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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは覚醒する。
163/265

第0話 最初の間違いと夜の出会い前編。

大変遅くなりました。

───彼女を見た時、どうしてか……救われた気がした。


一年程前である。アティシアの忘れ形見であるアイリスを一目見るため。

そして師が隠した『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』を探すためにジークは、村からずっと遠くにあるウルキアの街にやって来た。


入学式の日、朝早くからの登校に若干嫌そうにしながら、多くの生徒に紛れて外から校舎を眺めていた。


皆が楽しげに眺めている中、彼の心境はそこまで活発ではなく、初めて目にする学び舎にも大した感心もなかった。


「学び舎とかどう考えても俺には合わないような」


師の勧めで入学を希望したが、実際はそこまで入りたいとは思っていなかった。手続きの際も村の知り合いを誘ってみたが、見事に全員から断られてしまい、一人でつまらなそうに街に来ていたのだ。


それでも入学を選んだのは、やはり目的の両方を短期間で果たせれると考えたからである。


古代原初魔法(ロスト・オリジン)』の在り処は学園であるのは師から聞いていたため問題はなかったが、アイリスの居場所については当時は知り得ていなかった。


しかし、この街に住んでいることと、年齢が自分に近いと以前アティシアから聞いてたので、もしかしたらこの学園に在籍しているかもしれないと選んだのだ。


もっと正確な情報があればよかったが、それ以上のことは聞いておらず師からも聞き出せなかった。


───自分の目で見つけて来なさい。


そう告げた師の真意は分からなかったが、アティシアがまた会いたいと言っていた妹。ジークも興味があり一目見たいと思ったのが、素直な気持ちであった。


「あ、見てサナちゃん! 同じクラスだよ!」

「あら、ホントね!」


だからそこでアイリスをに見つけた際には、自分は夢でも見ているのかと現実の光景を疑ってしまった。


アティシアにそっくりな彼女に体も思考も固まって、めまいも覚えながら彼女を凝視してしまう。もう彼女はいないのに、まるでそこにいるかのような感覚に見舞われたが……ふと違和感を覚えた。


(ん、何か変だ───っ!? なんだこれは!?)


そして気づいてしまった。アイリスを見ていることで抱く違和感の正体を。恐ろしい事実を。


(ば、バカな! こんなことが、こんなことがある筈が……!)


勘違いだ。あり得ないと目を背けそうになるが、現実は彼の視線の先にある。


しかし、それは彼だからこそ気づいてしまった事柄だ。このことを認識できるのは彼女と深く繋がりを持っているジークだけであろう。

このまま彼女と関わらないようにすれば、アイリスに実害は出ず、安全な学園生活を送らせれる筈なのだ。


(ああ、その方がいいよな。あの子の為にも)


近づいていけない。自分が彼女に近づいていいわけがない。汚れきった自分のような罪人が……心の中で自分に言い聞かせる反面。生まれつつある気持ちで、揺らぎを出し始める自身の決意。


分かっていながらも分からないフリをしてしまう。

そうしてダメだと分かっていながら、視線がまた彼女を捉えてしまい。


「「───!」」


まるで運命に導かれ吸い寄せられるように、アイリスとジークの視線は繋がったのだ。



◇◇◇



───ちょっと付き合って。


サナに言われて、ジークは夜の街を彼女と並んで歩いていた。

彼女に習い制服で外に出たジークだが、彼女のように武装はせず、僅かに前を先導する彼女に黙ってついて行く。目的地も知らされずに。


(って、これって不味くないか?)


他の人たちから見れば学生同士。ハメを外して夜のデートをしているようにも思えるが、この二人に限ってはそれはあり得なかった。


寧ろ好ましくない光景であった。

学園側にバレてしまったら、何を言われるか分かったものではない。脳裏でグラサン老人教師の憤慨顔を思い浮かべて苦笑するジーク。バレれば間違いなく不純性交遊だなどで鉄拳が振り下ろされるだろう。……もちろん彼の頭上から。


(まぁ、それよりもこのサナだ。……本物だよな?)


などと、逃避に入りつつもサナの行動に注意を向ける。

言動からは怪しい点は見つからなかったが、さりげなく第二の魔眼『千夜魔天の瞳(シェラザード・アイ)』で彼女の魔力波長にも注意する。今隣に立つサナが本物かどうか彼には確信がなかった。


(ダメだな。これだけ近くで見てもよくわからん。あの魔法は魔力体まで偽るからな。俺の第二の眼(魔眼)でも見極めれるかギリギリだ)


注意深く観察したこともないので確実とは言えない以上、ジークの警戒レベルは常に高まっていた。


「なぁいったいどこまで行くんだ? そっちと関係あるか知らないが、俺このあと予定があるんだが……」


無駄かもしれないが目的地について問いかけてみる。

恐らく───いや、間違いなくサナも無関係ではないと思われるが、彼女がどこまでこちら側に踏み入っているのか分からない。


「少しそこまでよ。それとその予定(・・)には私も混ざるわ」


なるべく言葉を選びつつ口にした問いかけるが、大した反応は見られない。そこでジークは不意をつけるかもしれないと、思いきってこちらから踏み込んでみることにした。


「ほうーーじゃその前に答えてくれるか? ───俺の師匠から何を聞いた」

「……もうすぐ着くから」


殺伐な雰囲気はないが、それでも和やかな空気でもない。彼の不意のついた問いをバッサリとあしらったサナであるが、さりげなく一定距離を取られている見て、ジークは随分と警戒されているなぁ、と苦笑顔でため息をついた。


