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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
165/265

第1話 包囲するのはかつての仲間たち。

今回は少し長め。

「アイリス…………なのか?」

「うん、こんばんわ」


満面な笑顔でそう答えるのは、彼にとって愛した女性の忘れ形見でもある女性。


女神のような笑みで見つめてくるアイリスに、ジークは困惑した様子で見ている。

聞こえてきた彼女の声に引っ掛かりを覚えていた。


(なんだこの違和感……いや、このしっくりくる感覚は、まるで以前の彼女だ)


彼の耳に聞こえてきたのは予選会の時(あの時のような)、怯えが含まれたものなどではない。純粋な彼女の気持ちをそのまま乗せている。あの頃の彼女の声が聞こえたのだ。


「───っ!!」


そこまで思考が行き着いたところで、彼はハッとした顔をすると表情が一変。

険しい顔付きなり何もない夜空を見上げて睨みつけていた。


(そういう狙いなのか師匠っ!!)


その呼び声だけで彼女も関わっていることを、ジークは直感的に理解してしまう。

それも誰が彼女を引き寄せたのか、理解した上で何故この場にいるのかも。


「アリスっ!」

「うんっ! ジーくんごめんなさい!!」


何の合図なのか分からない。だが、アイリスの突然の謝罪は彼より一層不安にさせる。

掛け声に困惑する彼を置いて彼女たちは動き出す。


バッと飛び離れるように後退するサナを目で追うジークに向けて、覚悟を決めたような顔のアイリスが魔法を放つ。


「『乱れ水の矢(アクア・アロー)』!」

「っ、『零の透矢(ノーマル・ダーツ)』!」


彼女から発現されたのは水系統の矢である。

細長い複数の矢は破壊力は乏しく貫通力もそれほどないよう見えるが、ジークはそれを受けないように無属性の矢で迎撃に移る。


「甘いよジーくん!」


すべての槍を撃ち落とすつもり放った矢であったが、アイリスの放った矢を一本も撃ち落とすことはなかった。


彼女の矢はまるで生物のように滑らかに動くと、ジークの矢を躱して彼に襲いかかったのだ。


「くっ!? シッ!」


威力もなく貫通もしないたただの水の矢。

ジークは鬱陶しそうに腕で弾き落とそうとしたが、驚いた様子でアイリスを見ている。


「全部が『手動式(マニュアル)』か!  なんて操作力、っていうか反射能力だよ」


何をしたのか理解はしたが、それでも実際にやってみせたアイリスの技量に驚きを隠せなかった。


こんな細かな操作などできるかと口にするジークに苦笑いするアイリスであるが、その間も手を広げて魔力操作へ意識を流す。


「はは、ありがとう。でもまだ褒めるのは早いよ?」


まるで糸で人形を操っているような動作である。

それ見てそういえば彼女も学園内であるが、二つ名持ちであったことを思い出した。


《蒼姫》アイリス・フォーカス。

その実力はサナとほぼ同格であるとジークは予想した。


「捕まえて『渦雨』」

「っ、なんだ?」


訝しげな目をするジークを無視して放たれたただの水となった矢に変化が起きる。

彼女から魔力操作により変化。彼を濡らしていたただの水は粘りを出して絡みついてきたのだ。


(遠距離から水系統の形態を変化して性質も変化だと? 彼女の戦闘は今まで見たことがなかったが、技量なら冥女といい勝負だ)


次第に水飴のような粘りを見せる水。

地面にまで粘りの水を広げて彼と地面を水の粘りが鎖のように繋げて彼を拘束していく。抵抗をしようするが、それが余計に体の粘りつく水を絡ませて動きを制限させてしまっていた。


