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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【中編】。
150/265

第10話 彼女の知る世界とは。

すみません、遅くなりました。

シィーナがこの世界に疑問を感じたのは、今から二十年ほど前のことであった。


「この世界は……消された歴史があるみたいですね」

「いきなり……なに言ってるのん? 寝言?」

「ちがいますぅー ちゃんと寝溜めしてきましたから朝までいけますー」


ウルキア学園の地下に隠している禁術書の書庫。

そこでシィーナは同級生であった薄黄色髪の女性、カムと共に深夜の校舎で教師の目を盗み、堂々と学園の宝とも言える、非公開の禁術の本を読み漁っていた。


「調べれば調べるほど疑惑が濃くなっていくんです」


既に学生のレベルを超えていたシィーナにとって、学園のセキュリティなど大したものでもなかった。好奇心も旺盛だった彼女は教師でも手を焼く禁術書にも興味を持ち、ほぼ毎日のように同じく好奇心が凄まじいカムと共に、今夜も地下へとやってきていたのだが。


興味深そうに魔道具関連の書を読んでいたカムに向かって、突然シィーナが呟いたのだ。


「空白ってなにがのん? その本って確か昔の魔導師さんの記録書だよね?」


シィーナが目を向けている本にはカムも見覚えがある。二百年ほど前にいたいう有名な魔導師が書いた本である。

しかし、内容はそこまで難しいものでもなく、ただの日記本にも思える内容であったとカムは記憶している。


「でもそれって別に暗号化もされないただの本だったのん。少し調べてみたけど間違いないのん」

「あなたが言うならそうなのでしょう。そこに疑問はありません」


メガネの奥にある左眼の魔眼を光らせて彼女は言う。そしてシィーナも彼女の魔眼のことはよく知っている。これがただの本のなのは間違いない。


そんな物がなぜ禁術書の書庫にあるのか疑問にも思ったが、有名な魔導師が遺した物だと考えれば妥当かもしれないと納得していたが。


シィーナにとっては興味のタネであったようだ。

ただの日記である本であったが、何度も読み直していきある仮説に行き着いた。記載された中にあった僅かに見えて大きな矛盾に(・・・)


「書いた本人も気付いてなかったのかもしれません。ですが、この記述が真実なら二百年前にも歴史の改変───────いいえ、世界の改変が行われたと思います」

「…………え、なに?」


何が決め手となったかカムには分からない。そもそも世界の改変と言われてもピンとこないカムは、とりあえず一番初めに浮かんだ疑問を口にすることにした。


「さっき空白って言ってなかったのん? 何を改変って……というか二百年前にも?」

「カム」


言っている意味がまったく理解できないと、頭上にハテナマークを浮かべるカムにシィーナはパタンと、本を閉じて嬉しそうに微笑んでみせる。


「手掛かりはありましたが、まだまだ情報が足りません。この件は一旦保留にして、勉強に戻りましょうか」


これ以降、学生の間にシィーナからこの時の話題は、一切語られることはなかった。

しかし、彼女のチームに入ることでカムもまた、彼女が調べている世界の真実に近づいていく。


─────そうして、彼に出会うこととなった。シィーナが口にした空白と改変の答えでもある彼を。



◇◇◇



「何してくれとんじゃ、あいつはぁあああーーーっっ!!」

「へ、陛下!? その大剣は!?」

「お、落ち着いてくださいっ!」


ジークの試合が決着を迎えてすぐのことであった。

試合場の惨事を目にしたローガン陛下が王族席で、剣を振り回して錯乱を起こしていた。


「あの火力バカめがァァアアアアアっ!! よくも、よくもわしの闘技場をーーー!!」


自身の小遣いで建てたお気に入りの舞台が真っ二つになったことに、始めはショックを受けて固まっていたローガンであったが、次の瞬間、怒りのオーガの如く発狂していた。


ちなみに他の王族、王妃、王女たちこの場にはいない。

子供達には今の父の形相は刺激が強いと、王妃は一番下の二人の王女を連れて、残りの二人の王女はそれぞれ試合が終わってすぐに、別々に行動を取っていた。


理由は間違いなくジークである。

専属の警護の者を連れて厳しい顔で移動していったのだ。


「抑えて! 抑えてください陛下っ!」

「王がご乱心なんて、洒落になりませんよ!?」

「大丈夫です! 整備の者は優秀です! 午後からの試合には間に合いますから!」

「ムガガガガガガガガ……!!」


そして愛用の大剣を振り回して暴れるローガンを必死に抑える使用人、護衛騎士達。

他の王族に付いている使用人も総出で、荒れ狂うローガンを抑えているが。


「いいからどけぇぇぇぇッ!!」

「「「ひっ!?」」」

「陛下……!?」


凄まじい闘気を声にして吐き出して追い払い、ローガンは闘技場に立つを睨む。


(ティアがアルトリウス(あの剣)を持ってきた時点で可能性はあったが、まさか当人が参加していようとは……!)


