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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
188/265

第20話 壊された器から出てきたモノとは。

後先考えず続けて更新します。

やっとゴール地点が見えてきた感じです(汗)



「どうなった?」


ジークの頭部に強烈な一撃を加えて一度距離を取ったギルドレット。

気と魔力だけでなく六枚羽の“天の羽衣(アマノハゴロモ)”の推進力を加えた一切加減のない、手応えある一撃だった。


普通であれば即死してもおかしくない。現に頭部をやられて大きく上体を傾けてジークは倒れそうになっていた。


しかし、その倒れる寸前。

意識が確実に途切れたと思えた次の瞬間。


片方の瞳がゆっくりと動いて、倒れていく上体とは逆にギルドレットを捉えていた。


いつの間にか変色した金色の輪郭と鮮やかな銀色の瞳孔となった瞳で。


第三の魔眼『永劫不滅な銀の幻想(ザ・ヴィジョン)』が片目だけ開眼して、距離を取ったギルドレットを─────



覗き込むように見ていたのだ。


────ゾクッ


「──っ!!」


瞳があった瞬間、今までとは違う凄まじい悪寒が背筋に走った。


無意識に飛翔する。空中まで逃れていたギルドレットは、ジークの視線からも逃れようと翼を広げていた。


「目覚めましたね」

「ッ! なんだ、アンタか」


そしてちょうど側まで来ていたシィーナに気付くと、若干強張った笑みで殴った拳の中に入っていた物を振って、苦笑混じりに視線を送る。


「ちょっとやり過ぎたか? アンタの言った通りこいつを(・・・・)打ち込んだが、どうやら相当効いたみたいだぞ。大丈夫かあれ」

「何を見ているかは(・・・・・・)本人次第ですよ。ただその魔道具が見せるものは、彼が最もトラウマとして抱えている悪夢の記憶。それを引き出して彼自身の精神空間で見せるものですから」


魔法効果を失った十字架の装飾をした魔道具。

アイリスに持たせていた物と同じ対象に強力な幻覚を見せる物だ。


そう、ジークが見ている悪夢とは、シィーナが用意した魔道具による影響だ。そもそもシィーナの最初に立てた作戦では、アイリスの前でその悪夢を見させることだった。


しかし、ジークとは相性の良い竜王のソードや、最悪アイリスを庇う覚悟で挑んだバルトさえもあしらった為に、こうして最後の手段でもある総戦力で仕掛けるしかなくなったのだ。


最もこの作戦の場合、同じSSランクのギルドレットの存在は必要不可欠だった。どうにか交渉して参加してもらえたが、最悪勝算が薄いシィーナ自身がギルドレットの代わりにジークの相手をしていた。


『星属性』という希少かつ強力な派生属性を所持していても、あらゆる属性を使うことができるジークの前では無力に近い。相性の問題で使えない属性もあるが、所詮魔法戦ではジークに勝てる魔法師は存在しない。



神の魔力、神の属性を持つ彼の前では魔法使いのシィーナでは、とても勝ち目はなかった。



「話の通りオレも知らない魔眼が開いたようだが、何だあれは? 眼が合っただけでブルッたぞ」


「私の魔道具の影響で出てきたんです。あれこそが彼が保有する第三の魔眼『永劫不滅な銀の幻想(ザ・ヴィジョン)』……。修業時代ではなく大戦時に編み出した心を欺く瞳(・・・・・)

「どういう意味だ?」


様子を窺っている状況で聞くべきではないが、事前に聞かれた以上の不気味な銀の瞳。

シルバーの姿の際に見せていた瞳とは明らかに違い、銀でありながらどこか暗く寒気を感じさせる。今はともかく昔は活発な少年だった彼からは想像できない冷たい瞳だ。


「シィーナさん、いったい彼の身に何が起きてるんですか? アレはただ魔力が原因という訳ではないですよね?」


少年時代の彼を少なからず知っているギルドレットやティアからすれば信じられない姿だ。

勢いよく距離を取ったギルドレットに不審に思い駆けつけたティアもまた、彼と同じようにシィーナの言葉に耳を傾ける。


「我々が見張るしかないな。ゼオ」

「承知した」


代わりにシャリアとゼオが体勢が戻り俯いて硬直するジークを見張る。


本音ではシャリアもシィーナの話を聞いてみたいところだったが、予想外に取り乱したギルドレットが復帰するまで気を抜く訳にはいかない。得意の光魔法を控えさせて未だに固まっているジークに注意した。


