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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【中編】。
159/265

第19話 追跡者の恐ろしさ。

色々あって書き直したりしたら、遅くなりました。すいません。

「は……は……」


グレリア・フルトリスは人気のない裏路地で息を潜めていた。


人目を避ける用に黒のローブを身につけて、何かから見つからないように隠れている。相当な緊張感に襲われているのか、その額には大量の汗が流れていた。


予想外の強襲に、グレリアは着実に追い詰められていたのだ。


「は……」


気配を可能な限り消して、乱れていた呼吸をどうにか整える。

しかし、緊張は緩めれない。路地に隠れて周囲に視線を巡らせ警戒しつつ、懐から特殊な術式が埋め込まれた魔石を二つ、取り出してうち一つを口元に持ってくるグレリア。


「リヴォルト……リヴォルト聞こえるか?」


通信石であるその魔石は魔力を込めることで起動する。

グレリアは声を送って返ってくる筈の返事を待つ。……だが、十秒以上経っても返ってくることはない。


「ち……あの馬鹿者が。何かあればすぐに魔石で知らせろと言っておいたのに」


思わず魔石を握り潰してしまうが、結果として証拠を隠滅できたので良しとする。


自分の追われている状況を考えるなら、リヴォルト側にもなにか仕掛けられているかもしれない。あの男が簡単に不覚を取られるとは思っていないが、それでもいつにもない程の事態。グレリアは少しでも関係に繋がるものを処分した方がいいいと感じてしまう。


だが、それよりもまず先にしなくてはならないことがあった。


「貴重な実験体であったが、あちらの手に渡るよりはいいか」


失望そうに呟くと見えはしないが、会場がある方へ視線を向ける。

盛り上がっている観客達の声援が耳障りなのか、嫌そうに眉間を寄せて視線を逸らすと通信石とは違う、もう一つの魔石に触れる。


「リヴォルトも気になるが、まずは実験体が優先だ。あの《金狼》の娘、明らかにこちらの事情を知っている。異常な強さにも驚きだが、まさか原初持ちだったとは」


情報にはまったくない原初魔法に、それ以前の試合にはなかった異常なほど長けた氷魔法と圧倒的な戦闘術……もはや別人だと考えれば納得がいくが、大会のセキュリティを考えるとかなり難しい筈。


「どちらにせよ。このままではこちらのことが露見しかねない」


その前に手を打っておかねばならない。

グレリアは淡々と手元の魔石に埋め込まれた、術式を起動させようとする。


「ほとぼりが冷めたらまた新しい素体を探さねばな。今度はもっと優良な素体に絞るか?」


狙いはサナの氷結魔法によって、捕縛されてしまったカルマ・ルーディス。

保険として彼に仕掛けた自決魔法。それを遠隔操作で行使する為に、グレリアは封じていた魔法を起動しようと────


「何をだ?」

「───っ!?」


警戒を怠っていたわけでは無い。グレリアは通信石で呼びかけている際も注意を払っていた。だが、声をかけた相手からはまったくといっていいほど、気配が感じ取れずあっさりと背後を取られてしまった。


その男の呼び声に思わず肩を震わせ、魔石を起動させようとした手を止まり駆け出しそうになるが、止まってしまう。いや、止められてしまった。


背後から声をかけた男によって、触れられることもなく、体が硬直してしまった。


(遠隔の捕縛(バインド)! しかも魔力体の動きまで抑えるのか!)


