第6話 呪いの瞳と封じられた魔力。
いつものことですが、全然話が進まなくて申し訳ありません!
という訳で、本日もしくは明日ですが、もう一本出したいと思います。
よろしくお願いします。
闇のオリジナルでできた歪みもだいぶ小さくなっている。
それを上空から確認したジークは“翼天”の魔力をすべて解放させた。
「解放……『翼閃降臨』───」
全身からエメラルドのオーラが吹き荒れる。
脚に装着された装具である二翼の羽脚もそれに呼応して大きくなり、彼を容易く飲み込めれる程大きくなっていく。
“翼天”の魔力をすべて翼に注ぎ込んでいるのだ。
制限状態のままでは出力を上げれないが、ジークは放出し続けている魔力を翼に移動させることで、威力を底上げている。
そうして準備を整えたところで、視線を真下にいるルカの方へと移す。
「じゃあ俺が勝ったら、色々と聞かせてもらうか」
「っ……」
見下ろすように告げるジークに身構えるルカだが、すでに弱点を露見されている以上、できることは限られていた。
本来自身の技術で弱点である魔力そのものを隠して、敵を倒すのが彼女のやり方であったが、それを簡単に見破られてしまい、厄介なことに相手は最大の敵であり、相性最悪のジーク・スカルス。
タネが破れた時点で、彼女の敗北はより色濃くなっていた。
「突破する!! 『翼閃の翔撃』っ!!」
そして自分を倒す為に彼が迫ってきた。
融合属性を最大限に高めた状態からの急降下攻撃で、ルカの張っている闇系統の歪み、オリジナルの結界魔法を打ち砕こうとしていた。
「無茶苦茶過ぎる……! どこまで馬鹿げた魔力なの!?」
「ああ、よく言われる……よ!」
ただの魔法ではオリジナルには勝てない。
だが、それでも絶対の法則ではない。
特に彼の場合は、その法則になんの意味もなかった。
「かぁああああああ!!」
ルカが張っていたオリジナル結界は、ジークの融合属性の技によって次第にヒビが入っていき、彼の気合いと共に突き破られた。
そして突風でも巻き起こったかのように、歪みの結界は跡形もなく消し飛び。ルカの守り手は消え去った。
「っ───!」
「シッ!」
堪らず後退しようとするルカだが、ジークが詰める。
(『身体強化・火の型』! ────さらに!)
今の攻撃によって“翼天”が解けるとジークは無詠唱で火の身体強化を発現させて、後退するルカに向かって、手から専用技の火の鞭を放って捕縛する。
咄嗟にルカは闇の障壁を膜のように張るが、その上から上体を縛り上げられて身動きを封じられた。
身体強化の力も重なって、縛る力も強まり余計に動き難くなっていた。
「『緋火の破鞭』……技で攻撃すれば、早く発動できるが、やっぱ発動スピードはまだそっちが早いか」
「か、く……」
本当はルカが障壁を張る前に縛りたかったジークだが、まだルカの発現スピードには追い付けてなかったと残念そうに肩をすくめる。
「だが捕らえたぞ」
それでも捕らえたことに変わりないと、縛りを強める。
これ以上距離を取られて、余計な小細工をされるのは面倒なのだ。そういう意味ではこの状態も悪くはなかった。
「それだけ障壁を張っていては、反撃に回す魔力は殆どないだろう?」
「───っ」
なんとか振り解こうとするルカだが、放出量で圧倒的に負けている上、ダメージを受けないように障壁を常に展開させているせいで、残った余力が少な過ぎた。
ルカも他の者と同じく、着々と追い詰められていた。
(このままでは勝てないっ! 今までの相手のように魔力技術だけで、どうにかできるような相手じゃないっ!!)
