第3話 拒否。
やっぱりバトルがないとつまらないです。
次回やっとバトルです。
総合ポイントがあと少しで200・・・驚愕です(°_°)
修正:再修正
「こっちには時間がないの。他に手があるなら、あなたには頼らない」
「だったら尚更、俺に頼ることじゃないだろう」
少々話がズレてサナの逆鱗に触れ掛けたが、話が戻ったところで今度は彼の方が、呆れた様子で肩を落としていた。
「仮に、仮にだ。俺が強い? のだとしても、何で妹さんが狙われてることになってんだ?」
何も知らない者の問いならこれが正解な筈だ。そう考えてジークは戸惑った顔で問いかけて、向こうの様子と反応を窺って見た。
「事情は……家の問題よ」
「だったら家に頼めよ。名家だろ?」
俯いて歯切れ悪くする彼女に、さっさと終わらせようと親を頼れと告げる。だが、彼の言い方が悪かったか、いつも冷たい彼女が、興奮した様子で顔を上げて睨み付けてきた。
「その所為でお父様も動けないのよ! 他の人も信用できないし!」
「俺が一番信用できない分類だと思うが」
辛そうにサナが口にするが、ジークから言わせればそれで何故自分なのか、とツッコミたい気分だ。いつも以上に苛立っている感もあるので口にはしないが。
(妹ってアレだよな。アイリスが前言ってた)
妹がいることは、当時親しかったアイリスから聞いて知っていた。昼休み中の世間話程度だったが、可愛い妹が居て、妹に凄く溺愛して、番犬のように男を寄せ付けず張り付いていたと、苦笑顔で聞かされていた。
(その所為で恋愛関係に疎くなって心配、ってアイリスが言ってたか)
聞いた時は引いてしまったが、そこまで過剰に溺愛しているなら、何故自分に守らせようとするのか。知り合いだからか、それとも知らない筈の未知数の力量に期待してか。
(ありえない。俺なら自分で守る。性格を考えるならサナだってそうだ。たとえ力がなくて無茶してもやる。他所の奴に任せたりなんか絶対しない)
しかも、自分の親友の恋心を踏み躙った相手だ。とても正気とは思えないサナの発言に、困惑してジークはますます分からなくなる。
が、次のサナの一言でその疑問も砕け散る。正確にはどうでもよくなった。
「確かに、アリスの件であなたの信頼なんて一欠片もない。……けど」
「……ん?」
改めて言われると複雑な気分だと、ジークが苦笑を漏らしかけたが、途中で沈黙して口を閉ざしたサナを見て、どうしたかと首を傾げる。何か思い悩んでいるのか、呼びかけるも無視して自分の思考の中で何度も自問自答しているようだ。余程悩む内容だったか、終えたのか深く息を吐くとようやく口を開いた。
「──ねぇ、ジーク。あなた『原初の記録』って知ってる?」
「……は?」
ギリギリのところで何も知らない風の声を漏らして、自身の内で揺れた動揺を隠した。その内心、戸惑って聞いていた自分の耳を疑った。
(? 今、なんて言った?)
目をぱちくりして少々混乱してしまう。別に意味を知らないわけではないが、知っているからこそ驚いている。
『原初の記録』とは『オリジナル魔法』の別名。正しくは継承前に使用する『オリジナル魔法』の術式が埋め込まれたモノだ。
種類としては以前話したが、『魔石』、『魔法紙』、『魔道具』の三種類がる。彼女がどれのことを指しているのか不明だが、彼女の発言は彼の心を揺さぶるには十分なものがあった。
(絶対極秘事項だよなそれ。何考えてるんだ?)
顔には決して出さないが、それでも黙ってしまうほど困惑している。というか少々失礼だが、馬鹿なのかと本気で疑っていた。家に伝わる秘宝のことを話すなど、正気の沙汰ではない。
「魔法術式が封印された物のことよ。『オリジナル魔法』の」
「……」
黙っているのを見て知らないと思ったか、サナは『原初の記録』についてわざわざ説明してみせる。
オリジナル魔法は基本、門外不出の秘奥義。どの一族にしろ術式、或いはそれに近い情報を外部に流すなど、本来あってはならない。
知っている者なら常識的なことを、平然と破りサナはジークに教えている。
(これって、当主にバレたら勘当だよな?)
