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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
169/265

第5話 明かされた条件とその者とは。

大変遅くなりました。

「それで状態はどうですか?」

「医師の話だと身体的には害はないそうですが、精神の方は……」


王都の病院内の個室に向かうウルキアの学園長のリグラは生徒であり諜報の部下でもある女子生徒のミルルと共に歩いていた。


彼らが向かうのは同じ仲間、準決勝で何者かに操られていたクロウである。


サナにやられて意識を失っていたが、つい先ほど意識を取り戻したとの知らせを受けたが、その精神状態はあまりよくないそうで、錯乱とまでは言わないが異常状態で至急来てほしいと知らせがあった。


「ですが信じられません、あのクロウが深追いした挙句あっさり操られるとは」

「原初の中でも禁呪クラスを使われたのでしょう。しかも魂を一部であれ憑依する物のようだ」

「憑依……闇系統か派生の呪系統ってところですね。でも相性ならクロウも負けてないはずでしたが」

「その彼の『呪魂殺し(エクソシスト)』をも凌駕するということだろう。ただの一流の呪術師であるのなら彼が負けるはずがないですから」

「……だとしたら相当な相手ですね。もしかして情報にあった帝国の《死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》の仕業でしょうか?」


帝国が密かに動いていることはギルドマスターのガイとの情報共有で知り得ていた。


そしてその動いている一味の中に呪術のエキスパートの《死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》が絡んでいることからミルルは真っ先に思いついた。


そんな彼女の意見をリグラは否定しなかった。


しかし、同時に別の可能性を告げる。


「あり得ますが、私はその上だと思いますね」


上、すなわちリーダーだ。

その情報も上がっており白いローブの魔法師ことも知っていた。


「その根拠は?」


疑うつもりなどないが、聞いてみるミルル。

情報が少ないその魔法師の話も耳にしているが、告げたリグラには何か理由があるのか聞いてみたのだ。


「先ほどギルドレットが密かに捕らえたというリヴォルトたちから情報が取れたそうなんです。取引を行った相手の正体とその目的について。……何でも相手の白の魔法師は帝国の王子の立場に立っているようですが、話を聞く限りどうも立場を偽っている可能性があるんです」


そしてクロウがいる部屋の入り口前へ着くと一旦止まり隣に立つミルルへと向いた。


「理由としては《死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》を傀儡として従わせ彼の原初魔法を使えるからというのが一つ。そしてどういうわけか試作段階の《赤神巨人(プロキオン)》にご執心だったということでしょうか?」


指摘するような口調で言うリグラにミルルは情報を頭の中で整理する。明確な答えではないが、ミルルにはリグラが告げた言葉が何指しているのか理解した。


「……魂を束縛された《死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》には憑依は使えず代わりに使える魔法師は禁呪を好んで使う者がいること。そして最終目標が───《赤神巨人(プロキオン)》」

「そう、おそらく敵が狙うは《赤神巨人(プロキオン)》を乗っ取ること。SSランクにも匹敵するチカラを隠しているあの巨人ゴーレムを」



◇◇◇



普段ジークは通常魔法の上位系統を使用することを極力避けている。


そして魔力コントロールがまだしやすい専用技(スキル)や原初魔法を頼ることが多い。本人曰く通常魔法の式を自分の魔力で起動する際に威力の加減が上位系統ほど難しいからであるが、今回は状況は今までとは違う。


バルトたちの策略に抵抗すべく解放され暴れていた魔力量は《消し去る者(イレイザー)》の解放状態に匹敵しており、その全ては彼の体全体に宿らせ馴染んでいた。それに相手の力量を考えれば多少の加減の誤差など問題ない。


そしてこの状態であれば通常魔法もフルに使える。

発言させたSランク身体強化魔法『火炎王の極衣(フレア・フォース)』を身に纏ったジークの一撃は戦況を覆すには十分な威力だった。


まだ全力ではない一撃だったが、その出力はすでに融合の身体強化に匹敵していた。


「半ギレってところか! いきなりだなホントに!」


舌打ちしたい衝動を堪えて剣を構えるバルトだが、ジークの力を抑える役だったカグヤが潰れたことで状況は一変していた。


(くそ! 時間稼ぎが最大の目標だったが、これじゃオレも早々にやられかねないか!?)