自身の身に起きた現象を分析するが、それでも信じがたい状況であった。

本来捕縛(バインド)系はあくまで対象の身体を拘束するものであり、魔力まで縛るわけではない。


「まぁ待ちなよ。《戒律者》」


しかし、背後からその捕縛(バインド)をかけた男は、その常識を己の技量で超えてみせた。魔石を起動させようとしたグレリアの魔力体を拘束させて、以降の魔法、魔力的な動作を封じてみせたのだ。


(逃げるのは……無理か)


どうにか振りほどいて駆け出そうか、グレリアは考えもしたが、声の主の能力を考えると見つかってしまった以上、もう無謀な逃走は無理だと気づいてしまう。なので振り返れないまま、背後の男の気配に注意する。


「何処に行くんだ? グレリアさんよ?」

「《天空界の掌握者(ファルコン)》……」


体と魔法も封じ楽しげに声をかける追跡者(ギルドレット)に対し、殺意を忍ばせて呟きを漏らすグレリア。

そうして互いに視線を合わせないまま会話が始まった。


「おお、随分とご機嫌が悪そうで? 眉間のシワが凄いですよ?」

「どこかの変質者の所為で動けないからな」


不敵な笑みで尋ねるギルドレットに、グレリアは警戒しつつ言葉に小さな刃を含ませる。前から顔を見られているわけではないが、『視野を飛ばせれる』という能力がある魔眼を所持する以上、驚く必要はない。


(イラつくが今は少しでも頭を冷やして整理すべきだ)


癇に触るような言動に腹が立ちそうになるが、グレリアは冷静に流して彼の動きに気配を集中させる。


追跡、索敵を得意とするギルドレットを相手に無駄な行為かもしれないが、グレリアは思考を巡らせてここを切り抜ける手立てがないか、検討してみる。


(クソ、ダメだ。仮に言い含めたとしても、こいつの視線は王都全体まで広げれる。不用意な動きをした時点で逃げるのは不可能だ)


だが、巡らせていけばいくほど、この急な事態に対し何か作為的なものをあるのではと思わずにはいられない。


試合ことからリヴォルトの不在。嵌められたと思った方が納得しやすいくらいだ。

余計に危機感を覚えたのか、グレリアは自身で動こうとしたが、そこでギルドレットが待っていたように追跡して来た。


(タイミングが良すぎる。この男、明らかに見張っていたな)


実験体のカルマがあっさりサナに捕まってしまった。露見を恐れて追跡者からなんとか振り切ろうとしたが、流石は聖国一の覗き魔の男だ。その監視網は常軌を逸脱していた。


(予期せぬ事態に泳がされていることに気づけなかった。だとすればリヴォルトの方にも何者かが……先ほどの試合から嫌な予感はしたが、リヴォルトがいなくなったのも関係しているのか?)


カルマの試合を見ていたグレリアはリヴォルトが、ジークを捕らえるために大掛かりな捕縛へと動き出していることを……それが原因で自らの首も締められているとも知らなかった。


(常に見張っていたのか、動き出すまで? 今日までずっとか? いや、あのガイ(ギルドマスター)が探りを入れていることは随分前から把握していたが、だからといってこの男に常に監視させ続けさせたか?)


ありとあらゆる憶測が飛び回っているが、第一に浮かんだそれはありえない可能性であった。


ギルドレットはSSランク冒険者として、常に街の監視や街付近の魔物や盗賊退治で忙しい筈。仮に前々から警戒していたとしても、グレリアたちを常に見張り続けるのはいくら彼であっても不可能であった。


(だとすればまだ完全には把握し切れてないと考えるべきか。……なら、ここはヘタに話を合わせず早々に退散すべきだな)


難しいかもしれないが、ここで捕まるわけにはいかない。

グレリアは動揺のない声音に威圧感を含ませ、追い払うように口を開く。


「失せろ私は忙しいだ。これ以上縛るのなら後でギルド側に訴えるぞ」


少なくとも捕まるような容疑はまだ見つかってはいない。

寧ろ尾けられて理不尽に拘束されてしまった。これが大ごとになれば場合によっては、たとえ聖国が誇るSSランク冒険者のギルドレットであっても罪に問われてしまうのは明らかであった。


