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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
187/265

第19話 絶望の正体。

記憶の邂逅編の最後です。

あと短編ですが、外伝を出してみました。良かったらそちらもどうぞ。

『“武装解除(デモリッション)”』


その死の霧も長く続かない。

死属性の霧で苦しむギルドレットへ手を伸ばしたシルバーが魔法を発現。武装解除(オリジナル)の無属性のオーラが死属性を塗り潰し剥ぎ取った。


『ハハハハッ! やるなァッ!』


無事に死属性を剥ぎ取ることに成功したが、そこですかさずデアが仕掛けて来る。


『────ッ!!』


砲弾のように殴り掛かって来た瞬間には、ジークも空間移動(ショート・ワープ)で回避する。かなりギリギリであったが、どうにか反応が間に合った。


しかし、その反動でボロボロの体からさらに痛みが走る。分かっていたことだが、肉体の方も限界一杯であった。


『諦めて……たまるか!!』


なんとか痛みを無視して最後の切り札を切るシルバー。可能なら使わずに済ませたかった師から受け継いだ最強の聖剣を(・・・・・・)、自分の奥底から引き抜いた。



『“修羅の運命を(イクス)……裁く神の剣(カリバー)”ァアアアアアア!!』



忘れ去られた始まりの魔法。『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』を起動させる。


折れてしまった銀剣とクリスタル魔法剣を対象にして、二本の剣を最強の聖剣へと塗り替える。


柄から剣先まで黄金の装飾と両刃剣の形状をした、激しく太陽のように輝く剣。


『それが本当の奥の手か?』


今までの魔法とは明らかに違う二本の黄金の剣を見て、デアも彼が勝負に出たことを察する。魔力を操作して“一体化”させた肉体を変化。


まるで千手観音像のように脇や肩、背中から無数の腕を作り上げていく。


『────!!』


その数は分かるだけで数百を超えて、千に届くのではないかと思えるほど。


まるで巨大な壁か山のようにデアの背後から現れた数え切れない黒き腕。

絶句したジークは圧倒的な存在感を放つデアの姿に顔が強張り固まってしまう。




『奥義──“死修羅(シシュラ)億千地獄の業(オクセンジゴクノゴウ)”』




異名の通りまさに神のような姿であり、異形の怪物がそこに立っていた。


いや、見下ろしていると言うべきか、背中から生やした腕が長く地面を支えて彼自身を浮かせている状態だ。全身黒き霧に包まれたデアだが、その瞳だけは濃く赤い光を放って、地上に立つ聖剣を構えるシルバーを捉えた。




そして。



『とくと味わえ』



その告げた一瞬のうちに、千を超える無数の黒き手が弾丸の如く。

黄金の二本の聖剣を構えるシルバーに降り注いだ。




瞬間、見ていたジークの世界が衝撃に飲まれ、黒く塗り潰されるのであった。



◇◇◇



(そうだ……負けたんだ。俺は)


その現実を改めて受け止めるジーク。黒く染まった世界でポツンと立っている。


何故今になってあの時の記憶が蘇ったか、初めは理解できなかったが、ギルドレットにやられたことを考えればなんとなく理解できた。


(理解しろってことか。自分の弱さを)


そんなものとうの昔に気付いていた筈だ。だが、心の奥底でそれを忘れていたのかもしれない。かつての敗北した姿を目の当たりしたが、どこか他人事のようにも感じてしまったからだ。


敗北など今さらだと、自分の心が諦めていたのだ。


(っ、また景色が……)


と、そこへ再び景色が暗転。黒い世界から塗り潰されて別の景色が移り出す。

今度はなんだと、ジークはさっさと夢から覚めないか若干苛立ちを見せつつ、その光景を覗き込んだところ。


『ジーク……大丈夫だから』


(…………は?)


彼女の姿が目の前に現れたことに呆然と固まる。

いったい何の冗談かと目を瞬きするが、光景が変わることはない。


見間違いでもない、水色の髪を見て懐かしくも感じるが、彼女のことを彼は少しも忘れたことなどなかったから。




血を流しながらアティシアが、倒れている自分に寄り添っていた。


(あ、ああああ……!!)


視界に映り込む光景に彼は乾いたような声を漏らす。分かってしまったのだ。この光景が何なのかを。


それはジークにとって最も辛く悲しい記憶。


変装から武装術式に進化したが、解けて銀髪の姿から元の姿に戻って倒れているジークの傍に、水色の髪をした女性が膝をついて寄り添っている。


正確に言うなら、血が噴き出ているジークの胸元に手を添えて、慈愛の満ちた笑顔で彼を助けようとしていた。


(アティシア……!! そんな、こんな……)


《鬼神》デア・イグスに潰されかけたジークの心臓を、彼女は残っている生命力すべてを使って蘇らせようとしていた。


(や、やめろ、よせ……)