「そこよっ! 『氷結の檻(アイス・プリズン)』!」


そしてその様子を見守っていたサナが素早く援護に入る。

ジークを二人で挟み込む位置に立つと得意とする氷結魔法を発現させた。


瞬間、アイリスが出していた水飴のような鎖は凍りつき、サナの魔法によって氷の鎖へと変化する。

さらに彼を閉じ込めるように氷の檻も展開され、彼を閉じ込めることに成功した。


「なるほど、ちょっとした合わせ技か。息も良い」


ジークはそれを冷静に見ては感心したような声で呟く。

捕縛された状態で何を呑気なものかと思われる様だが、彼からしたらそれほどピンチでもない。


少しばかり怒った顔でサナの方を向くと呆れた声音で告げる。


「水と氷の相性は良い。さすが《蒼姫》と《氷姫》だが…………悪いがそれでも足りないな」

「何を言って───ッ、くっっ!?」


告げ終えたところで彼女に向かって魔力の波を浴びせる。

しっかり調整してある魔力であるため害はないが、彼の魔力を感じ取ることができないサナは身体に緊張が走り蒼ざめてしまう。


「まさか模擬戦や試合を見ただけで俺を抑えれると思ったのか? だとしたら舐めすぎだ」

「かぁっ!?」


彼の魔力は感知できないが、代わりに悪寒など感じてしまう。

氷結魔法を維持しようしているサナであるが、その遠慮のない払うこともできない激しい悪寒に背筋が震えて魔力操作がままならなくなる。


「寧ろ力量の差をより痛感した筈。なぜ出てきたんだ?」


氷の強度も弱まっているのをジークは確かに感じていた。

本気からは程遠い魔力威圧だけでだ。


それだけで無力化されたサナはとうとう膝をついてしまい、氷の檻もいつ壊れてもおかしくなかった。


「さてと、じゃあ聞かせてもらえるかアイリス? 一体この後どうやって……」


これでサナはどうにもできない。

いずれ子鹿のように動けなくなるであろう彼女の状態を見てそう確信する。


そうしてジークはアイリスの方に顔を向けて呼びかけようとした。


とその時、動かないままサナを圧倒したジークに驚いているかと思っていたアイリスに動きがあった。

彼女は水系統の魔法を維持しつつ、スカートのポケットから何かを取り出した。


何をと首は傾げないが、疑問符を浮かべるジークだが、


「……!」


それを見たことで表情が一気に強張る。

取り出された物はなんの違和感もない小さな十字架のアクセサリーだが、埋め込まれている薄い黒真珠にジークの思考は一瞬で即制圧へと切り替わった。


その魔道具を発動させるわけにはいかなかった。

アレは間違いなく師匠の魔法が込められた魔道具であるからだ。


(なるほど考えたな。だが)


いつ発動されるか分からないが、さっきほどサナにしたような魔力を押し当てるようなことはしない。


とにかく檻の破壊を優先しようとジークは拘束して凍りついた粘り水とついでに、サナの氷結の檻に対して魔力を解放する。


「ハーっ!」


軽い気合いと共にジークの周囲から吹き出したオーラの正体は、無属性の専用技(スキル)魔無(ゼロ)』だ。


強烈な魔力圧に解放によって彼の周囲で発現されていた、水系統と氷系統の魔法を霧散される。

濡れていた服も水が蒸発するように消え、氷の檻も消えたことで彼の周りで煙が立ち上がっていた。


「っ……やっぱりダメ。あ、アリス急いでっ……!」

「っま、任せて───「させるかよ」あ!」


その現象を見て息切れ起こして両膝をつくサナがアイリスに呼びかける。

そして慌てた様子で持っている魔道具に魔力を込めようとするアイリスであったが、ジークがそれを許さない。


速攻で原初魔法『物資簒奪(シーフ)』を発動する。

アイリスの手元にあるアクセサリー型の魔道具を選択して、彼女から無理矢理こちらへ飛ばした。


「ああ、だ、ダメ!」

「こちらに向けないと使えないタイプか知らないが、見せるタイミングを間違えたな」


焦っていたこともあり簡単に奪われてしまい唖然とするアイリスに、ジークは苦笑を浮かべて『まだまだだなぁ』と思いつつ手を伸ばした。



───ところで、体を射抜くような殺気。

そして数え切れない程の風を切る音が彼の心体に響いた。


「!? ──ッ」


反応できたのは大戦での経験である。

本来魔法でもないソレを探知するのは難しいものがある。


だが、直前で察知すると自分の手元にアクセサリーが届く前に、別の飛んでくるものへ意識を切り替えた。


(ッ、来る! 『零の透盾(ノーマル・シールド)』!)


