第2話 屋上。
会話・・・・カイワ。
屋上に入った事はないけど・・・屋上で複数の女子に男子が1人・・・・怖ろしい(汗)
修正:再修正
透き通った青空を見上げると、眩しい光に眉を寄せた。
「良い天気だ。そう思わないか、ルールブさん?」
「ええ、今日は晴天のようよ」
「なるほど、通りで気持ち良さそうな太陽だ」
屋上に上がったジークの呟きに淡々と答えるサナ。口にはしたがまったく興味はないのが丸分かりな顔だ。
せっかちな女だと思いつつ、からかいの表情でジークから切り出した。
「アイリスは……どうしてる?」
「「「「──っ!!!」」」」
一瞬で空気が凍りついた。彼の一言に控えていた女子たちが殺気立つ。表情もここに来る時よりも一際険しくなって、強烈なプレッシャーを発していた。
「落ち着きなさい」
「「「「!! ……っ、はい」」」」
が、そこで騒ぎ掛けた女子たちをサナが牽制する。振り返らず告げられた優しい声音に、沸点まで上がった血が落ち着きを取り戻すと皆慌て出す。大事なところで邪魔をしてしまったと、恥じて女子たちは大人しく引き下がった。
「ジーク……あなた最初に出る質問がそれなの?」
「そうだが?」
諌めるようにサナがジークに言うが、本人は特に表情を変えず適当な笑みを浮かべるだけ。そんな態度にせっかく落ち着きかけた女子たちの意識が怒りに呑まれそうになる。血走った目でジークを睨んでいた。
「はぁー、あの子を心配する発言には評価するけど、それでも少しはデリカシーを覚えてほしいわね。あそこまであの子を追い詰めたのは貴方なんだから」
サナも二回は注意しない。相手が彼ある以上、言っても無理だと判断した。一応手で制止は促しておくが、これはあくまで話を進めるためだ。
そしてサナの制止で不満一杯だが、大人しくなる女子たち。が、それでも殺気溢れる目はジークに集まっていた。
(おー、こわいこわい。本当に学生かこいつら……ん?)
彼女たちから向けれる殺気。と呼ぶには些か以上に半端な気を適当に流すジークだが、向けられた多くの視線から何か感じたのか、目元をピクリと動かす。
(なんだ? いつもと違うサナだが、それ以外にも何か……この違和感はなんだ?)
群がる半端な殺気の中に紛れている微かな違和感。適当に受け流していたが、彼は確かに感じ取って探るように意識を向けてみた。
「あんまり刺激するような発言は控えてと言った筈よ」
まさか、既に意識から外されているとは思ってないだろう。探っているジークに気付くこともなく、険しい顔でサナが諌める。
若干呆れた目で見ているが、間違いなく気付いていないとジークは理解して答えた。
「そうだったな」
視線をサナに固定した状態で、気配の出処を探るように意識だけを、背後の女子たちへ向ける。すると違和感は濃くなり学生のものではないと確信する。
「けどもう三ヶ月だしな、少しは気になるさ」
「まだ引き篭もってるわ、誰かさんの所為でね」
「そうか」
皮肉のつもりで言ったサナの一言を、ジークは平然とした顔で受け流した。彼が答えると背後の女子たちから発せられる殺気も跳ね上がった。
(どうやら釣れたのは、サナだけじゃないみたいだ)
僅かに口元を吊り上げてジークは心の中で呟く。まだまだ大したレベルではないが、殺気が膨れ上がったことで、その中で紛れている不穏な気配も、より色濃く露わになっている。どうやって紛れ込んだか知らないが、溶け込むには少々出来の良い相手らしい。
あともう少しか、どう絞るかなどと考える。とりあえず徐々に眉を歪めて、不快そうな顔になっていくサナにジークが尋ねてみた。
「で、何で俺を呼んだ。話があったんだろ?」
「……」
すると歪めていた眉が元に戻り真剣な表情へと変わるサナ。少しだけ息を吐くと、後ろへ振り向き控えている女子たちに告げた。
「じゃあ、退がってて」
「「「「……はい」」」」
サナの指示に対し不承不承で頷く女子たち。離れる前にもう一度ジークを睨み付けると、クルリと反転し屋上の入り口付近まで退がっていく。大人しく退がっていく様子を見て、安堵の息を溢してようやく切り出すことにした。
「はぁ……これで話ができる」
「だったら最初から来させなきゃ良かっただろうに」
「無理よ。話す相手が貴方だと分かったところで、全員頑として譲らなかったもの。だから妥協案で会話が聞こえない所まで退がってもらったわ」
ひと苦労した、と肩を落とし口にする。先程までの女子たちを思い返して見ると、確かに相当苦労したのだな、とジークは他人事のように思った。
「リーダーともなると大変だなぁ」
「少しでも大変だと思うなら言葉に気を付けなさい。私が止めてなかったらあなた、今頃袋叩きよ?」
「気をつけるよ」
疲れた様子のサナに軽口で返答するジーク。先程までの険悪な雰囲気が少し消え、馴れ馴れしくはないが、悪友同士の会話でもしているように話をしている。
