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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
167/265

第3話 精霊の護りに暴王の一喝。

───こうなることは分かっていたはずなのに。


初めは自覚などはなかったが。


「がぁあぁああああああ!」


それでも裏切られたと感じ、目を背けたくなる光景がそこにはあった。


立ち塞がるのはかつての仲間と学園で得た奇妙な縁を持つ二人。


そんな彼らにジークは魔力の向けていた制御をやめて、無作為に吐き出すことで自身を縛る捕縛術を破壊しようと決めたのだ。


師匠やバルトのやり方に否定的であったカムやカグヤ、そしてサナやアイリスも協力している。


彼が知り合った人たちが揃って自分を追い詰めている。


その現実に彼自身気づかない間に、その動揺が全身に駆け巡りこの場で魔力を解放させることへの危険性を脳裏で浮かばなかった。


(今更何かも遅すぎる。邪魔なんだ全部が……!)


遂にはそんな仲間たちにイラつきを覚え、己の魔力を暴れせジークは放出を続ける。


(まぁ、これだけ出せば精霊嫌いな《消し去る者(イレイザー)》が黙ってないか)


自身の魔力の奇妙な性格をよく知っているジークは、出し続けたことで起きるであろう災厄を予想する。



するとすぐに辺り一面に変化が出始める。


精霊魔法用の魔道具らしき黒き杭。

素材も頑丈な物を使っているようで、その機能によって彼を縛ることができていた。


しかし、その強力な縛りの杭も彼の魔力に当てられ続けた結果、摩耗を起こして、


一つ一つの杭にひび割れる音が漏れ出した。


「あはは……逃げるなら今だぞ? この空間じゃキレた《消し去る者(コイツ)》を抑えるのは俺には酷過ぎる」


それを見たはジークは聞こえるかどうか知らないが、苦笑まじりに警告を口にする。


この杭がすべて消え去ったその時、この一帯がすべて危険区へと変わり果てるのを確信したのだ。



◇◇◇



彼の縦横無尽に吹き荒れる魔力は留まることを知らず、近くにいたバルト、そしてデンやサナ、アイリスまでの飲み込もうとしていたのだ。


「不味いぞ、カグヤーー!!」


これにはバルトも笑みを消して真剣な顔をして、これらの結界を張っているカグヤの名を叫ぶ。


返事はなかったが、代わりに状況に変化があった。

ジークを捕縛しているひび割れる無数の杭の中心───ジークの下に精霊の魔法陣が展開される。


彼らを閉じ込めている結界。

その上空にも似た巨大な魔法陣が浮かび上がる。


「よし、いけ!」

「…………カグヤさん」


それを魔力の奔流を回避しながら退がって見ていたバルトが声を上げた。


同じく退がっているデンも見守り、彼に守られるように背後に立つサナとアイリスは呆然とした眼差しで見ている。


ここが本当に現実なのか、疑ってしまいそうになるほど。


(事前に驚くだろうって言われていたけど…………こんなに違うの?)


作戦の話を殆ど大雑把に済まされていた為、正直半信半疑であったが、この規模の戦いをまのあたりして言葉を失っていたサナ。


本当に自分たちは必要だったのか、そう思わずにはいられない。

それだけの桁が違い過ぎる戦いであった。


「ジーくん……」


そしてそれはアイリスも同じ心境である。

言われた通り彼に魔道具を使おうとしたが、結局どうにもできなかった。


他にも作戦案があるが、そのどれか一つでもまともにできるのかと、この景色を見ながら思ってしまい、徐々に自信がなくなりつつあった。


───あれほどの魔力を肌で感じれば(・・・・)、仕方ないのかもしれないが。


(……けど)


しかし、彼の師を名乗っていた女性の言葉を思い出して、アイリスは呆然としていた意識を覚醒させて目の前の光景に意識を向け続ける。


そう彼女は言っていたのだ。


───私たちができるのはあくまで彼をその気にさせるきっかけを与えるだけ、そこから彼に語り掛けれる者が必要ですが、それはあなたにしかできません。


(あの人はそう言っていた。つまりこのあとで何かが起こるんだ)