しかし、それは……。


「それはアンタ次第だ。どちらにしろ一生徒を殺そうとしたんだ。いくら女性に優しいオレでも────見逃すごせないな?」

「────!」


背を向けたままグレリアの体に激しい悪寒が走る。それは彼から常時漏れている女性が嫌うモノとは違う。


SSランク冒険者(超越者)が発する殺気が、拘束されても冷静でいたグレリアの精神を一気に圧迫していたのだ。


「どうする《戒律者》。今のオレならアンタみたいな、美人が相手でも本気になれそうだ」


そう言ってギルドレットは笑みを崩さず、彼女の背に向かって研ぎ澄まされた言葉のナイフを押し当てる。


返答次第では本当に刃が突き刺さることになる。

彼に拘束されてしまったグレリアには、それがハッキリと理解できてしまう。もう彼女には抵抗するだけの余裕もなくなっていた。


「抵抗は無駄というわけか……何故だ? 何故こちらの動きが正確に分かった? まさかずっと私に見張っていられた? だとしたら相当気色悪いが……」


ただ、一つだけどうして信じたくない現実もあった。

拘束を解いて向き合ったところで、まさか常に監視していたのかと冗談交じり問いかけるが。


「別に四六時中み見張っていたわけじゃないけどな……」


……どうしてか恥ずかしげに頰をかいているギルドレットがいた。

その様子にグレリアが疑問に思う中、言いづらそうにして彼は口を開いた。


「そこら辺はそっちの仕業────というか、 シルバーを捕らえようとしたリヴォルトの爺さんが仕出かしたのが原因だな。


リヴォルトが原因だと言った時点で尋ねたことを軽く後悔した。


「……あの爺さん王都にいる配下を短い時間で集めたようだが、やっぱ焦ってたのか会場で警備している連中にも指示して集めたようなんだよな」


馬鹿なのかと思った。本人がいれば間違いなく汚く罵倒していた。


「その所為であっちこっちで突然の警備がいなくなったって情報が流れてきて……まぁ、そのお陰で爺さんの方はどうにでもできると思ったから、オレはこっちに集中できたんだな。これが」

「とりあえず……ちょっと整理させてくれ……」


なんとも聞いているとこちらが恥ずかしくなりそうな内容だ。頭痛でめまいを起こしそうになるグレリア。そんな愚かなミスでこちらの尻尾が掴まれるとは夢にも思っていなかった。


「あー、大丈夫か?」

「ああ……最悪な気分だよ」


長い間どんな諜報部隊からも隠蔽を繰り返してきた我々が、まさかそんな初歩的な……己が欲望によってミスを犯すなど。


(リヴォルトが彼に熱を入れていたのは分かっていたが、ここまで短絡的な手段を実行するとは思わなかった……! 呼び出すにしても人員を注ぎ過ぎなのが分からないのか!? しかも計画も立てず急に呼び出した面子だけでSSランクに挑むなど…………私はそんな情けない理由で尻尾を掴まれたのか)


頭の中でこれまでの綿密な計画が壊れていくのが見えてしまう。やがては聖国をより力のある国へとしていくことも叶わず、グレリアの抱いた野望は呆気なく消えていく。


「はぁ、もう……どうでもいい。興味が失せた。煮るなり焼くなり好きにするがいい。……なんならこの体を好きにしてもいいぞ? 抵抗はせん」

「生憎とオレはジェントルマンでな。大人しく付いてくれるなら安全は保証するぜ?」

「分かっている。情報だろう? ならそれで取引でもするか」


すっかり疲れてきってしまった彼女はただ、今後の自身の身のことついてでも考える。ロクでもないリヴォルト(協力者)の所為ですべて潰えてしまったが、自分の情報が彼らにとって有効なことはよく分かっていたことだった。


「多分そうなると思うが……出来ればオレの前で言うのは勘弁してほしかった」


そして、予想通りギルドマスターのガイから取引を持ちかけられるまで、そう遅くはなかった。


次回の更新は再来週の日曜とさせていただきます。

更新が遅れて気味ですみません。

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