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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【中編】。
145/265

第5話 冥女の技術と彼の力との差。

「く……! ふッ!」


ジークが視線を追うようにミルルも視線を移して、倒れているルーシーと立ち上がろうとしているルカを映した。


苦悶の息を吐いて倒れているルーシーはガードが間に合わなかったのか、直撃して制服がボロボロとなり力尽きて倒れていた。


代わりに立ち上がろうとするルカの周りには、先程までいた闇精霊の蛇が倒れている。


咄嗟に周りに巻きついて、彼女を守ったようで、次第に霧のように薄れていき消えていった。彼女も自身もまったく制服がキズいているところから、ノーダメージというわけではないようだ。


「さて、じゃあここからは俺が相手をするとしよう。ミルル、お前は離れてていいぞ?」

「だからなんで私と組むのさ? もう相手は一人みたいだし、もう別々で戦えばいいんじゃ───」

「悪いがそれはダメだ。可能なら試合場ギリギリまで離れてほしい」

「え……?」


何を言っているのかと再びジークの方を向いたミルルであったが、その顔を見て言葉を摘むんでしまう。


「冥女、お前に聞きたいことがある」

「……なにかしら?」


闘気でも殺気でもないが、どこか威圧感がある瞳で立ち上がろうとするルカに問い掛けたジーク。ルカは鬱陶しい気にホコリを払って彼に視線を合わせる。


(昨日の雷槍と戦った時に見せた顔と……あれ? 何か───)


ミルルには見覚えがあったが、それは昨日の雷槍戦に見せた姿だけではなかった。

ほんの一年前の記憶であったが、ミルルは懐かしく感じて脳裏に浮かんだ彼と合わさった。


(入学した頃のまだ笑ってもなかった、無表情だった頃の彼だ)


まだ親しい間柄でもなかったが、監視していた為(・・・・・・・・)、記憶には残っていた。


だがそんなジークもすぐに消えた。しばらくしてアイリスと話すようになってからは、表情も柔らかくなりよく笑うようにしていた。もっとも笑い方にどこか作り物が含まれていたが。


そして記憶と結びついたミルルを置いて、ジークとルカは向かい合っていた。


「お前の戦いは一度だが、見させてもらったよ。なかなかの魔力操作スピードだ。並みの魔法師じゃまず不可能な領域だ。能力的になら将来はSランクは間違いないな」

「随分と上から目線ね? これでも王族よ? 並み以上の技術を身に付けれる機会はいくらでもやってくるわ。それと既にSランクの領域には入っているわ」

「確かに、すべてとは言い難いが、技術力は間違いなくSだ。十分誇っていい」

「本当に上から目線ね、イライラしてきたわ」

「褒めてるだけなんだがな。あとオリジナルの使い方も上手いぞ?」

「本題を話しなさい。結局何が言いたいの?」


肩をすくめるジークを睨みルカが問い掛けると。

諦めたようにため息をついて、ジークは口を開いた。


「お前から感じる微量な魔力。いったい何処で手に入れた? 何か頭も弄られてるようだが、異常な魔力操作スピードの原因はそれか?」

「視えているのならもう分かっているのでしょう? わざわざ質問する必要なんてないわ。それに元はあなたのなんだから、ねぇシル───」

「───なるほど、ならもう喋らなくていい」


冷めた目で言うジークに対し、同じく冷めた瞳で告げるルカが途中で止められる。

褐色のオーラの砲撃が彼女の頭部を狙って放たれたからだ。


「あなたが聞いてきたんじゃない。意味があるか分からない質問を」


ルカは闇の障壁を何重にも張ることで、砲弾を受け止めてみせる。

その光景に横で見ていたミルルは思わず、呆然としてしまう。


(あの攻撃を一瞬で止めてみせた! それにも驚いたけど、なに? あの魔力?)


そして次第に体から闇のオーラを溢れ出しているが、先程までとは少し違和感がミルルにはあった。まるでさっきまではただの飲み物だったのが、薬でも入られて毒入りに変わってしまったような。得体の知れない謎の危機感があった。


「手紙には明日、と含ませているように思えたんだがな?」

「知らないわ。大会なんて所詮クジで相手が決まるもの。ここで私と当たったことがあなたの不運だっただけよ」

「そうか。だとしたら不運だったのはおまえの方だ。俺は面倒なことはさっさと済ませたいタチでね。明日まで待つのは実は苦痛だったんだ」


そうして互いに視線をぶつけ合うこと数秒。

どちらがともなく、魔法を発動しようと動き出した。


「『硬土の挟撃(ブラウン・サンド)』」

「遅いわ」


ジークが左右から加重の挟み撃ちを仕掛けようとしたが、それよりも早くルカが指を鳴らして先制を撃つ。


左右からの土の加重攻撃の衝撃を無数の闇の障壁で防ぐと、上空より闇の光『迷走へ誘う闇曜(フィンスタニース)』を解き放つ。


闇の光を受けて苦悶するジークだが、すぐに横に転がり光の射程から離れるが、気になることがあった。


(魔力を干渉しづらい? 魔力を逸らそうとしたら反発された)