(これは相当口止めされているようだな。できれば到着前にある程度把握しておきたかったが、これじゃ難しいか)


結局その後も尋ねるジークに対してサナは顔を見ようとせず淡々と口にするだけ。サナの表情からは何も読み取れそうになく、ジークもそれ以上は聞こうとせず彼女に着いて行くことにした。


「……っ」


その様子をチラ見で確認するとサナは、表情や動作には見せなかったが、心の中ではいつにないほどの焦りを感じて、聞こえない程度の安堵の息を吐き。背筋には大量の冷汗を流していた。


(あ、危なかったわ! なによあの眼!? いつもの彼の目じゃない! まるで体の奥の心まで覗かれている気分! シィーナさんに言われた通り目を合わせなくて正解だったわ……)


見透かされる危険があるから、彼とはなるべく顔を合わせないように、と彼の師ことシィーナの助言通りにして案内しているが、正直緊張で会話ができそうにない。


お陰でボロを出さずには済んだかもしれないが、その場の居心地が最悪であったのは言うまでもない。


元々、仲などそこまで良い訳でもない。寧ろ衝突、というかこちらから一方的に敵意を向けているような関係である。間にアイリスが立って初めてまともな関係へと変わるのだ。


(はぁ、分かってわいたけど、やっぱり警戒されてるわね。まぁ、こっちも似たようなものだししょうがないけど)


普段は決して仲のいいとは言えない相手からの突然の夜の誘い。

普通に考えればありえない。これは誘う方側と乗る側にも違和感しかなかった。


ジークが彼女を警戒するように彼女もまた、彼のことをそれとなく警戒していたのだ。


(本当に大丈夫よね? シィーナさんは大丈夫だって言ってたけど……)


そもそもサナはジークの正体に関して、正確に知らされているわけではない。


ただ厄介な相手であると言うことを聞かされ、連れてくる際にはくれぐれもジークを怒らせないように注意をすること、と皆にこれでもかと注意を受けたのだがその際、彼の正体についてそれとなく尋ねたサナ。


そして同席していたアイリスも以前から気になっていたので、わたしも教えて欲しいと聞き入る姿勢を取っていたが、皆の反応は少々怪しいものがあった。


言うべきなのか、言わないべきか、非常に面倒で悩ましい事案を抱えてしまったような困った顔でただ頑張れと励まされただけで、彼女たちの疑問には答えることはなかったのだ。



◇◇◇



「王都外で男女の学生が密会かぁ。お前にしては随分と背伸びしたな」


歩いてから数分、到着したのは街の外。

辺りが草原と岩肌があり人も魔物もいない場所。


(ここで止まるのか。てっきり森まで行くのかと思っていたが)


歩いている途中でまさかとは思っていたジークであったが、バルトに指定された場所がその先の森であったので、寧ろ途中で止まることになり疑問符を浮かべている。


(しかし、制服で街の外に出るのは不味かったんじゃないか? 呼び止められなかったが……)


外に繋がる門の憲兵に見られていたので、さすがに不審がられたかもしれない思うジーク。


夜とはいえ制服を見ればどこの学生かは分かってしまう。さらにそのまま街の外に出た以上、明日の教員からの説教率が高まったのはほぼ間違いなかった。


「安心しなさい。アリスにはしっかりフォローしておくわ」

「あはは……どうも」


サナの冗談か本気なのか想像したくないセリフに、苦笑い気味に感謝の言葉を返すジークだが、やはり少々落ち着かない。アイリスの話題を出されたせいかもしれない。冗談にしてもこんな所を目撃されたら、間違いなく面倒になると予想しているからだ。


ここ最近の出来事のおかげで以前のような不名誉な噂は収まり出しているが、それがまた噂になってしまったら───。


そんな悪い予感しかない仮説にジークが頭痛を覚えいる。その時だった。


「……!」


彼の視界の端でチラリと人影が入る。殺気もなく戦意もないが、あまりの急なことに戸惑いそうになるが、襲撃の可能性も考慮に入れていたジークは、僅かな間も作ることもなく、瞬時に迎撃態勢に入る。


体に魔力を巡らせ、いつでも対応できる状態だ。


「っ! お、おまえは……!」


しかし、こちらに接近して来る人を視認して誰なのか理解した途端、その迎撃姿勢も解除してしまう。


一瞬ニセモノかと勘ぐるが、その姿だけでなく彼にだけは分かる彼女の存在を認識し、心が激しくザワめているのを感じて、本物だと理解する。


正確に言うならその夜の僅かな光でも見える水色髪の彼女を。制服姿の彼女を見ただけで警戒するのも忘れるほど、絶句してしまったのだ。


一年前まではよく目にした彼女であったが、いま目の前にいる彼女は何かが違う。


以前であれば自然と目を逸らすこともできただろうが、この時はどうしてか彼女から目を逸らせれなかった。


「待ってたよ……ジーくん」

「───っ!」


そしてアイリスからの呼び声を聞いて不覚にも懐かしいと感じてしまった。学園の予選会の日に一度呼ばれた筈なのに。


彼の心はこれまでにないほど、戸惑いの渦にはまっていた。

なかなか更新が安定せずすみません。

次回の更新は1月28日とさせていただきます。


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