外野の耳も気にする必要がなくなった。
「で、俺に何か御用かな? ──サナ」
なのでジークも遠慮なく口にする。からかうような目で隠していた探る目で見るが、ジッとした目のサナに睨まれた。
「馴れ馴れしいわね」
「聞こえないんだろ? 友人だし仲良くいこうぜ?」
と、少し冗談混じりに言うジークだが、シラけたか、サナはフンと鼻息を吐きそっぽ向く。
「もう元よ、友達だったのは」
「手厳しいな。けど、元でも仲が良くなかったのに、友達として見てくれてたのか」
「ただのたとえよ。本気にしないで」
言われて肩を竦めたが、嬉しそうな目をサナに向ける。若干落ち込んだような笑みも漏らしていたが。
(まったく気にしてないわね。この男)
自分が口にした言葉に、ジークがちっとも気にしてないのがよく分かる。元々気にするような性格でもないが、少しぐらいはまともな反応を見せてほしかった。
(……友達か。確かに関係はアレだったけど、間違ってないわね)
元──友達同士であるサナとジーク。二人が接点を持つようになったのは、入学したばかりの一年の頃である。明らかに性格が合わない同士であった二人だが、一人の女子が間に立ったことで妙な縁が二人の間に出来ることになる。
そして彼らの間に立った女性こそ、アリスことアイリス・フォーカスであり、最終的に二人の関係が崩れた中心にも彼女はいた。
「あなたがアリスを弄ばなかったら、違ってたでしょうね」
何処から辛そうな表情で、彼女は小さく呟く。ゆっくりと瞼を閉じて過去を振り返る。親友であるアイリスの顔が瞼に映り込む。
目の前の男性に恋をして、恥ずかしそうに頬を染めた。とくに好みでもなく、自分には理解できなかったが、彼に何か引かれるものがあったか、初めてあってから彼女の目はよく彼の姿を追っていた。
目を奪われていたことををサナにからかわれ、また恥ずかしそうに拗ねた。からかい過ぎたか、と反省するがなかなか無い恋した彼女の慌てぶりに、ついつい止められず度々からかってしまった。
仲良くなって彼の側で並ぶと、心の底から嬉しそうな顔をして常に付き添っていた。正直甘やかし感もあったが、それに戸惑って困ったように汗をかく彼を見るのも面白かった。
やる気のなさそうな男でアイリスには相応しくないと思ったが、初々しく空回りしている二人を傍で眺めて、からかって見る日々も悪くないかもしれないと、最後の辺りでサナは思った。
もし付き合ったらこれでもかと弄ってから、最後はアイリスだけには褒めようと彼女は決めていた。
しかし、幸せな気持ちで過ごしてきたアイリスの顔は、僅か一年であっという間に曇って、崩壊してしまった。まったく予期せぬ事態に頭が真っ白になって、サナは戸惑うしかなかった。
『サナちゃん。わたし……、もう、駄目だよ……』
彼に捨てられ、光が消えた虚ろな表情を思い出す。ベットに篭ってしまい、今にも死んでしまいそうな彼女の姿を、サナは脳裏に焼きつけて、親友の心を傷付けた男と向き合う。
「っ、なんで……、なんでアリスを……!」
当時を思い返して、込み上げてくる憤りを抑え切れず、掠れる声でサナは言う。「なぜ振ったんだ!?」と言った目でジークを睨む。込み上げてくる怒りだけは、どれだけ経っても抑えられない。何も知らない中で起きたあの一件には、まったく関わっていない彼女にも沢山の疑問があったが、やはり一番に訊きたいのは振った理由だ。あの件が起きて以降、彼からまともな返答は返ってきていないのだ。
「またその話か? その為に俺を呼んだのか?」
笑みも薄れて冷めた眼差しでジークは見つめる。
「何度も言った筈だ。俺はアイリスをそんな風に見たことは一度もない。だから想いは受け取れないし好きでもない。……と」
「……っ!」
先程までとはまったく違う。ウンザリとした顔でサナを不躾に睨み返す。
表情を一変させたジークに動揺するサナだが、引き下がるわけにはいかないと、とても本意とは思えない彼の言い分に食らい付こうとする。
「でも……あんなにあなたに」
「俺は頼んでない。彼女が勝手に手を貸してくれただけだ。勿論それについては感謝しても仕切れないが、まさかその礼として付き合えと? 馬鹿馬鹿しい」
「──っ!!」
親友の想いを無下に扱うような彼の発言に、仮に演技だったとしても怒りの沸点を超えて手が出そうになる。
(い、言いたい放題言って、もう殺してやり──くッ、駄目ッ! 今は堪えないと……堪えないと)
これ以上話していては、怒りでどうにかなってしまいそうだ。早々に思い直して話を切り替えようと、沸き立つ怒りを必死に抑えて、一旦心の隅に置いた。
(挑発に乗ってこない。何かあるな)
だからジークも不審そうに見て、サナの真意を探っている。いつも彼女なら、ここまで挑発すればブチ切れて襲ってくる。アイリスが引きこもった時も、ジークの言い分を聞かずに殴り掛かってきたほどだ。