そして思考する彼女の視界の先で光が輝いた。


ドーム状に展開されている七重結界で阻まれているが、天にも届きそうな太い光の柱が登っていた。


発生地点は当然ジークである。

彼の魔力がさらに可視化され光のオーラへ変貌すると、展開される魔法陣を無視して周囲に飛び回り天へと登ろうとしている。


まるで意思を持つ怪物のようで、それが自分を縛り付けるモノへ牙を剥き、怒り狂うように暴れていた。


「な、なんのあの光! あ、アレが魔力なの!?」

「っ……!」


隣のサナが息を呑むのが分かる。

アイリスもまた同じであったが、その膨れ上がった彼の魔力に言葉を失う。


まったく底がしれない、彼の体から溢れ出る魔力。

いったい彼の身体のどこにアレほどの魔力を宿っているのか、アイリスにはその理由を知りたくなったが、同時に怖くなった。



アレだけの魔力、とても人間───いや、生き物が蓄えれる量では絶対にありえない。


どうしてアレだけの力を身に宿しても平気でいるのか、アイリスは不安そうな目でその光を見ていた。


『彼も本気になったようですね』

「───! シィーナさん? 今どこに!?」


とその時、どこからともなく聞こえてくる声に驚くアイリス。


声の主は彼の師のシィーナだが、隣のサナや前に立つデンには聞こえていない。

頭の中で語りかけるようにシィーナの声が届いてきたのだ。


『準備を整えているところです。これは念話の魔法ですが、彼の魔力で妨害されるかもしれないので、これ以上は近付かないでください』

「は、はい」


そして戸惑うアイリスに注意をしつつシィーナが説明する。

しかし、なぜこのタイミングで連絡をしてきたのか、アイリスは首を傾げるが、質問にせずとも答えはすぐに返ってきた。


「あ、あのシィーナさん? なんで……」

『あなたに伝えたいことがあるからです。───彼の、ジークの正体について』


問いかける前に重ねるようにしてシィーナが口にした。

それは自分と隣にいるサナだけではない、学園で彼を知る者なら誰もが知りたがっているもっとも重要な話であった。



◇◇◇



「っ、きた!」


ジークの魔力が開放されようとした時、結界外で待機して結界を維持している巫女服を着たカグヤ。


「こ、これは……!」


そしてジークの魔法を封じる役を担っているカムは、膨れ上がっている不気味なオーラを見て彼が本気にあったのを感じた。


「カグヤーー!!」


と同時にバルトからの声も聞こえる。

事態が深刻になっている証拠であり合図でもあった。


「視認できるほどの魔力オーラのん!」

「ええ、間違いなく本気ですね!」


カムとカグヤは神妙な顔つきで頷きあう。


「結局こうなったのん、かぐやん」

「分かっています、ジーク君ごめんね?」


まず動き出したのは結界を維持しているカグヤである。


「───『七閻・封魔の陣』!!」


封魔の効果がある巨大な魔法陣を展開させる。

上空と彼の真下から二重の展開であり壊れかけているが、まだ機能している黒杭の封魔とのコンボであった。


───だが、


「がぁあああああああああ!!」


展開された封魔の陣に対してジークが取った手は先ほどと同じである。


遠慮のない魔力の放出をさらに上げて、その放出された魔力の奔流ですべて破壊しようとしていた。


「あ、そんなっ!!」

「出力が高過ぎる、想像以上だのん!」


そして留まることを知らないジークの魔力は立ち塞がる魔法陣も無視して、紙でもやるように突き破ってしまう。


