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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
181/265

第15話 最強の剣士と哀れな傀儡衆。

今回からもう一つの戦闘の方へ移ります。

多分2話ぐらい済んで、またジークの方へ戻りますが、……し、全然出来てない!(愕然)


すみません。度々休みを挟んで進んでしまうと思いますが、どうかご了承下さい。

SSランク(超越者)のアヤメ・サクラは戦いを好まない冒険者だが、同時に一度敵対した相手には一切容赦しない。


中立を重んじるアルタイオン(母国)の理想が好きな平和主義であったが、その理想を脅かす存在には迷いなく斬り裂き、時には射抜いてきた。


しかし、それも余程の相手の場合のみ。


言葉など通じない魔物を除けば、基本戦う場合は国内に侵略しようとする者たち。

殺害を優先せず、あくまで牽制するようにして退かせてきた。


それは四年前の大戦の際も同じ。

自分から攻め入ろうとはせず動かない要塞として中都の砦で待機して、剣だけで侵入しようとした敵をアヤメは入り口で追い払ってきた。


だから三国が血みどろな争いを見せる中、中立国だけは不用意に攻めるようなことはせず、彼女の防衛戦を生かすように何年も持ち堪えて、大戦の成り行きを見守ってきた。



しかし、成り行きを見守り続ける彼女だったが。


ただ一度だけ、侵入を許してしまう。

何もできず多くの者たちを死なせてしまったことがあった。



結果、彼女は古き友たちを失い、その子供たちの心に深い傷を残してしまう。さらに子供の中には復讐心に呑み込まれてしまった者もおり、助けることができなかったアヤメはかけるべき言葉が見つからなかった。



支えようとも思ったが、彼女自身がそれどころではなかった。

その凄惨な光景に思い出す度にアヤメは悲しんだが、それ以上に許せなかった。


まるで力があれば何をしてもいい。敵国の者であればたとえ非戦闘員でも殺していい。

そんな殺戮的な行いを正とする主が、同じSSランクの者だったことに。


アヤメは許すことができず、大戦が終わったのち。誰にも告げず聖国の王都へ単身で乗り込み。そして天空の番人でもあるギルドレットと相対した。


しかし、目的のSSランク(超越者)とは会うことはなかった。ギルドレットに問い詰めたが何処にいるのかも分からず仕舞い。


仇を取ることもできず、負い目だけが残った彼女は少しでも償いをと、大戦で孤児となった子供を引き取り弟子として育て、この四年間、魔物や敵の侵入に対して常に目を光らせてきた。


そうしてアルタイオンには平和な日々が続き、学生となった弟子の活躍を見ようと、彼女自身も王都にやって来ていた。


予想外にも途中棄権した弟子にアヤメは首を傾げることとなったが、その後、弟子を通して聖国でも有名なチーム《星空の劔》のメンバーと名乗る術師の男と、聖国の《知将》と接触。


何故か弟子を通して接触してきた彼らに、訝しげな反応をして警戒したアヤメだったが、彼らから渡された情報は、たとえ偽物でも無視できない内容だった。


他所の国の問題に関わるつもりなどなかったが、さらに提示されたこちらに良い資源契約、今後の外交関係にも好条件な内容も引き合いに出され、国のことを第一に考えるアヤメは今回の協力を承諾することに決めたのだった。



そしてこの時了承したことをアヤメは、心から良かったと感じることになる。

《知将》は正確な情報だと言ってはいたが、確証を得るまでアヤメはそれほど乗り気ではなかったのだ。


しかし、侵入して(クズ)の行いを見て、そんな気持ちも早々に消え去り、愛刀の剣を引き抜いていた。



◇◇◇



「屍人たちよ。哀しさ悔しさもなく操られる骸となっただろう」


天井を斬り裂き侵入したアヤメは、周囲に蠢く傀儡たちを哀れみの視線を送る。


どうやら禁術によって死者を操っているようだ。中には見覚えのある異名持ちも混ざっているが、その誰もが色素の薄く全員目が濁っており、言いなりとなってアヤメを見ている。


それぞれ武器を構えて今にも動き出そうとしている。


そして自身も傀儡となった死霊使いのソフェルノも、ローブを深く被って愛用の木の杖を持つ。唯一《復讐の壊滅者(リベンジャー)》のスベンは立ち上がるだけはしたが、特に武器を構えることはせず、被っているローブの奥で薄い笑みを作り見ていた。