無数の風を刺すような音に伸ばしていた手を止める。

無属性の障壁を殺気と音のする方角へ展開させた。


その僅か一秒後には無数の矢が着弾する。

障壁によって防ぎ切ったが、その矢に違和感を覚える


「この感触は本物の矢か!」


砕け散る矢類を見て魔法でないのだと察する。

つまりこの矢を放った相手はジークの欠点を知っているということ。魔法の遠距離攻撃で仕掛けなかったのはそういうことだ。


(『透視眼(クレアボヤンス)』! 『魔力探知(マジックサーチ)』! 『危機予測(イレギュラー・カット)』!)


周囲を視線を飛ばして状況を確認する。

不意打ち回避の魔法も重ねがけして警戒するが、その信じられない光景に驚愕する。


(包囲されているっ! しかもこれは……)


明かりなどない夜街の外だったのも理由だが、サナにばかり警戒して周りに視野を広げていなかったのが大きい。


だが、それにしてもこれはジークがこれまで取られた不覚の中でも、もっとも大きなものであったのは言うまでもない。


(また抜かり過ぎた。くそ、どうしてこうも……!)


治り出していた思っていた平和ボケはまだ抜け切っていなかった。

ジークを囲うように知っている魔力が数人、準備よく配置されていたのだ。


さらに離れたところにいる遠距離役か監視役か、いずれにせよこの場に居続けるのは危険だと判断する。


───そして空を切る音がまた彼の耳に入る。


「───ッ! また来るか!!」


視界を拡張している為、今度はハッキリと視認できる。

四方と上空から迫る無数の矢や槍を補足すると、体から魔力を集めていく。


(『零の透矢(ノーマル・ダーツ)・一斉乱射』!!)


そのすべてに撃ち落とすように魔弾の矢を全方位に発射させる。

アイリスがしたようにすべて操れるのであれば厄介であるが、これを仕出かした男にそんな技量がないことを知っている。


激しく金属が破壊されていく音。

衝撃音がいくつも響き攻撃が止むのを確認すると、改めて状況を整理するが、魔眼で視認した限りかなり厄介な状況であったのは間違いなかった。


(完全に囲まれているか…………どうも嫌な予感がする。一旦逃げるか)


SSランク冒険者であるジークは、勝算などまったく考慮に入れず、速やかな退避行動へと移った。


(『長距離移動(ロングワープ)』)


その場で空間移動を発現させる。

移動先は魔法陣のマーキングを描き込んだウルキアの森の別荘地。王都や学園の男子寮、さらにギルド会館は知られて、罠を敷かれている可能性が高い。明日の大会のことなども忘れて、王都から脱出しようとした。


「ッ、なにっ!?」


だが、発現された筈の空間魔法は不発へと終わってしまう。

ジークが失敗したわけではない。彼を包み込もうと魔力の渦が発生しかけたところで霧散してしまったのだ。


「くっ……『身体強化(ブースト)』───っ」


その現象を見るや舌打ち混じりに駆け出すジーク。

耳元にまたこちらに飛来しているであろう鋭い風の音がいくつも届き、あの男がまだ狙っていると分かると身体強化を発現させようとするが、その魔法もまた発現しかけると途中で霧散して消えてしまう。


(徹底的だな。カムさんの『侵入破壊の改変式(クラッキング)』!)


自身の魔法がまた消されたのを見て、魔力探知していた一人から離れるように疾走する。


これらの現象は間違いなく、彼女の眼が起こしていることだ。彼の魔力ではなく魔法式そのモノを狙う以上、ジークでも対応しにくいのである。


(『身体強化(ブースト)』『長距離移動(ロングワープ)』『身体強化(ブースト)』『長距離移動(ロングワープ)』『身体強化(ブースト)』『長距離移動(ロングワープ)』)


その合間も魔法を行使しようするが、その度に消されていく。

他の発現している魔法は消されていないが、それはこちらの焦りをより一層強くする為であろう。


相手はこちらの身体強化と空間移動の魔法は徹底的に排除してくるだけだが、打開案を模索する余裕を確実に奪っていく。


(くそ、まだカムさんに捕捉されている! 高速で逃げれば回避できると思うが、やはりそんな暇は───)


与えてはくれないか。そう心の中で呟く前に相手が仕掛けてきた。


(また来る! ───ッこれは、まさか!)