いよいよ頭が痛くなってきた。バレないように静かに深呼吸して、自分を落ち着かせようと──。
「継承者なの私。それに妹のリナも」
「…………かぁ!?」
保とうとした端から平常心の壁が崩落してしまう。狙われている理由をサナはただ話したかっただけだが、予想とはまったく異なる内容に、呼吸しようと吸った空気が噴き出てしまった。さすがに不審がられたが、内容が内容なのですぐ気にしなくなったが。
(妹も候補だと!? どういうことだ!?)
提供された情報は彼も知らない重要事項だった。護衛を請け負うなら知ってて当たり前。というか、知ってないといけない筈の情報だが、彼は一切知らされていない。
つまり。
(アハハハ──聞いてないよシャリアさん?)
今もギルドで雑務をしているであろう、金髪幼女に向かって問い質した。心の中なので当然届かないが、妙に深みある笑を浮かべていた。
「色々と驚くことばかりだが、それよりも唐突過ぎないか? いきなり継承者とか言われても困るし、まず順序立てて話してほしいんだが」
「……まあ、そうね」
いきなりだったのはサナも理解していた。余裕がなく焦っていたこともあるが、相手がジークだったのも理由であろう。改めて彼にこちらの事情と起きている事態について話した。
(なんというか、面倒ごとしかしないな。貴族ってのは)
サナから聞いた内容をジークは頭の中で纏める。
家で代々受け継がれる『オリジナル魔法』が存在し、先日現当主の父から妹と一緒に継承の話が持ち出された。
しかし、ルールブ家が受け継ぐ『オリジナル魔法』は一つだけ。複数の継承者は認められておらず、受け継ぐ為に使用する『原初の記録』も一つしか存在しない。
一番の問題だったのは、現当主の父がどちらを後継者にするかを決めようとせず、候補である本人たちに委ねたことだ。思わぬ父の判断に戸惑いながら、二人で話し合いをしたのだが、どちらも相手が次期当主に相応しいと譲り合って、どれだけ時間をかけても話が纏まらなかった。
「で、情報を聞き付けた、よろしくない連中が自分たちを狙ってきたから、妹さんだけでも守って欲しい……と? さらに言うなら妹さんが継承を終えるまでガードして欲しいと?」
「そうよ。理解した?」
「うん。 ──さっぱり分からない」
「──なっ!?」
「そっちの事情なんて知るか、普通にイヤだわ」
返答に驚いているサナが何か言う前にジークが切り捨てる。嫌そうな顔を隠すことなく焦った様子の彼女に言った。
「継承権もそうだ。なんで自分で受けない? 妹さんからは勧められてんだろ? よろしくない連中がソレを狙っているなら、自分が継承者になって囮になればいいだろ」
「──っ!」
酷い言い様だが妹を守りたいなら、自分を囮にすべきだと彼は思った。いや、彼の知っているサナなら彼が言わなくても、こんな単純な方法などすぐに思いついて実行していた筈だった。
だが、彼に指摘されたサナは動揺をした顔で思わず、といった様子で視線を逸らした。これを何を意味するのか、彼はある程度予想が付いていた。
(妹が心配なところ悪いが、サナが俺の対象なんでな)
シャリアが伝えてないだけで、本来は姉妹二人のことだと少し前から察していた。情報を伝え忘れたシャリアに思うこともあるが、その気になれば二人とも面倒を見ることが可能だ。それだけの力は彼にある。
(余計なことをしないのが前提だけどな)
だが、絶対に守れるわけではない。今の彼女のように予想外な行動を取られたら確約は出来ない。だからここでしっかりと釘を刺しておく。これから仕出かそうとしていることを止める。
「そ、それはリナの方が相応しいと思ったから……」
「誤魔化してるつもりか? まだ何か隠してることあるだろ」
「……何のこと?」
「惚けるな。もし俺が妹さんのガードに付くとして。……その間お前はどうするつもりだ?」
遠回しなことはせず問うと、彼の予想通りか、サナは口を微かに動かすだけで返答に困ってしまった。
「どうして黙り込む。そんな難しい質問をしたか?」
「っ……」
次第に動揺の色が増していく。そんな彼女を見て間違いないと確信するジーク。
