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オリジナルマスター   作者: ルド
オリジナルマスター外伝『神の魔法使いの弟子と時空を超えた空の塔(ダンジョン)』
233/265

第8話 空すら断つ斬撃と彼の奥手。

先週出せなくてすみません。

大変遅くなりました。

「参ったな……近寄れねぇ……」


早く着いたというのに出遅れるという痛恨のミスを仕出かしたトオル。

空に浮かぶ塔から落ちた何かを視認して、落下地点へ目にも止まらない速さで疾走。年長者らしく加勢して失敗を取り戻そうとした。……ところが。


「認識阻害と侵入阻害の結界か。中に居る者を退去させて立ち入ろうとする者を拒ませてる二重効果が掛かった闇系統」


ちょうどいい感じの高い建物の屋根から目を凝らすと、一定範囲を覆っている薄い紫色の結界が見える。

魔法の使い手でも視認し難いように景色と同化させているが、トオルは張られた瞬間から見えて刃が動いていることを察した。さっさと入って刃に合流しようと駆けた。


だが、いざ突発しようとしたところで結界の外側に戻される。

最初は何の冗談かと自身を疑ったが、何度も繰り返しても突発出来ない。


認め難いことだが、異世界でも超越者まで到達した(・・・・・・・・・)トオルですら潜り抜けること出来ない程の結界で覆われていた。


「たく、あの女の仕業か? オレを置いて始めやがって。ジンからオレのことを聞いてないのか?」


脳裏に憎たらしい少女のなんでもない風な無表情を浮かびイラっとする。

刃がメッセージを見ていた際、しっかり横から覗き込んでいたのだが、そんなことなど当然知らないトオルは不満そうに結界を睨む。


「派手な魔力は一切ないのに何て高度な術式展開だ。魔力持ちでも突発し難いように入ろうとした途端、幻覚で道を惑わせる仕掛けがいくつも用意してある」


まさか自分がその罠に嵌るとは、と苦い顔になるトオル。ちらりと視線を横に向けて同じように結界に苦戦している者たちを見つける。


とても視認できる距離ではないが、強化された心眼を持つ彼は、格好から先ほどの女性達の仲間だと気付く。

特にまとめ役と思われる渋そうな中年男性。腰の刀から同じ剣士だと察すると同時に、遠目からでも分かる他とは違う突出した力量。


興味はあるがもし鉢合わせしたら……、そこまで考えたところでため息をついて手に掛けた刀から手を離す。


「ああいう連中の侵入を妨げる為だろうが……」


結界を破壊せず潜り抜けるのは悔しいが難しい。

だが破ることが前提なら容易く、その気になれば一振りで十分。


しかし、破壊してしまえば結界で入れない余計な連中までやって来る。刃が他の者たちの介入を拒んでいるのは結界を見れば明らかだ。


そして出遅れた以上、手を出さず終わるまで待つべきだった。


「けどなぁ。今のジンじゃ無理があるだろう。アレを抑える為にジークが掛けた6つの封がされた状態じゃ、精々BランクからAランクがギリギリ倒せるぐらいだ」


難しそうな顔で結界の先。

死闘が行われているであろう先を見つめる。


「最低でも1つ解放するか、あの魔道具でも使わないと倒せないぞ? マドカが付いてるみたいだが、アイツも複数が相手になったらヤバいだろ……、……っ!」


と、呟いていると新たな気配を感じ取る。結界の所為で気で探るもの苦労だが、さっきの巨大な精霊の力以外にもまた、気味の悪い力を感じ取ることが出来た。


どうやら中で事態が急速に進行しているらしい。

精霊の力には敵意は感じなかったが、ここにきてブツブツと呟いていたトオルも黙り込む。


「……」


が、不思議と焦ったような表情はない。

寧ろ一層不満そうにして、ゆっくりと視線を上へと移していく。

柵のような結界のさらに空へ。


「あそこは……結界外のようだな」


しばし、考えるように腕を組むと離していた刀に再び手を添える。

何か思い付いたのか、身体中に流れる気と魔力が活性化されていく。……トオルは気付かなかったが、寸前で結界に苦戦していた者達の1人。彼が目に入った中年男性がバッと振り向いた。




「本丸を落とせば気付いてくれるか? ついで片が着くかもしれない」




何やら非常に不穏なセリフを呟くと強面な顔が、より凶悪でかつ不敵な笑みを浮かべる。

空に浮かぶ塔へと視線を送ると……一振り(・・・)



「“天斬(テンザン)”」



────“一閃”。



居合の要領で軽く抜かれた刀。

その刃先から輝く巨大な斬撃が飛ぶ。

あっさりと結界の柵を飛び越えると、まるで鷹のように飛んで空高く浮いた塔へ一閃を浴びせた。


「なにやら結界を張っていたようだが無駄だ。今のオレはその気になれば何でも斬れる(・・・・・・)


ゆっくりと抜かれた刀が鞘に戻されると、象徴とも言える巨大な塔を横に両断された。


塔のへの視線が集まっていた所為か、塔が真っ二つになった瞬間、至るところから人々の騒然としたどよめきが起こる。結界を破ろうとしていた者達も同様で、ちょうど半分に切り離されていく塔を唖然とした様子で見つめていた。


「オレの前で砦を出したのが運の尽きだ。このまま落ちろ。名も知らない侵略者」


勝者の如き笑みで塔を射抜く。

これで形勢はこちらに向いたのは明らかだ。後はこちらの意図に気付いて結界を解ければ、彼らと合流して一気に残党を叩いて終わり……。


「あ、あれ?」


筈だった。トオルの中では。

斬撃を放った段階から失念していた。


何故彼よりも早く到着し戦闘していた刃達が真っ先に塔を狙わなかったのか。


すぐ真下に住宅地が並んでいたから、刃達が塔への直接攻撃を避けていたことを。


「……、……あ」


満足そうに頷いていたところで、真下にある住宅地が目に止まる。

文明が全く異なる異世界だからだと言い訳したいが、結界や塔……そして新たに現れた気配にばかり気を取られた。


「やっちまった」


浮かべていた笑みが引きつって、凍り付いたのは言うまでもなかった。





────ドンッッ!!



