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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
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第13話 折れそうになる心。

やっぱ、進まない!!(涙)


ギルドレット・ワーカスは騎士の家系だが、騎士に道には進まず冒険者になった男だ。


だが、家系の影響か周囲からか、成り立ての頃は、冒険者のくせに騎士のようだと言われていた。


しかし、その冒険者の中でも珍しい、騎士家系からの冒険者というタイプ。

彼の戦い方も初めは、騎士のように剣と盾を、冒険者とは思えないほど優雅に扱っていた。


だから当初は、彼のことを《騎士(ナイト)》と呼ぶ者もいたが、時が流れてSSランクに上がった頃には、魔眼や手に入れた翼で戦うことが多くなり、特製に作り上げた剣も盾も、使うことが極端に少なくなった。


───そう。

四年前の大戦時、あの死闘で使ったのが最後だ。

その戦いも知っている者も、ごく僅か者だけだったが。



◇◇◇



「───融合!? バルトの技法を応用したヤツか!!」


緋天の皇蕾衣カーディナル・サンダー』の魔力で、生み出した魔剣を構えたジークに驚くギルドレット。


「……」


予期せぬ形で不意を突かれてしまった。───だが、既に眼は見開いている。


(だが、悪いが読めているぞ。シルバー!)


ギルドレットの魔眼『天空から射す四つ眼(クアトロ・ルート)』は四つの世界を視せる魔眼。


魔眼の性能ならジークの眼を凌駕して、世界一の覗き魔と呼ぶに相応しい眼だ。

能力は多種多様で、今回も気付いたのは、ある一つの世界を視た結果であった。


「こっちだろ?」

「───っ!!」


今にも頭上から斬りかかろうとしているのは、ジークが『魔境面世界(ミラーワールド)』で見せた偽者。本物は背後から斬りに来ていたのだ。


「どうやってオレの眼を欺いたか知らんが……」


振り返ったことでこちらに迫るジークを捉えるギルドレット。

金の翼を狙った攻撃か、それとも確実に仕留める為の一撃か。


どちらでも構わないが。


「その程度の策じゃ、オレは倒せないぞ!!」


つまらない策だと、翼の刃を操って叫ぶ。

今度こそ外さないように、倍に増やした四枚の羽の刃で、ジークを────。






「それはどうかな?」

「は? ……はぁああああっ!?」


翼の刃がジークに届こうとしたその時、また別の方向からジークの声が耳に入る。

ありえないとギルドレットは真っ先に思ったが、捉えていた筈のジークに攻撃がすり抜けたことで驚き、取り乱して思わず片目を手で隠した。


(二度も出し抜かれただと!? このオレが!? バカな! 眼で捉えていたんだぞ!!)


やっぱり何かがおかしいと己の眼を疑って、────そこで気付いた。


「まさかオレの眼を!?」


ハッとした顔で問いかけのように叫ぶが、頭上から狙っていたジークの魔剣が、火を噴く瞬間でもあった。



「───『雷轟く緋天王の一振り(カーディナル・エッジ)』」



構えた魔剣からさらに荒々しい、緋色の雷光が迸る。


(くそ、この鏡。最初から囮だったってことか!!)


初めはギルドレットは『魔鏡面世界(ミラーワールド)』で見せた幻だと認識していたが、それこそがジークの罠。シィーナが魔眼封じで用意したと推測したが、厳密には半々である。