濃度は増していき、徐々にオーラは輝きを増していく。


精霊王ですら捕縛できるであろう強力な結界でさらにはジークの魔力とは相性のいい精霊魔力を込められたものであるのに。


「話を聞いた限りでは操作するのをやめただけなのにっ!」

「ここまで、……やっぱり以前よりも強くなっているのん!」


彼が制御を放棄しただけでその相性もあっさり覆られようとしていた。


カグヤがさらに封魔の陣を展開させて抑えようとするが、その無数に展開される魔法陣をまるで布切れのようにして、ジークの魔力が剥ぎ飛ばしてく。


「ま、まだ……!」


さらに巨大な魔法陣を展開させるが、その瞬間、彼女の魔法陣を貫くように彼の体から迸る光のオーラが天へと上っていった。


───それは暴王のただ歩みだけであるが、その歩みだけで立ち塞がる絶壁を蹴り飛ばしていた。



「うっぐ……!!」


そしてその反動は術者でもあるカグヤへと移る。

本来の精霊魔法であればこのような反動は殆どないが、彼の魔力の影響なのか精霊の力を通してより重い反動が彼女を襲っていた。


「ハッ!? は、ぐっ!?」


そうして全身にくる衝撃に思わず崩れ落ちそうになるカグヤ。


どうにか張っている結界を維持させているが、これが続けば魔力コントロールを失いせっかく奪えた結界を失ってしまう。


その様子を見て隣のカムにも緊張が走る。

拘束が簡単でないのはシィーナから事前に聞かされていたが、このままでは結界が保たないのは明らかであった。


(このままじゃ不味いのんっ! こうなったら無茶だけど私も『解体魔法』で)


そんなカグヤにカムもなにかできないかと魔法を魔眼を使って覗き込む。

先ほど妨害で使用した魔法とは別のものであるが、彼女が魔法は基本魔眼で対象を捉えて使用するものが多い。


だからこうして彼の魔力を捉えようとしたのも、カムとっては咄嗟の行動であった。


───それが仇となった。


「か、かぐやん粘って!! こっちも何とか隙を狙って魔法を───ッ、あっ!?」

「……? カ、カムさんっ!?」


しかしその途端、魔力を迸らせていたジークを視た瞬間、魔眼である彼女の左眼は異常な反応を示し宿主であるカムは、左眼を手で押さえて崩れ落ちた。


「め、目がぁ……!!」

「ああ!? カムさん、目から血が!?」

「うっっ! ま、魔眼の機能が、パンクしたのん……!!」


燃えるように左眼が熱くなった感覚に見舞われて苦しむカム。

さらに左眼から血も出ているが、本人は気付かずその様子にカグヤが絶句している。


「そ、そんな見ただけなのにっ」

「それだけ、機嫌が悪いって、ことなのん……」


戸惑うカグヤに対し激痛はあるが、息を切らすも冷静な口調でカムが口にする。


放出されているのは彼の真奥からの純粋な魔力ではなく、調整され常時体に巡らせている魔力で感知こそ困難であるが、目でも視認できるほどの濃度が上がっている以上、魔眼で視認すべきではなかった。


一時的なものであるが、大事なところで魔眼の機能は停止してしまった。


これでジークの魔法を封じる方法が消えてしまったのだ。

このままではまたいつジークは魔法を使うかわからない上、こちらからではそれを封じる方法がなかった。


「こ、このっ!」


それでもどうにか暴れる魔力を抑えようとするカグヤ。

精神ダメージが大きいが、精神力を上げて精霊の力を強め彼の魔力を強引に抑え込もうとする。


だが、ジークの魔力は強力過ぎる。

相性のいいはずの精霊魔法でも拘束が困難になっている。


(まだよジークくん! これでも精霊巫女なんだから!)


