第29話 銀の魔法使いと黒の魔法使い。
いつの間にかこの章だけで29話いっちゃた……(汗)
一応帝国の侵入者編は終わりです。
「帝国の王子……ですか?」
「正確には元エリューシオン兵士のようですが」
「え、元こっちの兵士? 何者ですかそいつは?」
眠気以外の怪我はほぼ回復したジークは、師に改めて現状を聞いていた。
時間が限られたので省略して貰い。
敵の首謀者が帝国の者であること。王都側は《知将》リグラ・ガンダールが中心にして殲滅作戦に入っていること。そして現在進行形で行われていることをジークは知ったが、同時に疑問が浮かび首を傾げていた。
(あの死霊使いがいた時点で帝国の関与はほぼ間違いないと思ったが。帝国の王子? しかも元聖国の人間だと?)
先日、遭遇した際のソフェルノの言い回しから、ジークはかつて宿敵……に近い人物が影で動いていると考えていた。
《鬼神》デア・イグスは既に死んでいる以上、帝国から仕掛けてくる者はジークの知る限りかなり少なく、彼の予想では王族直轄の騎士団長か魔導師ではないかと思っていたが。
「残念ですが身元については判明してないんです。私たち冒険者や傭兵もそうですが、あの頃は国も経歴をすべて把握する程の暇もありませんでしたから……あなたもそのおかげで情報が広まらなかったんですから」
王族に目を付けられた時点で致命的な気が……と思わなくもないが、口にはせず首肯するジーク。チラリと元の微笑みに戻ったティアに視線を向けて口を開く。
「まぁ……つまり、その館に向かって学園長の助っ人に回ればいいですか?」
「え? いえ? そちらはそちらで凄腕の方を向かわせてるので、とりあえずあなたはアイリスさんたちと……」
「師匠」
アイリスやティアたちに視線を向けていた師をジークは一度止める。
そうしておもむろに立ち上がると上着に手を掛けながら……。
「彼女から頼まれたんだ、だから俺がやる。師匠がダメと言っても」
バッとボロボロ上着を脱いでワイシャツのみになる。
ワイシャツも血塗れで同じくボロボロであるが、ジークは気にせず瞳を閉じて脳裏に浮かぶ原初の魔法式を選択する。
「俺たちは行く」
そう告げていつの間にか生み出されていた、新たな原初魔法を発現させる。
暴走状態の間に何かあったのだろう。前回も似たことがあったので内心少し驚いただけで、ジークは新たに誕生していた二つの原初の内の一つを選択した。
◇◇◇
「アレか」
そして地上に出た彼はまず、空を埋め尽くしていた銀色のオーロラの魔力に触れる。
銀色の魔力は元は彼の魔力だった物。前までは支配権を奪われて干渉不可であったが、その支配も解けて彼が触れた途端、その支配権は彼へと移っていた。
「馴染む。予想外に悪くないな」
体に取り込んでいったことで、空を埋め尽くしてた銀のオーロラも消失する。
身体中から銀の魔力オーラが薄く放出されて、建物の上に立っていた彼の存在感を膨れ上がらせた。
そして馴染んだ魔力を手のひらに確認しつつ、師が口にした方角を見て魔力探知をする。
「……あそこか」
巨大な魔力を複数探知して目的の場所を特定する。
そのまま屋根から飛び立って、風の飛行魔法を使用して突風に身を任せて進んで行く。
「間違いないようだな」
時間にして二分も経たず、彼は目的の館の上空に到着。
館を囲うように騎士たちが配置されているが、向こうこちらに気付いた様子はなく待機している状態だった。
と外の観察していたところで、館の中で大きな動きを感じ取った。
「なんだ? 気配が増えた?」
まるで心臓の鼓動に二つだった大きな気配が三つに増えた。
他にも気配はなくもないが、どれも弱く二つに比べると強い印象が薄い。
そして大きな気配の内、一つは魔力も気も高く殺伐とした気配を纏わせている。覚えのない気配だが、まずそちらを注意すべきだと彼は警戒を強める。
もう一つの方は魔力自体は弱々しいものを感じるが、どこか邪悪な物を感じさせる。こちらも身に覚えのない魔力気配だが、新たに増えた魔力と気配は違うが感じた限り同じだった。
