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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【中編】。
153/265

第13話 超越者の均衡と厄介な王女。

普段着でもある白のスカートと白のコートに見える、上着が戦闘服であるティアは剣を携えて専属の部下であるフウ、リンを連れて目的の場所に到着していた。


魔法に卓越したフウの探索によって、彼の居場所を見つけたのである。


ただ、


「ここですかフウ」

「はい姫様」


ティアは会議室の扉を前に視線を左右につつ、フウの返事を聞き難しげな顔をする。


到着するまで知らなかったが、ジークを捕縛する為にリヴォルトが配下に指示して、人が近付かないように見張らせていた。


そのため発見するのに多少の時間を要して、遅れを取ってしまった。


「まったく、会場の内で悪事を働くなど何事か」


だが、その選りすぐりの面々は哀れにも地べたで転がってしまっている。


ティアがもっとも恐れ父でもさえ恐怖するエリューシオン家、最強の姉の手によって。


「邪魔者は蹴散らせたが、いいかティア」

「は、はい姉様」


そんな者達をつまらなそうに一瞥していた女性────────エリューシオン第一王女にして騎士団長でもあるカトリーナの言葉に了承の返事をするティア。


ガイと分かれた後であった。

密かにティア達の動向を探っていた姉であるカトリーナが、仁王立ちで彼女の前に現れたのだ。


「よし、ではここからは私が先行する。いいか、さっきも言ったがくれぐれも手を出すんじゃないぞ」


愛用の白の甲冑を身に纏い、露わにしていた顔の部分の兜をはめ直すとカトリーナは背中に挿している大剣を抜いた。


顔が見えなくなったが、闘気が満ち溢れていた。


(あの……良いんですか、姫様?)

(き、聞こえません……わたくしはまったく聞こえませんから!)


それが無性に不安に感じるフウとティア。

これから起きるかもしれない惨劇を予期してか、フウの方は徐々に青ざめ出していたが、ティアの方は聞こないと顔を左右に振る。


裏切りになるかもしれないが、ジークについてここに来る途中で色々と話してしまっていた。

言い訳したくはないが、捕まった時点でこの選択しかなかった。


有無言わせない姉からの圧力に、彼がいる街のことや在籍している学園でのこと、兄の剣…………あと女性問題などと、色々と明かしてしまっていた。


彼女を連れてきてしまった以上、隠し続けるのは困難であった。万が一この姉を放置してしまったときのリスクを考えるのなら、この選択も十分良好である。


決して姉からの圧力にあっさり屈したのを誤魔化している訳でない────と自分に言い聞かせるティアであった。



「これより捕縛作戦を開始するが、中で暴れるのは基本私だけだ。お前達は外から結界を張って部屋から逃げる者だけを押えろ。ミン、ザウロス、お前達もいいな?」

「はい」

「お任せください」


指示を出すカトリーナは、付き添わせていた専属のメイドと執事にも指示を送る。二人は特に気にしたような反応はなく、恭しく一礼をしてその場に留まる。


「……分かりました」

「カトリーナ様……お気をつけください。中には大きな気配がいくつもあります」


その二人と違いティアの専属護衛のフウとリンは少々不服そうであるが、王族であり上官でもある彼女に逆らえれるはずもない。……ただ、フウの方は青ざめたまま頰を強張らせている印象があったが、妙にやる気に満ちているカトリーナは気付いていなかった。


「ああ、分かっている。ティア、もう一度聞くが、構わないな?」

「……はい。わたくしはここで待機していますが………………………………大丈夫ですよね? 分かってますよね?」

「分かっている。シルバーの方は任せておけ。中の敵はリヴォルトとその手下共だ。シルバーは狙わんから安心しろ」


と、得意気に彼女は告げるが、ティアの不安は消えることはない。この部屋の奥にはこの姉と《《色々と》》相性の悪い彼がいる。


「ではいくか。……待っていろシルバー」


だが、その不安も的中することになるかもしれないが、良い選択だったと思いたい。


(すみませんシルバー。どうか……どうか怒らず姉の暴走を止めてください。わたくしではムリです!)


もう避けられそうにない気がするが、ティアはそう願いつつ心の中で、姉に正体を告げたことを詫びる。


果たしてその願いは叶うのか。

愛用の白き大剣を握り締めて、カトリーナはその内に抑える気を解放させ始めた。



◇◇◇



その数分ほど前となる。


(『短距離移動(ショートワープ)』)


「っ! ───ッハ!」


視覚から対象が消えた瞬間、男は背後を振り返りその勢いで横蹴りを入れる。僅かな彼との戦いと勘が彼を捉えた。


(『再起復活(リトライ・リボーン)』『痛覚過剰(オーバー・ペイン)』!)


