表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【中編】。
151/265

第11話 魔導王と巨沈王。

遅くなりました。

ようやく中編も後半に入りました。ようやくです!

「ガイ様! シルバーはどこに!?」

「分かりません。どうやら学園の拠点には戻らず何処かへ移動したようです」

「───っ……そうですか」


ティアは試合が終わってすぐに、憤慨するリンや自分と同じくらい焦るフウを連れて、ジークが拠点に戻る前に先回りして、駆けつけようとしていたのだが。


合流できそうな地点を通り越して、ティアは現在同じく駆けつけようとしていたガイと合流していた。ちなみにリンとフウは少し離れてもらっている。ただしリンの方は我慢ならないとフウに詰め寄っていた。


ティアは恐ろしい予感を覚える。

この会場には彼の知り合い、良い意味でも悪い意味でも厄介な連中ばかりなのだ。


「まさか、既に誰かが接触を?」

「考えたくはありません。その可能性が高いと思います。ですが、オレは恐らくアイツは自分から身を隠したと思います」

「その根拠は?」


思わず口にしたティアであったが、ガイはそれを否定してその理由に答えた。


「魔力です。アイツは恐らく自身の最奥から体内魔力を補給し直したと思います。毎回取り出される量には誤差があるそうですが、普段体内に宿している魔力の倍以上はあるかと」


今以上に加減がまったくできず、コントロールも未熟だった彼が大戦時後半で編み出したという特殊技法。

聞いた時は量も出力も上がり操作力も一段と上がるそうだが、精神負荷と共にとんでもないリスクが備わっている技法だと聞いていた。


「だからその余分に溜まった魔力を、どうにかしているのだと思います。これは公にはなってませんが、姫様もご存知の筈。あの戦いの地が未だに立ち入れない原因が、彼の魔力だということを」


ガイも詳しくは知らないが、帝国の《鬼神》との戦いで無理矢理編み出したジークであったが、怪物の《鬼神》を倒すべく、最大値まで魔力を補給して最大火力を超えた魔法を行使したそうだ。


その結果、とある地は帝国以上にジークの魔力で汚染されてしまい、完全に腐り落ちて入ってくる生き物の命までも奪う、生き物の住めない環境に変化してしまった。


「それは父から聞いてます。規制されて一部者のみのようですが」


ティアもまた知っている話である。

もっとも補給できることは知っていても、あの技法についてはまったく聞いていなかったが。


「ですが、それを知らない者もいる筈です。考えず彼を探して強引に─────っガイ様! リヴォルト様とグレリア様は!?」

「え……っ!! ……見当たりません。────やられたかもしれません」


ハッとした顔で叫ぶティアに遅れて、気付いたガイも辺りを見渡すが、いつの間にか姿を消している両名。しまったと言った顔で思わず舌打ちしそうになった。



◇◇◇



「───!」


試合を終えたジークは会場内の人気のない場所に移動した後。無人の室内に入ってすぐ狸の置物こと『奈落』に残った魔力を注ぎ込んでいた。


試合では出し切れなかった、普段以上の大量の魔力を残しておくのは危険なのだ。

さらに念には念をと考えて、保存できる『奈落』に可能な限り残しておくことにした。


「ん──こんなもんか?」


あんまり入れ過ぎない程度に。

ジークは注ぎ終えて、『奈落』を腰のベルトに差すようにしてしまう。……それと一緒に紫色の魔石を四つを懐にしまった。


「よし───そろそろいいぞ?」


と、背後を振り返りドア越しに隠れている者に告げる。

気配を消すつもりがないのか、ドアの先からは動揺はなく、常に放出している闘気を膨らませて入って来た。


「随分と成長したようだな。大戦時はアレほど味方にも損害を与えた魔力を、たった四年余りであそこまで扱えるようにするとはな。《魔導王》シルバー・アイズ」

「こっちも驚いたぞ? まさか俺の魔法を扱う実験を懲りずに続けているなんてな? 《巨沈王》リヴォルト・ビート」


入室して来たのは白髪の老人でありながら、巨人のような以上な肉体を持つ男。


聖国ギルドのトップにして、元SSランク《巨沈》のリヴォルト・ビート。


その男の登場であったが、ジークの方も動揺の色を一切見せず、冷め切った瞳と憐れみにも似た表情でリヴォルトを見ていた。

ギルドレットとガイは言葉を濁したが、改めて思考を巡らせて過去の失敗(負の産物)を思い出していた。


また、リヴォルトの方も人相がまったく異なる彼に、迷うことなどなくシルバーと呼んでいる。

試合での一件でリヴォルトもまた、ジークの正体を看破した者の一人であった。


「試合を見たぞ。あの生徒はなんだ? あんなことをしても、無駄だということがまだ分からないのか? 大戦時、お前の言葉に乗せられて志願した魔法師が全員再起することなく死んでいったのをもう忘れたのか?」


思い出したくもない過去の実験での無惨な失敗をジークは口にする。


本当に何人もいたのだ。大の大人から今のジークくらいの若い青年。中には当時のジークと同じくらいの子供もいた。老若男女問わず、戦いに勝つ為に実験に志願したのだ。


そして死んでいった。

最初の一回や二回は仕方ないと割り切っても、結果として彼の魔力を注入した全員が死んでしまった。


「俺やティア、ラインが止めなかったら、もっと犠牲者が出てたんだぞ?」


ちなみにその時、ジークに憧れていたティアの専属魔法師のフウもまた、実験に志願しようとしていたが、それはティア、ジーク、さらに同僚のリンも説得に加わり、黙って実験に参加しようとしたところを止めたのだ。