正確には隠れていた者が一人、ジークに向かって急接近してきたのだ。

その接近は彼も気付いていたが、動きも圧倒的に速く身体強化がない彼では、逃げるのは不可能であった。


「シッ」


咄嗟に『零の透矢(ノーマル・ダーツ)』を迫ってくる方へと何発も発射させるが、駆け出してくる相手は読みきっていたのか難なく持っていた片手用の金属盾が壊れるまで防ぎ切ってみせる。


そうしてジークが反応するよりもずっと速く、神速で彼の懐に入ると身体をコマのように回して蹴りを───。


「悪いなジーク」

「っ───ぐ、お!」


そしてほぼ予想通りに仕掛けてきたバルトからの蹴りをもろに腹に受けてしまった。

吹き飛ばされて草むらに転がると漏出している岩肌に激突してしまう。


「くっ、バルト!」

「よぉ!」


その衝撃で小さく呻き声を漏らすが、切り返しは怠らなかった。

吹き飛ばされたこちらに向かって駆けるバルトに反撃しようと、ジークは『専用技(スキル)』ではなく、通常魔法を展開させるが、それがミスである。


反射的に能力の高い通常魔法で迎撃しようとしたが、その分専用技よりも発動にタイムラグがある。


「カッ、遅ぇよ!」

「がっ!」


その僅かな時間だけあれば、戦闘方面にに特化されたバルトには十分であった。


魔力が込められ魔法式が起動する寸前に生まれた隙を突くようにしてジークの胸元、腹部そして顔に、手刀を打ち、拳を打ち込み、トドメに顔面めがけて肘を打ち込んでみせた。


また衝撃で背後の岩肌に背中を打ち付けてしまう。

強化された攻撃である為、一発一発も重く受け身も取れなかったジークは倒れるように沈んでいく。


そんなかつての教え子の無様な姿にバルトはつまらなそうにして吐き捨てた。


「昔ならありえないミスだなぁジーク。やっぱり堕落した所為か、咄嗟に原初を使わなかったのも普段隠している癖ってところか、このマヌケ」

「───ッ、そうかよ!」


別にキレたわけではないが、どこか癇にさわる。

ジークもまた唾を飛ばすに言い捨てると倒れた状態で、身体を回してバルトに向かって蹴りを入れようとする。


「はっ、当たるかよ」


だが、強化されてないジークの身体的スピードではバルトには当たる筈もない。

軽く躱されて逆に小石を蹴るような蹴りが飛んでくる。


「ああ、分かってたさ!」


しかし、それがジークの狙い。

油断して適当な蹴りを繰り出すのを待っていた。


ジークは迫ってきた足に専用技の『零の透鎖ノーマル・チェーン』を出して縛り上げる。

片足を封じると跳ねるように起き上がり後方へ飛び、その勢いで鎖を思いっきり引っぱる。


そうして足を引っ張られるようにして体勢を崩したバルトへスキル『緋火の破球(レッド・バン)』を大量の魔力を込めて叩き込んだ。


「へぇー初めて見るタイプだな。随分工夫を加えたようだな」


その襲いかかる巨大な火の玉はバルトに届く前に、横から飛んできた蒼き炎によって掻き消されてしまった。


その炎を見たジークは魔眼の視野を放たれてきた方へと向ける。


「まぁ、居るとは思ってましたが、相変わらずその姿ですかデンさん」

「……」


するとそこには炎に似た色の青き鎧とどくどくな兜を付けた騎士が一人。

人の姿を好む無口な《竜王》デン・ソードがジークを捉えていた。


口元には兜の仮面で隠れているが、火を吹いたことで煙が上がっているのがわかる。


デンは蒼き炎を操る六王の一角。

ジークにとっては炎を教わった師の一人でもあるが、同時にどうしようもないほど厄介な天敵であった。


全然貯まらないので、次回は一週飛んで2月24日とさせていただきます。

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