「次はお前だ───バルト」


ヘラヘラした笑みも消え苦渋に満ちた顔となったバルト。

そんな彼の心境を見透かすようにジークは彼に狙いを定める。


「そうだな……まずはこれだ」


そうして手始めにと軽く手を上げる。

体に流れている魔力を操作して、


バルトを包囲するように空間から無数の炎を纏った剣が出現した。その数はおよそ大小合わせて百本近く。


それがすべてバルトに刃先を向けて不気味に浮かびジークの合図を待っていた。


「っ、殺す気かよ!!」

「まさか……『異次元の強襲撃アサルト・ディメンション』」


そう告げて手を振り下ろした瞬間、包囲していた火の剣が一斉にバルトへ一斉射された。


「『無類無数な武器庫(ガレージ・ウエポン)』! 全・開放(フルオープン)だ!!」


その飛んでくる剣を見て両手の剣だけでは防ぐのは厳しいと判断したバルト。武器召喚魔法で自身の異空間に仕舞っていた武器を開放させた。


開放された武器は剣や槍、矢、ハンマー斧、さらには盾も加わっておりバルトを狙うジークの火炎の剣すべてに、


「面白い。防げるならやってみろ」

「ヒヒヒっやってやるぜ!!」


───激突。そしてジークとバルトの周囲一面に激しい爆発が巻き起こった。



◇◇◇



『魔力を研究することで分かったことがあります』


そう切り出してシィーナの言葉にアイリスはただ黙って聞き、目の前の光景を見ている。


先ほどまではこちらが有利になっていたが今では完全に逆。

一瞬でやられたデンの代わりにバルトが挑んでいるが、劣勢なのは明らかであった。


まだバルトも奥の手を出してはいないが、それでも今のジークの力量は異常である。お互い空間から武器を飛ばし合って火花を散らしているが、すぐに流れはSランクの実力のあるバルトが後手に回っている状況になっていた。


『まず彼の魔力は毒ではない。これは間違いありません。他の仲間たちには荒れた環境による突然変異と伝えてありますが、あのチカラは本来は自然の恵となるモノ。幼少期に彼が立った大地が割れ灰となり近く生き物が死に絶えましたが、それは単純に漏れるチカラが強すぎただけ。それはたとえるのなら花に水を与え過ぎたようなもの。彼の体から漏れた魔力を吸い過ぎたことでその生物は死滅していったんです』


何てことか、シィーナの話を聞いて唖然とするアイリス。視線をジークのいる方へ向けたままなので彼の立っている大地は枯れているのが見えるが、それがただのエネルギーの与え過ぎが原因だと誰が想像するか。


そもそも自然界の環境にしろ生物しろ何故ジークの魔力が栄養分として受け入れられたのか。なぜ彼の内に宿しあそこまで精霊に対して暴れるのか。考えれば考えるほど疑問が尽きない。


(つまりジーくんの魔力って自然界のチカラってこと? 異質だと思っていたのがそれが原因ならそれが何で彼の内に? 突然変異じゃないのなら───まさか行為に誰かが(・・・)、誰か…………誰か!!)


「つまりその人こそが世界を改変をした張本人!! しかも子供頃のジーくんはその人に何かされたってことですか!?」

「アリス?」


突然叫ぶように声をあげたアイリスに隣にいたサナが驚いた顔をする。

彼らの戦いに目を奪われてアイリスが何を言ったか聞こえなかったが、声を上げた親友の驚愕した顔に目を見開いた。


「どうなんですかシィーナさん!! その人が彼にチカラを与えた元凶何ですか!? 答えてください」

『…………四年前の大戦の後、私は彼が暴れた土地を調べたんです。本来は立ち入り禁止で生き物が入るには危険過ぎる程の魔力が眠っている場所ですが、どうやら彼の魔力はとある世界にいる人物へと意思を繋げることができる鍵のような役割を持っていることに気付いたんですが…………ところで、その繋がった先が何処だったか分かりますか?』

「え、それは当然シィーナさんが何度も口にした人物がいるところの…………家のようなところですか?」


質問したと思えば逆に問いかけられたアイリス。なぜ急にそんな問いを投げるのかと戸惑いつつ思いついた回答を口にしたが、この答えはさすがに違うだろうと言ってみて恥ずかしいと後悔したが……。


『答えは“神界”。精霊界の先にある創造神が住んでいる世界です』

「…………へ?」


シィーナから告げられた言葉の意味が理解できす、羞恥心が一時的に忘れて思考を真っ白になった。


想像がつかない。

シィーナが告げた“神界”の意味が何なのか理解出来なかった。


『正直そこまで気づくのに大変苦労をしました。神界へ繋がる鍵の役割であったのもその荒れた土地に大量に漏れた高濃度の魔力を除去できないか検討しに行った際にですが、それを利用することで神との対話、神託を受けるまでに何度も危険地帯に訪れる羽目になりましたから』

「神と、対話? 神託?」


さりげなく誰がその人物なのか告げられているが、思考が鈍くなっているアイリスは気づいてない。


シィーナの話が事実なのであればジークに妙なチカラを与えたのは神ということになる。

黒幕がまさかの神・創造神だ。話の規模を一気に大きくなったのは分かったが、どうにも自覚を持てずにいる。


しかし、そんな彼女を置いてくようにシィーナは話を進めていく。


古代原初魔法(ロスト・オリジン)についてはご存知でしょうか? アレは神に近いチカラを持つ世界の原初の頂点に立つ魔法ですが、アレは元々は神が扱うものでありその神が選んだ者のみが使うことが許されたチカラなんです』


古代原初魔法(ロスト・オリジン)』についてはそこまで詳しく知らないアイリスだが、その伝説は少なからず学園の教科書の本にも載っている。忘れられたモノとされているのに何故本に載っているのかと疑問に思うだろうが、本にあるのはその時に起きた奇跡と呼ばれるもので酷く曖昧に語られて実在していると信じているのは実際にその魔法を見た者だけだろう。