アヤメに応援を求めたリグラも控えているが、彼は元々戦闘タイプではなく指示を送るタイプだ。見守るように離れて見て、いつ外の者たちを呼ぶべきかと検討していた。




そうして。


『『────!!』』


睨み合いが一分ほど経過しようとしたところ。

アヤメに狙いを視線を固定していた傀儡たちが、ガシャッと武器を構えて動く。


「来ますか。良いでしょう」


床を蹴って一斉に刀を持つ和風姿のアヤメへ一直線。

生きていた頃の戦い方を覚えているのか、それぞれ固有の構えを取って武器を振り上げた。



そんな彼らにアヤメは一瞥。

もう一度、哀れみの視線を送って溜息をつくと。




消える。



無音で予備動作もなく消えた標的を失ったことで、傀儡たちの攻撃はすべて空間を通り抜けるだけに終わり。


『『……?』』


彼らの中心で風が吹いた。

撫でるような微風に特に反応を示さない傀儡たち。ただ見失った標的を探すように周囲に目を向けるが。



ズル……。


『『……』』


そして体の違和感に気付いて首を傾げる者。

妙なことに視線が徐々にズレていく者や動けなくなる者が出てくる。


自我は縛られて痛みも感じなかったのが救いだが、その為に何が起きたか理解できなかっ者たちが多数。


「なんと……!!」


「……!」


なのでいつの間にか胴体や首、足などを切断されて離れかけていることに気づいたのは、その様子を見ていたソフェルノとスベン。


遅れてリグラも気づいたが、何が起きたかまったく見えなかった。

ポツリと呟くように彼女の通り名を口にする。


「《無音瞬殺の斬殺者(サイレント)》……」


『『…………!』』


三名が驚いている中、傀儡たちもようやく気が付いた。

自分の姿に驚いているのか、どう動いていいか分からず、それぞれ行動が定まっていなかった。


「これが噂の実力ですか」


『『!!』』


感心したようにスベンが呟くと、原初の呪系統『復活の傀儡人(リバース・アンデット)』の術式を操作。


生きていた頃の戦いの記憶が残っていたか、それとも術式に仕込まれた反射動作か。

帝国の異名持ちの数名と裏ギルドの七罪獣たちが、スベンの魔法に反応して動き出した。


『“血繋ぎ”……』


水の派生属性『血』を操る《血雨》の魔法師は、両断された腕や胴に流れる血を操作して繋ぎ合わせる。


本来なら『一体化』を使用してない以上、痛みなどでここまで上手くはいかないが、痛覚がない屍人の彼には意味はない。


『ンッ!』


さらに懐から小瓶を一つ取り出す。瓶を砕いて中に入っていた粒状になった血の粒を数個取り出す。


すべてを口に含み、飲み込むことで『血』の効果を拡大。

体内に取り込んだ対象の血も操作して、異名持ち達の切り離された部位を繋ぎ合わせた。



「屍人となっても魔法は使えるんですね」


その様子を見てアヤメは口にする。

いつの間にか包囲網から脱出した彼女は屍人たちから離れ、置かれたテーブルの上に立っている。


片手に刀をぶら下げるように持ち、もう片方の手を顎に乗せて考える仕草をしていた。



そしてアヤメの姿を捉えた傀儡たち。

体から魔力を放出させて個人個人の力を見せ出す。


『咬み削れ……“鮫槍(サメヤリ)”』


動けるようになった魔槍使いの《槍喰い》は異名となった魔槍を振るう。

すると槍先が性質が変化、水へと変わり先端の形状も鮫の姿へ。ギザギザな歯を宿す大口を開けて獲物を探す。


『流し込め……『水泡流の荒波(バブル・ウェーブ)』!』


続けて水の魔法を発現する。

手を地面へと叩きつけてそこから大波を発生させた。


荒れた大波が部屋を飲み込むように発生すると、テーブルに上に立つアヤメへ波を高くして迫るが。


波が到着するよりも前にアヤメが跳躍。波を飛び越えて天井付近まで跳躍して、片手で天井に取り付いている横柱の一本に掴みと、部屋を満たす波を一瞥した。


『ふ!』

『おおっ!』


が、天井へと移ったアヤメを追い、二人の傀儡も同じように跳躍して迫って来ている。


Aランク剣士の《燕》は剣を構えて剣先まで水属性のオーラを付与。帝国騎士らしき男も雷属性を纏った両手剣を振り上げている。


(なるほど、身体的な能力もある程度は維持しているようですね)