今回はわざとアイリスの話を振ったが、それでも踏み留まる彼女を見て、ジークの頭に疑問符が浮かんでいた。
落ち着いたところでようやく切り出された。
「……ジーク、あなたに頼みがあるのよ」
「頼み?」
思わず聞き返してしまう。心中怒り狂う程、毛嫌いする相手に一体何の頼みごとをするのか。ジークは怪訝そうな目で彼女を見つめて言葉の続きを待つ。
すると。
「妹……リナを守って欲しいの」
「……は?」
(妹? 何のことだ? 守る? 狙われてるのはおまえだろ?)
意味が分からんと言った顔で理解できず、ジークは何故か深刻そうな顔をする彼女を、呆然とした様子で見るしかなかった。
◇ ◇ ◇
ギルド内の執務室。ゼオとの話を終えたシャリアは、部屋を出ようとする彼を見送ろうとしている時だった。
「ではな、ゼオ殿」
「ええ、シャリア殿。娘たちを宜しく頼みます」
多少予想外の展開に進みはしたが、結果として依頼が受理されてゼオは安堵する。去り際に改めて、シャリアに向かって頭を下げる。
(取り敢えず一安心か。まだ不安要素はあるが、少なくとも打てる手は打てた)
素性が分からないのは不安だが、シャリアが選んだ冒険者であることを踏まえて、ゼオは誠心を込めて告げた。
───だが。
「ン? ──あ、ああっ! も、勿論だっ!」
ゼオが告げた直後。何故か突然口ごもるシャリア。さっきまでの任せろといった表情が消えて、焦り顔に変わり額から汗を滲み出す。
何やら不安を駆り立てるような雰囲気に、一体何をそんなに驚いているのか、と訝しげるゼオが声を掛けた。
「シャリア殿、如何なされたか? なにやら顔色が悪そうに見えますが?」
「いっ!? いや……すまん、急な件だった為、ちょっと寝不足でな……ハハハハ」
「おっと! それは御迷惑をお掛けした! もうこちらの質問も以上なのでお暇します。それと娘たちの細かなスケジュールについては、また後日」
言われてみれば先程から迷惑を掛けてばかりだと、慌てて謝罪をして話を纏めるゼオ。少し怪しくも見えたが、色々と無理難題を押し付けた手前、深く追及しようとはせず一礼をして済ませた。
(依頼の件は既に完了されてる。何も問題はないか)
そして心の中で呟くと、扉の方へ足を向けた。色々と頼み込んだので言わないが、彼自身も当主であるため非常に忙しい。特に今の時期は。
「ん、情報については下に居るキリアに渡せば問題ない」
「宜しくお願いします。では失礼しますシャリア殿」
「そちらもなゼオ伯爵」
扉の前まで立つと、ゼオは振り返りシャリアに礼を述べて、静かに部屋を退出したのだった。
「……」
バタンと部屋の扉が閉まり、下に続く階段の足音が遠くのを、耳を澄まして確認すると……。
「ふっ、───やってしまったぁぁ〜〜〜〜っ!!」
一瞬だけ得意げな表情で笑みを浮かべたが、そのまま机に俯し頭を抱えて悲鳴にも似た声をあげた。まるで天国から地獄に落ちたような変化である。
「なんということだ……!」
部屋に防音機能があって本当に良かった。でなければ、下の階まで届く程の叫び声で、ギルド中が混乱に堕ちていた。あとキリアにバレて折檻されていた。
何故ここまで彼女が自責の念に駆られているのか。……答えはすぐに判明した。
「護衛対象が姉妹。二人だったのに姉のガードしか頼んでない!!」
愕然とした表情で机に額をゴツンと叩きつける。殆ど頭突きであるが、机にヒビが入るほどではない。
「い、いたい」
だが、本人にはしっかりダメージが返っていた。ううっと呻き、自分の馬鹿さ加減に悔やんでしまう。彼が来た際、何故姉の話だけしかせず妹の話をしなかったのかと、額に大量の汗を流しながら呻き続ける。
──だが、ふと顔を上げて思い直した。
「あっ、しかし、妹の方も確か同じ学園の一年だった筈。その姉の方を見張るジークであれば或いは」
思い出したみたいな顔で期待を、というか願望を口にする。いや、ここは他力本願と言うべきか。
「伝説の魔法使いでもある彼ならば、妹の方の危機にもきっと気付いて対処してくる。…………はずだ」
完全に他人任せな発言をして、自分の失態を隠そうとする。一人で必死にベラベラと喋り出し、誰も聞いてないのに特定の誰かに伝えようとする。
「だ、大丈夫だっ! ……だいじょうぶだ。……ううっ」
どう考えても不安しかない。先ほどのゼオと同じ、いや、それ以上の不安感に苛まれながら、とりあえず自身の仕事を真面目に取り組もうか、といった感じで現実逃避に移った。
◇ ◇ ◇
『妹……リナを守って欲しいの』
サナは懇請するような表情で一番頼りたくもない筈の彼に頼み込む。だが、事態を呑み込めてない彼は、どうすればいいか判断が付かず、とりあえず意味が分からないと首を傾げていた。
(ホントに意味が分からん。……どういうことだ?)
