塊に俺もトオルさん、それにまどかも回避が間に合わなかった。


「──ウッ!!」


俺は炎の噴射で空中を高速移動していたが、一気に加速した金色の炎から逃げ切れなかった。咄嗟に邪魔だけど装着していた土石の拳を盾に使うが、炎の威力は土魔法の強度を上回っており、土石の拳ごと俺の右手の拳が爆発した気がした。


「チッ!」


気で強化した脚力で回避しようとしたトオルさんだが、徐々に速度を上げて追って来る炎の塊。嫌な予感は拭えないが、覚悟を決めて斬り裂こうとした。


【────】

「──っ!?」


しかし、斬る寸前に背筋が硬直した気がした。

振ろうとした刀がブレてしまう。炎を掠めるだけで左肩が直撃して爆発した。


「『常闇の絶壁(ダーク・クリフ)』……!」


そして、最初から防御に集中していたまどかは、異世界でも上級の障壁魔法を展開した。

ブレスが分厚い闇の障壁にぶつかると巨大な爆発を起こすが、ボロボロになった障壁に守れていたまどかに怪我はなかった。


「ふぅ……」


しかし、守る為に魔力も相当注ぎ込んだか、どうにか防ぐことに成功したが、連戦もあって随分と消耗していた。


『ギィィィィアアアアアアアアアア!!』


そこから龍は横に回転すると全方位へブレスを放出させる。

フロアのことなど関係なし、手当たり次第にブレス攻撃を放ち続けてきた。


壁や天井が粉々になる程のブレス。置かれていた物なども粉砕して、至る所で火が移って火災が起きていた。


「うっ……!?」


唯一障壁を展開していたまどかでも防ぎ切れない。向けられた炎に弱っていた障壁では保たず、破壊されて彼女も吹き飛ばされた。


「まどかっ! ……っ!」


右手がヤバいことになっているが、炎の噴射で一気に龍の頭上へ。

ガシッとその頭に掴んで、血塗れの手のひらに魔力を込めた雷魔法を──。


「『通電(ヴォル)……」

「待てジンッ! そいつに触れるのは──」


『ギィィィアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!』


放たれようとした雷が龍の頭部に流れる直前、雄叫びを上げた龍。


と、淀んだ金色のオーラが放出される。

オーラがハリケーンのように暴れると、俺の雷を弾いて俺の身体も吹き飛ばした。


「『闇の迷槍(ダーク・ランス)』!」


すかさずまどかが投げ槍の要領で、龍の背中へと闇の槍を撃つが。


『──ッ!!』


暴走しているようで、戦闘の際の反射能力は健在だったか。

瞬時に察知した龍が翼を震わせると、巨体でありながら槍が届く前に上空に躱してみせた。


「いかん! あの巨体に翼は関係ないと思ったが……!」

『ギィィィアアアアァアアアアアアーーーー!!』

「っ、マズい……! 撃ってくる!」


さらに上空から火炎の嵐っ!

地上全体を火で埋め尽くす金色の炎が俺達を襲ってきたっ!








