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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【中編】。
155/265

第15話 試合を支配する氷の女王。

やっと氷地獄も終わった……。

だんだん寒くなるので、書いていると何故か疲れるんですよね(苦笑)。


「まだです!」

「……」


────突き刺さったように見えたが、と同時にその箇所が白き霧で覆われる。


まるで彼女の体をすり抜けたかのように貫通した刃を見て、サナが感心したように呟く。


「なるほど……『一体化』ですか。良い魔力コントロールですね」

「そう簡単には……やられません!」


サナの呟きが聞こえる中、シズクが突き刺さった刃を無視して、剣を構えて前へと踏み込んだ。


その結果、突き刺さった刃がさらに抉れて腹部を突くが、霧へと変化して流していく。


Sランク技法『一体化』。属性や魔法をその身と一つにする高等技法。

その技法を使用して、シズクは体の一部を属性化させて受け流した。


「『霧の千本刀(ミスト・ナイフ)』……!」


シズクは無数の小さな霧の刃を作り出す。空中で構えて同じく白い霧を纏った細剣と、ほぼ同時に放つ。


「『朝霧・突』っ!」


先にナイフを発射させて、細剣でサナを鋭く突きにいく。


「ふふふ……水の派生属性『霧』ですか」


至近距離からの無数のナイフとトドメの突き。


とくに構えてないサナはただ立っているだけで、躱せれるようには見えない。

普通に考えても間に合わない。


「『氷の千本刃(アイス・ナイフ)』」


しかし、サナの対応力は《冥女》並みに早かった。


シズクが放った霧のナイフをサナは、まったく同じ数の氷のナイフで相殺させた。


「『氷軍の護り盾(アイシクル・ガード)』」


さらに左腕に作り出した、分厚い氷の盾を作り出す。

霧のオーラを帯びた突きであったが、強固な魔力層で出来ているのか、傷ひとつ付かずはね返りオーラも弾けた。


「か、硬い……それに」


強過ぎる。そう呟きたくなるのを堪えて、彼女の動きに注意するシズク。

ほんの数手の攻防であったが、シズクはそれだけで勝ち目がないことを理解してしまう。


(攻めも守りも底がまったく見えない……! こんな相手、師匠以外にはいなかった……!)


勝利の意図が掴めない。このままいけば、先ほどのシオンのように瞬殺される。


たとえSランク技法の『一体化』を用いて、奥義を使用しても。


(ダメです……完全に詰みですこれは)


相手が師匠クラスに近い者だと感じ、勝機が乏しくなったことを自覚する。


決して諦めた訳ではないが、自分がその領域に立っているなどとは思ってなかった。


「勝ち目がないことは、理解できましたか」

「───っ」


その動揺は相手からも看破されていた。

見透かすようなサナの瞳がシズクの体を拘束したが、サナは攻めようとはしなかった。


「どうやら頭も冷えたみたいですね」


それどころか持っていた氷の刃を消して、シズクの元に歩み寄ろうとする。


「く……っ」


咄嗟に硬直が解けてシズクが剣で牽制し止めるが。


ある程度、内緒話ができる(・・・・・・・)だけの距離は稼げた。


「ちょうどよかったです。彼女にも参加を要請するつもりでしたし、どうせならあなたからお願いしてもらえませんか?」

「? 何のことですか?」


少しでも距離を取っている中、サナはシズクにのみ聞こえる声で話を切り出した。



◇◇◇



『シズク・サカモト選手、棄権を確認しました!』

「なっ!?」


審判の宣言が《復讐の壊滅者(リベンジャー)》の思考を乱し、会場内にさらなる混乱を生んだ。


(いったい何を話したというのですか? 二、三度会話をしたと思えば、突然の棄権ってなんですかっ。明らかに言われて従ったように見えますねっ?)


半ば怒気を心の内で吐き捨てる《復讐の壊滅者(リベンジャー)》。


《霜剣》のシズクの途中棄権。

勝機がまったくないという言い分であったが、とても納得できるものではない。SSランクの弟子が簡単に棄権とは考え難い。


何か裏あるのは明らかである。


「っ」


しかし、どちらにしろ試合は当然であるが、止まるはずもない。


気づけば参加者は残り三名となっていた。

しかも、うち一人は既に拘束されて動けそうない。


そして、まともに動けるのはサナ(イレギュラー)を除きただ一人、狙われていなかったクロウ()だけであった。


視線は当然彼に移る。

だが、《復讐の壊滅者(リベンジャー)》は手が出すことができなかった。


「あなたは……何者ですか? サナ・ルールブではありませんね?」


見た限りでも相手の力量は、憑依中(この状態)の自分を上回っている可能性があった。


(実力は間違いなくSランク級を凌駕している、と考えるべきのようだ)