こんな筈ではなかったと悔しげに歯切りする。
『これはとっておきですよ』
と同時に脳裏に刻まれたあの言葉の数々が、まるで仕掛けていた暗示が条件を満たしたことで、起動したかのように蘇っていく。
そうして急激に熱くなる右目の瞳に、焦りの感情が消失し始めていた。
『今のシルバーはまだ眠ったままですが、慣れてくれば相手を簡単に凌駕してくるでしょう。今の彼に勝つのなら短期決戦、もしくは先手で倒すのが望ましいでしょう。と言ってもギリギリで避けられ、仕留め切れず無理でしょうが』
(そうだった。お兄様から彼について散々忠告を受けていたのに。それなのに、この体たらくなんて……!)
ルカはやはり真っ先に彼を倒しに向かうべきだったと後悔する。
余計な邪魔が入っては面倒だと思って他の人から狙っていたツケが、こうして返ってきてしまった気分であった。
そして忠告通りルカの力量は見極められつつあり、勝敗は決しているようなものだが、それでも彼女は諦める訳にもいかなかった。
『だから負けてもいいですよ。魔法使いである限り、彼に勝つのは困難ですから。……ですから、ただでは負けないように』
───いかないのだと、兄の言葉と共に魂にまで刻まれていくルカ。
右目の瞳がさらに熱くなって、焼けているようだった。
「『緋火の破斧』──炎熱解放……これで決める」
思考にふけるルカに気付くことなく、追撃を入るジーク。
火の専用武器である火の斧を作り出すと、片手で回しながら刃の部分の炎が噴き上がる。
「他のオリジナルがあるなら使えばいい。こちらは火力で押させてもらう」
火属性の特性である火力で、斧の力を最大限にまで引き上げているジーク。
さらに火の身体強化により、その力はさらに上昇している。
万が一の障害すらも、すべて力で排除するつもりなのだ。
「ふーーっ!!」
「───」
縛り上げて逃げれないルカに、ジークは強化し出力を上げ切った炎斧を身動きできない彼女に向かって、大きく振りかざした。
(───ここ、ここしかない)
その瞬間、ルカは記憶の中で告げれた言葉を過ぎらせる。
無意識の中で彼女は動き出す。
『だから切り札の使いどころを間違えないでください。彼がここ一番、トドメの大技を使ってきたところを狙いなさい』
熱を発しうずく彼女の瞳は、なんの前触れもなく瞳孔が静かに開かせる。
『シルバーの魔力は二種類の存在しています。一つはアレの本質とも言える彼の内部深くにある元の魔力。もう一つは彼が可能な限り抑えて変化した、表に出ている変異した魔力です』
しかし、目ははっきりと彼を捉える。
本来視えない筈の彼の魔力さえも捉えて。
『内部の魔力は表の魔力が減る度に少しずつ補充されていきますが、危険過ぎるために一瞬では増えることはありません。つまり表の変異させた魔力をどうにかすれば、彼は簡単に無力化できるという訳です』
そしてすべてを認識した彼女は気付く、この好機を─────逆転の一手を。
『難しくはありません。元の魔力に比べて変異した魔力はあらゆる面で元よりも劣化しています。……用意した瞳でも十分効果はあるでしょう』
自分が従うあの方の言葉を─────暗示のように実行に移した。
「魔を呪う蛇王の災をここに呼び起せ────『悪蛇王の転瞳災厄』」
唱えたところで彼女の右の瞳が濃い紫色に輝く、封印から解放された瞳は迫りくる彼の姿を捉えて見せると。
「終わるのはそっちよ。自身の魔力で苦しみなさい────《消し去る者》……!」
「────っ!?」
彼に呪いをかけた。
「か───!?」
異変はすぐに起きた。
ルカの視線を受けたジークの体に流れる魔力が、異常を彼に知らせてきた。
(なんだ《消し去る者》? 何を伝えたい!?)
だがその知らせに意味などなく、ジークは身体中に駆け巡っている神経を引き裂くような謎の激痛に、彼は飛び出そうとした足を止めてしまう。
(ぐっ! これは……!?)
振りかざそうとした斧を下ろして、激痛に耐えながら一度距離を取るとジークは、自身の体────正確には身体強化の炎のオーラと専用技の斧と鞭を見てみる。
(な、何かが、流れてきている……まさか毒か!?)
