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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【後編】
209/265

第9話 決闘後と彼の考え。

(どうしたものか)


ジークは置かれた状況を見ながら溜息を吐きたくなる。

ようやく、本当にようやく騒動が終わったと安堵した矢先だ。さっさと宿に帰ろうとしたジークだが、その行く手を阻む。いや、引っ張るようにして追いかけて来たティアに半ば強引に個室へ連れられてしまった。


「あんまり心配かけさせないでください」


医療器具も揃っている立派な個室でジークを置かれたベットに座らせると、ティアは治療魔法を掛けつつ濡れタオルで血を()き取る。着ていたローブや服はもう駄目になっていたので上半身は脱ぎ裸で血に染まっていたが、傷自体はほぼ塞がっていた。


まだ右腕、右上半身の感覚がおかしいが、戦闘が終わったことで自然治癒に魔力が回っているのだろう。すっかり血が止まり固まってしまい濡れタオルでもなかなか落ちない。


「ちょ、っと、くすぐったいんだが……」

「動かないでください」


しかし、懸命にごしごしと体に付いた血を拭うティア。もちろん傷を刺激しないように優しくだが、返ってそれが非常にこそばゆい。


だが、強引に振り解くこともできない。

泣きそうな顔をする彼女を見たら、そんなことできる筈もなかった。


「あんまり心配かけさせないでください。もう大切な人を失うのは……わたくしも嫌なんですよ?」


いや、既に手遅れだったか、潤んだ瞳から小さな雫が溢れ出していた。


「う、その……悪い」


それ見たジークは気まずそうな顔をする。

女性関係でいつも振り回されることが多い彼だが、何年経っても女性の涙は辛いのか、戦った時よりも弱々しい表情で顔をすり寄せてくるティアにあたふたしていた。


その頭に手を伸ばそうとして止まり、でもやはりといった感じに手を伸ばして止まる。その繰り返しであった。


「随分苦労しましたねジーク。今もですが」

「っ、し、師匠」


とそこへ駆けつけて来たシィーナが入室して声を掛けてきた。

あたふたしていた所為か慌てた様子でジークが驚くと、シィーナはしってやったりといったニコニコ顔で近付いて来た。


「代わりましょうティア様。彼の場合、慣れてないとなかなか終わりませんから」

「っ……はい」


そうシィーナに言われ反射的に食い下がろうとしたが、くすぐったそうにする彼を見て悔しそうな表情して大人しく引き退った。


代わってシィーナが血を拭き取る。彼との付き合いが長く慣れているか、ティアよりも効率よく血を拭き取っていく。あっという間に顔や髪にまで染み付いた血を拭き取ると、一瞬だけ水の魔法を使い髪や上半身を洗い流した。


「“天王”の融合……随分使いやすくなってましたね。それに派生属性も。以前ならあそこまで安定することはなかった」

「“天王”の融合属性にさらに“天地”の属性効果を付加しました。非常に複雑な操作でしたが、なんとか超越者相手にも使えるぐらいにはなりました。これなら他の『超融合』も強化できる」

「“帝天”、“天王”、“天海”、“獄天”でしたか、かつてシルバー(貴方)だった頃に編み出したものでしたね」


──白き雷を呼び起こす“帝天”。

──空を支配して炎光を指す“天王”

──海を飲み込み底へ沈める“天海”

──あらゆる物を常闇に縛り焼き尽くす“獄天”


ジークが編み出した複数の属性で出来る融合スタイル『超融合』。どれも危険過ぎるために使用に制限が掛けられた物だった。


「風をあそこまで操ったのもそうですが、最後に見せた火と光の融合玉。アレにも“天地”の効果を付与させて強化してましたね。しかも、あの一閃。魔力で覆った下にさらに魔力の刃。それも『絶対切断(ジ・エンド)』を遠隔で操作するなんて凄まじい技量です。咄嗟に行ったんですか?」

「咄嗟の思い付きではさすがにできませんよ。前もって用意していた策の一つ。『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』を使わないと決めた時点から考えてました」

「自殺行為な真似にしか見えませんでしたが、神の剣(イクスカリバー)を使っていれば、もっと簡単に勝てたのでは? それこそ神の弓(アルテミス)に相性の良い神の盾(ウロボロス)神の鎧(ガイア)神の槍(グングニル)なども使えば、より確実に勝利を収めたのにどうして使わなかったんですか?」


アヤメの剣技の対策を考えつつも、ジークは『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』の使用だけは絶対考えなかった。使えるタイミングはいくらでもあったのに、負けそうになっても彼は使用しなかった。


「俺が使えば彼女もすぐに使ってきましたよ。結果どうなってしまうか、師匠なら言わなくても分かるでしょう?」


古代原初魔法(ロスト・オリジン)』同士がぶつかり合うのは危険。それはただの原初魔法でも同じだが、『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』はそれ以上に巨大なチカラを放つ神如き魔法だ。


