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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
195/265

第27話 そして彼の闇の世界は終わりを迎え、彼は彼女と出会った。

お久しぶりです。なんか気が付いたら冷えましたね最近。

なんか疲れて全然進みませんでしたが、なんとかできました。


ジーク戦これで終結です!!




物心付いた頃からか、アイリス・フォーカスはよく変わった夢を見ていた。

だが、それは夢にしては妙に現実味を帯びており、しかし、彼女も知らないような日常風景だった。


そして不思議なことに、その光景はいつもある人物が視点となっており、アイリスは常にその人物の視点でその光景を眺めていた。


何処かの田舎村だと思われるが、そこでの生活風景を彼女は見続けたのだ。


その人物が女性だと気付いたのは、周りの対応からだ。

声まではよく聞き取れなかったが、群がってくる子供たちの仕草やその人物の対応からアイリスはお姉さんようだと感じた。


見えてくる光景はその彼女の感情からか、アイリスが見る光景は毎回違っていた。


何気ない日常からちょっとした非日常から、嬉しいこともあれば悲しいこともあった。気になって見たいと思ったこともあれば、見たくないと目を背けたくなることもあった。


見てくる光景は様々だが、見てくる光景の影響か、その女性の感情が流れ込んできてアイリス自身の感情にも影響を与えたのだ。



そして彼女が一際目を引き付けた人物がいた。



いつ頃だったか、その村に同じくらいの背丈のある少年だが、感情の乏しい無表情の顔しておりどこか近寄り難い雰囲気を出していた。


大人たちはそれほどでもなかったが、気配に敏感だった子供たちは彼に近寄ろうとはせず、好奇心か隠れて覗き込むようにして見ている者が多かった。


アイリスの視点である女性もまた同じだった。

大人たちに言われたか知らないが、何度か声をかけたがそれほど反応がなく、淡々と一人で行動する姿を眺めるしかなかった。


村に連れてきたお姉さんの家で暮らすようになった、少年の生活は非常に不思議なものだった。どう言えばいいか分からないが、見ていた子供や女性、そしてアイリスもどう見ても子供らしくない少年の日々の行動に目を疑っていた。


少年の朝はランニングから始まる。

朝早くから外に出たと思うと動き易い格好で、村の外にある林と川の方へ走って行った。

始めの頃は村を出たのかと慌てた出した大人たちがいたが、事情を知っている一部の人物が声をかけたことでどうにか騒ぎにならずに済んだ。


大人たちも子供そうだが、見ていたアイリスもそれが鍛錬だと気付いても不思議でしかなかった。


“どうしてあんな子供が鍛錬を?”

“危険を承知で村の外に出て、魔物もいるかもしれない森を駆け回るのか?”


どこまで走ったか分からないが、子供にしては相当な距離を走ったようで、帰って来た少年は全身汗だくであった。擦り傷だった時もあり、いったいどこまで走ったかと見ているアイリスも心配になるほどだった。


そこから一人で朝食を食べて大人の人たちに混じり、剣や槍などを持たされて素振りを昼まで行い、時には大柄の男性と組み手をして殴られたり、投げられたりして子供相手とは思えないほど厳しい組み手であった。


同年代の少年が参加しているのを見てか、興味が出た年下年上の子供たちも現れた。


そもそも村では教育指導として勉学、運動、また簡単な戦闘訓練を設けて子供たちに軽い手ほどきをしていた。戦闘訓練に関しては任意であったが、それを熟してきた子供たちには少年が受けている訓練は非常に興味を抱き、同時に彼だけ特別扱いされているように見えて、嫉妬し対抗心を燃やしたのだ。


なので、大人たちからやめた方がいい言う忠告を受けても、対抗心を燃やす子供たちは聞く耳を持たず参加したのだが、余りに真に迫る訓練に泣き出し怯えてしまった。


一日も保った者もごく僅かで二日目から参加する者も、一人か二人いるかどうか。女性も一度だけ参加したが、体力が保たず向いていなかった。


しかし、そんな厳しい訓練で子供たち折れる中でも、少年は他にも基本知識から魔法に関する指導を受けたり、ある時は冒険者の大人と一緒に外に出て行く姿も見られた。少年はなんでもないといった感じで、そんな日々を送り続けた。


だが、少し背丈が伸びて時が経った頃、アイリスの視点であった女性との間に新たな変化が生まれていた。


何が切っ掛けなのか、女性は少年と楽しそうに話すようになっていた。

最初の頃は少年もどこかどうでも良さ気な顔をしていたが、何度も女性の方から声を掛け続けられ付き合いが増えてきたからか、途中から興味を抱いた顔で彼女と対話していた。


そんな日々がしばらく続いた。

“側から見ると恋人同士に見えるのではないか?”