なので次は彼女も奥の手を。

精霊との繋がりが深い巫女として力をみせる。


「『不浄を払う水霊よ』『水を統べる水海神よ』! 」


彼女が唱えるのは詠唱魔法。

それも精霊の力を喚ぶ言霊である。


精霊の歌と言われる最高クラスの精霊魔法だ。

そして彼女こそジークが相性の悪い精霊魔法を覚えるきっかけを与えた女性でもあった。


だが、その魔法としての技量は扱いに難するジークと違い、一段も二段も上である。


「『慈愛の聖霊よ』『光を統べる揺光神よ』!」


───『二重詠唱』。


精霊巫女でもあるカグヤだからこそ可能とする技術だ。

一つだけでも発現に苦労するジークにとてもできない、まったく各の違う彼女の精霊魔法が、


「『水霊(スイレイ)賛歌(サンカ)』! 『聖霊(セイレイ)謳歌(オウカ)』!」


Sランク魔法である二つが同時に発現された。

その代償で魔力を大量に消費することとなったが、それで彼を足止めできるのなら十分だとカグヤは魔力を惜しまず放出する。



すると、立ち上がろうとする彼の真下から滑らかで水色に輝く湧き立つ水。


彼を飲み込むほどの巨大な水ではない。

けれど、その水は少しでも浸かってしまうと最後、対象に対して以下の効果を与え続ける。


まず、水系統の特性でもある回復・自然治癒の効果上昇。

さらに悪しき心を持つ者、悪霊などに対して浄化効果が重なる。

そして最後に特性の一つ鎮静効果によって次第に意識を眠るように奪っていく癒しの水だ。


ジークに対して厄介となるのは二つ。

浄化効果と鎮静効果である。


この二つの効果であればジークの魔力にも対抗できるはず、そうカグヤは考えて用意していた一つ。


「……」


その噴き出る水をジークはフラついた状態で呆然と眺めている。


まだ完全に拘束が解けてない所為か、浸かってしまう足を見て何もしようとしない。

暴走寸前である以上、カグヤの魔法から干渉は弱いかもしれないが、それでも高ランクの魔法である以上影響は少なからずあるはず。


なのに彼は動こうとはせず、その水を眺めて立ち上がろうとしていた。


「かぐやん、あまり無茶は……」

「大丈夫です……! 次で最後です!」


心配するカムをよそにカグヤはさらに発現させた聖霊魔法へ意識を向ける。


それは展開されたのは、張られている結界の上空。

球体で太陽のように輝きをみせると、霧のような霧散して光が舞い降りた。


(現象の書き換えを可能にした聖なる光だよ、ジークくん! これなら……どう!?)


歌の中でも最高位の聖霊魔法である。

あらゆる奇跡を起こせる聖霊の光。


それを浴びれば彼の魔力の暴走も消すことはできなくても沈めることが可能。


「お願い止まってッ!!」


もちろん完全には無理かもしれないが、カグヤはこれでシィーナの作戦までの時間を稼ごうと試みだった。




「───え」


しかし、同時にその力は彼の力がもっとも嫌う精霊の力。

それも同時に二つだったのが、余計に不味かったのかもしれない。


「───ッ!!」


自身にかかっている縛りなど感じない動きで、ジークは勢いよく両手を合わせた。


「ジークくん……!」

「ッいけない! かぐやん魔法を解除して今すぐッ!!」


急に動き出したジークにカグヤが目を剥く中、隣でカムが叫ぶがすでに手遅れである。


無理にも彼の魔力に干渉を続けた結果、まだ大人しい方であった彼の魔力《消し去る者(イレイザー)》が遂に牙を剥いたのだ。


獣のような咆哮はなかったが、ジークの魔力はこれまで以上に荒れ狂い、彼の体から放出され続ける光の粒子は無数に枝分かれして分裂する。


まるで神話にでる無数の首を持つオロチのような形になると、空から降る聖霊の光と地上で溢れ出す水霊の池へと目指す。


それは逆鱗にも見える光景であった。

ジークが解き放った魔力のオロチは、それぞれの発現されている精霊魔法に飛びかかると、圧倒的な質量圧出にて破壊し尽くしたのだ。




「───ッッああああああああああああっ!?」

「ダメッ、かぐやっ!!」


そして再び破壊された魔法、精霊の力を通していたことで、カグヤの精神に一瞬して重い負荷がかかる。


しかも今度のはこれまでとは桁が違う、常人ではまず耐え切れない異常なほどの重圧にカグヤは息を塞がれ、目を見開き全身にかかる負荷に絶叫し、隣のカムの声すら耳に入らない。


そうして意識的な抵抗をする暇もなく、意識は落としたのだ。


次回は3月11日予定です。

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