表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【中編】。
157/265

第17話 決着の白き雷。

「い、痛い……」


いつもなら大の男の拳など耐えられるカトリーナだが、身体強化された彼の拳は岩も砕く拳である。


「痛くしたからな! この馬鹿王女が!」

「───ばっ!? おいさっきからなんだ! 私は王女だぞ!?」

「だから何だ? はぁ?」

「い、いえなんでもない……」


鈍い音と共に涙目になり打たれた頭をさすった。あといつの間にかジークの敬語が喪失していた。


この王女やティアに対してだけなのか、半眼で睨みつけて口調も態度も乱暴気味になっていた。王女の方もすっかりビクついてしまっていた。

だが、それだけ彼女の気の剣技は危険なのであろう。


「い、一応外のティア達に結界を頼んでいるんだが……」

「限度があるだろうが……アンタは俺と同じで火力の加減が難しいタイプなんだから」


彼女なりに放っても大丈夫な理由を口にしたが、ジークからは厳しい言葉が降りる。やはり場所を考えるならまだまだ配慮が足りなかったのだ。


そして溜息を吐いてジークは仕切り直しとばかりに、リヴォルトの方へと向けた。


「運が良かったな筋肉ダルマ。俺が止めなかったらタダじゃ済まなかったぞ」

「こちらは受けてもよかったがな。オレの『屈強猛烈(インテンシティ)』の鎧は頑丈だ。たとえSランク魔法でも受け切れるわ、たわけ」

「なんだと!?」

「挑発に乗るな!」


勝ち誇った顔で自身の魔法の凄さを口にするリヴォルト。

言葉に反応して思わずカッとなるカトリーナをジークが嗜めていると、その間にリヴォルトは武器召喚の魔法を発現させる。


(まだ試作の段階だが、オレの魔法や気術ではこの二人を同時に倒すのは厳しい。些か耐久性に不安があるのが、これで仕留めてやろう!)


できれば使いたくないが、この状況ではやむを得ない。

リヴォルトは決心すると手のひらに小さな魔法陣が浮かばせ、そこから伸びるようにして持ち手は太い鉄で、頭は黒に金の装飾が付いた巨大な大鎚が出現させた。


「これで潰してやろう! ゴミ共めェ!」

「それは……」


その大鎚を見た瞬間、ジークは僅かだが目を細めて調べるように見入った。

それも先ほど使っていた『透視眼クレアボヤンス』ではなく、魔法解析に特化した第二の魔眼である『千夜魔天の瞳(シェラザード・アイ)』の目を使い見ていた。


(……て、違うのか)


それだけ興味を惹かれたということだろうが、同時に明確にその魔道具の正体に気付くと、興味深そうな瞳が一変してしまった。


「『壊雷』の……レプリカ」

「なんだその残念そうな目は」


黒の大鎚が模造品であるのが分かると、つまらなそうな顔で呟くジーク。

魔眼を使ってまで調べていたが、本物の所在をある程度知っているために、そこまでの期待はしていなかった。


しかし、それでも少しは期待したくなったのだ。

レプリカでもそれなりの性能があれば、是非とも手に入れておきたかったのだ。


「とにかく大技は控えろ。室内はもうダメみたいだが、会場まで影響が出かねない。外の結界が強力でも所詮即席で魔法用だ。気の攻撃には弱い─────分かったか?」


いつまでも見ていてもしょうがないと、ジークは横目でカトリーナに少々低い声音と暗い瞳で見つめる。さりげなく魔力の威圧をカトリーナに降り注いで、念押しでプレッシャーをかけた。


「わ、分かった」


もはや厳しい雰囲気がぶち壊しである。

いつも話している同じSSランクのあの男であれば、このようなことにならないだろうが、いざとなれば相手が女でも容赦がないジークである。

カトリーナは余計なことは言わず、戦闘方針をジークに委ねることにした。


「あーー分かったなら……いい」


疲れを吐き出すように呟くジーク。

額に汗をかいてコクコクと頷くカトリーナを見て、もう怒る気にもなれなくなったのか、それとも体格こそ違うが、姉妹だけありティアにも似た顔立ちからの、怯えたような弱々しい表情に困ってしまったか。


「ああ、それと作戦だが……」

「……?」


どちらにせよこれ以上叱るようなことはせず、仕切り直しとばかりにジークは息を吐く。

リヴォルトに聞こえないように作戦を伝えようと、カトリーナを引き寄せ─────


(『短距離移動(ショートワープ)』)


ようとしたところで、空間移動の魔法を発現させる。

カトリーナの体を無属性の魔力の渦が飲み込むと、渦が消えると共に彼女を転移させた。


飛ばした先は死角となるリヴォルトの背後。

突然の移動であったが、カトリーナはまったく戸惑うことなく、横薙ぎの要領で気を込めた剣を振るう。先程の室内を破壊した一撃ほどではないが、大岩程度であれば簡単に両断、破壊ができる。


(く……背後か! 不味い体が反応が遅れ……う、動けっ!)