女性視点で見ていたアイリスはそう感じて、内心少しだが羨ましく感じた。


そう、羨ましかったのだ。

夢見のアイリスだったが、彼を見ていると次第に惹かれていき、隣に座る女性が羨ましいと感じ出した。


そして視点の影響か女性の気持ちも、この頃にはハッキリと理解してしまった。


気付けば苦手であった訓練を受けて、魔法に関しても必死に覚えてようとする姿勢。大人たちや少年と一緒に外に出ては、対人や魔物との対峙を繰り返していき。女性は村の子供たちの中でも、彼の次くらいの実力者となって、少ないが彼の側に立つまで成長していた。


どうしてそこまで血の滲むような努力をしてまで、彼の隣に立とうとしたか。

彼に惹かれたアイリスにはよく理解できた。



が、そんな羨ましく幸せな時間も長く続かなかった。



視界は突如戦場へと移り替わっていたのだ。

見に覚えのない光景以前の恐怖がそこにあった。

平和な世界しか知らないアイリスには、とても受け入れられない世界がそこにはあった。


そこからは夢見する回数も減り視界もぼやけ、しばらくすると夢を見ることもなくなり自然とアイリスの意識から消えていった。



(ジーク)と出会うまで、彼女(アイリス)は止まっていた。



その時から彼女の中で何かが目覚めたように感じた。

初対面の筈だったのに、アイリスは入学式に現れたジークを見て、思わず泣き出してしまった。

それでサナがジークを敵視して何度か揉め事も起きたが、アイリスはジークの側にいるようになった。


しかし、そんな彼女の行為を煩わしく感じたのか、学園に入学してから一年が経とうとした頃、彼女はジークから避けられるようになった。

その結果彼女の中に生まれたのは、かつてない喪失感と彼に対する重度の依存症だった。何か薬か魅了でも掛けられたのでは、とサナが不安気に思ったが、事実を知ればあながち間違っていなかった。


劇的な変化が起きたのは、彼女が告白しようとした時だ。

次第に膨れ上がっていく不安から抜け出そうと、心の準備など考えず踏み込んで……。


そこでアイリスの中にいる彼女(・・)がこれでもかと反応を示した。

だが、それは拒絶からではなく彼女も同調して、過剰に反応を示してしまったのだ。


そして暴走した。

アイリス自身は記憶にはない。

だが、中にいた彼女は嫌と言うと覚えて、以降アイリスに干渉することを極力避けるようになった。

ジークが学生たちに虐められても我慢して、出てこうとしなかった。

同じ失敗を繰り返したくなかった。



繰り返したくなかった。

繰り返したくなかったのだ。


だけど……。



(ジーク)と繋がっている彼女は、怒りと絶望の奥にある苦しみを、寂しさを無視することができなった。



だから。


「お願いします。力を貸してください、アティシアさん」

『うん、任せて』


彼女と一緒に彼を助けに来た。



◇◇◇



「だから助けるよ。今度こそジークを」

「……」


『お前は……』


アイリスを通して(ジーク)の精神世界に彼女がまず見たのは、真っ黒な世界と降り注ぐ雨、そして膝をついて俯くずぶ濡れのジークと……。


「久しぶり……は、少し違いますかね。もう見ないと思ってましたが、まさかこんな場所で再会することになるとは」


彼女にとっても因縁が深い相手。

野獣の如き眼光をこちらへ向けて、男は探るような声音で告げる。


『あの時の小娘か』

「その節はどうも……って言っても貴方は偽者ですよね。記憶と結び付けて魔眼が生み出した幻の」

『……なら、知ってるだろ? オレを消さない限りこの男の悪夢は消えん。憎しみも止まらん、希望も生まれん。見ろ』


そう言うと男は俯くジークの頭を掴み、光を失った彼の面を持ち上げて見せる。


『これがかつての英雄の成れの果てだ。今更こんな男にいったい何を期待する? ああ?』


挑発するように掲げて笑みを浮かべる。

瞬間、見ていた女性から鋭い殺気が刃の如く噴き出す。男の躰を貫くように全身を突き刺した。


「離しなさい。いますぐ(・・・・)


