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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
189/265

第21話 世界の異変と隠されていたモノ。

その頃の各地での話です。


ジーク・スカルスが魔力暴走を起こしたその時。

各地でも一斉に異変が発生していた。


「っお、オイッ、アレ見ろよ!」

「な、なんだ……こりゃ!?」


聖国エリューシオンの北西部。

大戦の際、大きな被害を受けて禁止区域となった『トラキサム』。

そこで初めに気づいたのは、高濃度の魔力災害の為、閉鎖されたそこを監視していた聖国の魔法騎士たち。


いつものように不気味に漂う瘴気のような霧に包まれる街を、外から監視していた時だった。真夜中では薄く見える程度だった瘴気の霧が何かに反応したか、鈍く動悸のように発光する。


そして濃い白の霧だった街が一変。

血のように濃い赤黒い瘴気が輝き出して、閉鎖された街全体を揺るがしていた。



◇◇◇



「どうなってるこれは!?」

「ッ!? まさか異常現象か!?」


そして帝国領土全体でも同じく似た現象が発生している。特に帝都中心地では空すら覆うほどの巨大な赤黒い瘴気が埋め尽くされていた。


トラキサムのように瘴気に包まれていたわけでない帝国領土だったが、建物の奥から土地の真下……地下からも噴き出して漏れ出す。皇帝の住む城からも大量の赤黒い瘴気が噴き出して、城自体を飲み込んでしまっている始末だ。


この国がどれだけ無謀にも彼の魔力を扱おうとしたか見て分かる光景だったが、何も知らない人たちからすれば、自分たちの世界を飲み込もうとする血のような瘴気など悪夢以外の存在に見える筈もない。


「とにかく避難しないとっ! けど、どこに行けば!?」

「急いで地下……いや、地下からも噴き出している!」

「王城なんてもう真っ赤だ!! どうなってんだよ一体!?」

「う、なんか、い、息が苦しくないか……?」

「そういえば、眩暈(めまい)も……」


思わぬ異常事態に戸惑いパニックを起こす人々。気のせいか瘴気を吸い込んだ者たちの中から眩暈や吐き気の症状を訴える者が出てくる。

今のところただの人間であればこの程度で済んでいるが、魔力として吸収してしまった者に至っては、幻覚作用や魔力体が拒絶反応を起こして錯乱状態に陥っていた。


閉鎖されているトラキサムと違い時間が経てば、死人が出かねない状況であった。



◇◇◇



「なっ!? なんだ!?」


復讐の壊滅者(リベンジャー)》のスベン・ネフリタスもまた各地と同様に、彼の魔力を宿した体内が異常を起こしていた。


拠点にしていた館でアヤメ・サクラと対峙して《赤神巨人(プロキオン)》を投入して追い込み、助太刀に入ろうとしたリグラ・ガンダールを得意の呪系統で感情を操ったトオル・ミヤモトで斬り付けて押さえ込んだ。


赤神巨人(プロキオン)》の巨大な腕に捕獲されて魔力を吸収されるアヤメが、遂に愛刀の力を解放させようとしたが。


そこでスベンの体内にあるジークの魔力が暴走を起こす。


包帯の隙間から赤黒い魔力が霧のようにスベンの体から漏れ出し、宿主の周りを飛び回っていたぶっていく。


「う、制御が利かない……? そんな馬鹿な……!」


「主人っ! ……ッ! こちらもかっ!」


主人の異変に慌て出す傀儡のソフェルノだが、自身の体内にも同じようにジークの魔力があることを考えていなかった。倒れている傀儡たちと一緒に体内から魔力が抜け出していく。


そして魔力が完全に抜け切った所為か、傀儡の魔法が解除され灰となって消える傀儡たち。素の魔力にジークの魔力を混ぜ合わせたものだが、ジークの魔力が引っ張られるように素の魔力も抜けていったのだ。


「ぬっ!? 傀儡兵が……!」


必死に押し留めたことが幸いだったか、ソフェルノのみは無事だった。


しかし、多少の魔力を消失によって肉体の一部が灰に変わって腐敗していく。ボロボロに

崩れ出す肉体に見つめて、改めて主人の方へと視線を向けた。


が。


──斬ッ!!