その奇襲攻撃にリヴォルトの反応が遅れる。気配から察知できなかったのもあるが、自身の野生の勘で背後から剣戟を防ぐか躱そうとしたが、咄嗟の回避行動に身体の反応が遅れていた。


リヴォルトはあまり自覚してなかったが、巨漢な肉体な見た目に比べて、反射神経を中心に基礎運動能力が低下していた。理由は様々だが、その負担を身体強化の『屈強猛烈(インテンシティ)』のカバーによって間に合わせる。


回避は難しいが、どうにか防御は間に合う距離である。

リヴォルトは身体強化をフル活用させて、スピードからガードまで一瞬で対応する。

腕だけでカトリーナの剣を受け止めた。


「小癪な……! このオレを……《巨沈王》を甘く見るな!」

「そうか『蓮撃』!」


しかし、カトリーナも振るった剣を止めず振るい続ける。

気による強化された肉体で繰り出す連続乱舞。防御が高く何度もリヴォルトの腕で弾かれてしまうが、その程度では彼女の矛は折れない。


「うぉおおおおおお!」


雄叫びをあげて剣の速度と威力を上げていく。

腕だけで防がれていようが攻撃の手を緩めず、大剣を握っているとは思えないほど、最速の切り返しからの連続剣技を浴びせていく。彼の防御を破り切れていないが、ジリジリとリヴォルトを後退させていく。


(あ、ありえん! こ、こんな筈では……!)


僅かずつ押され出していることに、リヴォルトは信じられない様子で必死に防御に力を入れる。片方の手には大鎚という武器あるにも関わらず、守りを維持させるだけで精一杯であった。


(今頃気づいたか、マジで自覚なしだったとはおめでたい奴だな)


かつてはSSランク(超越者)であったといえ、既にリヴォルトは引退して年老いていた。能力的には高くても戦いが長くなればスタミナ、身体が追いていかなくなるのは明らかである。たとえ気と合わせた原初魔法『屈強猛烈(インテンシティ)』を纏っていてもだ。


(やはり歳だな。本人も気付かないうちに理想の動きが再現できなくて、王女の速度から徐々に遅れてる)


なにより、カトリーナとリヴォルトの似た戦闘スタイルであり、ほぼ同格の実力者同士であった。

その両者が共に力を注ぎ続ければ、均衡して大量の気力、魔力が削れていくであろう。消耗の激しい方が先に倒れているだけである。


そしてそれは言うまでもなく、崩れかけているリヴォルトであった。

このまま均衡が続けば、彼の自滅は時間の問題であった。


「くゥォォオオオオオオオ!!」


リヴォルトもそう直感したのだろう。

維持するだけで精一杯であったはずの守りの姿勢を、カトリーナの剣戟を体で受け切ることで強引に解き大鎚を構えた。


彼女の剣で裂けるかと思われたが、『屈強猛烈(インテンシティ)』を防御に回していた分、カトリーナの連続剣技にも堪えてみせた。


そして攻め続けてきた彼女を迎え討つように、両手で大鎚の持ち仕掛ける。

速さに自信のある相手であれば、この状況からでも後退ができたかもしれなかったが、鎧を身に着けリヴォルトに密着した状態でいたカトリーナには不可能であった。


「こうなればすべて消し去るのみだっ! ─────“蹂躙し圧殺せよ、滅雷”」


ハンマーを持ち上げると、彼女に向かって振り下ろすように打ち出す。

すると大鎚の頭の部分から、魔力によって生み出された雷が顕現する。大鎚に付与されている能力も加えられ放出された雷からは、異常なほどの莫大な量の青白き雷が発現される。


本来は雷魔法の雷は黄色のオーラであるが、発現された雷の色は違っていた。


(これはダメだっ!!)


自然界にも似る膨大な青白き雷。

その雷を見ただけで気を振り絞り出したカトリーナ。ジークから使うなと言われたが、そうも言ってられない。それこそ室内だけでなく、会場全体に大穴を開けかねない程の危険な大技を行使してでも、止めなければならないのが分かってしまった。


発現されようとしている雷は、それだけ脅威であった。


─────もっとも、


「大丈夫だ」

「───!」

「っ……シルバー!?」


そこで(ジーク)の声が届いたことでカトリーナも、そして雷を解き放とうとしたリヴォルトも一時的にではあるが止まる。


(その踏み止まりがお前の敗因だ。《巨沈王》……!)


その僅かな間にジークは逆転の原初魔法を発動させる。

彼の体から目にも見えない無属性の波が、リヴォルトの手元へと伸びた。


「『物資簒奪(シーフ)』」

「───!?」


視線をリヴォルトの大鎚に向けて発現させる。

その効果により、リヴォルトの持つ大鎚は主人から離れるように弾かれる。そのまま目に見えない何かに引き寄せられ、ジークの手元に移動した。


(なんだ!? オリジナル!? 対象指定の強奪魔法なのか!?)