だが、まさか神が扱う魔法だったとは。事態を呑み込めずにいるアイリスだがそこは理解できた。少々混乱は続いていたが、


『そして神が選んだ者は継承として新たな古代原初魔法(ロスト・オリジン)を生み出す権利があり、同時に世界に散らばっている他のすべてを古代原初魔法(ロスト・オリジン)を扱うこともできます。選ばれた者はそのチカラで世界に立ち向かっていったんです』


「な、なるほど。で、でも、なんでそんなことを神が?」


『そういう役割だからだそうです。ルール、決められたことと言うべきでしょうか、それにこの話にはまだ続きがあります。

すべて古代原初魔法(ロスト・オリジン)、それらすべてを揃えた者には世界を担う資格があると認定されて神になる権利を与えられ、一つだけ世界に干渉することが許されるんです───最後に今の神を殺めることで(・・・・・・)

「───!!」


最後に語られた条件を耳にした瞬間絶句するアイリス。

スケールの大きさになんとか付いて行こうした矢先にとんでもない話である。


さすがに予想どころか想像すらしない事実だった。

しかも、これらの情報を整理して集めれば分かってしまうことがある。


それはやはりジークのことだ。

彼がこれまでの選ばれた人間のように現在の神によって選ばれた者であること。


そして最終的にその神を殺してしまうかもしれないということを────神に成り代わって神として世界を手に入れかねないということを。


『それが改変された際に起きた奇妙な矛盾の正体です。歴史の中で起きた改変はそれぞれが別の人物───神が選んだ者が起こしたこと。そして改変の度に神も代わっていました』

「人が神に……」

『共通していることもあります。選ばれた者には現在の神が行なっている事柄を見て裁定してあり続けるべきか否定するか見定めるんですが、その全員がその時の神の行いを認めず殺しているんです』


その行いと認めない。つまりその神が創造していった世界を気に入らないと反発してすべての古代原初魔法(ロスト・オリジン)を集めて神を裁き成り代わったということだ。



そう、何度も繰り返したんだ。選ばれた者たちが。



◇◇◇



「いやーー驚きました。まさか意図的に精神混乱させる薬とそれを戻す解毒薬を隠していたとは」

「簡単ではありませんでしたが、不覚にも相手に捕まってアジトに連れ込まれたところ、隙を見て精神を乱す薬を服用してましたから」


クロウが入院している病室でリグラは病人とは思えない涼しい顔をする彼に感心した顔するが、同じく病室にいるミルルは首を傾げてクロウの言葉に疑問を投げた。


「隙があったのなら倒すことはできたんじゃないの? それにそんな薬なんて飲まなくても逃げ出すか」

「私も最初は考えましたが、不可能だとすぐに分かり情報が漏れないように薬の服用を行いました。その所為で簡単に操られることになりましたが」

「不可能って相手の実力が? そんなに危険な相手だったの?」


涼しい顔から僅かに浮かべた恐れの色を見たミルルがそう尋ねるとクロウは落ち着かせるように眼鏡を触りながら頷いた。


表情にはなるべく出さないようにしているが、やはり憑依されたというのは色々と堪えるものがあったのだろう。


「ですが、敵のアジトの場所は覚えてます。相手も私の記憶が保たないと踏んで放置したようですが、今ならまだ」

「けど、それは……」


狙うなら今がチャンスだと告げるクロウだが、聞いてたミルルからしたらもの凄く怪しいだけだ。


なんせ相手に取り憑かれて操られたのだ。記憶の方も弄られている可能性は高いしそれを利用して罠に張っていることもある。


仮に記憶が正確でも既に居らず罠だけが残っているという嫌な展開も想像できるミルルには彼の情報だけを鵜呑みにして動くのはハイリスク過ぎてとても賛成できなかった。




「そうですね、では、騎士団の方に精鋭部隊の召集をかけて乗り込みましょうか」

「!!」

「え、えーー!?」



だが、クロウの言葉に対してリグラの返事はまさかの承認であった。

そして予想していなかった彼の言葉に返事を待ったクロウは絶句、見ていたミルルも驚きのあまり声を上げてしまった。


「よろしいのですか? 私から口にしたことですが、罠の可能性も───」

「何を言うんですかクロウ。いったい私を誰だと思っていますか?」

「っ!」


言われて思い出した。

否、決して忘れていたわけではない。自分が従う人物だ、常にその二つ名も自然に定着していたが、この時だけはすぐに浮かばず促されるようして思い出した。


「敵がどのような手段を用意てもこちらがそれを上回ればいいだけです。これが本当に罠であっても手掛かりがあればそれを使い敵を追い詰めるのみですよ。我々が取ってはならない選択あるは停滞、今のうちに動かないとおそらく明日以降は後手に回されるかもしれませんからね」


《智将》リグラ・ガンダール。

大戦の際、何度も敵国を出し抜き戦場を裏で操作した者の一人が、同じく裏の者であろう白き魔法師《復讐の壊滅者(リベンジャー)》と水面下で対峙するのだった。


次回は4月1日とさせていただきます。

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