それが万が一ぶつかり合えば、最悪国一つが滅びるかもしれない。

ジークはそこまで考えて『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』の使用を今回は控えることにした。アヤメが神の弓(アルテミス)を放ってもジークは決して『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』で身を守ろうとはしなかった。


だが、それが返って彼の限界を超えさせた。

神の矢を受けて倒れたジークだったが、魔力に打ち勝って立ち上がった。


「あの矢の能力には驚いたけど、お陰で取り込めた(・・・・・)。矢だけとは言えアレも俺の体にしっかりと刻まれた。耐え切れるかどうかは、ほぼ賭けだったけど」

「まさかとは思いましたが、成功してましたか。立ち上がった際、貴方から発する気配の質が格段に跳ね上がったのは、それが原因だったんですね。欠けらとは言え手に入れたという訳ですか。残りはあと一つですね」


本人にはまだ話せてないが、見事に目的が達成して揃ってしまった。まだ大きな変化は見えないが、間違いなく揃ったのだ。


最後の一つの所在を明かせばどうなるか分からないが、こればかりは本人が気付くべきことだとシィーナは黙っていたが。


「……」


シィーナから賞賛の言葉を掛けられても、とうのジークは素直に喜べず寧ろ困ったような顔で間を空けて首を横に振ると二人に話した。


「確かにまた覚醒した。勢いだったが、それで《無双》に勝ったけど、たぶん違う。俺は今まで『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』を揃えば神に近い存在になれると思った。途中までも取り込む度に近付いていると確信して、残りはあと一つだ。だが、これだけじゃ足りない」


といっても、今さらかつての目的の為に神になろうとは考えていない。もう一度、仲間たちと話して考えてみようという気持ちの方が今は強かった。


だから、仮になれなくても気にはしない。神のチカラも手に入れたいとは、もう考えていなかった。


ただ、かつての予想に比べても明らかに、覚醒によって変化するチカラは低かった。


「これで精々当時の《鬼神》に近いレベルだ。あの時は二人掛かりでも圧倒された。あの男は間違いなく超越者の上にいた」

「けど、ジーク。ギルドレット様と共に貴方は勝ったではありませんか」

「その所為でお前の兄は死んだんだぞ? 違うんだ。あの時、俺もギルさんも負けてた。勝ったのは単に俺が自分を見失って暴走したからだ」

「暴走……昨日のアレですか?」

「ああ、そしてたぶんアレが答えだ」


そう、確信したのは昨晩の戦いだった。

意識が飛び飛びだったが、あの異常な魔力(チカラ)。かつて暴走した際にも起きたが、あの時よりも安定しており、なにより強かった。


本能的にか『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』を使うことはなかったが、もし使用していた場合のことを考えた。


「暴走するあのチカラが関係しているということですか?」

「俺はよく覚えてないが、最後に使おうとしたって言う赤みを帯びた暗黒の剣(・・・・)。アレは間違いなく神の剣(イクスカリバー)だ。あの魔力で変異したんだと思う」


ティアに問われジークは答える。

が、実際は少し覚えていた。あの時、師に追い詰められた彼は最後のチカラを振り絞って無意識に心の奥底にある、増悪に変色した泉に手を伸ばした。


すると、凄まじいチカラが溢れ出してそれが彼の剣を呼び起こそうとしたが、直前でシィーナによって阻止されたのだ。


「けど、だとしたら貴方の魔力は……」

「分からない。元々異質だったが、結局分からないだけだ。……まぁ」


そこで喋り疲れたか一息吐くとベットへ横になる。

欠伸もして眠たそうにすると笑みを浮かべた。


「もうどうでもいい。正体がどうでもアレは俺だ。ちゃんと向き合うよ」

「……コントロールできますか?」

「出来なきゃダメでしょう? それにあの鬼男が地獄から舞い戻ったのなら、しっかり扱えるようにしとかないとな」


────鬼がまた戻って来たら、今後こそ天に滅さないとな。


心配そうにするシィーナにジークは意思を伝える。が、その声音に復讐心がないと感じると心配そうにしつつもコクリと頷いた。


ティアも心配そうにしていたので、今度は手を伸ばして優しく頭を撫でる。キョトンとした顔をしたティアだったが、少し照れたように頰を赤く染めながら、彼女もまた彼の頰に撫でるようにして手を伸ばした。





その数分後、お怒り気味のアイリスと呆れた様子のシャリアがやって来て、また騒がしくなったが、それはまた後の話になる。


アイリスに襟首を掴まれて、青ざめたバルトがぐったりしていたが、誰もそちらに目を向くことはなかった。


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