彼女の真意を問い質すつもりで、敢えて自分から答えを口にした。
「当ててみようか? ……潰すつもりだろ? 俺が言ったように自分を囮に」
「──!! あ、ジ、ジーク」
彼の言葉に分かりやすく反応してしまった、サナが焦る。演技という線もなくはないが、ここでしても意味がない。
(守らせたいならここで演技はない)
妹のことで余裕がないだけか。呆れつつ演技ではないと否定して、焦るサナにつまらなそうに言い捨てた。
「図星か、なら俺の返答はNOだ。その案には賛成出来ない」
呆れた口調で切り捨てて踵を返す。もう話は終わりだといった様子で階段がある扉の方へ歩き出した。
「ま、待ちなさい! まだ話はっ!」
ジークが去ろうとするのを見て、慌てて止めに入るサナ。まさか本気で帰ろうとしているとは思わなかったか、動揺が含んだ早足で回り込んだ。
『──!?』
先程以上に詰め寄ってしまうことになる二人。
離れていた場所で控える女子たちから騒めきが出だした。
「なんの根拠で頼んできたか知らないが、買い被り過ぎだ。逃げ足なら自信はあるが……」
「……そうね、呆れるぐらい毎回速かったわね、逃げ足は」
「逃げなきゃ命がないからな」
まったく誇れそうにもない話だと、ここ最近のことを振り返るが、口にするその表情はどこか哀しげだったのは、気のせいではないだろう。
「ジーク」
などと話を逸らしてみるが、あまり意味はなかったようだ。そーっと距離を置こうとしたが、あっさり気付かれて詰め寄られてしまう。本気で気配を消せば出来たかもしれないが、再び至近距離で見つめられてしまった。
「断ると?」
「断りたい」
「受けて」
「受けたくない」
あくまで拒否のジークとあくまで承諾を求めるサナ。両者の意見は別れるばかり、息が届きそうな程近付いて今にもくっ付いてしまいそうだが、意見の方はまったく繋がる気配はない。
「お願いよ」
見上げるように願うサナは見つめる。家族を除いて家に居る者たちが信用できない。貴族でもまだ学生のため他にアテもなく、力量の方も学生レベルで本格的な魔法師が相手では、確実に妹を守り切れる自信はない。
(けど、アリスはこの男を推した。辛い目にあった元凶のこいつを)
アイリスのことがあって信用することは難しいが、その彼女自身が自分のことのように自信満々で保証していた。
(アリスの話が本当ならここで退けない!)
妹を任せるのは確かに不安でしかないが、今は猫……それこそ悪魔の手も借りたい程、事態は切迫していた。
「ここまで頼み込んでるのに?」
「どれだけ頼み込んでもだ。それにサナの目的が分かった以上、こっちも考えがある」
「……何を企んでるの?」
ジークの発言にピクっと瞼を動かすサナ。彼の瞳を覗き込むように間近で見ていると、これまでとは何かが違う、薄く小さな笑みを浮かべていた。
「なに、元とはいえ友達が無茶なことを仕出かそうとしてるしな? 暴走して何かあったら目覚めが悪いし、どう考えても危ないから妹さんに全部バラしに行こうかと──」
最後まで言い切る前にジークの周囲を、尖った氷の氷柱が襲いかかった。
「いきなり酷いな。当たったらどうするの?」
真下からも出現した氷柱を素早く飛んで躱し、氷柱の上に乗り立つ。それほど驚いた様子もなく、平然とした顔で見下ろすとサナに微笑を向ける。
が、対するサナはこれまでにない程、冷気を帯びた瞳で見上げている。その顔にはもう焦りの色はすべて消えていた。
「撤回しなさい」
声は落ち着いたものだが、声音にしっかりとした殺気がある。怒りも堪え切れないか、感情と反映した魔力が漏れ出し冷気を溢れさせる。属性との相性が余程良いか、氷柱の魔法以外は発現させずサナの周囲に冷気が満ちていく。
「ははは……」
未だ氷柱の上に乗るジークはただ苦笑するだけ。だが、その表情はまったく動じておらず、見下ろしたままサナの発言にどう返そうかと、手を顎に乗せ考えるような仕草をする。
そうして。
(試してみるか?)
内心この状況を利用できないかと、臨戦体勢に入るサナからの冷たい殺気を向けられつつ、頭の中にある策について検討していた。
次回は明日・・・・の予定ですが、たぶん2日程あとになります。