「問題は敵はどっちかだが……」
など分析するように呟いているが、既に館に向けて突っ込んでいた。
纏わせていた銀の魔力が勢いを増して、彼を包み込むと一つの流星となって館へ飛来する。
そのまま悪意ある者と同じ魔力を持つ。
人……突き破って気付いたが、巨大赤きゴーレムへ一直線。
「……!!」
光速による飛来によって直撃と共に爆炎が吹き荒れる。
溜めていた魔力も解放したことでゴーレムを銀の魔力が飲み込み、銀色の爆炎の巨大な柱がその場に生まれた。
「な……!! 《赤神巨人》が……」
「何が……起きたんですか?」
「……」
そして突如飛来した銀色の柱にスベンは驚愕し言葉を失い、冷静な声音だが額に冷や汗を流すリグラと黙したまま柱を凝視するアヤメ。
三名共視線を銀の柱へ向けると次第に小さく薄れていく。
銀の柱が完全に消えて、頭部を大きな陥没を作ったゴーレムの頭上に人影が……。
『────ッ!!』
その人物を見た一同が絶句した。
誰もが信じられないように二度見して、ある者は歓喜を、ある者は怨敵を見るような目で彼を見つめる。
どうしてか上半身裸の彼は輝くような銀の髪と瞳をしており、手元には金の装飾がされたクリスタルの大剣を握って、神々しい銀色のオーラを放って彼らを一瞥すると。
「悪いが邪魔するぞ」
口を開いて告げると男は大剣を掲げた。
突然流星の如く乱入した謎の男。
だが、この場にいる者は全員彼が誰なのか、面識はなくても本能的に直感していた。
試合会場に現れた偽者とはまったく違う。
存在感を溢れる大剣も見覚えがあるが、男が放つ気配はそれを遥かに上回る。
「は、はははははははははははははははは!! あははははははははははは!! 素晴らしい!! なんて素晴らしいことだ!! あははははははははははは!!」
すると突如、その場の緊張を崩すかのように、壊れたようなスベンの高笑いが木霊する。
ローブの所為で本人の顔は見えないが、心底おかしそうな笑い声を上げながら、スベンは残っている手で優雅に男へお辞儀した。
「こうしてあなたとお会いできる日を長らく楽しみにしてましたよ!!」
「……誰?」
「まさかお忘れですか!? 私は……」
あまりの熱の高さに引いて男は尋ねるとスベンは高らかに宣言。
「私の名はレック・ガーデニアン!! 《大賢者》クロイッツ・ガーデニアンの息子で……あの日! あの場であなた方と共に戦った騎士の一人だった人間ですよ!!」
「老魔導師の……息子?」
その返答に男は首を傾げる。
聞いてたリグラから驚きの顔を見えたが、正体にはあまり興味がないのか、男は掲げた大剣を水平に構えて問い掛ける。
「あのジジィに息子がいたなんて初耳だが、それよりも一番気になるのはお前の立ち位置だ」
「私の? 立ち位置ですか?」
「ああ、ある意味オレの質問は、そのたった一つ」
「ふふふっ」
不敵な笑みで促すスベンを見て、男は呆れたような冷たい目で水平にした大剣をぶら下げる。そして短く一言口にした。
「お前がオレの敵か?」
「敵でしょうね。余計な事情を抜けば」
彼の問い掛けに答えた刹那。
スベンの指示で動いた《赤神巨人》が────。
「そうか」
「は? え?」
何かしようとする寸前で、大剣の一振りによって真っ二つに両断される。
なんでもないような動作だった為に、その様子を見ていたスベンから惚けたような声が漏れる。そんな彼を見ながら男はため息をついて……。
「見え見えだ」
尚も残っている腕を動かそうとしたが、さらに男の大剣の一振りから放たれた銀の斬撃によって紙くずのように粉々にされてしまった。
魔石のみは無傷で残っていたが、その魔石から色が抜けている。
魔力が抜け切った状態で転がって地面に落ちていたが。
「確かに……お前は敵のようだ」
「ッ!!」
まるで流れ作業のような造作もない手捌きで、対SSランクに匹敵すると言われたゴーレムを消し飛ばしたのだ。
さらに。
「悪いが遊びに来たわけじゃないんだ」
クリスタル剣を構えて男……否。
「一瞬で終わらせる」
