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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【前編】。
137/265

第12話 攻めにいく剣士と現れた謎の魔法使い。

「……この辺りでしょうか」


ウルキア学園長のリグラの部下でもあり生徒である。風紀委員会の副委員長クロウ・バルタンは王都内を散策していた。ちなみに本日の試合は既に終えている。


クロウは目立たない冒険者のような服装で、人混みの少ない裏道を歩いていた。


「情報も確かではありませんし、慎重に行くべきですね」


クロウが動いていたのは、とある情報元の確認である。

この街に来てからリグラの指示で王都の情報を集めていたが、その中に気になる情報が紛れていた。


────王都内では密かに一部の貴族の者が帝都の者と協働して、《大魔導を極めし者(マギステル)》とまで呼ばれたSSランク(超越者)シルバーの魔法を再現できないか、市民を使って実験を行なっていると。


その王都側の協力者はかなりトップの者である。

真実であれば大騒ぎになること間違いないが、クロウはそれが狙いであった。


「もし事実なら今後の良い手札となるでしょうし、可能なら証拠を手に入れたいですね」


楽し気に微笑みながら裏道の奥を歩いて行くクロウ。

情報は不確かな物だが、興味が注がれるようで可能な限り、踏み込んでみようと歩みを進めた。













─────コツ……。


そのクロウのずっと後ろの方で微かにであるが、裏道で足音が鳴った。



◇◇◇




「それでは準備はいいか?」


審判の声に頷くとトオルは、向かい合っている学生に意識を向けて戦闘体勢に入る。


相手の学生は同じ聖国の王都の男子学生のようだ。

頭に帽子をかぶっている所為で顔はよく見えないが、一応挨拶しておこうと声をかけるトオル。……心なしか何処か見たことあるような、顔立ちであった。


「よろしく」

「……」


緊張しているのか、興味ないのか返答はないが、代わりに小さく頷かれる。

いきなり敵意を向けられなかっただけマシであると、トオルも特に気にせず構えを取っていた。


『では─────始め!』


「『身体強化・火の型(ブースト・ファイア)』『火刀の型(ヒート・ブレイド)』」


審判から開始の合図が出た瞬間、トオルは刀を素早く抜いた。

火属性の身体強化も発現させて、火の属性魔力を刀に流し込ませた。


「カァ!」


勢いよく駆け出して攻めに入ると、居合のように飛びかかって斬りに行った。……火の剣技『火閃』を繰り出したのだ。


「……」


しかし、相手の学生は何故か無言であった。

迫ってくる火の剣技に対しても、体を逸らして躱してみせるだけで、攻撃に転じようとしない。


「そうかよ……」


ただ躱しているだけ。だがそれだけでも、トオルには十分な脅威を感じ、不気味でもあった。


「っ!」


簡単に躱してみせる相手を見て、トオルも相手の力量を改める。

連続で繰り出す剣技の速さを上げて、相手の足から腕、腹から頭部へと袈裟斬りや突きを流れるように放つが。


「なんて、奴だ……!」


止めずに連続で剣戟を仕掛けるトオルだが、一向に刀が当たらず刃がカスリもしない。


しかも相手の学生から余裕な対応が一切抜けていない。

無駄なく軽やかに避けて、まるで子供と遊んでいる大人のように周囲には映っていた。


当然、子供はトオルである。


「っ……コイツ!!」


遊ばれているとまで感じ取っていないが、それでも手のひらに踊らされているような感覚に襲われた。……怒りからか剣戟の速度もさらに上がって、技の数も増えていく。


「『五式改 火閃・火花雀』っ!」


振るっている剣技『火閃』の応用剣技である。

火の斬撃を小さな鳥のように飛ばして放ってみせる。不規則に飛んでくる斬撃で逃げ場を封じる作戦のようだ。


「……」


だが、その攻撃に対しても、相手の学生はまったく動じない。

部分的な無属性の身体強化を発現させて、自分にめがけて迫ってくる火の斬撃を無駄なく、掻い潜るようにして躱してみせた。


「はああああ!」


しかし、トオルも躱される可能性を考慮して既に動き出していた。

無数の火の斬撃で敵に気を逸らしている間に、間合いまで一気に駆け出した。


「『七式改 雷鳴・絡み雷蛇』!!」


背後に回り込むと一振り。蛇のように動く雷の斬撃が巻き付くように相手を巻き切ろうとする。


相手を包囲する雷の蛇斬撃を前に、相手の学生は今度は逃げようとせず、焦ることなく手を前に出して───────


「────なに!?」


その行動に見ていたトオルから驚きの声が漏れる。

あろうことか、相手は守りにも入ろうとせず、伸ばした手で自身を巻き切ろうとしてくる雷蛇の斬撃を、魔力が込められた手で掴み取って、ねじ切るように雷蛇の斬撃を砕いたのだ。


「────っ『断斬』ッ!!」


その様子を呆然として見ていたトオルだったが、ハッとした顔で刀を振って風の斬撃を飛ばす。……だが、その斬撃もまた軽やかに、体を逸らして躱されてしまい、トオルはいよいよ焦りの汗をかき出してきた。


(ダメだ。全部見切られている! なんだこいつは!?)