「……!?」


情けなくビルの壁と合体していた俺だったが、突如響いた岩でも崩れるような音にドキッとする。


やけに遠くて近いような気がしたと思えば、視線を左右に動かすが何も変化が見られない。固定されてるビルそのものが崩れた感じでもない。


「ん? んー?」


顔も固定した状態だったので見れる範囲が限られていたが、どうも岩肌が崩れたとかそういう訳ではないらしい。


「へ? あれ?」


しかし、同時に発生したこの場の異常事態には気付く。

もの凄いプレッシャーの中で始まろうとしていた筈の戦闘が急に止んだのだ。


『『…………』』


魔法を発動させようとしたまどか。

気を纏わせた拳を構えたヴィット。

取り出した鞭で攻めようとしたダークエルフ。

そして真っ赤なジィさんも両手を構えたまま止まっている。


「……え、ええ?」


どうしたことか? 傾げることも出来ない首や四肢を動かしながら、見事に埋まっている壁から抜け出そうともがく。……何やらすっごく嫌な予感もするが、とりあえず抜け出すことが先だった。


「ぐ、このぉ……!」


そして、どうにか抜け出した。強化していたお陰で骨折とかなくて良かった。


そこでみんなの視線が上に向いてることに気付いた。

ん? ていうか、みんな固まってない? 普段から冷静沈着なまどかも強張った様子で見上げている。


「みんなしていったいどうしたんだ? 夏なのに雪でも降ったか?」


土埃を払いながら彼女の隣に並んだ俺も釣られて、彼らの視線を追うように移していくと……。


「……」

「気持ちは分かりますが、切り替えた方がいいかと。死んだ魚でもそんな目はしてませんよ?」


どんな目ですか、まどかさん? あなたも似たようなもんでしょうが。


何故か浮かんでいた塔が横から半分にカットされてる。

塔の先端が切り離されるが、重力とは関係なくゆっくりと倒れていく。……いくらなんでも遅過ぎる。あの空間だけ時間の流れが遅いのか?


「建物自体の効果か何かか知らないが、それよりもトオルさんか? 何考えてんだ」


その光景に思わず俺は師匠が送ってきたメッセージを思い出す。

書いてあったのに見かけないと思ったが、何してくれてんだあの人。


「刃……あれは」

「ああ、そうだな」


もう俺のキャパシティを超えているが、無視もできない。

せっかくまどかのフォローが無駄になる。


「緊急事態だ。知り合いの所為で街が危ない」


真下が街なのに何故両断したのか、何故斬られた天辺の部分がゆっくりと倒れているのか、疑問が尽きないが、これは放置できない急ぎの件だ。


『塔が斬れた!? まさか、囲っている空間結界を破るほどの攻撃を受けたというですか!?』

『ウソでしょう!? どんな攻撃でも外からの干渉は出来ない筈なのに!?』

『とにかく一度戻りますよ! シャドウ様ならご無事だと思われますが、塔が損傷状態が気になります! エラ、『四神使い』への恨みも後にしなさい!』

『グっ! わ、分かったわよっ!』


2人の侵略者は慌てたように言葉を交わしている。どうやら向こうにとっても不測の事態らしいが、そんなことは俺には関係ない。


「まどか! 俺が飛んだら物理保護の結界を張って街を守れっ! ヴィットは悪いが、俺が失敗して結界も破られたら撃ち落としてくれっ!」


こっちの2人に伝えて、手と足裏から炎の噴射させて飛ぶ。

ゆっくりと落下し出す先端の塔の真下から一気に急上昇する。衝撃が強く来るが、考慮している暇なんてない。


「あのデカさ、普通の魔法攻撃じゃ無理か」


だが、完全に落下を始める前に消し去る!

絶対地上には被害は出さない!


「使うしかないか……?」


出来れば避けたいが、現在の俺の状態じゃアレの対処は厳し過ぎる。


「仕方ない。師匠……借りますよ?」


急上昇してすぐ一定距離を保つ。

右手で左手首にある腕時計に触れた。



擬似・究極原初魔法フェイク・ウルティムス・オリジン────起動」



魔道具を起動させる為、体に宿っている2種類の魔力を注いだ。

すると眩く光輝くと付けていた腕時計が変化した。



「『黙示録の記した書庫アポカリプス・アーカイブ』」



現れたのは装飾が施された白いブレスレット。

中心に埋め込まれた銀と黒が渦のように混ざった球。俺が注ぐ2種類の魔力によって激しく発光を起こすと、輝く光色が変化を起こす。




「【コード:魔導王(・・・)】────発動ッッ!」




輝く光が一瞬にして銀色へと染まった。


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