SSランク冒険者で最強の魔法使い。
《魔導王》のシルバー・アイズは最強の一手。
古代原初魔法を解放した。
「運命を切り開け……『修羅の運命を────裁く神の剣』」
手に持つ剣を黄金に輝く聖剣にして、シルバーは片手で振り下ろす。
装飾も一際増して形状も変わった大剣から、強烈な太陽のような光の斬撃が撃ち放たれた。
Sランクの最上級魔法も凌駕した大出力の光の斬撃。
間違いなく対象のスベンを飲み込んで屋敷を吹き飛ばすだろう。見ていたアヤメとリグラはそう確信して退避しようとしたが、対象となったスベンは退こうとしない。
それどころか。
「時空を超越しろ!! 『時と異界を征する神の鎌』ッッ!!」
迎え撃つように透明になっていた鎌を完全に呼び出した。
透明だったそれは次第に色が付き形状が露わになると、巨悪な死神の鎌の如き姿をしていた。
「時空の……神の鎌」
「こちらにも古代原初魔法があることを忘れましたか!?」
スベンは片手で振るい次元に亀裂を入れる。
するとシルバーが放った光の斬撃は次元の亀裂に防がれる。咄嗟にシルバーが出力を上げたが、それでもスベンまでは届かず、次元に吸い込まれて……。
「忘れてるのはそっちだろ?」
と後方から聞こえた別の声がスベンの声に答えた。
それはアヤメでもリグラの声でもなく、若い男の……そこまで思考が行き着いたところでスベンは目を見開いた。
「────っ!? まさか、この声は……!?」
正面でシルバーと激突している中、顔ごと視線を動かして声のした方を振り返り……。
「究極原初魔法────発動」
「ジーク……スカルス?」
呆然とした声音で新たな侵入者の名を口にするスベン。
血塗れでボロボロの姿をしたジークが部屋の入り口付近で立ち、こちらへ手をかざしていた。
その登場に面識のないアヤメは眉を潜め、彼を探っていたリグラは驚愕の表情で目を見張る。血塗れだったこともあって二重の驚きがあったのか、何故この場にという思考すら浮かばず、らしくなく固まってしまっていたが。
「『白き銀の世界・魔道王の黙示録』」
下手に邪魔されずに済むので、ジークとして有難い状況だった。
奥義の一つの究極原初魔法を起動させ、全身から白銀のオーラを放出させる。
一瞬で部屋全体までオーラが行き渡る。
ジークが対象をスベンが取り出している鎌に指定した瞬間。
「 私の……古代原初魔法が」
神の鎌は綻びを見せて分解して形を消失させていく。
本来であれば干渉できるのは同じ古代原初魔法のみ。
しかし、ジークが使用する究極原初魔法は対神用に編み出した究極奥義種だ。
「古代原初魔法発動中にこの魔法はないと思ったか? それとも……」
「オレの登場がそんなに意外だったか?」
ジークの言葉をシルバーが引き継ぐ。
完全に神の鎌を奪い取られるのを確認して、シルバーは放つ神の聖剣の斬撃の出力を最大にする。
と障壁のように展開していた次元の亀裂が歪み、聖剣の光に浄化されて消えていくと……。
「オオオオオオオオオォォォ!!」
シルバーの雄叫びと共に次元の壁を越えて、呆然と立ち尽くすスベンに光の斬撃が駆け抜けた。
「か……は……!!」
スベンの躰を縦に真っ二つにするように光の斬撃が通過。
瞬間、スベンの体が激しく動悸を起こし震えて、被っていたローブがはだける。
「あ、あ……」
そこには白目を剥いて既に力尽きるも立つ男がいた。
そしてゆっくりと後ろへ倒れた男の顔を見たジークとシルバーは……。
「……」
互いに無言、無表情で移動すると、シルバーは彼に近付いてはだけたローブを被せる。
ジークは粉々となったゴーレムの残骸に魔法を使用して、書き込まれていた古代原初魔法の一つ。『全地を統べる神の鎧』を取り出して、神の大鎚や神の鎌と並び、本日三度目の簒奪を行った。
そんな彼らの見て剣を握り締める、最後の古代原初魔法を所持したアヤメ・サクラからの鋭い視線を感じながら。
気が付けば色々集まっていた(苦笑)
ここまで来るのに本当に長かった。
次回でこの章も終わりの予定です。