「っ《赤神巨人(プロキオン)》!?」


その先でアヤメを拘束していた腕を斬り落とされた巨人、《赤神巨人(プロキオン)》の姿にソフェルノは驚きの声を上げる。斬られてしまった腕は綺麗に内部表面が剥き出しとなって、骨組みの部分も歪みなく見えていた。


「なんと……!」


一体何が起きたかと目を見開くが、意識を持つように宙に浮いているアヤメの剣を見れば、何が起きたか自然と理解した。


見事に斬ってみせた剣は刀身から眩い光を帯びて、滑り込むように拘束から抜け出したアヤメの手に収まると。


「……っ、主人よっ!!」


瞬きの間にアヤメの姿は消失。

唖然とする固まりそうになるソフェルノだったが、すぐさま主人の身が危ういと悟り声を上げるが。


「ッ! ……ちょっと、待っていただきたいのですがね!?」

「待ちません。何が起きたか知りませんが、貴方の術はすべて解けました」


神速の走法でスベンを追い込むアヤメが斬り付ける。

防御魔法を掛けた腕でガードして口調は冷静だったが、内心焦っているスベンを見透かして切り捨てると至近距離で魔斬術の『撫風(ナデカゼ)』を浴びせる。


「散りなさい」

「っ!!」


魔力を察知したか、眼前で揺らぐ彼女の髪で察したか、スベンは後方へ飛んで逃れようとする。腕と同じく防御魔法を掛けたローブを(ひるがえ)して盾に。


「ぐう……!」


鈍い衝撃がローブを叩き付ける。衝撃が止んでローブを戻すと《赤神巨人(プロキオン)》を操作しようと魔力を練った。……しかし。


「っ……! 操作も利かないのか」


漏れ出してしまう魔力を抑えることは出来たが、その代わり使用することもできない。《赤神巨人(プロキオン)》との操作の際、必須であったジークの魔力が使えなくなり、腕を斬られたまま不動のように佇む巨人に苛立ちの視線を送るが。


その巨人を目指して駆けるアヤメを見て、視線がそちらへ移ることとなる。

何をしているのかと目を疑ったが、次の瞬間今までにない焦った声音で静止を訴えた。


「ッ、まさか!? っ──やめなさいッ!! それは……!!」

「……!!」


だが、当然そんな敵の声に耳を貸す筈などない。

光を帯びた“天叢雲の剣アマノムラクモノツルギ”を水平に構えるとアヤメは跳躍する。《赤神巨人(プロキオン)》の見下ろす高さまで跳躍して接近したところで空中で消え──。


斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッッ!!!!


静かな室内に数え切れない程の空を切る斬撃音が埋め尽くす。


魔斬術『撫風(ナデカゼ)大鎌鼬(オオカマイタチ)』。


目に見えないおびただしい量の斬撃が不動の《赤神巨人(プロキオン)》に襲いかかる。堅牢の如く強固に出来た赤き金属の皮膚を斬り付けていき、全身にいくつもの斬撃の跡を残していく。


腕のように真っ二つにはなっていないが、斬撃の跡は赤き鎧を削り取っており、その堅牢ももう崩壊寸前であった。


「貫きます……」


そこから動かずにいる巨人へ静かに剣先を当てる。


両手で剣を握って突きのように体勢を取って、剣先へ気と魔力を合わせた魔斬の力を集中させる。剣先が風が集まり一際光出して大きくなっていくと、巨人の鎧の腹を貫通する魔斬術をアヤメは繰り出した。


魔斬術『穿風(センカゼ)破城槌(ハジョウツイ)』。


溜め込まれた光の風が爆発。

巨人の腹部を抉り取るように光の暴風が発生して、《赤神巨人(プロキオン)》の上体を風圧で倒す。アヤメの光の暴風を受けた《赤神巨人(プロキオン)》は胴体を剥き出しにして、そのまま動かずに腹から煙を……いや。


「な……!?」

「ッ……しまった」


それを見てトオルに斬られ倒れていたリグラは驚愕する。アヤメの攻撃を防げなかったスベンは舌打ちをして足を止める。表情は窺えないが、怒りで握り締めた拳が震えてと満ちていく殺気を感じると。


「なるほど、そういうことでしたか……ふ!」

「っ! ……ぐあ!?」


そこでただ一人得心した顔で剣を振るったアヤメの見えない剣圧を受けて、リグラを見張っていたトオルが飛ばされる。壁に叩き付けられ気絶したトオルの後に起き上がるリグラだったが、その視線はずっと《赤神巨人(プロキオン)》から漏れ出している物へ移っていた。


