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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【後編】
201/265

第1話 決闘の朝。

「久々に寝た気分だぁ……」


若干寝足りないが、そう呟いてベットから体を起こすジーク。

時刻としては遅めの起床であるが、誰にも起こされずに済んだことを考えると、どうやら本当に大会は中止になったのだと、納得しつつ溜め息をついた。


「まぁ、いつか決着を付けないと。トオルともいつかしないといけないし」


あれからトオルが目覚めリグラからの提案でアヤメとの衝突は防げたが、それはあくまで先延ばしに過ぎなかった。


決闘の舞台を整えることが条件となった時点で、彼の運命は決まったようなものだった。


「それにすんなり承諾してくれたのも、やっぱトオルが起きたおかげだしな」


アヤメもそれで納得しトオルを連れて立ち去った後。ジークはシルバーと共に館を後にして魔法を解くと師たちを合流。……アイリスたちに聞こえないように決闘の話をして、同情の視線を送られてしまったが。


「同情するくらいなら止める方法とか教えて欲しかった。……多分ないか」


その後、師から大会は中止になるだろうと聞かされ、監獄の片付けはこちらで済ませておくから休んでおくようにと言われたので、宿に戻って倒れるように眠りについたが。


どうやらリグラか師が学園側に何か言っておいてくれたか、起こしに来る者は現れず随分遅めの起床となったのだ。


「……」


そして用意して貰った新しい制服に着替える。

怪我は完全に癒えており疲労もほぼ無くなっている。まだ若干寝惚けた顔で最後に上着を着ると、ふと体内に駆け巡っている魔力と宿っている魔力量と質量を見る。


「……なんと」


寝惚けていた思考が目を覚ます。

どこかビックリした目で嫌そうな顔をする。

が、結局諦めたように息を吐くと部屋を出て、みんなが居ると思われる食堂へ移った。



◇◇◇



(怒られると思ったが、それどころじゃないか)


食堂に着くとやはりというか、ウルキアの生徒たちが集まって待機していた。


元々借りている宿は学園が貸し切っているので他に迷惑ということはないが、少々生徒たちが騒ついている。遅れてやって来たジークにも一度視線が集まったが、またすぐに話が始まり、ざわつきが収まる気配がなかった。


(ん、教師もいない。会議中か?)


「あ、ジーくん!」

「遅いわね? もうすぐお昼よ?」

「あー……眠たかったからな。あれ、ミルルは? 一緒じゃないのか?」


教師が見当たらないと考えているジークへ、久々に見たような笑顔で声をかけるアイリス。そして呆れた様子でサナが一緒に近寄って来る。


「なんか用事があるとかで朝から出てるわ。トオルは……そっちの方が詳しいじゃないの?」

「そうか……じゃ、早めの昼食にするか、一緒に食うか?」

「私たちはまだいいわ。アリスはどうするの?」

「んーまだいいかな」


二人にもシルバーのことは話していないが、魔導杯が中止になることは夜のうちに話している。


そんな二人とジークは昼食という朝食を頂きながら現状について聞いてみたが、その中で気になる話が含まれていた。


「グラサン先生が行方不明?」

「ガーデニアン先生よ」


ちゃんと名前で呼びなさいとサナに注意されるが、気にした様子もなくジークはアイリスへ視線を送る。

少し困った顔をしたアイリスだったが、コクリと頷き口を開く。


「うん、朝になっても起きて来なくて先生たちが見に行ったんだけど」

「もぬけの殻だったと?」

「情報規制されてるみたいだけど、先生たちが騒いでいたのを生徒が聞いてたから」


とアイリスに引き継ぎサナが騒ぐ生徒たちに視線を送る。

どうやら今騒いでいる連中が騒動を大きくしているようだ。チラリとジークも視線を向けると複数の生徒と視線が合う。またいつものかと溜め息を吐きかけたが、その視線の種類に疑問を感じ首を傾げた。


(なんだ? あのポカンとした視線……あ、ああ、そうか)


睨まれたり蔑まれたりなどの視線に慣れていたので、すぐに分からなかったが、サナやアイリスにも呆然とした視線を送っているのを見て気付いた。


(おかしいよな。ついこの間まで敵対……というか嫌っていた相手と。本当なら今日戦う筈だった奴と一緒とか)


彼のこと心底嫌って敵意すら向けていたサナと、彼が原因で引き籠ったアイリスのこと知っている者からすれば、この光景はさぞ異常なものであろう。


魔導杯が中止になってサナと戦うことがなくなったが、戦っていればきっと荒れていただろうと皆想像したかもしれない。


(ま、当の本人は準決勝でバルトと入れ替わったからって、棄権するつもりだったようだが)


と考えている間も人の視線が集中してしまう。いよいよ話のネタが減って座っているジークたちに自然と意識が移っている。……あまり長く居ると少し面倒のようだ。


「ねぇ? 聞いているのジーク」

「ん、悪い聞いてなかったが、どうしたって?」

「だから! ガーデニアン先生のことよ! 昨日ことと(・・・・・)何か関係しているんじゃないの?」

「老師がか? ……さぁ、あまり裏事情を聞いてないから俺は知らないが……」


話そっちのけで、さっさと立ち去った方が懸命だと思った。

一気に食器を平らげて水をあおり、空の食器を厨房へ返しに立ち上がる。

そのまま食堂を出ようと歩き出すと、突然の彼の行動にサナとアイリスも一緒に付いて来てしまう。


「ちょっと何処行くのよ?」

「急な決闘だ。どうせまだ時間が掛かるんだろ? それまでのんびりさせてもらうさ」


と言うと、うっとおしい視線から逃れるように部屋────と思ったが、視線を窓の外へ。


(ああ、そうか)


小さく頷くと部屋ではなく外へ出て行く。

サナとアイリスも追おうか迷ったが、取り付く暇もなく立ち去って行く彼の雰囲気に、二人共追おうとした足を止めて、諦めたように席に戻った。



◇◇◇



「にこにこ」

「……」

「にこにこにこ」

「…………」


しばらく歩いたジークは、外から目配せしていたシィーナと合流する。ローブ姿でフードを被っている為、周囲から顔がよく見えないが、隣で歩くジークには見える。


(違和感しかないな。誤魔化してつもりか?)