「魔力が原因なのは合ってます。しかし、最大の原因は他にあります」

「それがあの魔眼だな」


シィーナの言葉を聞いてギルドレットがそう切り出す。

半ば予想していた答えだった。あの不気味な魔眼を見た時からギルドレットの警戒はその眼に移っていた。


「あれは彼が殺しに対する躊躇いを無くす為に編み出したもの。その能力は使い手の感情の一部を奪うことでその分、精神力を限界まで引き上げることができます」

「感情の一部を? 精神系の魔眼か」

「はい。私も知らないもので極めて謎が多い魔眼です。彼自身も打ち明けてはくれませんでしたが、仲間の魔眼ととある協力者からの情報を合わせた結果、そういった能力だろうと判断しました」


そして協力者とは彼の母でもある神だ。

常にジークを監視していた彼女は彼の魔眼についてもある程度は知っていた。


逆にその魔眼で相手の精神を壊すことも可能だ。逃走中であった『ウロボロス』を所持していた《黒蛇》もそれで破壊したのだ。


「ですが、その感情を奪うという効果に問題があったんです。彼は殺しを確実にできるようにと、悲しみや憎しみといった負の感情を奪い続けましたが、奪うといってもそれには限界が存在していた」


感情を奪うということは、その者の人格、精神を削ぎ落とすことと同じである。大戦時のあの時まで魔眼の効果を発動し続けたが、その限界も彼の心が折れたのと同時に訪れてしまった。


「その限界の器を壊す鍵は、許容できない強烈な悪夢。簡単に言うなら敗北と絶望……。この条件を聞けばあなたでも分かるはずです」

「──鬼神との戦いか!」

「っ!!」


同じく聞いていたティアが辛そうに息を呑み中、苦々しい顔でギルドレットが拳を握り締める。脳裏であの戦いの結末を思い出してか、握り締める手には汗が溜まっていた。


ジークを除けばあの場で生き残った、ただ一人の人物でもある彼だけは知っているのだ。

敗北と絶望の先で立ち上がったジークが見せた姿を。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』


死の属性を纏った阿修羅の如き鬼神に掴みかかり、憤怒に歪めた形相で魔力を暴走させて鬼神の肉体をバラバラにしたのだ。


傷付けることが不可能だった筈の鬼神の肉体だったが、腕が引き千切られ、脚をもぎ取られ、各臓器を潰され、顔の原型が留めれないほど殴られ、最後は死体のように動かなくなった鬼神へ。


『消えろッ! 消えろッ! 消えろッ!! オレの前から消えろォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!』


憎しみの赤色と絶望の黒色が混ざった属性も判断できない。濃く黒い血のような剣となって『イクスカリバー』も凌駕した巨悪な形状をした、剣先から放たれた特大の濃い血色の光線が────。



「大丈夫ですか?」

「っっ……ああ、すまん」

「いいえ、そういえば……あなたは見たんでしたね。彼の怒り────いえ、《消し去る者(イレイザー)》の怒りを」

「……ああ」


そうして頷いていつの間にか冷や汗をかいてた額を拭うギルドレットに、シィーナは首を振って悲しげな表情でジークの方を見ると。



「…………」



意識が戻ったか、血塗れとなった顔を上げて感情のない瞳でこちらを────師であるシィーナを見ている。

ゼオとシャリアが警戒しているが、一切目を向けることもなく、片目だけ変貌した銀の瞳で見つめていた。


「四年前、彼は抑えていた負の感情を解放させて、その感情に魔力が共鳴したことで『トラキサム』が滅びました。ですが、今回は前と違って圧倒的に抑えていた期間が長いんです。そしてこの四年間、彼は一度も魔眼を解除してない。溜まっている負の感情は桁外れに多いんです……! もう、限界ギリギリの筈なんです!!」