信じられない目で剥き出しとなった巨人の心臓部に収まっている、巨大で濁った魔石からも魔力が漏れ出していた。

しかも、その色はリグラも知らない憎しみで歪んだ彼の魔力。

傀儡たちやスベンからも漏れ出していた赤黒い血の色をした魔力。


いつの間にかジーク・スカルスの魔力を込めた魔石を動力源としていた《赤神巨人(プロキオン)》もまた、同じように暴走して停止していたのだ。


それを難しい顔で見るリグラだが、傷の痛みで辛そうにしている。

アヤメも静かに激情しているスベンに警戒しつつ、巨人から漏れる魔力にも注意するが、……冷静な分、彼女の方が先に気が付いた。


「う……どうして《赤神巨人(プロキオン)》からも同質の魔力が……?」

「それこそがこの者たちがゴーレムを操れた理由なのでしょう。それにしてあの魔石、何か妙な──ッ……知将」

「く……な、なにかなアヤメ君?」


喋っている途中で頰をピクリと動かし、魔石を見て何かに気付きリグラに声を掛ける。視線も向けずスベンに固定しているが、その表情はトオルの時と同じくらいに焦りを感じさせて、急ぐように続けた。


「すぐに王城に知らせてください。彼らの黒幕は恐らく、内部に潜り込んでいるとっ」

「──!! まさか……!」


痛みで頭の回転が鈍ってしまっていたが、その言葉だけで彼女を何を知らせようとしているか察して、痛みを堪えていた顔が固まる。あっという間に脳裏で整理されていく情報の先を認識して、使おうとしていた通信石をオンする。


「聞こえるか!? 誰か応答してくれっ!」


だが、通信しているのは待機するクロウたちではない。

今作戦の為に王城の研究所で《赤神巨人(プロキオン)》を見張らせていた者たちだ。


そして通信を送っている先は三つ。


王都エイオン騎士団長 第一王女のカトリーナ・エリューシオン。

エリューシオン剣術継承者にして気の扱いに関しても王都随一の使い手。Sランク級を超えてSSランクに匹敵する領域に立ち、王都エイオン騎士団の次期総団長候補でもあった。



王都エイオン総団長 ゼルダード・クラム。

かつてはSSランク級の《剣聖》と呼ばれ、帝国の若き《鬼神》とも互角の実力を持っていた騎士。今でも総団長の立場にいるが、ほぼ相談役の立場として活躍している。しかし、その実力もまだまだ衰えてはおらず、少なくともSランク相当と予想される。



そして老魔導師のクロイッツ・ガーデニアン。

ゼルダードと同じく世代でSSランク級の王都直属の魔導師部隊の総隊長だった老師。《大賢者》とも呼ばれて若き《鬼神》とも何度も対峙し合ってきた。《魔導王》のシルバー・アイズが出てくるまでは、彼こそが最強の魔導師として世界から認識されていた程だった。



他にも信頼できる騎士団長と副団長も加えた精鋭部隊で護らせていたが、その護りも虚しく《赤神巨人(プロキオン)》はこの場所に転移されて来た。


しかも、その巨人の体内にはスベンたちと同じ、謎の魔力が込められた魔石にすり替えられている。それはリグラが集めた情報には入っていないことで、この場にいる黒幕と思われていたスベンでも不可能なことだ。


(抜かった!! まさか裏切り者が……! いや、アヤメ君の言う通り主犯がいるのか? だとすればいつから潜入していたか。考えたくないが、スベンが前から《赤神巨人(プロキオン)》の計画を知り得てリヴォルト(協力者)たち以上に把握していたとしたら……!)


つまりそれは──。

不安を浮かべて焦りを募らせて呼び掛ける。


「……!」


しかし、誰からの一切の応答もなく、それこそが彼の不安が的中していたことを意味している。


リグラは気付いていないが、外ではスベンが撒いたジークの魔力の霧が視覚化して、トラキサムや帝国程ではないが、薄い赤黒い霧が発生している。深夜の為に異変に気付いた者は少なく、暗闇で気のせいかと勘違いしており、まだパニックにはなっていないが。



それも時間の問題なのは明らかであった。


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