自然に並んで適当に歩いていたが、何が嬉しいのか終始ニコニコ笑みを浮かべて見てくる。……何か凄く言い足そうにウズウズしているようにも見えた。


「……さっきから何か?」

「いえいえ、なんでもないですよ?」


食堂での学生たちからの視線とは違い、そこまで不快ではないが、ずっと視線を送られてニコニコされていると鬱陶(うっとお)しく気にもなって問い掛けたが、あっさり首を横に振られてしまった。


「なんでもないですよ〜〜?」

「──そうですね、じゃあ決闘の話に移りましょう」


絶対嘘だと考えなくても分かるが、深みのある笑みが恐怖を感じる。

無闇に踏み込むべきではないと、脳裏で鳴る警報に従い話を逸らすことにした。


「はい〜〜」


素直な弟子の言葉にシィーナも頷く。

もう少しアイリス(彼女)たちとのやり取りなど、からかってみたい部分が沢山あるが、あと数時間後には大仕事が控えている弟子の立場を忘れている訳ではなかった。


「皆さんは調べ物を?」

「他にもありますが、決闘が始まるまでには間に合いますよ」


仲間たちがリグラと共に昨日の後始末をしつつ、調べ物をしていることを伝えながら、決闘についても話を進めた。


「決闘の場所はやっぱ闘技場ですか?」

「あそこなら多少を本気で暴れても問題ありませんから」

「この間、俺の魔剣でリングが真っ二つになったんですが?」

「今度のは特別製のリングを使いますし、結界も強固にするそうなので大丈夫だと思いますよ?」

「ん……」


師が安全だと言うなら本当に大丈夫なのかもしれない。

一抹の不安がないことはないが、とりあえず昨日のように暴れなければ問題ないだろうと納得することにする。


(そも特別製なリングの代金は誰持ちなのか…………ん、気にしないことしよう)


そして、彼の知らない王城で密かに起きた顛末も知ることになる。

失踪したガーデニアンが関係して起きた事件についても、シィーナから聞かされた。


「まさかのサナの勘が当たりやがったか」


タイミングの良過ぎることもあり、薄々ジークもまさかと思っていたが、シィーナの言葉で確信へと至る。


「にしても、まさかあのジィさんと鬼姫さんが負けるとはな」


その際、数名の負傷者の中に《剣聖》ゼルダードと《剣豪》カトリーナも重傷を負ったと聞くと驚いた顔となる。

同格の《剣聖》が敗れたこともそうだが、SSランクに近い実力を持つ《剣豪》が敗れたことが信じ難いのだ。


「気使いの鬼姫さんなら老魔導師との相性も良かった筈。あの二人なら老魔導師相手でも簡単にやられるとは思えないが?」

「他にも協力者がいたようです。全メンバーは不明ですが、内一人は《天空界の掌握者(ファルコン)》の弟子」

「ああ、《天魔》……あの胡散臭い魔剣と聖剣の二刀使いか」


準決勝で当たったジークは記憶を振り返る。

異名を持ち言うだけあり、なかなかの剣技に融合魔法との組み合わせ。少ない対峙であったが、それでも流石の一言だった。


(胡散臭いと思ったが、マジで裏で糸を引いている一人だったか)


王都でも超越者(ギルドレット)の弟子ということもあり有名だったが、それがまさかの裏切り者だ。


「あのイケメンなら不意を突けば可能性はあるかもな」


確かに実力もあったと思い出しジークは苦々しく納得する。

さらに相手がギルドレットの弟子だったとすれば、その相手をしたであろうカトリーナは全力を出して戦えただろうか。そんな疑問が浮かぶが。


「ギルさんは複雑ですよね」

「話を聞いてからお会いしてませんが、私が彼の立場ならショックで立ち直れないかもしれませんね」


あの二人について深く考えてもしょうがない。

カトリーナも現在治療中とのことなので、この件はまた後日となりそうであった。


「ああ、こちらを返しておきますね」

「それは……」


そして歩き続けた二人は人が集まる王都の中心地へ着く。

広場となって店が多数出回っている中、空いているベンチに腰掛けるとシィーナはローブをめくり腰に差していた剣を鞘ごと取り出す。


「カムが直してくれたんです」

「折れた剣からですか?」


それをジークへ手渡すと、少し驚いた様子の彼が鞘から剣を抜く。


装飾や模様のない長さは普通だが太めの片刃剣。

柄の部分は以前とは代わり黒いグリップのような物が取り付けられているが、見覚えるのある銀色の刃の部分を見て本物だと頷く。


「折れて無くなった部分は上手く新しい銀とミスリル……それと彼女が混ぜると危険な物質(考案した特殊金属)を合わせたそうですよ」


「後半の説明に危険な気配を感じますが、そうですか、これが……」


かつてジークの魔力にもある程度耐えてみせた銀剣。クリスタルの魔法剣を扱う以前はこの剣で戦ってきた。

魔力伝導が良いこと以外は精々耐久値が高いことだろうが、魔道具とも呼べず名もない銀の剣を抜いたジークは新しくなった(やいば)に触れる。


「でも不思議だ。昔と全然変わってない気がする」


目立たない程度に軽く振るう。

新品と言ってもいいが、しっくりくる懐かしく感覚に自然と笑みを浮かべた。



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