あまりのことに歴戦の猛者であるリヴォルトにも、少しの間が生まれる。

本来であればこのようなミスなど決して犯さないリヴォルト。体に影響を及ぼすタイプの魔法であれば、『屈強猛烈(インテンシティ)』を纏っている以上焦ることものない。


だが、今回ジークが狙ったのはリヴォルト自身ではなく、彼が持っていた武器、大鎚である。


(捕られるなんて思わなかったか? やはり現役から離れたせいで鈍ってしまったようだな!)


さらに握り締めていた武器が、不可思議な現象で引き離されたことも大きな原因である。不意を突かれ予想だにしない、魔法の所為で反応が余計に遅れてしまった。


(次はその厄介な身体強化だ)


そこからジークは大鎚を持ちつつ、次の原初魔法を発現させる。

対象をリヴォルトが纏っている身体強化に狙いを定めて、再び目に見えない無属性の波が対象を飲み込む。


「シルバー……!」

「『完全解体(フル・デモリッション)』」


相手の武具を解除させる『武装解除(パージ)』の上位魔法。

武装解除(パージ)』のように複数の対象に掛けることはできない。だが、この魔法は対象を絞る代わりに解除できる存在は物質だけに留まらない。


魔力を注げば注ぐほど、武具以外の存在である魔法、精霊魔法、付与効果。


そして原初魔法、さらには以前入手した『無力無価(オーダー・キャンセル)』や専用技である『魔無(ゼロ)』では魔法しか消し去ることができないが、たとえ魔法概念のない気術にも効果がある。


対応の困難な原初魔法であっても、ジークの放出量であれば原初魔法(その領域のものも)解除が可能。さらに不意をついたこともあり、気も混じっているリヴォルトの強化魔法にも効果が通り易かった。


(全盛期なら魔力の干渉に気付いて避けていたと思うが、まぁこれで真っ裸だ)


その結果、相性の悪いリヴォルトの『屈強猛烈(インテンシティ)』も強引ではあるが、解除することに成功した。


「く……! ま、まだ……」

「させるかっ!」


大鎚を奪われた姿勢のままリヴォルトは唖然とする。

解除させられるとは微塵も思っていなかったか、そこには今までにない大きな隙ができている。慌てて身体強化を再発動させようとしたが、奪った大鎚を構えたジークが逃さない。


(こいつが相手なら、こちらも二種類だけに(・・・・・・)絞ることはない。六王にも匹敵する最強の(いかづち)をくれてやる!)


魔力の波長を変化させて、二種類─────いや、さらに増えて無、火、風、雷、光の五種類の属性、五色のオーラが彼の中心で呼び出される。


正確には生み出している量はすべて異なっている。

無、火、風、光は均等に放出されていたが、それらに比べると雷属性が圧倒的に生み出されていた。


「“五つの魔素よ、互いを繋ぎ合わせ力となれ”!」


詠唱を織り交ぜて『融合』させる。雷の黄色のオーラに残りの四色が集まっていく。雷のオーラは変化して色を濃くしていくかと思えば、化学変化でも起こしたかのように次第に白く、純白へと変異している。


それは大戦時、シルバーが扱っていたSランクの融合技法の中でも、最強クラスの融合属性の一つであった。


「加減は無しだ!! 膨れ上がれ“帝天”!!」


僅かな間といえ無防備となったリヴォルトに、ジークは奪った大鎚に壊れない程度に、生み出したばかりの“帝天”と呼ぶ魔力を力任せに押し込むように注ぐ。


「そ、その雷は……!」


大鎚からは怪しい水属性とも違う。先程のリヴォルトが見せた青き雷のオーラでもない。

どこまでも白い雷が大鎚の頭部から火花となって散らして、次第に激しい雷光を起こした。


「────我が一撃の元にその身を散らせ! 『帝天王の罰雷(ヴァジュラ)』ッッ!!」


魔力を注ぎ終えたところで、ジークは白き雷光を発生させる大鎚を、ガラ空きとなったリヴォルトの体に振り下ろした。


激しい雷光と雷鳴の襲来。

瞬間、大鎚から無限にも思える莫大な量の白き雷が放出された。


「ま、まて……」


────ガガガガガガガガガーーッッッ!!!!


解き放たれた彼の魔法に慈悲などない。

広がる海にも見える白き雷は無防備となったリヴォルトの体を、雷鳴が鳴り終わる前に容易く飲み込んで見せ、その焦り声さえもかき消してしまった。


いや、仮に守りを固めていても、無事でいたかといえば唯一その光景を見ていたカトリーナだけは否定するであろう。


(あれは紛れもない精霊王、六王も裁けれる領域の一撃だ。シルバー、お前はそこまでの力を持っているのに尚も力を求めるのか?)


僅か数秒の雷光が消えさり景色も元の壊れた会議室へと変わる中、カトリーナは一人立ち尽くしたかのようにして、心の中で呟いていた。


それは恐れか、それとも好奇か。

いずれにせよ、その視線は光の中から現れ、やり遂げたかのような深い息を吐くジークに固定したままであった。


次回ですが、来週はお休みで再来週の土曜日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