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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【後編】
210/265

第10話 裏切り者と裏切られた者。

「で、苦労したか?」

「言うほどでは……嘘です。結構堪えました」


玉座に座るローガンを前にローブを着たシルバーの姿をしたジークが膝をつく。軽口でからかうローガンに初めは否定的な対応をしたが、駆け引きにもならないと即降参して肩を竦めた。


二人だけで王室で話す。何名か異議を唱えた者もいたが、最終的にSSランクのギルドレットやギルドマスターのガイの説得もあり、この対話が成立している。


そして二人の前にクリスタルの魔法剣『アルトリウス』が用意された台座に置かれていた。


とある理由から返すことに決めたジークだが、ローガンは渋った様子で首を傾げていた。


「これはお前の物だった筈だが? 何故拒む?」

「確かにシルバー(オレ)の物でした。……でも」


シルバーの姿を解いて元の姿に戻る。

ローブは同じでもジークの姿に戻り深々と頭を下げる。


「これはジーク()の物ではありません。シルバー・アイズは魔導の果てに消えましたから」

「ふん、一応弟子(・・)であるお前が引き継げばいい。そういうことにするのだろう?」

「だとしても、です。この剣には散々世話になりました。もう休ませてあげてください。……ラインの元に」


そしてもう一度、王へ深々と頭を下げる。

四年間持っていた剣の突然の返還だが、これには彼らしい理由があった。……王にはとても言えないが。


簡単に言うならもう持っていても意味をなさいから。

託された側の立場としてはあり得ないことだが、これまでの戦いを得たことでクリスタル剣はジークの魔力にもう耐え切れないことが分かった。


きっかけは昨晩に使用した際だ。あの剣はラインから託された物で斬れ味や性能もよく、銀剣にも勝る物だったが、それでも実はギリギリだった。少しの間のみの使用だったが、魔力を蓄積していくうちに確実に脆くなっていた。


シィーナから銀剣を受け取った際に取り出して見て気付いたが、これ以上使い続ければ、ラインの形見とも言える国宝の剣は粉々になってしまう。


(折れたら賠償どころじゃないからな。それだけは回避しなくては……!)


その前に剣の返却を決めたのだ。

それらしく言うが、ローガンは見抜いて本当の理由を聞こうとする。話すべきか迷うところではあるが、それでも使ってくれと言われては余計に困るだけなので、ここは強引にでも押し通すことにした。


「そうだな。……そのラインのことだが、あの調査はどうした? 大戦の原因についてもそうだが、息子が隠していた件。調べるよう頼んでいた筈だが?」


──きたか。

剣の返却を無事に終えたと思ったところ、そうローガンが切り出すと、ジークは内心身構えながらローガンに視線を合わせて──



◇◇◇



王城のとある一室。

そこは一面が白い質素な印象に見えるが、窓に特殊な金属で出来た鉄格子がされて、ドアも中からは決して開けられないようになっている。


置いてある家具なども最低限、ベットとテーブル、椅子が無造作に設置されているだけ。地下の監獄とは違い、国が重要な人物を特別監視下に置く為の部屋であった。


「意外ですね、貴方が私に会いに来るなんて。もう顔も見たくないと思ってましたが」

「意識が戻ったと聞いたから来た。少し話がしたい」

「へぇ……私に何を聞きたいと? またそんな姿になってまで?」


そんな特別待遇で部屋に軟禁状態となった男──スベンは椅子に座り、目の前にいるローブ姿の銀髪の青年を見据えると。


「すべてだ」


シルバーの姿で現れた青年ジークは、スベン・ネフリタス─────またはレック・ガーデニアンと名乗る顔中包帯で隠された男に言った。


ローガンとの対話を終えて、ジークはギルドマスターのガイに無理を言い彼との面会を求めた。


厳重な監視が付いた男への面会に多少ガイに渋られたが、それは長い付き合いである。王都のギルドマスターとして権限をフルに使い、監視の目を解いて二人だけの面会を許した。


ただし、魔力を封じの手錠と自害防止の首輪を付けた状態で、そこはジークも否とは言わない。助かると肩を叩いて用意した高級胃薬を、心底嫌そうな顔のガイに渡した。


……渡した際に奇妙な賄賂だな、と苦笑しかけたが、受け取った際の彼の乾いた笑みを見て、冗談ではなく本当に辛いのだな、とこれまでの行いにジークは少々反省の気持ちが浮かんだ。


「すべて? 魔力を封じた程度で私が素直に話すと?」


「ああ、嘘のないすべてだ。スベン……いや、レックでもないな(・・・・・・・・)?」


──レックでもない。


そう切り捨てるようなジークの言葉に男は表情を隠しているが、内心微かな動揺を見せる。顔の包帯は醜い素顔を隠す為にあるが、今はそんな彼の表情を隠す重要な布へと変わっていた。