「【黒夜】……円を描き、球となれ」


しかし、その寸前で黒い輪っかが頭上に展開される。


さらに輪っかが分裂して球体の形となると、降ってくる金色の炎と激突。

ギシギシと音を立てるが保ち堪えて、最後には砕けてしまったが、地上を埋め尽くそうとした炎を消滅させた。




「────“銀浄の流れ星(シューティング)”」




そして、上空の龍を撃ち落とした銀の弾丸。

適確に2つの翼を狙い撃つと、翼は強度が他より弱いのか大きな穴が空く。


『ギィィイアアァアアァアアァアアアアッ!?』


翼の浮力を失って一気に地上に落下した。

ドシッ!! という激しい落下音と共に、地上に大きな地震が起きた。


「……? あの人達は……」

「ふ、意外だな。消さずに連れて来たのか、死神」

「……あれは」


いきなりの展開に呆然とする俺だったが、まどかとトオルさんの声に反応して、そんな2人の視線を追うと……。


「オレの異能が相殺された。姿も異なるが、あのチカラの影響か?」

『い、いえアレは“龍化”です。シャドウ様……いえ、ホーリー様のスキルです。……ただ、放たれているオーラはもっと輝いていました』


泉零さんだったか? あの赤い老魔法使いと共に龍を見上げている。

表情はさっきよりはマシな気がするが、冷静な目で龍を見つめていた。


「嫌な感がビンビンするなぁ。エラちゃん、アレがそのお友達のチカラかな?」

『ちゃん付けしないで。……たぶん、……けど、前よりも濃くなっているわ』


同じく一緒に居るのは、森で引き受けてくれたヴィットと、彼を毛嫌いしていた筈のダークエルフ。


軽い彼の発言に冷たく言い捨てるダークエルフだが、倒れた姿勢から起き上がろうとする龍を心配そうな視線で見つめていた。


粉々になった入り口の方から現れたのは、下の階で戦っていた筈の味方と敵。

凄い組み合わせであるが、どうやら増援らしい。


「は、はぁ……助かるけど、アレをどうにか出来るのかなぁ?」


フラつきながら俺は視線を龍へと向ける。


『ギィィィィィィィアアアアアアアアアアーーーッッ!!』


翼をやられてさらに憤慨したか、オーラが変化して身体中から黄金の雷を迸らせている。

……気のせいじゃないな。間違いなくさっきよりも強化されていた。


「悪いけど、少し違うかなぁ?」


だが、そこへヴィットから予想外の発言がくる。

こっちに来ると若干申し訳なさそうにして、隣のダークエルフに目配せした。

振られた女は重苦しそうに俯くが、怒り狂う龍の目を向けると、決意が決まったか俺に顔を向けた。


『……お願いがあるの、聞いてはくれない?』

「内容によるけど、さっきのヴィットの言葉からすると……面倒な内容のようだな」

『っ……都合の良いことだとは分かってるわ。けど、私は……助けたいの! あの方を!』


予感的中。彼女は涙目で頭を下げると、俺にそう頼み込んできた。

なので俺は嫌そうな顔を彼女を連れて来たであろうヴィットに向けるが、彼は彼でどこか折れた様子で首を横に振った。何故だ? 何か理由があるのか?


「美人の涙には弱いんだ」

「なんかよく分からないが、とりあえずぶん殴っていいか?」


ふざけるなと言いたい。こんな状況で何言ってんの、この女好きは。


「気持ちは分かるが、オレも女に付いていいと思う」


しかし、断ろうとする俺に対して、他の2人もまたダークエルフとヴィット側に入ってきた。


『どうかお願い出来ませんか? これまでのことを水に流してほしいとは言いません! 罰も受けますし、命を対価なら支払います! ですが、あの方だけは……助けて欲しいですっ!』


赤い老魔法使いも側まで駆け寄ると、こちらに向けて深々と頭を下げて来る。

そして、その後ろで泉さんが立っている。ヴィットの発言に呆れた様子だったが、視線を俺に合わせて厳しそうな表情をしていた。


「オレも即消そうと思ったが、今回の件にはどうやら黒幕が居る。奴を倒すのは難しいが不可能じゃない。けど、もし倒せばその黒幕の目論見通りにならないか?」

「黒幕?」


泉さんは言っているが、途中からつまらそうになる。

不本意なんだろう。だが、このまま倒すことも抵抗があるようだ。


「そのようだ。しかも、何処からか見ているな」


爆発した左肩を押さえながら、トオルさんも会話に参加して来た。

龍はほっといていいのか、と思ったが大きな黒い剣が4本。起き上がろうとする龍を囲うように地面に突き刺さって動きを封じていた。


長くは保たないと思うが、落下の影響でフラついている龍なら、少しは時間は稼げるだろう。


「トオル、何処か分かるか?」

「死神でも無理ならオレの感知なんて余計に無理だ。でも、見ているのは間違いない、引っ張り出すのは難しいけどな」


泉さんに尋ねられるが肩をすくめるだけで、視線を血だらけな肩に向ける。

俺もやられた直後だったから気にしている暇はなかったが、よく考えたらおかしな光景だ。まどかでもなんとか防げたのに、あのトオルさんが防ぎ切れなかったなんて。


「それにあの龍も相当ヤバいな。専門じゃないから確信はないが、オレの予想だと、あの龍には少なからずこのダンジョンの能力が加わってる」


そう言って上着を脱ぐトオルさん。

剥き出しになった鋼のような筋肉が出ると、身体中に歪な模様が浮かび上がる。


「あの流れてるオーラの中には『魔神』の魔力が混ざってる。塔全体もだいぶ薄くなってるから全然気付けなかったが、祭壇に置かれた箱の魔力を感じで分かった。レイが機能を大半壊したらしいが、塔とあの龍は間違いなく繋がってるな」


あれは妖気の解放だ。本気に近い、トオルさんの戦闘形態だ。

顔まで模様に染まると、トオルさんは凶悪な笑みを浮かべた。


「奴を中心に一定空間、恐らく尻尾が僅かに出ているが、その範囲内の攻撃がすべて半減されてる上、あの飛ぶ際の速さは浮力効果か? 身軽になってるから翼がなくても恐らくジャンプが出来る。他にも何かあるか、こいつを助けようとするなら相当苦労するぜ?」