二人の動きを見ていたアヤメは術の性質を見極めている。屍人とは言っているが、その動きはまるで生きている人間のようで、恐らく生前の動きを再現しているのだと理解する。


『『……!』』


しかし、たとえ完璧に再現できていたとしても、相手をしているアヤメはその上を行く。


二人の剣が振られる寸前、天井に柱に捕まっていた筈のアヤメが消失。

左右どちらに移動したかも分からず、アヤメが居た場所をただ通過してしまう二人だが。



通り過ぎたところで自身の体が、上半身と下半身で分かれていることに気付く。


首だけ動かして振り返ると天井に逆立ちで立ち、自身の刀を横薙ぎで振るっていたアヤメを目視する。

いつの間に斬れたのか分かるはずもなく、二人は下へと落下していく。



「……」


落下して行く二人を見送った後、アヤメは続けて波を起こしている《槍喰い》を捉える。


荒れている波の上に立って、他の面々も同じように立っているようだが、取り敢えず水を起こしている《槍喰い》を狙う。


『ふっ!』


《槍喰い》もそれに気付いたか、先が水鮫となった槍をアヤメへ。勢いよく振りかぶると、天井で逆さで立っているアヤメに鮫槍を投げる。


放たれた槍先の鮫は大口を開けて、アヤメを喰い千切ろうと────。



喰らい付いた。

体を丸呑みするように、ガブリと鮫は喰らい天井に大穴を空ける。


《槍喰い》はその様子をジッと見ながら、放った槍を回収しようと手を伸ばす。



「大口ですね。この魚さんは」


だが、伸ばそうとした先にあった槍は突如両断。

いや、正確には鮫の頭が真っ二つして裂けて、持ち手の部分も巻き込まれるように半分に斬られた。


水蒸気のように鮫の槍が消え去る。

入れ替わってアヤメが居合い後の刀を納めた体勢で姿を見せた。


「ですが……」


そして再びアヤメはその場で消失する。

移動をした方向などまったく目視することもできず、傀儡たちが探す中、アヤメは武器を無くした《槍喰い》の前に立つ。


「少々躾がなってませんね」


《槍喰い》は水系統の魔法を発動させようとするが、その前にアヤメの袈裟斬りが入る。先程までの傀儡たちと同じように、抵抗感もなく両断されて落ちていく。




(次……)


今度は一瞥もすることすらなく、アヤメは刀を構えると標的を次へと移す。

そしてこの中でも厄介であろう。七罪獣の幹部たちへ剣先を向けて。



また謎の移動術で消失し彼らの死角へ。

かつて《悪狼》と呼ばれた大男の背後へ回り、その首元に刃を。



『『蒸気燃砲(スチーム・バースト)』!』


届こうとしたところで《死狼》の女性の高熱蒸気の砲弾が飛ぶ。

明らかに《悪狼》を巻き込む角度からの攻撃に、アヤメは躱しつつ訝しげな目をするが、すぐに納得する。


この者たちも操れた存在ではあるが、元は犯罪ギルド所属の者たちだ。

仲間意識など元からあるかどうかも怪しい連中に、そんな疑問など浮かべるだけ無駄なことだった。


『っ! ……“悪牙(アクキバ)”』


まともに受けた蒸気砲によって溶けた顔だが、その状態でも大剣の技を使おうとする《悪狼》。同じように頭領の《狂犬》、《暴狗》、《堕犬》も他の者たちなど一切気にした様子もない動作で、各々が攻撃を仕掛けようとしていたの見て、アヤメは呆れた声を漏らした。