だが、その視線は先ほどまでの発狂したものとは違う、苦渋にも似た苦い表情で睨むと、感情を抑えるように息を吐き、振り回していた剣を下ろして側の騎士に命じる。


「っ───ええい! すぐに闘技場に配置させている全騎士団長に伝えろっ! 力づくでも構わんから、あの学生を捕らえてわしの前に連れて「待ってください陛下!」───っ」


とローガンが命じようとした時であった。


「陛下」

「ギル……何故止める?」


突如、ローガンの前に立ち塞がるように現れたギルドレット。

少しばかり焦っていたのか、王族専用の室内に入ったところで一息をついていた。


(どうにか間に合ったか、けどどう説明するか。今日の試合が終わったあたりで、ガイと共に殲滅作戦ついでに報告しようとしていたが)


ギルドレットとしても想定外であった。

まさかあれほどの力をジークが解放させると考えていなかった為、対応に遅れが出ていた。これなら雷槍戦に披露した空間型のオリジナルの方が謎めいている分、マシであった。


(まったくアレだけの力を使いやがって、闘技場に魔力が浸透したらどうするんだよ)


本来ならすぐにでも仕出かした本人に文句を言いに行きたい。

だが、ここでローガンや第一王女を抑えておかないと今夜の作戦自体が支障をきたして、台無しになるかもしれなかった。


(とりあえず今までのことを陛下にだけ話そう。オレの言葉で止まってくれたぐらいだ。)


仕方ないとローガンに向き合い、すべて話すことにするギルドレット。

これまでのことを考えれば、きつい叱りを食い、厳罰を受けるハメになりそうであるが。


「そういうことか」


しかし、突如現れたギルドレットを見ていたローガンは、ある確信を得ていた。

少し責めるような視線でギルドレットを捉えていたのだ。


「ティアもそうだが、お前も知っていたんだな? どういうことか説明してもらえるだろうな?」


その問いかけに申し訳なさそうにして、コクリと頷くギルドレット。

その後、使用人たちに下がらせて二人だけになると、隠していたことの説教込みで話が始まった。



◇◇◇



「ご苦労でしたルカ」


その戦いを間近で見ていたルカの兄を名乗る男───《復讐の壊滅者(リベンジャー)》。


試合場から去っていくジークを見ながら、裏のない微笑を口元に浮かべて、逆に倒れ伏せている彼女にも目を向けて賞賛の言葉を投げていた。


彼女の敗北を見届けることとなったが、その表情には少しも悔しさ、屈辱的な色は一切なく、寧ろ良くやったと言いたげな表情で、気絶して審判員達に運ばれていく彼女を暖かく見送った。


「あなたのお陰で目的は達成しました」


そうして見送った彼は嬉しげに微笑むと、懐にしまっていたある物を取り出し、目元まで持ち上げて眺めて見る。


手に収まる程度の小さなクリスタル、淀んだ色してクリスタルであって透き通らず、微かに見えるのは複雑な魔法陣。


魔法陣を刻まれた石─────魔力を封印する特殊魔石。

そしてそこに集まっていた魔力とは、先程まで戦っていた彼の物。


それこそが《復讐の壊滅者(リベンジャー)》狙い。彼は元々勝敗など二の次、彼女の敗北など最初から想定───いや、確定されていたことであった。


(これで万が一の場合でも『赤神巨人(プロキオン)』の起動は確実ですね。本当に感謝しますよルカ。そしてシルバー)


すべての目的はただ一つのみ。

彼女の身体全体に刻んでおいた魔法陣によって、彼が放出した魔力はすべてこちらに転換されてしまったのだ。


『ではお昼休憩後に午後の試合を行います! 参加者は指定の時間に試合場に集合をお願いします!』


「おっと、そうでした。次は私でした」


ふと会場に響く審判員の声に、《復讐の壊滅者(リベンジャー)》は思い出したかのように両手を合わせた。


そして視線を近くに置いてあるトーナメント表へと移すと、とある二つの名に注目した。


「所詮は出来損ないでしょうが、一応こちらの方も呪印をかけておきましょうか」


一つは当初の予定にはなかった人物。

総ギルドマスターのリヴォルト・ビートと聖都の学園長のグレリア・フルトリスが用意した手駒、カルマ・ルーディス。


復讐の壊滅者(リベンジャー)》にとっては取るに足らない相手な上、同盟関係の者達の駒でもあるが、《《今の姿をした》》自分であれば彼らの目も盗めることも容易であろう。