「さらに感知能力も高くなってますね、激情した暴走状態で私の槍も躱して見せました」


トオルさんの説明を引き継ぐように、近寄って来たまどかが告げる。


すると、彼女の内から魔力が……闇よりも濃い、死の香りを漂わせる。


懐かしい感じをしながら、まどかは闇よりも濃い黒き魔力を纏うと、晴れると共に姿を変えた。



「“血統覚醒”────『死滅を呼ぶ魔王の娘(タナトス)』」



現れたのは、ダークエルフのような魅惑溢れる大人の姿だ。高身長な背丈に長い脚、豊満な胸元などダークエルフの女性と互角以上で、違うのは白い肌と真っ黒な長い黒髪だ。


堕天使か死の女神を思わせる、黒い羽のような服を身に纏う。露出度が高く隠されているのは、本当に大事な箇所のみで、あとは肩の部分ある布と腰回りの短めな黒のスカートだけだ。


背中には光で出来た黒い翼を生やしており、頭部には王女が被っていそうな小さな黒の王冠を乗せていた。


どうやら彼女も本気のようだ。

珍しい大人バージョンになると、トオルさんと一緒に俺に顔を向けた。


「決めろ、今回のジークの依頼はお前宛だ」

「私達は貴方に従います。もし貴方が排除を望むのなら、彼らとも対立します」

「……はぁ」


完全に俺に投げたトオルさんはともかく、後半なんか物騒なこと言ってくるまどかの発言は無視しよう。


チラッと視線を龍へ移す。


『ギィイィィアアアアアァァアァアアァアーーー!!』


フラついた状態から元に戻ったか、今にも拘束が解けそうだった。

もう考えている余裕はない。倒すにしろ、生かすにしろ、もう動くしかない。


だが。


「俺は血泥な世界は嫌いだが、やるしかないならやる覚悟はある」


みんなに向けて俺は自分の意思を告げる。

以前までの俺なら絶対無理だったが、あの世界であの男と出会い俺の気持ちも変わった。


「守りたいものがあるなら手段を問うな。死んでも守りたいなら情けを掛けるな。他の誰よりも守りたいなら全ての敵を殺せ。……これが俺に殺しの仕方を教えてくれた男の言葉だ」


曖昧な覚悟では決して成し遂げないものがある。

あの男に俺はそれを嫌というほど教えられた。


後悔したくないなら僅かな慈悲を捨て去れ。


だから俺は……!


「俺はあの男が大っ嫌いだっ! だから意地でも助けてやるっ!」


倒すのが一番楽だろうが、そもそも殺伐した展開も嫌いなんだ。


救える可能性があるならやってやる。俺1人なら絶対無理だが、あいにくとこの場にはもの凄く頼りになる人達と恐ろしいほど頼りになる人がいた。


「力を貸してください」

「ああ、いいぞ。彼の弟子のチカラも近くで見たい。是非、協力させてもらう」


代表として泉さんが初めて微笑を浮かべて告げた。

少々気になる言葉だったが、泉さんは龍の方へと振り返る。


「オレもある程度マジで行った方が良さそうだ」

「気配が凄いなぁ。おれも全開でいくかッ!」


ヴィットも並んで前に出ると、全身から太陽のような炎と激流のような水のオーラが噴き出す。彼の存在感が増して、中にいた巨大な精霊のチカラが溢れ出た。


下の階で見せた『精霊武装』だろう。

再び赤と青の2色の瞳となる。服装も炎と水色に染まって鳳凰と龍の模様が浮かび、両手には紅蓮の剣と水流の薙刀が握られていた。



「【異能術式(カードアンサー)】起動。────身に纏え【黒炎煉鎧(コクエンレンガイ)】」



そうして、泉さんも戦闘態勢に入った。

あの黒い異能が炎に変わって彼を覆うと、全身に黒炎の鎧を装備して、燃える槍を握った泉さんが現れた。


「ッ!」


……全員本気だ。

なら俺も最後のカードを切ることにしよう。


2種類の魔力を利用して、隠し球である【時空属性】を扱う。

【天地属性】に並ぶ最強クラスの派生属性の1つだ。


「───来い(・・)


専用の時空に隠すように《《封印していた剣》》を取り出す。

白金色に磨かれ輝いている剣が俺の右腕に装着された。



「『継承された神ノ刃(イクス・セイバー)』ッッ!!」



派生属性の【時空】で取り出すこと、封が解けて使用が出来る。


師匠が持っていた聖剣の欠片から造られた聖剣であり、魔法剣な俺の専用剣。


Sランクの【聖】、【天地】、【時空】の3つの魔石が刀身に埋め込まれた、俺には勿体ない代物だ。


【第二の封印】────“神ノ刃”を解放した。


全員本気モードです!

やっと刃の【第二の封印】である剣を出しました!

次回、決着です! たぶんですが(汗)

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