しかし、包帯の隙間から見える瞳までには隠せない。


僅かに揺れた瞳だけでジークは彼の心境を見透かす。返答のない男を見下ろして、懐から束になった資料を取り出しテーブルに放った。


「ガーデニアン……あの老魔導師に息子はいない。けどお前が口にしたレックという名と老魔導師には繋がりがある」


そこから一枚の写真を取り出して目の前に置く。


男は僅かに視線を動かして置かれた写真を見たが、そこでまぶたを閉じて見えないように唇噛んだ。このまま舌を噛んでもしまいたいが、自害防止の首輪がそれを許さない。


「老魔導師が残したものだ。これがお前たちの繋がりだろ?」


古びた写真で二人が並んで写っている。

一人は先程から話に出ているクロイッツ・ガーデニアンだ。今ともそれほど変わらずサングラスだが、嬉しそうに口元に笑みを浮かべた写真だ。


そして二人目は若い騎士の格好をした男性。まだまだ新米騎士のような姿であるが、こちらもガーデニアンと同じように嬉しそうに笑い写真に写っていた。


「──レック・スーマン。ガーデニアンの教え子だった騎士……既に死んでる」


静かに瞳を閉じた男の反応に当たりだと確信したジークは口にする。ガーデニアンが立ち去って部屋に置いて行った一枚の写真だが、教師の目を掻い潜り鞄を調べたところ見つけた物だ。師のシィーナを通して写真の情報を元にリグラに調べて貰った。


正直厳しいのでは、とジークは思ったが、リグラの情報網は広くて深い。写真だけだったが、相手がガーデニアンとその教え子というだけで、ある程度は絞れたそうだ。


「気になってレックの名で調べて貰ったらすぐに見つかった。ウルキア出身で学園を卒業後に騎士団に入ってるが、期間は三年ちょっとか? ガーデニアンとは学園で知り合ったようだな。俺ほどじゃないが、問題児だったみたいだが、この男は間違いなく死んでる。大戦中の戦死とあるがどうも曖昧だ。……が興味深いのはそこじゃない」


男が何も答えないとジークは残されていた資料から、次々とレック・スーマンの身元について語る。


しかし、彼が話したかったのは資料にないことだ。

流石のリグラも関係ないと調査範囲から外したか、それとも目を瞑ったか資料内にはそのことは書かれてなかった。


「──同じく戦死したライン・エリューシオンと同期だった。しかも騎士団に入隊した時も期間は短かったが、共に王都に配属されていた。……それと」


放った資料をまとめ上げて回収する。

腕を組み神妙な面持ちでローガンに告げたことを彼にも告げた。


「ラインが死んでからオレは国王からラインについてある調査を頼まれていたが、こうしてレック・スーマンの件を合わせれば……より黒になる。なぁ?」

「……」


嘆息して壁に背を預けて言う。

瞳を閉じたままのスベンを見て、これでも駄目かとより濃い話をする。


「調査内容は敵国への内通容疑。オレは彼のことしか調べなかったが、お前たちも関係しているようだな? 簡単に帝国と聖国を行き来していたのは、これが大きな理由だ」


──そしてガーデニアンも。

否、寧ろ彼こそが主犯だった可能性が高かった。


「ラインは大戦を終わらせる為に敵国と密かにコンタクトを取っていた。しかも一国だけじゃない複数と協力して戦争をコントロールしようとしていた。そしてその協力者がお前とレック・スーマン。他にもいるか? これは勘だが、恐らく組織的に動いているな? 王城の研究室を襲撃したガーデニアン以外の者たちもまた、お前たちのように協力者だった。……ギルさんの弟子も」


「だが、その関係は崩壊した。……戦時中だろうか、ラインが組織を抜けたいと言い出したんだろ? で、お前はそれに協力したが、他のメンバーが許さなかった」


「ラインが抜けたかった理由についてはこの際置いておく。だが、結果ガーデニアンが彼を裏切り者と判断し、あの場所で《鬼神》とぶつけさせるように仕向けた。お前もあの場にいたと言うのならお前も一緒に始末させる予定だったのだろう」


「が、お前は生き延びた。辛うじてだろうが、それで帝国の実験体として生き残るが、逆にそれを利用して帝国を支配した。《鬼神》がいないのなら大戦で弱り切った帝国を落とすのも難しくない」


「そして再びお前はガーデニアンとコンタクトを取った。いや、向こうから取られたか? いつ頃か知らないが、多分一年前。オレがウルキアに来た時期か、間接的にでもラインを死なせたオレへの復讐を果たす為、殺したい筈の組織と再び協力した」


「また裏切られる可能性があっても構わなかった。お前は復讐者となって周囲を利用するだけ利用して、最後に自分が利用されても目的さえ果たせれば、それで良かったんだ」


──ま、見事に失敗したがな。

最後にそう言って口を閉じる。いつの間にか視線どこか顔すら俯かせたスベンに近付くと、何を思ったかその頭に掴む。


そして無理矢理顔を上げさせる。

すると悔しげに涙を流す彼の姿を見て、ジークはなんとも言えない複雑な表情で返答を待った。


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