封じる為の物であり、同時に本命を隠す為の囮なのだ。

そして、頭上から狙って来ていた者こそ。


「終いだ」


本物のジーク・スカルス。

彼は両手で魔剣を振り上げると、無防備となっているギルドレットへ───“雷光迸らせる緋色の一閃を”。


振り下ろした。


「っ! 冥女の娘に使った魔剣か!!」


ギルドレットは叫ぶが、ジークの魔剣の射程圏内である。


「『緋星の一星アンタレス・ストライク』ッッーー!!!」


ギルドレットを飲み込むように、緋色の雷光が巨大な斬撃が飛ぶ。

強力な緋天の魔力が込められた一撃。たとえSSランクでもダメージを負うのは、確実な斬撃であった。








「───『天空の護り盾(イージス)』」




ジークの斬撃を容易く防いでしまう盾を、ギルドレットが所持していなければ。


「……!」

「これは、危なかったな……!」



それは、一瞬の出来事であった。


ジークが放った緋色の巨大斬撃『緋星の一星アンタレス・ストライク』は、突如出現した翼を模様したような白き盾───『天空の護り盾(イージス)』によって遮られた。


緋色の斬撃は接触すると、白き盾が輝いて斬撃が掻き消えたのだ。


白き盾(これの)展開が遅かったら、ダダでは済まなかったな」

「ここで『天空の護り盾(イージス)』の守り神かよ!」


ただ遮られたわけではない。

ジークはその盾の性能を知っている為、苦い顔で剣を構えたまま待機。空中歩行の『鷹跳び』で空中で留まっていた。


「じゃあ、今度はこっちの番だな。シルバー!」


完全にジークの斬撃を防ぎ切り、発光している盾を左手に持つ。

そして持ち手に差し込んである、ソレを抜いてギルドレットはジークへと向けた。




「───『天の栄光を刻む剣(ラス・アスカロン)』」



彼が抜いたのは騎士が使うような西洋剣。


盾に込められた力が移って、剣からは凄まじいほどのオーラが発生していた。


「っ、『十字の反射魔鏡壁クロス・ミラーフォール』!!」


それを見たジークが急ぎ、残った『魔鏡面世界(ミラーワールド)』を使って十字の鏡の盾を作り出す。


「脆弱な……、『烈光滅殺(セイント・バニッシュ)』!!」


剣にオーラを集めさせて、ギルドレットはその魔力を使い光系統の斬撃を放った。


十字の盾と光の斬撃が直撃し合うが、ギルドレットの斬撃があっという間に押し切る。


「くっ……、がぁ!?」


ジークの盾も跳ね返そうとしたが、ほぼ抵抗もなく砕ける。

咄嗟に『雷轟く緋天王の一振り(カーディナル・エッジ)』でガードするが、斬撃が強力な過ぎた。


(ッ───)


少々粘ったが、剣身を真っ二つに折られ、ジーク自身にも直撃する。

火炎王の極衣(フレア・フォース)』を纏っていたことで、どうにか肉体は斬られなかったが、ボロボロだった服がさらにボロボロなり、衝撃波で吹き飛ばされてしまう。


「っ……、がっ!」


どうにか落下せず空中で静止するジーク。

しかし、既に魔剣『雷轟く緋天王の一振り(カーディナル・エッジ)』は失い、タイムリミット(・・・・・・・)も近づぎ形勢も不利になり、────さらに。



「────夜空(・・)、だと?」


ギルドレットを見失ってはならないと、天を見上げたジークだが、視界に全体に映る星も見える程の夜空、いや、星空を見て唖然とする。



「有難い。ちょうど、空が欲しかった」


しかし、同じく見上げていたギルドレットのそんな礼の言葉が耳に入り、何が起きたのか察することができた。


(これは……星空を顕現させる魔法! 師匠の『極星王の絶対領域(コスモス・フィールド)』!!)


この現象を起こしているのは、自身の師であると気付いたジーク。

だが、何故ここで、と疑問符を浮かべそうになったが、その真下にいるギルドレットを見て血の気が引いた。



「“一体化”────“金鳥化(ガルーダ)”」



ここでギルドレットは、Sランク技法の“一体化”を発動。


背中の『天の羽衣(アマノハゴロモ)』と魔力を合わせて同化していく。翼の金色がギルドレットの体へと移り彼を飲み込むと、人型から形を変化させる。



光明が射す、星空の下に鷲獅子(グリフォン)のような姿で、背中に六枚の翼を生やした全身金色の幻獣が、ジークを見下ろしていた。



「天の光はオレの力となる」


星空の空間であるが、天であり空であることに変わりない。


つまり天空の下で、力を発揮する者がいるとすれば……。


「少し本気でいくぞ」


その者が天の支配者なのは、間違いないだろう。


本気に近い姿となった男に、額に汗を流して見ていたジークの元に、燃えるように赤く輝いた翼で、大気を叩きついて降下。あまりの速度に空気が燃えて、紅蓮の炎に包み込まれるほどの速度となると、瞬く間にジークの真上へ。


「“天墜(サテライト)圧爪(クロー)”」



猛類を狩る鷹の爪のように変化した前足の爪で、ジークの頭部に超速のまま叩きつけた。



◇◇◇



「本当によく躱すな。少し殺す気も混ぜたんだが……」


“一体化”を解いて人の姿に戻りながら、ギルドレットは空中で片膝をついて息をするジークを見る。上空でシィーナが生み出した星空も消えて、元の白い天井へと戻っていた。


「はぁ、はぁ……」


ジークの額から血が流れている。身体強化をフルに活かして、どうにか致命傷だけは避けたようだが、衝撃まで押し殺せなかったようだ。息する呼吸は荒れて、表情もいつになく険しくなっていた。


「はぁ、血……」


胸元の服は斜めに抉れた爪痕が二つ出来て、破けた服から血が滲み出ていた。


(血……、命の血……)