これまでジークが干渉できなかった魔力は一切なかった訳ではないが、そのすべてが精霊や気の混じわせたものであり、一番の例外があるとすればオリジナル魔法だけであった。


だが今回はまったく違う感覚である。これは今までにない経験であった。


しかし、戦闘を続けていくうちにその疑問もすぐに解けた。


「シッ」

「ふっ」


駆け出して左側から迫めにいくジークは『零の透矢(ノーマル・ダーツ)』『零の手裏剣(ノーマル・ダード)』を飛ばして牽制する。


ルカも障壁を張り防いでいるが、迎撃の隙を与えないように攻めるジークの攻撃にルカは反撃に移れなかった。


「……っ」

「『身体強化・超加速ブースト・スーパーアクセル』ッ! 『身体強化・風の型(ブースト・ウィンド)』ッ! 『跳び虎』ッ!」


ジークは超速移動で俊敏性の走法でルカに詰めていく。

さらに風の身体強化でまとった風のオーラの手刀を構えて横に振るった。


「っ……!」


舌打ちをしたそうな顔で障壁で守りに入るルカだが、強化されたジークの手刀は障壁ごとルカを吹き飛ばしてみせる。障壁も反動で破壊されるの見てジークは確信する。


(やっぱり、今のこいつの魔力からも俺の魔力が混ざっている。割合は多分二割弱だと思うが……干渉しづらいの理由はこれか!)


考えたくはないが、帝国は既に謎の魔法使いによって、支配されていると考えるべきだ。


勿論すべてではないと思われるが、最強クラスの《鬼神》が不在な上、多くの帝国主力メンバーはジークに殺された。確実に帝国の力は激減した筈だ。全面的な休戦協定がなければ他国に支配されるレベルに。


「そこをつけ入れられたって訳か、国を征服でもされたか?」

「……歪め」


どうにか倒れずに着地したルカは闇のオーラを変化させた。

ジークの言葉は聞こえていたが、無視してSランク技法『詠み唄』によって空間が歪み出していく。


空間に干渉できる属性はだいたい五つであり、無属性とその派生の虚無属性、光属性と闇属性でその二つの派生の属性である時空属性だ。


「別のオリジナルか? 空間系でも闇系統に連なる物か」

「ふっ!」


彼女の周囲の空間が歪んでいき、視界がグチャグチャになっていくと空間を広めていき、観察しているジークに近づいて行く。


「お前からは色々と聞きたいこともあるし……多少は俺も攻めようか」


迫ってくる歪みを避けて後方に退がったジークは片手を上げて、全身から二つの属性を放出させる。


「はぁああああ!!」


放出されたのは風属性と光属性である。

ジークは二種類を融合技法で合わせて、新たな属性を誕生させた。


風属性と光属性の融合技法『翼天の皇閃衣(ウィング・ナイト)


「翔け! 『翼閃の二脚(ウィング・ラン)』!」


エメラルドの光を発しているジークの脚から、さらに濃い光を発する光の翼が出現する。

ジークはその翼で蹴るように飛ぶと歪みから離れて空へと逃れる。


「ふっ!」

「『翼閃の断裂光線(ウィング・スラッシュ)』!」


それを追撃しようとルカがオリジナルを維持しつつ、弓を射抜く構えを取り闇系統の『黒き闇の一矢(ダーク・シュート)』を。


ジークは瞬時にそれを察知して放たれている射線を見切り、『翼閃の断裂光線(ウィング・スラッシュ)』の光線を指先から放ち、飛んできた闇の矢を撃ち落としてみせた。


さらに追撃を続けるルカの攻撃を、ジークは走るように翼を駆使して空中移動で躱していく。


そんなジークの動きにルカは苦笑顔で言ってきた。


「……まるで《天空界の掌握者(ファルコン)》みたいね。けど無理よ、この魔力はあなたでも干渉は────」

「空中特権はアイツ程じゃないさ。それに可能だ。『翼閃の穿羽舞(ウィング・ストーム)』っ!!」


バッと翼を広げて翼から大量のエメラルドの羽が、竜巻のように噴き出して歪み空間を削るように攻撃する。


「っ! 『歪悪境壊の結界陣(ワーム・エリア)』を削るほどの魔力を……!」

「冥女、お前は確かに魔力操作技術は一流以上だが、肝心の出力が弱い。魔力量なら十人の中でも一番下だろうな」

「───っ!!」


ジークの魔力を微量ながら所持ているルカの魔法を干渉するのは難しいが、こうして削るように攻撃することは可能なようだ。

それにもう一つの理由として上げるなら、ルカの魔力保有量である。


ルーシーとの戦いでは技術力でカバーされていたが、ジークと戦っていくうちに綻びを見せ始めてきた。保有量そして放出量も一般の魔法師よりも少なくて低い。サナの妹のリナと同じタイプである。


ジークはそれを見抜いた上で魔法スピードや技術力での勝負ではなく、力で押し切る方へと変更した。


なにより彼女からは雷槍のような、闘争心を湧き立たせる空気がないことと、第一目標でもある古代原初魔法(ロスト・オリジン)の気配がいくら探ってもいても感じられないのだ。


(帝国に『ガイア』か『クロノス』があると思ったから、てっきり受け継がせていると思ったが……。まぁなんか乗っ取られているみたいだし、それはないか)


持っているとすれば例の魔法使いであろう。

ジークはそう結論付けて、もうこの試合には意味はないと終わらせにかかった。


次回の更新は来週の土曜日です。

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