女神のような顔立ちからは想像も付かない剣幕。

次の男の行動次第では、たとえこの精神世界(場所)でも黙ってはいない、といった目で男を睨んでいた。


『ハハッ強気だなァ? あの戦いの原因となった娘だけはある』


ハッと馬鹿にするように笑うとジークの頭を放り捨てる。

ゆっくりとした歩行で彼女に近付くが、女性は怯んだ様子は見せず、真っ直ぐな眼差しで受け立つ。



そして……。


『……好きにしろ』

「……え?」


これから死闘が始まるだろう。

そう確信して身構えた彼女だったが、男はつまらなそうに溜め息をつくと女性を素通りして闇の奥へ消えようとする。


だが、それは。


「最初から……消えるつもりだったの?」


まさかといった驚きの顔で彼女が背を向ける男に尋ねる。

男は言わば元凶である魔眼が生み出した存在。彼女がこれからすることを見逃すとするなら、それは存在の消滅を意味しており、男もそれを望んでいたと言うことに……。


(────っ!! この場にいるこの人は、あの《鬼神》だけどジークの世界で生まれた《鬼神》でもある。私のように(・・・・・)彼を通して外の世界を見たり、彼の気持ちや記憶を四年近くも見てきたのなら……!!)


よく見ると以前と雰囲気も違う気がする。悪意の塊のある筈の相手を前に、彼女は困惑した様子で見つめると、男はハハッと苦笑地味に笑い飛ばして、立ち止まり僅かに振り向いて、横目だけで彼女に吐き捨てた。


『単に飽きただけだ。もう十分暴れたからな……満足さ』

「それはあなた自身の意思? それとも彼の願い?」

『さぁな。……ただ、アイツは敗北を望んでいた。それは本当だ』


横目で俯くジークを捉えて、男は獰猛そうな顔とは裏腹に、眠たそうな覇気のない表情であった。……ほんの微かに別の感情の色が見え隠れしているが、未だに動揺している彼女に、その違いを見極める余裕など皆無であった。


『そしてその望みは叶った。こうしてお前がここに現れた時点で決着は付いた』

「それでもジークが正気に戻るの」

『戻るさ。アイツは単純に選ぶのを恐れてるだけだ。お前のような導きが必要なだけさ』


次に女性へ視線を移し確信ある声音で言うと、止めていた歩みを進める。


『答えは決まった。後は煩わしい迷いを消せばいい』


闇に溶け込み姿も消えていく。

最後にもう一度、俯いているジークを一瞥する。


『いいか、光も闇も、正義も悪も表裏一体、どちらもお前だ。包み隠そうが、惚けようが決して逃れることはない。かつてお前は光でも闇でもあり、正義でも悪でもあった。……化け物を殺せる化け物となった』


彼からの返答だとない。


『受け入れろ、それがお前だ。全部その力の所為にするなら、いつまでもオレに頼るな(・・・・・・)


去り際にそう言い残して男は姿を消した。

魔眼から生まれた存在とは思えない程、ハッキリとした自我を持ったそれは、彼の負の象徴として彼の真奥深くまで居座っていた。


が、彼女が同じように彼の真奥に入るや、あっさりその座を明け渡し闇の奥へと姿を消したのだった。



◇◇◇



「お……て……ーク?」


(聞こえる)


思考が沈み呆然とする意識の中。


「起きて?」


(だれだ?)