徐々に声が上がっていくシィーナの言葉に、ティアもギルドレットも予想以上に深刻な状況なのだと察する。同時にシィーナたちが急いでジークに仕掛けようとした理由にも理解できた。


これこそが敵の狙いだった。

その暴走寸前のジークの精神状態を知っている何者かが、彼を王都を滅ぼした重罪人に陥れようとしていた。だからシィーナたちは急いだのだ。敵よりも先にその憎しみをどうにかする為に。


「敵の思い通りにはさせません。彼は私の弟子あり、アティシアが守った命です!」


シィーナはそれを予知して限界まで様子を見ていた姿勢を崩した。


「絶対見捨てたりしません」

「あ、あ……」


彼の憎しみの対象となって殺されてしまうことになっても、彼を助けたいと願ったのだ。

それにここには王都の総戦力が十分出揃っている。漏れ出した彼の魔力で崩れ出した床を見て、地下の監獄の強度に対しては少々不安になったが、最悪の場合でもこの王城中であれば防げる筈だ。


「こちらも四年間、対策を練ってきましたから、最悪被害はこの監獄だけに留めてみせますよ」

「シィーナさん」


決意に満ちた顔のシィーナを見てティアが彼女の並々ならぬ覚悟を察する。たとえ自分が死んだとしても、彼だけは絶対に助ける。その覚悟はかつて死にかけた彼を救ったあの女性とも同じものだった。


「来なさいジーク」


そして何かを抑えるように苦しむジークに目を向けてシィーナは告げる。

奥底に眠っているであろう存在を刺激するように。自分を囮にしてそのモノを呼び起こす。


「あなたの敵なら……ここにいますよ」


「ア、アアア、アア、────ッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


そして理性の鎖が解かれたジークが雄叫びを上げる。

右目の銀色が鈍く輝きを見せると彼の全身から、かつてギルドレットが目撃した濃い血のような色をした魔力のオーラが噴き出す。


「あ、あの魔力の色は!?」

「下がってください」

「シィーナさん!? 何をっ──」


突如噴き出した魔力を見て驚愕するギルドレットだが、そんな彼を前に出るようにシィーナが前進する。後ろでティアが驚いて叫ぶが、彼女は両手を広げて周囲に光の魔法と異なる星のように輝く球体を生成させる。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


そしてジークもまたシィーナに仕掛ける為に放出される赤黒い魔力を利用する。それが推進力の代わりとなって、全身から噴き出して彼を浮かせる。


高濃度の魔力のオーラを纏って一直線に上空に浮く、師へと襲い掛かった。




◇◇◇



(……そういうことか)


上体どころか片足立ちで倒れる寸前から、ジークは再び意識を取り戻していた。

視界も元の状態に戻って目の前でギルドレットがいたので、ついそちらへ目を向けたが、その途端凄い勢いで飛び離れられてしまい内心首を傾げていた。


だが、それよりも自分の心理状態は今までとは明らかに異なっていることに戸惑い、頭部から血が漏れ出す中でも、よりクリアになった思考で冷静に状況を分析することができた。


時間はそれほど経過していない。コンマ数秒にも満たない時間の中での記憶の邂逅。

その僅かな時間の間で彼の脳裏に過ぎったのは、忘れかけていた悪夢。


“楽しみはもう終わりだ!!”


そして思い出す。

奴の声。これが恐らく鍵の一つだった。

あの男との戦いこそが、彼の呪縛。抑えられていた物の正体。


“絶対に死なせない”