しかし、そこから再度ジークが空間移動を行ったことで、男の蹴りは虚しく外れてしまう。

その無防備となったところで、彼の横に移動したジークの『暗闇の剣』が脇腹に突き刺さる。


魔法で底上げされた痛みにより、痛みに多少の耐性を持つ冒険者であろうとも、想像超える一瞬の斬痛よって意識を奪われた。


さらに精神的にも強烈な一撃である為、復活は困難だ。


回復要員が仲間に回復魔法をかけているが反応がない。


それに残滓として残っているジークの魔力も、少なからず影響を与えているようだ。

体に害が出ない程度に抑えられているが、魔力に対しては容赦なく阻害させていた。


「ば、バカな……耐性(レジスト)魔法がまったく効果を出さんだと」

「俺の放出量をあまく見過ぎだ。たとえ相手がAランク相当でも魔法での競い合いなら、ただの一流じゃ相手にもならない」

「ぐっ」


均衡していた戦況はジークの転移と痛覚強化(オリジナル魔法)より一変していた。


序盤はジークの魔法を模倣するカルマ(被験体)ことを知っていた者もいた為、転移の警戒もしっかりと整えていたのだが、


「どうして一度目は反応できるのにそこから二手三手動くと反応が鈍くなるんだ?」


ジークの連続の転移によりあっさりと隙を突かれていた。


呆れるジークの側でまた一人、餌食となった者が伏している。

そして動揺するリヴォルトの配下を見ながら、ジークは不思議に首を傾げる。


だが、それも無理はなかった。


これが模倣(コピー)とオリジナルの違いでもある。


彼らはジークが連続で転移を行えれることを、最初から計算に入れてなかったのだ。

被験体であるカルマ自身が連続での転移を行えることが、できなかっただけではない。


シルバーのことをよく知るリヴォルト自身が、魔法の能力を理解した上で不可能だと予想を立てていたからだ。

大戦時に彼が連続で転移を行ったところを、見たことがないことも理由であった。


(どうやって魔法を発現させている!? グレリアの計算でも連続は魔力乱れが激しくなり、操作が難しく使用が不可能となっていたではないか!)


研究仲間でもあるグレリアと同じ見解であったことを思い出すリヴォルトであるが、それこそが酷い思い込みであり、愚策でもあった。


ジークが大戦に参加した時には既にギルド内で上役のような立場でいる彼では、前線になど出ていない以上、彼の実力や興味の尽きない魔法のなどを知る機会など、報告書の情報かギルドマスター(上司)という立場であるガイから直接聞く以外はなかった。


運良く見られる機会もあったが、それが余計であった。

彼の頭の中にジークの力をより有効利用できないかという、欲望に満ちた思考が巡ってしまう要因となってしまった。


そもそもこれまでの男達の動きはすべて、リヴォルトが前々から組ませていた手順でもあった。

シルバー時代の彼の行動を考えて、最適な捕縛方法────と彼は考えているようだが、


「笑えるな。散々準備を整えていたと思えばこの程度か?」


ジークからしたら憐れでしかない。

というか失笑ものであった。




ここまで御膳立てしていながら、なんというザマなのかと。



そこでとうとう、調子に乗って高みの見物を決め込んでいた、あの男が動き出した。


「貴様ッッ!」


瞬間、ジークの真ん前に拳が飛んできたが、強化されたジークはそれを難なく受け止める。

パワーはそこまでない闇の強化であるが、これまでの戦いを得て戻りつつある今のジークには簡単なことであった。


「ようやく動いたか。随分ノロマ─────だな?」

「───っ、うががァァァァ!」


堪えきれず突っ込んできたリヴォルトの顔面をジークは殴りかかる。

身体強化に加えてオリジナルの『痛覚過剰(オーバー・ペイン)』も掛けた拳で。


抉るように打った。


だが、


「……ぐ、グォォォォォォォ!!」

「む!」


オリジナル身体強化魔法『屈強猛烈(インテンシティ)』。


それは気と魔力を重ねることで攻撃、防御、速度、反射を極限までに引き上げる強化系魔法である。


そしてリヴォルトがSSランクと呼ばれた理由の一つでもあった。

放出量でも上である筈のジークの魔法を、自身の濃縮された魔力圧と気圧ではね返した。


「舐めるなよ……小僧ガッ!」


決して倒れず、敵を地へと沈めるまで暴れ続ける巨人。


──────《巨沈王》が伸びているジークの腕を掴んだ。


ジークの腕がまるで子供の腕に思えるほど、リヴォルトの手は分厚く巨大であった。

さらにもう片方の手で、『暗闇の剣』を掴み力任せに砕いたのだ。


「っ……シ!」


このまま掴まれているのは危険だと、ジークは纏っている身体強化の属性を変更する。


闇から火へと力を上げた。


ジークは『身体強化・火の型(ブースト・ファイア)』のパワーで押し切る。


「ガァあああああああああ!!」

「うぅおおおおおおおおお!!」


無属性にも似たリヴォルトが放つ無色のオーラと。

ジークは吹き荒らす火属性の赤きオーラが近距離で打つかり合う。


「まだだ! 『限定限界(リミテーション)』“制限解除”……全開だ!!」

「────ぐぐっっ!?」


そこからジークはさらに力を上げる為に、放出制限を解除させる。

ジークから吹き荒れる炎が巨大な豪炎となって、均衡するリヴォルトを襲う。


「お、おおお……! ─────カッ!!」


加減のない本気の放出にリヴォルトは腕を握り締めたまま、後退しそうであるが、


「どうした足りんぞ?」

「老害が……」


対抗するように無色のオーラを吹き荒らして、踏み留めてみせたのだ。


伊達に元SSランク(超越者)ではない。

圧倒的な魔力の放出量を気と魔力の放出で抑えた。


だが、それだけではない。


「よそ見していいのか? 相手はこちらだけではないのだぞ」

「!」


リヴォルトの発言にジークは視線を逸らすことなく、魔力の気配だけで周囲の者達の位置を探った。


(囲まれた)