「最終的に陛下の権限で実験そのものが永久凍結された筈だ。……なのになんで未だに続けてるんだ。あそこまで出来るようにする為にどれだけの犠牲を出した? それになんだあの状態は? アレを見てもまだ無駄なのが分からないのか?」

「実験には失敗はあって当然だ。それにお前が実験に協力しなかったことも十分要因だ」

「……なんだと?」


ふざけているのか、聞き間違いかと聞き返すジークにリヴォルトは呆れた顔で告げる。


「お前も見たのだろう? お前が不在という状況でありながらも、アレほどまで完成に近づいた。もし今後、進んで実験に協力してくれさえすれば、我々の計画も成就する筈だ!」

「その過程で何人犠牲を作る? 百人か? 千人か? というか、もうこの数年で三桁近くまでいったか? 大戦の影響で孤児が大量に流れ込んだようだしな。材料には困らない。……無駄な犠牲を増やしていったのが目に浮かぶ。まったくもって理解できない考えだ」


論外と言わんばかりの言葉を投げるジーク。

その裏で部屋の外にいる複数の存在にも警戒の目を向けている。


「ふ、気付いたか。そうだ、既に逃げ場はない」

「はなからそのつもりだろう?」


リヴォルトが入室した時点で気付いていたが、どうやらリヴォルトの配下がこの部屋を中心に、周囲を封鎖しているようだった。

唯でさえ人気のない会場の隅である。バレないと考えたか強引な手に打って出たようだ。


「確かに……ふっ!」


さらにリヴォルトはその場で息を吸い込むように構えると、膨れ上がる気と魔力と共に上着を破り捨てた。


「アンタを尊敬する奴なら圧巻と賞賛を述べるが、俺としては気色悪いだけだな」


そこから露わとなった分厚く鋼のような体躯に口元を引きつるジーク。


所々見える傷跡がまた本人の凄みを増強させているようだ。これほどの異常な体躯を持つ男の見るのは大戦を経験したジークでも二人しか知らなかった。


「それが『屈強猛烈(インテンシティ)』……気と魔力を合わせた最高クラスの身体強化」

「知っているなら分かっている筈。この状態であれば貴様にもダメージは通るぞ?」


得意気に拳を見せるリヴォルト。するとそれが合図だったのか、ぞろぞろとリヴォルトの配下が部屋に侵入してくる。全員ではないようだが、私服姿で入って来ただけでも十名以上だった。


「いいのか? ここで暴れたら流石にバレるぞ? お前の汚点が」

「心配無用、既にこのフロアから一定範囲は我々の目を配置しておいてある。防止は万全だ。たとえ《天空界の掌握者(ファルコン)》でも介入は困難。それに気付いた時には……既に終わっている!」


そう言い切り、リヴォルトが拳を鳴らすと周囲の配下の者も杖や槍、剣を構えてジークを捉えていた。


しっかりとした構えや動き、気配からして恐らく冒険者にしてAランク、Bランク相当で統一された者達のようだ。リヴォルトは本気であるのが、よく分かる構成であった。


「僅かな時間でこれだけのメンツを集めたか。だが、こちらとしても好都合だ」


全ギルドの長なら密かに人員を難しくない。多くの者がリヴォルトに付いていることに対して驚くことなく、ジークの方はコキと首を鳴らして、臨戦態勢に入ろうとしていた。


騒ぎにならないのはこちらとしても、有り難いことであったからだ。


「過去の不始末はここ果たす。さぁ、とっと来い老害肉ダルマ(・・・・・・)

「────は」


クイクイと手招きしつつ挑発発言をするジークは、体から魔力のオーラを纏わせて滅多に見せない嘲笑いの笑みを向けると。


「……いいだろう」


老害と呼ばれ失笑して頷くリヴォルトが、額の血管を浮かせて獰猛な笑みで答える。そして配下の者達も魔力や気を集中させて、開戦の合図を待った。


「我々が欲しいのはその肉体()と魔力だ。自我など不要!! 奴に頼んで消してもらうか!!」


と宣言と同時にリヴォルトは猪のように蹴って駆け出した。



◇◇◇



『では、これより午後の試合を始めたいと思います。参加者は試合中央にお集まりください』


「時間ですね。では、行きますか委員長」

「うん……」


会場全体に届く審判員の声に、《復讐の壊滅者(リベンジャー)》はクロウの姿でシオンに告げる。


彼女のことは新たな協力者となった、とある生徒とクロウの記憶から盗み見ている。クロウの口調も真似て接し方も分かっている以上、より親しくなければ気づくことはまずないであろう。


(彼の記憶を見た限り、彼女は十分利用できますね。いざという時は明日の戦いで弟さんと一緒にシルバーにぶつけますか)


その彼女さえも計画に加えようかと、検討する《復讐の壊滅者(リベンジャー)》は微かに不敵な笑みを浮かべていた。


「頑張る……」


そのクロウがニセモノだと知りもしないシオン。

モグモグと食していたパンを飲み込み、満足気に頷くと二本の剣を取って腰に挿していた。


無表情に近い顔で闘志は伺えないが、シオンはゆっくりと舞台の方へと目を向けて、カチャっと腰に差す鞘に触れた。


────カチャカチャカチャ……!


そして触れているのは、妖刀の鞘の方であるが、その刀が以上なほど震えていた。


(……ここ最近震えが多いけど、今日は特に多い。特に彼の試合の時……あと)


ちらりと脳裏に過る弟を倒した生徒の姿。

あの時も今ほどではないしても反応はあった。


「どうなってるんだろう……?」


戦うことに変わりはないが、何か疑問が浮かぶシオン。

だが答えも見出せず、彼女はクロウと共に舞台へと向かった。


次回の更新は来週の土曜日です。

ああ、今年もあと3ヶ月だ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