「たとえ操られても、少しは迷いを見せて欲しかった」


そう呟くと共に持っていた刀を逆持ちにして構える。

まるで祈るかのように目をつぶって顔の前で持つと、迫ってくる面々を無視して刀へ願うような声音で告げた。



「慈悲の風を」


瞬間、最初に起きた微風がアヤメを中心に発生。

突撃して来た七罪獣の面々に、目に見えない微風が撫でるように通る。



結果、突進していた頭領を含めた七罪獣たち全員が崩れ落ちる。

正しく言うなら、体の部位すべてがパズルのようにバラバラになって、水浸しになっていた床に転がっていったのだ。


アヤメは刀を振るっていない。

ただ、優しい風が発生しただけで、その場にいたアヤメ以外の者たちを紙切れのように斬り裂いた。



『血よ……!』


次々と倒れた傀儡たちに、再び《血雨》が血を操作しようと魔力を流す。懐から使った同じ瓶を出して中の粒を飲もうとする。



『ごっ!?』


が、飲み込もうとしたところで、喉元からきた異物感に《血雨》は飲む動作で止まる。


何が起きたかと目を向けるが、目に入った光景に理解できず反応が遅れてしまう。



その僅かな間があれば、アヤメにとっては十分。

さっきまでの移動術は使わず、部分強化された脚で跳躍して《血雨》に接近する。



喉元に突き刺さった刀を引き抜くと、首を両断して腕から脚へと斬り裂いて動けないようにした。



『ボ、ガ……』


だが、五体をバラバラにされても死なない“傀儡の呪い”を受けた屍人だ。

首も離れた状態でありながら、血を操作して繋げようとする。



ところが。


『!!』


操作ができない。

何かがおかしいが、そこまで回る程の知能も今はない屍人。


魔力が練り出すこともできず、そのまま倒れているしかなかった。


「せっかく集めたんですがね。まさか七罪獣もまったく相手にならないとは……」


そうしてアヤメは続いて、弓使いの《鈴落》の鈴付きの矢を掠ることもなく、避けて斬り裂き、他にも帝国の名の通った傭兵や魔法師を潰していった後。


一部始終を見ていたスベンの溜息混じりの声に振り向き。


「風よ」

「む!」


刃をスベンの方へ向けて、風を起こして振るうが、発生した微風がスベンに届くことはなく、前に出たソフェルノが張った障壁で防がれる。風が斬撃とどう関係しているかまだ分かっていないが、微風が起きていることは気付いていた。


「行け『死霊分裂体(スプリット・ゴースト)』」


いずれにせよ、相手が剣士。これ以上の接近は許してはならない。

ソフェルノは杖を振るって呪系統の魔法を発動。倒れている傀儡の一体を対象にすると、傀儡から魂らしきものが抜ける。


分裂して複数の霊体へとなり、守るようにソフェルノたちの前に出るが。


「そうだったな。貴様も死霊使いだったな」

「────っ!!」


途端、膨れ上がった殺気に全身に浴びて、出もしない汗が吹き出そうな程の悪寒に襲われる。


その行動は大きなミスであった。

人の魂を道具のように扱うその行いを見て、踏み込んで来たアヤメの心情を察すれば避けるべき手段であったのに。


「っ」


しかし、理解した時には既に手遅れだ。


死霊たちで守りを固めようとしたが、他の傀儡たちのように何処ともなく発生した微風に身が包まれる感覚を覚える。


気づけば自分の首から下の感覚を失って、そのまま崩れ落ちるようにソフェルノは倒れてしまう。


呆気なく倒れ伏せたソフェルノを追うように、死霊たちも消失していきそれを悲しげな目を見送ったアヤメは、遂にこの下らない企みを仕掛けた首謀者へと視線を移した。


「言っておくが、貴様に慈悲など与えはしない。その体に刻み込むのは、これまでの貴様の罪の傷みだけだ」


膨らんだ殺気を刃に乗せてアヤメは宣言する。


圧倒的な実力を見せて配下と呼べる傀儡たちを一掃。その様子を見ていたスベンの顔にはもう笑みはなく、ソフェルノと同じように傀儡たちへの操作が利かず、僅かながら苛立ちの表情を見せていた。



そう。彼女の剣技は風。

逃れようとしても何処までも追い詰めて、剣士でありながら射程範囲は遠距離魔法師を遥かに超えている。


障壁などで防いだとしても、続けてくる風をすべて止めることなど不可能。


風の切断力も加わったアヤメの剣技、それが最強と呼ばれる理由の一つだ。


「地獄へ落ちろ。外道」


冷たい殺気の声音で言い、アヤメは死の風を呼ぶ。


そして呼び出された微風はそれまでと同様に、最後のスベン(標的の体)へ。



撫でるようにして体に掛かった。


来週の土日更新予定ですが、もしかしたら難しいかもしれないので、その場合は本当にすみません。


最近雨が酷くて頭が痛いです。(涙目)

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