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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
164/265

第0話 最初の間違いと夜の出会い後編。

ちょっとした過去話です。


「……」


月明かりだけの夜の世界。

辺りは一面草原ばかりが広がっており、人の気配はほとんどない。だが、その草原はもう自然としての原型は留めていなかった。


草が燃えて地面が陥没、隆起しているところもあり、所々には血の跡も残っている。 


そして処理し切れなかったのか、この自然界で生きていたであろう動物を含めた様々な生き物の残骸もいくつも残っていた。


それは戦場の爪痕である。

ここを戦場の地と決めて命を懸け攻め入った者。ここで命を懸けて守ろうと決めた者。そしてその両端の者たちの所為で巻き込まれた人や動物───自然がそうだ。


「……」


そんな多くの者たちの爪痕が残る丘の上で少女は一人、膝を抱えるように座り込んで遠い目をしてその光景を眺めていた。


その表情は後悔か悲しみか絶望か、少なくとも喜びなどではない。

勝者の目でも敗者の目でもない。

傷つけて、失って、そうして形となった現実を受け止めようとして、結果、何も見えなくなっているのだ。


終わりのない現実をただ直視してるだけ。

少女は吹き付ける夜風に打たれながら、目の前に広がるその光景をただジッと見ている。


見つかる筈のない答えを探して、決して解決することなどないと分かっていても、少女は目を閉じようとはしなかった。


その辛さも痛みもすべてその身に受け続けて。


そうして無防備にも思考までも停止してただぼんやりと眺め続け、一時間か二時間か。


本人も理解していない中、そろそろ声をかけた方がいいかと後ろから近付いてきた、銀髪の少年がその少女に向かって声をかけた。


「いつまでそうしてるつもりだ。アティシア」

「ジーク……」


ゆっくりと少年ことジークのほうを向く少女───アティシア。


ジークの格好は端がボロボロになったローブ。鬱陶しそうな顔で、夜風を纏っているローブで守りながら、こんな寒い中でも薄着の格好をしている彼女へ、持って来たもう一着のローブを被せる。


「今のオレはシルバーだ。それと風邪引くからローブくらいは着てくれ」

「うっ……また子供扱い……わたしの方がお姉さんだよ?」

「年だけな。……まぁ、その年も正確ではないがな。オレの場合」


自分よりも年上だと主張する彼女だが、見た目はともかく雰囲気が自分よりも幼く見えて呆れるジーク。


確かに以前は背丈も態度も自分よりもずっと年上感があり、少女というより女性とも思える体つきになってはいた。その所為で面倒なナンパや盗賊などに目をつけられたこともあった。


だが、ここ最近、成長期か自分の方が背が高くなっていた。


魔法で姿を変えていたが、背丈は弄っていないのでその成長に彼女が落ち込んでいたのを覚えている。


精神面も戦場で戦い有名になり聖国の大物たちと接点が増えたことで元々大人びていた彼であったが、最近ではより一層その雰囲気を醸し出していた。


そして逆にアティシアの方はより幼くなっている気がした。

正確には傷つきやすくなってきたというべきか、戦場を駆けていくうちに彼女の心は傷ついていき、徐々に衰えてしまっているのだ。


(元々戦士とは言えない性格な彼女だ。敵でも味方でも人の死は堪えるか)


しかし、彼女のことを常に見ていたジークはそれをなんとなく感じてはいても、その行動を止めることはできなかった。


彼のできることは、ただひたすら彼女を守り戦争を終わらせることだけ。

それ以外のことは彼でも手に負えないことだった。

だから毅然として彼女と向き合い続けようと決めたのだ。……戦場で人を殺めた、その時に。


「まったく、これで風邪を引かれたオレの所為だっていうのに。いったいどれだけ黄昏ていたいんだ?」

「っ、ごめん、でもどうしてもここの風を肌に感じてたくて……」

「……そんなことをしても何もならないだろう? もう遅いしいい加減帰るぞ」


申し訳なさそうに謝る彼女を見ていると、どうしても心が騒ついてしょうがない。

その彼女の悲痛な表情が余計に毒だったことから、早々に皆がいる街まで連れて帰ろうとするジーク。


(やはり連れて来るべきじゃなかった。こういう時は年長者の人たちを頼るべきだな)


彼の脳裏に今まで世話になっている仲間たちが浮かぶ。


実力としてはジークよりも遥かに劣るが、それでも頼りになる仲間たち。その中でも女性でこういう時に頼れる人物を何名か思い浮かべつつ、アティシアの腕を取って起き上がらせようとするが、引っ張ろうとしたところで抵抗が入る。