そんな彼女を見てジークは呆然としながら言うが、ここは記憶の中。当然のことだがその声は届く筈もない。


倒れているジークもまったく起き上がる気配を見せず、その場には折れた銀剣とクリスタル魔法剣が転がって、その辺りまで血が溜まっていた。


対してデア・イグスはほぼ無傷。

武器も使うこともなく、阿修羅の如き千を超える掌底の嵐を繰り出した。


ジークも両手の神の剣(イクスカリバー)で斬っていたが、完全に勢いはデアが優っていた。聖剣を押し退けるように黒き掌底が彼の心臓を潰してみせた。


いつもの《消し去る者(イレイザー)》の魔力であれば、そこですかさず心臓の再生のために回復系の魔法を無理矢理発動させて、彼を助けることに全力を注いだ筈だ。


だが、デア・イグスの“この世の物質を死滅させる”という死属性の能力の影響か、潰れた心臓に流れている魔力回路が機能せず消失。

心臓自体も分子のレベルで崩れ出しているような状態から一向に回復する兆しを見せなかった。



そんな彼を助けようと血塗れの状態でありながら、アティシアは決心した。



ジークの血で真っ赤になる手から薄い緑色の光が溢れ出す。

朦朧とする意識の中、彼女はジークの意思など無視して自身の命を削って、治療系統の原初魔法を使用していた。


大きな傷を治そうとすればするほど、彼女の寿命は縮んでいく。

傷の大きさや病の重症度によって、ただの魔力消費から生命力の消費にまで変化する禁術と言ってもいい原初魔法。


病で亡くなった母に使用することが許されず、使わなかったことを心の底から後悔したとジークはかつて聞かされたことがあった。


だからこそ、これまでその魔法だけは使わないようにと、アティシアに念を押して言ってきたのだ。本人は渋っていたが、(すが)るように頼むジークに押され、半ば強引ではあったが、了承してくれた。


そう、了承したのだ。

この時までは。


『ゴホッ……ごめんさないジーク』


(ッ、やめろっ!! やめろアティシアッ!!!!)


口から血を吐いても治療をやめない彼女の姿を。死を覚悟した彼女の姿を見て、一気に血の気が引いたジーク。


もうそこが記憶の世界であること忘れてしまうほど、彼は冷静さを失っていた。

いや、記憶の世界だと分かっているのに、彼はその衝動を抑えることができなかった。


消えていく命に手を伸ばして、彼女の行為を止めようとする。


だが、手を伸ばしても彼女に触れることはない。通り抜けて前のめりに倒れて振り返ると、綺麗な水色をしていた彼女の髪が術の影響で、徐々に薄くなり出していた。


『救えなくてごめんなさい』


(死なせてくれればいいんだ!! お前は生きなきゃダメなんだっ!! 生きるんだッッ!!)


これは記憶なのだと言い聞かせても、彼は叫ばずにはいられない。

今までにない切迫した顔で目を大きく開き、存在が薄くなっていくアティシアに呼びかけ続ける。


彼女の顔も元々白い肌がより白くなっていく。

生気が消えていくのが、何もできないでいるジークにも嫌でも分かってしまう。


焦りが募り思考がパニックを起こりそうだ。


対称的に重傷だった怪我が治っていくジーク。

本来であれば、即死でもおかしくない重傷の状態であるが、アティシアの原初魔法は命を対価にすることもあり、強力なものだった。


デアとの攻防で潰れかけていた心臓が、彼女の魔法を受けて殆ど再生している。


この世の物質を死滅させる能力も、どうにか相殺して打ち破っているようだった。ジークの体も他者の魔力を受け付けにくい厄介なものだったが、潰れた心臓に魔力が流れない所為か、彼女と契約している為か、術は正常に機能して彼の心臓を再生させていく。


『邪魔ばかりしてごめんなさい』


(もういい!! もういいから!! やめてくれよっ!! 謝らないでくれよッ!!)


それに比例するように彼女も生命も朽ちていく。

すっかり真っ白になって艶も消えた髪が風に揺れるの見て、ジークの目から何かが溢れ出そうになる。


彼に謝り続ける。

これまで彼を振り回したことを。


彼を戦場に連れてきたことを。


『本当に今までごめんなさい。……でも大丈夫だから』


(頼むから……、もう許してくれ(・・・・・)


せめて彼女だけは救われて欲しかった。

それだけだった。それだけが達成されれば、彼は────。


(くそ、頭が痛い。吐きそうだ。なんだよこれ、眩暈がする。こんな、こんな酷い。どうして、どうしてこんな……こんなことに)


忘れたままのほうがよかった。

こんな絶望など記憶の隅にも残したくなかった。


思考回路が滅茶苦茶になっていく。もう記憶がどうかなども関係ない。

この先の結末を知っている彼は見たくないと、大きく開いていた目を閉じそうになる。耳も塞ぎたくなって、頭を抱えたくなる中。



その時はきた。



『あなただけは─────絶対死なせない』



慈悲もなく、救いもなく。


淡い光と共に倒れた彼から失いかけた生気が蘇り。


代わり彼女のほうが、こと切れたように崩れ落ちる。


彼が完全に意識が戻った時には、彼の胸元に抱くように。














アティシア・スカルスは眠るように静かに逝った。


安心しきった嬉しそうな笑みを浮かべて。


次回予告。

トラウマによってジークが理性が飛びます。

そして最後の鍵(彼女)もようやく動きます。

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