彼女との最後もそうだ。

あの時のことこそ自分自身にとっての絶望の形そのものだ。

失うことへの恐怖の象徴で彼のトラウマだった。


だが、こんな都合よく抑えていた記憶が開くとは考えられない。頭を殴られてタイミングよく覚醒するなどあり得ないことだ。


「…………は」


そこで頭部に僅かに感じる自分の魔力とは違う魔法の痕跡に気付く。よく知っている魔力であり何をしたかは、あの記憶を見た後なら容易に想像がついた。


「ふ、ざける、な……」


まるで人の心を荒らされたような気分だった。

師匠が何を考えているのか、そんなことはジークには分からない。

しかし、こんな師のやり方に、人の心情を無視したやり方に。


「ああ……許せないな」

「っ……ジーク?」


そんな呟きが聞こえたか、シャリアが顔色を窺うように見てくるが、ジークは見向きもせず呆然とした瞳で浮いている師匠を見つめ……。


「許せ、ねぇ……」

「──!! 下がれゼオ!!」

「……ッ」


様子が変だと聞き耳を立てたことで、今度こそ彼が何を呟いたか理解したシャリアが叫ぶ。遅れてゼオも後ろへ飛んで『神の大鎚(ミョルニル)』から雷を発して警戒する。


「う、うう……」


しかし、そんな二人のことなどまったく意識すら向けておらず、ジークは体の奥底に眠っていた何かが出てくるような衝動に落ち着かず戸惑っている。右目の魔眼が浮き出ていることにも気付くことなく制御が利かない衝動に周囲の音も聞こえなくなる。


“ハハハッようやく理解したかァ……そうだ。すべてお前の所為だァ。お前が弱かった所為でこうなったんだ”


“オレが幻だからなんだァ? そんなオレを生み出したのもお前の弱さだ”


“誰も殺しなくないなんて嘘だ。お前は本当はすべてを壊したい。愛した女を奪ったこの世界を────こんな茶番劇を作り上げた神を殺したいのさ”


“オレを殺した時を思い出せェ! あの時お前はただ眼前の敵を消し去ろることに意識を集中させていた筈だァ!!”


だが、その代わりに脳裏の中ではあの男の獰猛で楽しげな声が響き渡る。

こいつこそがジークの魔眼の影響で生まれた副産物でもある悪夢の塊だ。これまで長い間ジークの中で溜まり続けた負の感情の集合体だった。


“さぁ暴れろッ! 怒りのままに憎しみのままに暴れ尽くせッ!!”


“何も我慢することはないだろう! お前も気づいている筈だ!”


“敵は……お前が狩るべき敵はお前の目にしっかり映っているぞッ!!”


「あ、あ……」


次第に意識が黒い感情に塗り潰されていく。それは憎しみであり殺意だ。

それに反応して奥底にある魔力の源が刺激されているのが分かる。


危険だ。

極めて危険過ぎる状態だが。


視線を師へと向けた影響で彼女の声が透き通るように彼の耳に届く。

良くも悪くも彼女の方は覚悟が決まっていたのだ。



「来なさいジーク。あなたの敵なら……ここにいますよ」

「ア、アアア……」



彼女の言葉を彼の思考がが理解するよりも早く、彼の奥底に眠っている感情の器が割れる音がした。決して砕けてならない大事な器。


その中から一気に溢れ出すものは彼が抑えていた負そのもの。


それがすべて殺意へと変わって、同じく真奥に眠っている無限に近いの魔力の源《消し去る者(イレイザー)》が共鳴を起こす。常時抑制されているジークの術式を突き破って────。



「ッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」



憎しみに染まった濃く赤黒い魔力となって解放される。魔力を抑える効果がある石で出来た床が奔流に呑まれ砕けていく。周囲の床も赤黒い魔力が染み込んで徐々に粉状なって崩れ出していた。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「──っ」


僅かに残っていた理性が崩壊して憎しみのすべてを師という敵へ注ぐ。暴風のように荒れ狂う魔力を全身から噴射させて飛び、一直線に敵であるシィーナに飛びかかった。



◇◇◇



──“ダメっ! 戻ってジーク!!”


「──!!」


アイリスの胸の奥で誰かの悲鳴が木霊する。

瞬間、彼女の心の内に急激に膨れ上がる感情。それも自分のものではない別の誰か。

だが、それでもハッキリと届く悲鳴の中には、彼女が好きになった者の名があったのを、確かに感じ取ったのだ。


「なにこれ……」


突然の異常事態に戸惑うアイリスだが、理解が追いつく間もなく、埋め尽くされる謎の悲しみと嘆きに、自身の心が混乱を起こして、急激に全身へ不安が駆け巡っていた。


次回の更新予定日は未定とさせていただきます。

いつもこんな感じですみません。


あと短篇の外伝も出しているので、良かったらそちらもよろしくお願いします。

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