なにより、


「メインである彼女の方が、優先順位が高いですしね」


いざという時は存在など無視して排除すればいい。


復讐の壊滅者(リベンジャー)》は注目したもう一つの名に視線を固定したまま、不敵な笑みをこぼした。


「まずは《金狼》が持つ、大鎚(・・)を頂かなくては……娘の身と交換で」


確実に用件を済ませましょうか。と区切ると何気なく歩く出して彼は────


クロウ(・・・)……? 皆でお昼にするけど、一緒に来る?」

「ええ、ご一緒させて頂きます委員長」


ふと先にいたシオン率いるウルキア風紀委員のメンバーと共に、《復讐の壊滅者(リベンジャー)》─────クロウは昼食を取ろうと共に歩いていった。



◇◇◇



「やれやれですね」


そしてジークの試合を見終えたシィーナが一人。

真っ二つとなった舞台に始めは目を見開いて


「ジークにも困ったものです。あれほどやり過ぎないようにと言っているのに」


惨状を見る限り、明らかに過剰攻撃であるそれを見て疲れたように嘆くシィーナ。


「ですが、蛇王の瞳が相手では仕方ないのかもしれません。神によって創造された(・・・・・)と言われた、この世界を守護する六王が相手では。アレの継承者である彼では黙ってはいられない」


シィーナはふいにかつて読んだ魔導師の本とそれによって行き着いた、世界の始まりが綴られた禁呪にも指定された、とある本を思い出す。


聖国一番の図書館の保管庫から拝借した物であるが、本自体に強力な認識阻害の魔法があり、シィーナが触れるまで誰の目にも止まらなかった。


神界、精霊界のことや世界の誕生、古代原初魔法(ロスト・オリジン)の正体に繋がり、忘れ去られた歴史にも触れる世界でたった一冊の本。

認識阻害があったのは多くの者の目に入り、混乱を招くのを避けたかったのであろう。


しかし、そこには彼女が知りたいことがしっかりと残され、そこには人々が知らない、多くのことが記述されていた。


────神界とはこの世界とは別の高位次元領域。神たちによって創造された精霊界。そこに住む精霊王たち場所に入口が存在しており、そこを超えることで入ることができるのが神の世界である。


そこでこの世界の創造神である神は、別世界の神たちによって生み出されたのだ。新たな神として。


神たちの強い願いにより生み出された神は、優しく慈愛に満ちた存在であった。平和で優しい世界を願い創造をして、人類を、多種族を生み出した。


多種族も生み出したのはすべての生き物の共存を願ってのことであったが、すべてを生み出したことで捕食者でもある魔物まで生み出されることとなった。


だが、神はその魔物たちとの共存までも願った。その結果、新たに生み出されたのは魔物の頂点である六王であった。


六王は世界を護り魔物を守護する存在。世界の変革を嫌う番人でもあった。


「けど、重要なのは六王でも神の誕生でもなかった」


彼女が恐ろしいと感じたのは、その後の歴史───いや、空白となった九つの歴史。そして改変され生まれた世界の矛盾と同時に誕生した古代原初魔法(ロスト・オリジン)ことと───────明かされた神の死(・・・)


神たちによって生まれた神。

世界を創造して生物たちの共存を望んだ慈愛の神は─────既に死んでいた。


───────だとすれば、今世界を管理する神とは?


───────誰も知らない空白の歴史とは?


───────改変された歴史とは?



神域へと届かせる『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』、世界を守護する『六王』、異界の精霊の世界『精霊界』、創造神が住む『神界』。



そして───────


「十六年前に突然世界に現れた……彼の正体は」


彼が《消し去る者(イレイザー)》と呼ぶ、異質かつ強大な魔力とは?


数々のキーワードを繋げていくことで、辿り着く答えを、彼女は知っている。────────知ってしまったのだ。



残酷過ぎる───────彼の役割を。



「お願いです……ジーク」


だから彼女は願う。何度でも願う。

歴史を繰り返さない為に。彼の心をこれ以上壊させない為に。


「踏み止まってください。あなたは絶対神を…………殺してはいけない」


だが、その言葉も今の彼には届きはしない。戦争を経験して世界の不条理を知っている彼には決して。


だからこそ、今夜彼女は動く。

愛する弟子を破壊の魔法使いなどにしない為にも。


結局重要な部分は伏せた感じになってすいません(汗)

次回の更新は来週の土曜日です。

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