無限に等しい闇の世界で。

底のない深き水の中へ沈む。

ジークの耳に届くのは、懐かしさを感じさせる女性の声。

だが、そこまで行き着いてもその声の主が誰なのか、ジークには分からなかった。


それよりも。


(はぁ……疲れた)


体の感覚がなく上か下かも分からない状態で。

脱力するような倦怠感を。

重くのし掛かる疲労感を。

これまでにない程、疲れ切った精神状態の中、ジークは鈍い思考で何が起きたかと頭を回してみるが。


「起きてジーク? みんなが待ってるよ?」

「みんな? ……そうか」


女性が誰のなのか認識する前に、この異常な事態を他人事のように理解する。

同時に異様な倦怠感と疲労感にも納得がいった。


(あの時と同じだ。暴れた挙句、何も晴れなかったあの時の感覚)


理性の欠片もなく暴れた化け物の存在を思い出してジークは笑う。

それが自分のことだと知っていながら、彼は現実味を持てず他人事のような気持ちで受け入れていた。


「何がしたかったんだろうな……俺は」

「何がって……はぁ」


自然と言葉を零す彼を見て、彼女は溜め息を吐き雨が降り注ぐ闇の空を見上げる。


どうやらこちらのことをハッキリと認識できているわけではないようだが、何をしたのかは覚えている様子のジークに、女性はとにかく会話しようと続けた。


「まるで泣いているみたい。向こうじゃ全然泣かなかったくせに」

「……かもな」


まったく素直じゃない。

そう口にするが、膝をついて俯くジークは殆ど反応を見せない。

彼女がいること自体、本当に気付いているのか疑わしいくらいだ。


「これが貴方の本心? 泣きたいのを我慢して心の奥に引き篭もって居たかったの?」

「……かもな」

「この闇の世界は貴方そのものだけど。結局貴方はどうしたかったの?」

「……さぁな」

「……ねぇ? 本当は分かってたんでしょ?」

「……なにが?」


だが女性はろくに反応を示さないジークを前にしても話すのをやめようとはしない。

会話に興味を持ったか分からないジークの疑問の声に、女性はその心に届かせるように告げた。


「こんなことしても貴方の望みは叶わない。全部無駄って」

「……っ」


僅かな反応。

ピクリと肩が微かに動いた。


「貴方が許せないのはこの世界のルール。神が作り出した世界を維持させる為の破壊と再生のルール」

「……れ」

「人と魔物と精霊の歪だけど共存された世界のサイクル。あの戦争そのものが人のサイクルの為だと知って貴方は絶望した」

「だ、ま……れ」

「だから自分が神に成り代わってこの世界を収めようとした。けど、貴方は……」

「黙れッ!!!!」


そこでようやく顔を上げたジーク。

呆然とした顔から一変して、怒気が満ちた表情で話し続ける女性に叫ぶと鋭い視線を彼女へぶつけ、そこで初めて彼女の顔を見る。


「お前に……お前に何が分かる!!」


が、光も刺さない闇の中ではその表情どころか、顔付きもよく分からないのが自然だ。さらに彼が無意識に拒絶しているのか、顔の周りは影が射して分かるのは、薄っすら見える水色の髪と女性用の魔道服だった。


しかし、そんなことはもうジークにはどうでもよかった。

激昂した時点で目の前にいる者が誰なのかなど、頭に入ってなかったのだ。


「分かってんだよ……!! 俺が神になったって何も変わらないことなんか……!!」


と同時に降り注いでいた雨の勢いが増す。

豪雨といっていい程の勢いでジークと女性に向かって降り注がれる。

それが彼の感情の揺れだと理解している女性は、一歩も退く様子を見せず彼の視線を真正面から受け止めた。


「俺は陛下から極秘任務を受けてた。内容は戦争の発端となった誰か或いは、組織の調査だ。戦争が終わった後それを調査していた……だが!」


辛そうに歯切りして歪むジークを見て、そこで神と接触したのだと女性は察した。

そしてさっき彼女が口にした真実を、彼もまた神から聞かされたのだ。


「納得できるかッ!! 世界のバランスを保つ為に戦争を引き起こしたなんかッ!! しかもそれが神だと(・・・)? ふざけるなッ!! 何が神だ!! 何が世界の安定だ!! そんなもの認められるわけがないだろうが!! そんな取り決めの為に何人犠牲になったと思ってんだァッ!!」


「……」


彼女が察した通りジークはすべてを聞かされた。

聞かされていくうちに失っていった仲間たちのことを思い出す。

許せるはずがない。認められるはずがない。


仲間や彼女の犠牲が神の作ったルールでの結果など。


「すぐに殺してやろうとしたが、できなかった。奴を殺すには神の試練を受けるしかなかった。だから……だから俺は始まりの原初を手に入れて神を!!」


「それで神を殺しても何も変わらない。迷って混乱して精神的疲労が蓄積した貴方は壊れ出しただけでなく、未完成で危険もあった魔眼に逃げた。すべてを魔眼に溜まった憎しみの所為にして貴方は闇に逃げた。逃げ出した(・・・・・)