切り裂かれた胸元に触れて、手に付いた血をジークは呆然と見る。



───────。


「───ッ!」


ふいに脳裏に過ぎる。

記憶の奥底で眠っている地獄。



他者の血で満たされた忌々しい記憶を。

その記憶の中でいつも佇んでいる男を。










「いやー驚いた。まさかオレの眼を一時的に魔法で狂わすとはな。仕込んだのは鏡か? オレの眼も気付かない程、精密に仕掛けるなんて凄いな」

「はぁ、はぁ……、一応はあんたと戦う時のことを想定して、その眼の魔法式を狂わす術を用意していたからな」


指でギルドレットの両目を指してジークが口にする。喋っている間、微かに目眩がして胸元から痛みが走るが、耐え切れない程ではない。


手のひらの血を見て顔を(しか)めるが、それどころではなかった。


ギルドレットの言う通り、ジークは魔眼を狂わす術式を、遠隔でも魔法を使用することが可能な『魔鏡面世界(ミラーワールド)』の鏡に仕込んでいた。


遠隔で魔法を使う際、魔力が届き操れていれば問題はない。魔力量が多ければ、鏡が耐え切れるか分からないが、今回使用した魔法はそこまで魔力消費はない。



ギルドレットに気付かれないタイミングを必死に探して、書き換えの『更正改訂(リビジョン)』で彼の魔眼を弄ったのだ。



「大量の魔力を無駄に消費していたのもその為ってことか。てっきりただの囮役だと思ったが」


改めて導き出した答えにジークは内心頷いた。


ギルドレットの魔眼はジークの魔力を察知することできるが、大量に魔力が集まって周囲に漂っていれば、発動も気付けないことがある。少量の魔力で十分なら尚のこと。


(それにギルさんの魔眼は万能に見えて実は制限もある。そこを狙えばなんとかなる)


術式を弄ったのは魔眼の機能の一つ。

完全に書き換えをすると、ギルドレットに気付かれて魔法を一旦解除される可能性が高かったので、捕捉している魔眼の視界がズレていくように細工をした。


簡単に言うなら、上にいると思えば下、下にいると思えば上、といった感じにズラしていた。


ギルドレットが魔眼で頭上にいたジークを偽者だと感じたのは、その違和感の所為だ。タイミングを計って、ジークは砕け散った鏡を利用して書き換えを再開、大胆にも魔力感知を狂わしたのだ。


視界をズラされたが、魔力も正確に感知したと錯覚したことで、ギルドレットの二度も欺くことに成功した。


「ま、一度目で気付けなった時点でオレのミスか。随分小手先か上手くなったな?」


ギルドレットも疑問を感じていたようだが、あのタイミングではすぐに打てる手立ても、思い浮かばなかっただろう。


(まぁ、その為に無駄に魔力を込めた魔法弾を放ったんだが)


集う滅びの七光の一撃エレメンタル・バースト』で周囲に散らばったことで、感知できるジークの魔力もかなり分散されていた。


もちろんしっかり体内魔力を探れば、大きさではっきりするだろうが、ギリギリの戦闘の中では、咄嗟に魔眼の視野を頼ってしまう。



そしてまんまと引っ掛かってしまった。


だが、それも通じなかった。


ギルドレットの盾も“一体化”ことも知っていたが、斬り裂けれるほどの斬撃を出せなかったのが問題だった。


(出力が弱過ぎる。アレじゃ防がれて当ぜn……いや、そもそも俺は本当に斬れると思っていたのか? Sランク魔法すら弾くあの盾を?)


───違う。できなかったじゃない。できる筈がなかった。

ジークは分かっていた筈だった。彼が扱う盾を破るには原初魔法。もしくはシルバー時代に使った、高レベルの融合魔法しかないことを。


目眩は治まってきたが、正常な思考か自信が持てなくなっていた。


「だけど……、やっぱりまだ腰が引けたままというわけか。なんて中途半端だ」


完全に見透かされている。確信を突かれて、口を閉ざしてしまう。

違うと否定したいが、こちらを見詰めるギルドレットの瞳は、シィーナと同じように複雑に乱れているジークの心のすべてが、見えているようだった。


「さっきと同じだ。小手先の手なんか使わなくても、力で押し切ればいい。……何故そうしない?」

「っ」


当たり前のように告げるギルドレットに、ジークは反論の言葉が見つからない。彼の言う通り、いつもように圧倒的な力で押せば、確かに届いていた。


(……)


言われなくても分かっていた。この男に言われなくても。ジークは引き裂かれた胸元の傷からくる、鬱陶しい痛みと熱に集中力が乱れていく。気のせいか魔力も練り難くなってきた。


(ダメだ)


それだけはできない(・・・・・・・・・)

だから、一度は戦う振りをして、離脱しようとしていた。本来の魔法も使おうとしなかった。


────何故ならそれは。




「言ってやろうか? 近いんだろ? 魔力の残量(限界)が。そのボロボロな精神力(メンタル)と同じくらいに」

「……」


目も合わせられず逸らしてしまうジーク。それだけで、もう肯定の反応だった。


「隠してしょうがないだろ。相当動揺しているな、顔でバレバレだ」

「……はぁ」


とうとう諦めたように、深く息を吐いたジーク。

そっと自分の手を胸に当てて、体に巡回している残り少ない魔力を感じる。まだ制御ができていない、真奥に眠っている力に触れると、辛そうな顔をする。


(ああ、やっぱダメかもしれない)


まるで噴火を待つ火山のようだ。

漏れ出さないように必死に抑えているが、それもいよいよ限界にきてしまっていた。


次回は来週の土日のどちらかです。

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