しかし、その時には既に遅く。

包囲されて危機的な状況であることがよく分かった。


リヴォルトに詰め寄っている所為で他の者達への警戒が緩んでしまった。


そこを突くように武器を向ける配下達に、ジークはどうすべきかと模索するが。


(どうする? 四方に魔力弾を撃つか? それともオリジナル魔法で…………)


「さぁどうする? なんなら思い切って派手にやってみるか? 会場をパニックになっても構わないなら──────」


─────途中でリヴォルトに思考を遮られてしまう。


ガシッ、と腕と肩を掴んでリヴォルトがジークの身動きを取れなくした。


「やってみろ小僧」

「……」


リヴォルトは分かっているのだ。

ここで抑えておけば、ジークはこれ以上は本気を出せないことを。


これ以上の大火力は制御が困難になり、会場に影響を与えかねないと。


「確かにこれ以上の出力の底上げは危険だな」

「ハハハッそうだろ────」

「ならば」


潔く認めるジークに当たり前だと、吐き捨てようとするリヴォルトであったが、


「──────ならばさっきのように、瞬時に意識を刈り取るのみだ。老害が……調子に乗るのもそこまでだ」


リヴォルトの言葉を上書きするように、ジークが宣言する。


まさか本当に苦戦を強いられていると、思われていたのかと心外そうに吐き捨てる。体に流していた火属性を切って、二つの属性を流し出した。


「さぁ、来い。─────闇よ」


体から霧のように噴き出すのは──────一つは闇色。


「────水よ」


重ねるように新たに噴き出したのは────透き通るような水色。


「“融合”」

「────っ!!」


そしてその二色を合わさり、新たな融合属性へと変貌をする。


それを至近距離で見ていたリヴォルト。

何をしているのかとボーと見ていたが、すぐにジークの狙いに気づき緩んでいた頰を引き締めた。


「やめろ貴様!! ────クソっお前達! こいつを抑えるんだ!!」


魔力を集めるジークに悪態を吐き部下達に叫びリヴォルト。その本人もジークを止めようと掴んでいる腕を取って殴りかかる。


しかし、


「────動けん!? っ捕縛系のオリジナルか!」


目に見えない不可侵の鎖によって、いつの間にかリヴォルトの腕も拘束されていた。


ジークのオリジナル『行動禁止(クリアジャマー)』の透明の鎖がリヴォルトの魔力体を捕縛していた。


気を織り交ぜる『屈強猛烈(インテンシティ)』であるが、その原動力の半分はあくまで魔力だ。


半分でも縛れることができれば十分。

ジークは融合技法の邪魔をされない為に、あらかじめ仕掛けておいたのだ。


(しまった! 拘束されていたのは寧ろこちらだったかっ!)


念の為に配下達に距離を取らせて様子を見ていたが、この時だけは少なくとも前に出しておくべきだったと後悔するリヴォルト。


気の力で鎖を引きちぎろうとするが、その前に彼の準備が整った。


「『淵天の皇海衣(ヘイダル・ウィザード)』」


黒くそして蒼く。

黒と蒼の二色を混ざり合い、青藍のオーラへと変貌した。


「『魔の淵界へ誘いの杖(ヘイダル・ロッド)』」

「なにっ!」


青藍色の魔力に覆われたジークの姿に驚くリヴォルトは、彼が作り出した錫杖にも似た黒色と青色が混じった杖を、握り締めて高々と掲げる。


「『淵海降臨』────『淵深界の(ヘイダ )……」

「させるかっ! ─────『地盤粉砕(マグナ・グレード)』!!!!」


錫杖の上部から莫大な魔力が放出される。

ジークの大技が解放される。


その前に潰そうとリヴォルトが原初魔法の拳を振るう。

さらに後方で配下達も一斉に攻撃を仕掛ける。



この場にいる者達が全員、一斉に攻撃が放とうとする。



その瞬間であった。


「『唸れ』」


此処にはいない。

彼女の声によって。


ジークもリヴォルトも、そしてその配下達も、


「『咆哮』!!!!」


何処からともなく降りかかってきた、巨大な気の激震によって体勢を崩されてしまった。


その頃、会場では……


観客「今、揺れなかったか?」

観客「ん、そうか? 地震か?」



陛下(…………なんか嫌な予感が)



次回の更新は来週の土曜日です。

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