想定にない思わぬ強敵の登場に顔から冷汗が出てくる。

大会で彼がもっとも警戒すべきは、ジーク・スカルスだと思っていたが、それは浅はかだった。


サナ(彼女)こそ……いや)


考えてもしょうがないと切り捨てていると、サナからまた厄介な魔法が展開される。


「『凍結された幽閉世界フリーズ・ディストピア』」

「考えるべきでした。私と同じゲストの存在を」


もうここまでくれば、笑うしかない。

ジーク・スカルスが使用した白銀の世界と同じように、試合場全体を包み込むのは、オリジナル魔法の無限にも思える氷の山だった。


観客達の視線を遮り、舞台の上に設置してある水晶型の魔石の映像のみとなった。


しかし、不思議なことに不満の声はなく、ただ予期せぬ試合の流れに戸惑うばかりだった。


「もう一度聞きますが、あなたは何者ですか? どんな魔法か分かりませんが、化けるにしてもやり過ぎでは?」

「さぁ? それはどうでしょうか?」


慎重に相手の動向を探るような瞳で問い掛ける《復讐の壊滅者(リベンジャー)》に、サナは一切動揺の色を見せず、にこりと微笑んで周囲の氷を操り出した。


「それにお互い様……いえ、そちらは幽体ではありませんか?」


彼を包囲するように、何十本もの氷柱が宙に浮いている。そのすべてがサナが支配する氷柱。


継続している氷結系のフィールド魔法。

同じくカルマ拘束し続けるオリジナル魔法。


そして最後には試合場をすべてを飲み込んむ程の巨大な氷山(原初結界)