「一体何を言ってるんだ?」
理解し切れず頭上にハテナマークが回っている。決してふざけている訳ではないが、理解できてない自分がおかしいのかと、思わず聞き返してしまう。
(妹を守って、て……一番嫌いな筈の俺に?)
二人の関係を考えれば、彼に助けを求めるなんてありえないことだ。
(絶対おかしいが、サナは俺の正体を知らない筈)
ジークとサナは確かに三ヶ月前までは友達同士であった。仲に関しては少々悪い感はあったが、アイリスと連れてよく話をする程の関係ではあった。
だが、それは飽くまで学園内、友人のレベルである。少なくとも秘密を打ち明ける程、深い関係になった覚えは一切なかった。
(それに知っている感じでもない。知ったのならもっと別の反応をする筈。なにより、あのサナが俺に頼むか? 学園じゃ一応落ちこぼれだぞ?)
本当の実力は一度も見せたこともないのに何故? ──と、本人は思っているが、彼は学園の常識をあまり理解していない。攻撃的な真似はしてないが、結果『問題児』と揶揄されている。
正体がバレるのようなヘマだけはしていないが、普通ではないことを一年間に何度もしているのだ。
「隠してるみたいだけど、十分異常よあなたは。私もそうだけど一部の人たちにも気付かれてるわよ?」
「……」
何だか前にも言われた気がする。引っ掛かりを感じたジークだが、何処でなのか思い出せず今は流すことにした。
それよりも訂正しないといけない。彼女は言った『隠している』、『異常』などといった単語は、平穏を望む彼には無視できない。さっさと訂正させておかないと、後々厄介になってはマズい。
「異常なのはお前らだろ。学年ランキング下位に身を置いてる俺がおかしいって? 頭大丈夫か?」
わざとふざけたような言い回し。あまり好きではないやり方だが、これ以上勘ぐられても困るのだ。
「なんなら保健室にでも行くか? どうも調子が悪そうだし、俺がおぶって運んでやろ──」
「──凍らすわよ?」
そこまで言いかけてジークは口を紡ぐ。同時に巨大な地雷に足を踏み入れたような、命の危機を背筋で感じ取る。
一瞬で零度のような冷たい眼差しとなったサナは、手のひらから魔力が溢れ出して冷気を漏れさせた。
──『氷属性』。
サナの手から冷気が揺らいでいる。全身が冷えるような殺気も加わり、彼は乾いた笑みを浮かべる。頰に冷や汗を流して零度な彼女の視線もあってか、若干顔色を青くしていた。
「あはは……すみませんでした」
両手を上げて降参の意思を見せて、元最強の魔法使いは女子学生の彼女に許しを請うた。シャリアの時もそうだったが、なんとも情けない光景で、嬉しくもない経験が彼を動かしていた。こういう時の女性との対応は、さっさと謝るに限るそうだ。許して貰えるかは別であるが。
「話を戻すけど良いかしら?」
「モチロンデス」
姿勢を正して敬語になるが、若干カタコトなのは恐怖からか。
「随分な反応ね。……まあいいわ」
少々失礼にも見える彼の反応に、カチンとくる部分もあったが、とりあえず彼の態度に対する不満は隅に置くことして、彼女は本題の話を進めた。
中途半端な終わり方で済みません。
次回の更新は水曜日くらいの予定です。