「っ」


神のルールが許せなかった気持ちは分からなくもない。

なのに彼女が彼の行いを責めるのは、彼に認めさせる為だ。

僅かでもそんな希望と言う名の闇に縋ろうした彼の行いを、彼を愛した彼女はそれを許すわけにはいかない。


「そうやって何もかも投げ出して、貴方は満足するの? しないでしょう? 絶対」


彼を知る者は彼を同情するかもしれない。

だけど、彼女はそんな彼のやり方を認めるわけにはいかなかった。


「あの戦いで仲間を失ったのに、貴方はまた仲間を失うつもりだったの? あんな危険な魔法に頼ってリスクがないと考えなかった?」

「ち、違……俺は」


そもそもあの魔眼の存在を知ったのは、戦争時でかなり後のことだった。

感情を削ぎ落とし吸収する魔眼。危険はないのかと当初は不安だったが、ジーク自身がより戦い易くする為に作り出したものだと押し通された。


そしてその不安は的中。

彼の魔力と相まって魔眼の力は異常なほど上昇し彼を狂わせた。


「すべてを壊してどうするつもりなの? そんなことしたって何も戻らないし、貴方自身満足する筈ないしょう? 憎しみだって魔眼で歪んだ影響が大きいし、なによりあんな存在(・・・・・)まで生み出して」


あんな存在。

何を言われているのか、すぐには察することができなかったが、この空間のことを考えれば、誰なのか少し考えれば分かることだった。


「暴走抑制する為の魔眼でもあったが、気付いたら加減が全然利かなくなってた」

「やめるべきだった。感情の完全制御なんて無茶が過ぎてた」


その結果魔眼は彼の深層意識を覗いて、悪夢の象徴であるあの男を生み出した。

そして導かられるように彼は暴走して暴れ尽くしたが、師たちの協力によって討ち破られた。


「正直に言うならどちらでも良かった。神を倒して神になって失敗しても、闇に堕ちて世界を滅ぼしても……もう流れに任せてた。疲れたんだ俺は……神の試練も人としての試練も」


まだ完全には消滅し切っていないが、今のジークの様子を見る限り再び暴走することもないように見える。

結果敗北したが、ジークとしてはそれも良かったと思ったのが本心だった。


「で、最後の悪足掻きも失敗に終わったけど……どうするの? これから?」

「ああ、どうしたものかな……」


尋ねられたが、逆にジークが問い掛けたかった。

自分のことであるのに彼にはもう、どうすればいいのか分からなくなった。

迷いを振り切るつもりで憎しみに支配されてみたが、覚めて仕舞えばこの様だ。


結局のところ彼は理性のままでは何も壊すことが出来ず、魔力と魔眼の力に頼ったが、それでも本質までは変わることが出来かった。


破壊衝動に支配された怪物の仮面をただ被っていただけだった。

その仮面が割れれば本来の彼しか残らない。

殺し合いを望まないかつてのジークしか、残っていなかった。


だから彼女は告げる


「あの男が言ってた。貴方は本当は負けたがっていたと、選ぶのを恐れて私たちに選ばせようとしたと」


そして導く存在が必要で彼女が導けとも。


「今その選択は終わったのなら、今度は私たちの望みを叶えて」

「……望み?」


女性は既に居ない存在だ。

本来なら関わるべきではない。


「貴方の闇じゃみんなを壊せないのは証明された。貴方は神の試練を自分の憎しみで埋めようとして失敗したの」


だからこの一度だけ。彼女は引っ張って行く。もう次はないと心に決める。


そのあとは彼女らに任せよう。女性は内心そう呟く。

脳裏にいる大事な妹(・・・・)の「え? ええ!?」といった焦った顔を想像し笑いそうになるのを堪えると、女性はまた呆然と膝を付いている彼の服の襟を掴んで強引に立たせる。