慌てたようにアティシアが抵抗している。

いったい何を考えているのかと呆れ顔で彼女の顔を覗き込むと、そのジークの反応にアティシアはなんとか取り繕うとした様子で口を開く。


「ま、待って! もう少しだけっ。ほ、ほらっ! もう敵もいないし! あともう少しだけ居ても……!」

「ダメだ。もうワガママを二回も通したんだ。それに時間も随分粘ってる。ガイたちにも伝えているが、それでも時間をかけ過ぎた。もうこれ以上のワガママは認めない」

「っ、ご、ごめん」


彼が口にした我儘という言葉に腕を引っ張られ、抵抗しかけた力を緩めるアティシア。


本来この非常時に安全地である街から離れるべきではない。さらにジークがいるとは言え仲間たちも置いて行っている状態だ。


そんな無茶をアティシアはジークに頼んでしまったのだ。

そしてもう一つ加えるのなら大戦でも重要な戦力であるジークを連れ出していること事態も問題である。


が、彼女とジークの関係を知る者からすればそれは特別なことであった。

寧ろアティシアが戦争に参加したお陰で彼もこの戦争に参加してくれたのだ。彼女がいなければ彼も現れなかった。


だから他の者たちも文句を言おうとはしない。

ジークがこれまで上げてきた実績を考えれば、この程度であれば十分許容範囲であったのだ。ジークが暴れたことで毎回始末書の束に頭を悩ませる胃痛・頭痛持ちのガイですら、そんな彼女の要望を爽やかな笑顔で了承してきたのである。


「まぁ行くぞ」

「うん」


そう彼が言うとその胸に抱きつくように寄り添うようアティシア。

ジークの空間移動の際に近くにいないといけない為、いつものように寄り添う体勢だが、傾けている彼の躰に彼女は改めて実感する。


しかしそれは身体的な成長ではなく、間近で見上げたことで見える陰がある彼の瞳だった。


銀の瞳へと変わっているが、その内にあった優しさが消えかけて代わりに黒きモノが埋められている。


「っ……!」


それは彼とはもっとも縁遠い感情であった筈なのに。

その原因が自分だと理解してはいたが、どうしても込み上げてくる悲しみに嗚咽が溢れそうになる。


「ん、んっ! じ、ジークは変わったね? 昔よりも大人っぽくなったよ」


泣きそうになっているのを彼に知られたくない為か、必死に表情には出さないようにして口する。


するとキョトンとした顔でいたジークは、何か思うところがあるのか、彼女のには気付かず、どこか否定的な反応をした。


「変わってないさ。オレは昔のままだ」


どこか視線を遠くにやり悲しげな眼差しとなる。

さっきまでの彼女に似た表情であるが、それは少しばかり複雑な感情が混じっている。


「でも、だったらどうしてそんな顔するの?」

「……」


悲しいそうな顔をしているのになぜそんな言葉を口にするか、彼のことを知るアティシアには疑問と不安しかない。


(少し口が滑ったか……仕方ない。師匠に言われてたし、いずれ話さないといけないか……)


そんな彼女の不安そうな顔を見て余計なことを言ってしまったと思ったが、これも一つの機会だと思い直したか。彼女に隠しているとあることについて、思い切って話してみることにした。


「お前はオレが変わったと言っているが、それは人殺しとしてか? 躊躇いが消えて冷めた人間に見えるか?」

「っ! ち、ちがっ───」


ジークの言葉に慌てて首を振って否定しようとするアティシアであったが、それをジークが手で制して宥めるように背中をポンポンと優しく叩き抱きしめる。


本当に優しく壊れ易い物でも抱えるように。


「あのなぁ、よく考えてみろよ。盗賊一人殺すのに躊躇った甘ったれが、そう簡単には変われるか? 感情を殺して戦場の敵を何人も一瞬で殺して回れるか? ───覚悟を決めた姉さんでも心を痛めているのに、オレはなんともない。……普通におかしいとは思わなかったのか?」

「……ど、ういうこと?」


ジークのセリフに顔を強張らせるアティシア。

理解が追いつかない。けど、何か恐ろしいことを告げられている気がする。


アティシアは目の前で自分を抱きしめている彼の顔を両手を添えると、その瞳の奥を覗き込むように凝視する。


「やっぱり戦場は向かなかった。初めて立ったその時から、オレはある魔法を使ってたんだ」

「ま、魔法って……」

変装の魔法(ハロウィンハロー)だけじゃない。オレはそのお陰でここまで来れた」


それにジークはくすぐったそうな顔をするが、次に諦めたような笑みで問いの答えを教える。


「我が眼を欺き化かす第三の魔眼(・・・・・)永劫不滅な銀の幻想(ザ・ヴィジョン)』。それが今のオレを象ってくれているメッキの正体だ」


そう告げて彼は空間移動を発現させる。

隠していたことを伝えれてスッキリしたのか、少しだけ晴れたような顔するジークは、仲間たちが待っている街へ戻る。


明日の戦い向けてしっかりと休む為に。


「……また新しい魔眼を?」


しかし、この時、彼には見えていなかった。

不安そうにしていた彼女の顔がより一層濃くなっており、彼が告げた魔眼の一言でその表情は凍りついていたことを。


彼としては自分の秘密を打ち明けたようなものであったが、彼女の気持ちは違っていた。


感情の概念すら欺く魔眼。

アティシアにはその魔眼が本当に使用しても大丈夫なものなのか、自分の無力と恐れを混じり合わせながら、彼女はただ彼を見上げるしかなかった。

次回の更新は二月十日になります。

全然安定しなくてすみません。たぶんしばらく続きます。

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