本来の彼女─────サナ・ルールブが扱えれる筈もない魔法ばかりである。


たとえ《復讐の壊滅者(リベンジャー)》でなかろうと、同じ学園、クラスの者であれば絶対に気づくほど──────規格外な強さであった。


「この結界…………はぁ」


閉じ込められた結界の表面を眺めながら、《復讐の壊滅者(リベンジャー)》は吐息をつく。


相当頑丈にできた氷の結界のようであるが、オリジナル魔法である以上、それだけではないことに気付いた。ふと自身の手を見ながら口を開いた。


「また厄介な能力のですね。この魔法も中にいる者の魔力を奪っている訳ですか、そちらの方の蔓のように」


氷の薔薇の蔓に縛られるカルマを指して、嫌そうな顔をする。


「ええ、審判員は対象外ですが、あなたとあちらの男性の魔力は吸ってますよ? それに徐々にですが、空気も薄くなるようにしてますし」

「みたいですね。魔力体の端から魔力が吸われているのが分かります。それでより強固にして維持させているんですか」


しかも対象を指定できるとは、なんとも魔法師には厳しい嫌がらせのような魔法である。


「では、はじめますか」


さらに四方には大量の氷柱が控えている。

絶望的な状況なのは明らかであった。


「そうですね。私も改める必要があるようです……」


だから、そこ彼も自身の力を使うことに躊躇いを捨てたのだ。


クロウだけの魔法だけではなく、どうやらこちらも全力で挑まねばならない。

復讐の壊滅者(リベンジャー)》は肩をすくめられると、右手から歪んだ黒きオーラが漏れ出す。


「その力もまた彼と同じように罪だ。ならば清算して頂くのが通りです」


すると指先から黒き淀んだ、小さな雫が出現した。


「重みを知りなさい『矛盾な罪の一滴(ペナルティ・ドロップ)』……」


ここで乗っ取っているクロウではなく、彼自身のの原初の力を解放させる。


闇系統にも見えるが、出現した黒き雫。それは七属性には含まれていない濁り───呪であった。


それこそが呪属性の原初魔法。

ありとあらゆる悪意が込められた小さな雫。


「だからこれまでのあなたの罪を、この雫が測りましょう」


サナに見えるように指先にある雫を掲げると、彼は不敵な笑みと共に軽く指を下ろした。


原初の一滴はその地に落ちた。


─────ドクン


そして零れ落ちた瞬間、氷の世界が脈動を打った。


「これは……」

「私の()の邪眼に似ていますが、こちらの方が実に使いやすい」

「? ごぼっ……」


彼が妙なこと呟いたが、サナの耳には入っていない。

試合場全体の氷の変化に不思議そうな顔をする。


だが、《復讐の壊滅者(リベンジャー)》が呟いたところで自身の体の異常に気付いた。


しかし、同時に胸の奥から激しい嘔吐感に襲われてしまい、吐くことはなかったが咳き込んでしまった。


「氷の魔力を通して私自身の魔力体を……」

「はい、呪わせてもらいました。これまでのあなたが放出した、魔力の分だけ濃い毒を」


口元を手で押さえるサナに《復讐の壊滅者(リベンジャー)》が告げる。


魔力体を乱して本人にも負荷を与える、呪属性の魔法のようだ。そこまでは《冥女》の邪眼と同じタイプである。


口振りからして放出された量の分だけ、威力を上げていく魔法であるようだ。


「ですが、それだけはありません。あなたなら気付くと思うのでお話しますが……」

「ただの毒ではなく、対象の魔力を無価値に(・・・・)してしまう毒ですね」


だが、彼が告げる前にサナが答えてみせる。

嘔吐感が強いのか、口元を押さえたままであるが、どうにか氷柱の操作を維持する。


そして、その内の数本を《復讐の壊滅者(リベンジャー)》に向かって放った。


スピードもあり、威力も高そうな氷柱。

中級の槍タイプの魔法に匹敵するが。


「無駄です」

「分かってます。確認しただけですよ」


的である《復讐の壊滅者(リベンジャー)》に直撃した瞬間、霧散してしまい消失してしまった。


「つまり耐性が付いたということですね。あなた自身の魔力体が」

「その通り、魔力の抗体と言えばいいでしょうが、こちらが毒を放ったのに、あなたの魔法すべてに対して耐性が付いたんですよ」


両手を広げて無防備に体を晒す。彼女ではもう仕留めれないことが理解しているからだ。

オリジナル魔法が成功した時点で、《復讐の壊滅者(リベンジャー)》は勝利を確信した。


なぜなら。


「すべて……ですか」


もし《復讐の壊滅者(リベンジャー)》の言う通り、魔力そのものに耐性ができたとすれば、それはジークと同じような存在になったということだ。


これでサナが扱う魔法はすべて通じなくなったのだ。

張っている氷のフィールド魔法と氷結結界も、彼に対し効果をなくしてしまった。


「ええ、すべてです。それでは……」


しかし、《復讐の壊滅者(リベンジャー)》も自分の力を発現するのはここまでにする。能力こそ解除しないが、ここからは乗っ取っている肉体。


「お覚悟を……『魂狩りの罠区域(ソウル・ハンティング)』」


クロウのオリジナルで十分であろう。

彼はクロウの魔力体に刻まれた、原初魔法を解放させる。


「その体の魔法ですか」

「はい、効果は説明しなくてもいいですよね? 踏み込めばその瞬間、餌食になりますよ?」


彼複数の不透明な赤き円が、彼女を囲むように試合場全体に形成される。

そのエリアが何を意味するか、サナは踏み込まなくても分かる。危険な魔力を帯びていた。


「…………ふ」


しかし、危機的状況あるにも関わらず、サナの笑みを溢すだけ。

いつの間にか吐き気を抑える為に押さえていた手で、笑いそうになる口元を隠していた。


それが《復讐の壊滅者(リベンジャー)》には不気味に見える。

殺気が感じたわけや悪寒が走ったわけでもない。


ただ、どうしようもないほど、浮かべている彼女の笑みが歪で不気味であった。


「何が可笑しいですか……」

「いえ、まだ、まだ…………甘いと思いまして」


そこも見えていれば、絶対におかしいと思った筈であろう。

歪んでいた笑みがさらに深みを増す以上に、サナの表情は普段の彼女や先程までの彼女にもなかった。


「────」

「ごぉ!?」


だが、それを確認する機会は彼に来ることはない。

仕掛けた罠をすり抜けて悪あがきにも見える。迫るようなサナの疾走によって失われた。


「この程度の原初の力で……私を止められると思っているとは」


原初魔法により無効にしていた魔法。

通じる筈もないと警戒も緩んでいたのだろう。


「ど、どうして……」


それなのに胸に突き刺さった氷の剣(・・・)により、苦悶の声を出すこととなる《復讐の壊滅者(リベンジャー)》。


「どんな罠を張ったところで、凍結してしまえば無力と化す。この毒もそうです。手の内を晒したタイミングを間違えましたね」


本来消滅して通ることのない、彼女の魔法で出来た剣だ。

だが、起きてしまった現実は違った。サナの疾走と一緒に襲ってきた剣は、突き刺さる直前であっても、剣先から消える様子を一切見せず、その体を容易く貫いたのだ。


わたしの(・・・・)本来の能力を見極めれなかった。あなたの敗因ですね」


その彼を冷めたような眼差しで見上げるサナ。

先程まで笑みもない。呆れたように首を振って、右手で掴んでいる氷剣の柄に力を込める。


「過信軽率……ホントに残念な終わりでしたね。王子(・・)

「─────ガハッ!? あ、あなたは……!」


突き刺したまま袈裟斬りのように斬り捨てる。

精神ダメージに変換される為、実際は傷もなく血も出ない。


だが、その結果発生した精神ダメージは、致命傷に近いものであるのは明らかである。

振り切ったところで糸が切れたように、ガクリと膝つく《復讐の壊滅者(リベンジャー)》。


まったく理解が追い付かない狼狽した表情で、抵抗も反応すらなく。

呆気ない最後としてサナの前で倒れ伏せるのであった。

次回の更新は来週の土曜日です。

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