「さぁ、立ちなさいジーク!」

「っ!?」


戸惑う彼の顔を目の前まで引き寄せる。

まだ女性が誰なのか分かっていないジークは、目を白黒させて影から僅かに見える清楚な印象のある女性の顔を見たところで何かが脳裏に過ったが、その前に彼女が動いた。


「いつまでもシィーナさんや私の可愛い妹を困らせるなっ! 四年前とは違うの! もう自分のことは自分でしっかりしないとダメでしょうが!!」

「だ、だから俺は神────」

「カミカミ煩いっ!! ウジウジ悩んでた癖して何が神様だ!! 神様なら自分のやることくらい自分でハッキリと!! 悪いことも良いことも、ちゃんと何がいけないか考えなきゃダメだってこと!!」

「他の選択の余地なんか……!!」

「なんのための仲間!? どうしても決められないなら相談しなさいよ!! それともなに? 貴方にとって愛した人以外は、師でも仲間でも信用できないの? なのに厄介なところで決めさせようとしたの? いい加減にしなさいこのバカっ!! 四年も経ったのに中身はまだ子供か!! 自分の進む道くらい、最後は自分で決めなさい!!」


まるで子供を叱る親のようだ。

尚も迷い続ける彼の思考を吹き飛ばすように、女性は思いの丈を彼にぶつけていく。


「分かったらさっさと戻って、今までの清算をして来なさい!!」


そして小さな拳を握り締める。

とうとう目が点になっている彼と、いつの間にか止んだ雨と薄れていく闇の中。


「あっちは今大変なの! 誰かさんが予想以上に暴走してる所為で!!」

「いや、流れからして誰かさんって絶対俺のことだよな!? ────え、ていうかお前は」


次第に太陽のような光が点し出す世界で、彼女の顔から認識を阻害していた影が消えていく。


「な、なんで……ここに?」


輪郭が浮き出ていくとようやくジークの思考の中にあった靄も消え始め、いつもの彼に戻り出す。


「はぁ……まったく」


そして認識しかけて幻かと目を何度も見開いたが、その様子を見たアティシアは(・・・・・・)ニコリと微笑むと、雨で濡れた長い髪がジークの視界で大きく波を打ち。


「いいから戻りなさい!! この問題児バカァァァァ!!!!」


「アティシ────ッ!?!?」


体を軸に大きく振りかぶった彼女のげんこつがジークの前頭部に直撃。

ドンといった鈍い音が世界に響くと刹那。現実の世界に散らばっていたジークの魔力が一斉に鼓動する。


今までとは違う。ゆっくりとした優しい音を響かせて。

鐘の音ように数回鳴り終わった瞬間。





「バイバイ、ジーク」


しってやったりといった彼女の声音が彼の耳に届いた。











「気分は、どう?」

「はぁ……最悪の目覚めだ」

「ひどいよジーくん」


不機嫌ヅラ全開のジークの前に、誤魔化すように頰を膨らませて、顔を羞恥で真っ赤にさせたアイリスが待っていた。


(戻って、来たのか?)


困惑する彼だが、事態はなんとなく読めていた。

要するに……やってしまったのだ。今度は世界を巻き込むレベルの問題事を。


「本当最悪だよ。なんでいつもこうなんだろうな」


こうしてジークの暴走騒動は呆気なく、終幕へと進んだが、いつものように厄介ごとをやはりと言うか、そのままに────。




「だけど、今度は間に合いそうだ。この件だけは、全部朝までに終わらせてやる」




と、締め括ることはせず、ジークは今までとは違う決意を込もった瞳で、監獄の天井を抜き知らぬ間に赤黒から、白銀のオーロラへ変わった空を見上げた。



さてと(・・・)────まずはここからだな」



そう呟き首をコキっと軽く鳴らして、アイリスと近寄ってくる面々に、頭を下げて謝罪することから始めた。


なんだが違和感がある部分が多数あるかもしれませんが、言い訳させてください。


作者的にこれが限界でした!! 技量不足が非常に目立って泣きそうになる(汗)。


あと2〜3話ほどでこの章を終わらせる予定です。

なんとか今週の土日に出したいとは考えてますが、正直来週か再来週になってしまうかもしれないので未定とさせていただきます。

前回も言いましたが、無駄に長々と続くこの『オリジナルマスター』にお付き合い頂き大変感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます!!


正直今年中に完結して次のやつを頑張りたいなぁー、という気持ちもなくもないですが、そこはキッチリと終わらせれるようにしたいと思います。

今後もタイトルだけは無駄に大仰な『オリジナルマスター』をどうかよろしくお願いします。


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