問題なく発動しているように見える三種類の魔法だが、ジークはその三つの魔力を通して、自身に流れ込んできた別のチカラを感じ取っていた。
激痛となっている要因は自分の魔力が関連しているのはわかるが、同時に自身に毒など通用しない筈だと思っていた為に、この状態に思考が付いてきていなかった。
(ぐ……)
そして次第に激痛が強まっていくのを予感して、彼は斧と捕縛の鞭を解いて身体強化も解除してしまう。
しかしそんなことをしても、神経を裂く痛みは着実に増していた。
毒が身体中に回っていたのだ。
「ふぅ……窮屈だったわ」
「っ」
自身を縛っていた鞭が無くなり、くぅと体を伸ばすルカが呟く。
その間にもジークは自分の体を必死に見ては、未だ引かない激痛となって襲っている異変の原因を探り出す。
(シェ、千夜魔……───っが!?)
周囲に不審がられることを覚悟で魔眼を発動しようとするジークであったが、発現しようとした瞬間、目頭に激しい激痛が発生して痛みから発現を止めてしまう。
(うっ───想像以上の痛みで魔力が練れない……)
魔法の発動を禁じられてしまったジーク。痛みを無視して発現させようとするが、痛みの出所が魔力そのものだと理解して、これ以上は厳しいと判断した。
「っ……やはり、魔力が汚染されている」
「ふふふっさすがによく分かるわね。普通ならもう痛みで気絶してもおかしくないのにね?」
すっかり余裕を取り戻したルカが小首を傾げてくる。
先ほどの濃い紫の瞳は消えているが、それが原因なのは視なくてもジークには理解できるが。
それでもあり得ない答えだった。
(俺の魔力は他の魔法の干渉をまったく受けない訳じゃないが、常に上の領域のチカラだ。仮にさっきのがオリジナルだとしても、俺の魔力を汚染させるなんて……)
不可能。そう言い切りたい衝動に駆られるが、現に影響が出ている以上、その可能性は無視できなかった。
「驚いたよ。まさか俺の魔力に影響を与える魔法を、隠し持っていたなんてさ」
「……どうやらあの方からの贈り物は気に入って頂けたようね? それは貴方が最も苦手としている精霊に類する存在────六王の一体《《蛇王》》の瞳を利用した原初魔法よ」
「…………十二星の《最上神獣級》か。……あの《竜王》と同じ」
まさか答えてくれるとは思ってなかったジークだが。
意表を突かれた表情なのは、返ってきた答えが理由であった。
(まさか竜王と同格の怪物の魔法か。……なるほどな、なら俺じゃ厳しいだろうな)
師匠の仲間の一人であったことから、昔から世話になった《竜王》。
その彼の炎を覚えようとして、何度も失敗したことを思い出したところでジークは。
そこまで行き着いたことで、浮かんでいた疑問が晴れていくのが分かった。
「確かにそのタイプの魔法が相手なら、耐性力がガクンと落ちる筈だ」
ジークは精霊───もしくはそれに連なる存在との相性が気使い以上に悪いのである。
《竜王》の炎もそうだが、精霊の力を呼び出す『歌』の魔法でも詠唱を使い、大量の魔力を消費しなければならない程、相性が極端に悪い。
精霊のチカラに対する耐性力もほぼなく、普段とは比べものにならなかった。
「回数制限があるからもう使えないけど、それでも効果は十分でしょう? だから正体を明かしたのよ」
「やられた。研究されていると思ったが、ここまでとはな」
何を、とは言わない。
言う必要がない。
どうやら相手は自分の想像している以上に、自分の魔力を研究し尽くしているようだった。
「う……結構やばいか?」
魔力が練りづらく、その度に痛みが強まる。
修業で痛みなどの耐性も付けたつもりであったが、この全身の無防備な神経を細切れに引き裂いていく感覚には、さすがのジークでも苦しんでいた。