ここまであしらわれたのは、正直初めの経験であるトオルは対応に困ってしまっていた。


父の剣技を正式に受け継いだ姉のシオンが相手でもここまではなかった。……ジークの場合は本人が後半まったく覚えていないので、ノーカウントとしているが。


「ちっ『火閃』!!」


連続の袈裟斬りで攻め入るトオル。

だが、それもやはり見切られているかのように躱される。……それを見たトオルはそこで勝負に出てみることにした。


刀を鞘に納め直して、居合の構えを取り出した。


「いくぜ……《《初式》》」


無属性の魔力が鞘と、そして差し込まれている刀から溢れ出す。

湯気のように漏れ出す魔力。量こそ多くなく少ないが、それでも静かに研ぎ澄まされていた。


「ッ!!」


力を溜めるように居合の構えの状態で、学生に向かってトオルが一直線に飛び出す。……その彼に対して、相手は今度は回避もせず、立ったままでいた。


(やはりこの程度は動かない。チャンスだっ!)


これまでの斬り込みで分かったが、目の前の学生は、遠距離以外の近接からの剣技に対しては間合いに入ってこない限り、対応しようとせず、間合いに入って斬ってきた時のみ躱している。……逆にいえば、それだけギリギリであっても容易く躱しているのだ。


しかし、この回避行動はトオルにとっては好機であった。


回避されるであろう間合いギリギリまで、近づいてからの超速居合。

躱される可能性は高いが、それでも可能性はあった。……相手はこれまでのトオルの動きからある程度予想をつけている筈。間合いまで入る速度から剣速まで、予想がつけられていると想定すべきだ。


ならばと、トオルはこれまでの剣技とは異なる、初式を使用することした。


間合いのギリギリの外で、一歩だけ全開で蹴って詰め込むと、溜め込んだ刀のエネルギーを抜刀させて剣技として解き放った。


「────『真刀幻夢』─────“一刀・無幻”ッ!」


無属性の横薙ぎで振り抜かれた。


「……」


軌跡を起こさせる程の神速の剣技。だがその剣技に対しても、相手は動揺せず対応してみせた。


一瞬で詰め寄って放ってきたトオルの動きを読んでいたのか、振り抜かれた時には半歩後ろに後退。刃は相手の前の空のみを斬るだけ、トオルの攻撃はまたしても避けられてしまった。───────かに見えた。


「───────“二刀・雷電”!!」


トオルの動きは止まっていなかった。

横薙ぎに振り抜かれた流れから回転。飛びかかるようにして上から一振り。……その際、刀と追うように伸びていた軌跡の色が黄色に、バチバチと雷光を響かせていた。


無属性から雷属性へと属性転換。

トオルは雷属性の剣戟を上からの一振りで繰り出してみせた。


「……」


しかし、振り下ろされた剣戟も、相手は反応良く対応する。……横に軽く飛んで鮮やかに躱していた。


「───────“三刀・風牙”っ!! ───────“四刀・水雨”っ!!」


だがトオルの攻撃もまだ止まない。……さらに二連、剣戟を披露してみせる。


雷から風、風から水、右から袈裟斬り、振り上げるように逆袈裟斬りの連続……と剣戟の連鎖攻撃をお見舞いする。


「……!」


この連続攻撃には、流石に厳しい相手の学生。

帽子で顔は見えないが、無表情のような口元が引き締まり、避けきれないと感じたのか何回かは、手で逸らすようにして回避し始めた。


(いけるッ! この技なら通じる!)


その反応を見てトオルはあと少しだと確信する反面。自分の体の限界が近いことを知ってしまう。


『初式・真刀幻夢』は連続剣戟と、属性転換との組み合わせて起こなわれる超速剣技である。


強力だが、その分反動も大きくトオルの体は既に悲鳴をあげて、振っている腕からも軋むような感覚が襲い始めていた。


一応精神ダメージに変化しているが、それでも精神的な痛覚ダメージは伝わるのでトオルも辛いのである。


だからあと繰り出されるのは、あと一撃が二撃。それで決められなかったら彼の敗北は濃くなる。


(っ、もう、これ以上負けられるかよっっ!!)


その時、脳裏に浮かぶ二人の男子生徒。そして倒すべき敵を思い起こした瞬間、体の奥から奮起させてトオルは魔力を噴き出す。


「──────ご、“五刀・火龍”っ!!」


体の奥から吐き出すように声を上げて、左脇を狙った剣戟を繰り出される。


トオルの剣戟は刃が真っ赤に染まった火属性である。僅かに刃から漏れる火が軌跡となり、その先の刃がまた躱されることなく、確実に相手の脇に届こうしていた。


届こうとする斬撃。避けられないと理解して、回避しようしていた体の動きを止めた相手は───────


「……」

「うっ! このヤロウ……!」


斬り込もうとしていた刀を持っているトオルの腕を掴んで、今度は止めてみせたのだ。


(けど、甘いなァ!?)


──────だが、この時だけは相手も食いと止めようとしている所為で、次の攻撃に対しては回避が遅れてしまった。


「あああああっっ!!」


ギリギリのところで止められたが、トオルはまったく諦めていなった。

その腰に差していた妖刀。トオルは逆持ちで抜き放ち。無防備な相手の頭部めがけて斬撃を浴びせたのだ。


「っ……!」


しかし、その攻撃もかろうじて帽子のみを切り裂くだけで、相手に刃が届くことはなかったが、反動で相手の上体を崩してみせた。……おかげで拘束されていた方の腕が解放された。


「ぐっ、これでどうだっ!!?」

「う……!!」


痛みから思わず呻き上げる中、さらに執念の一刀を浴びせる。

上体を切り裂くつもりで、今度こそ脇に一刀を繰り出した。……その攻撃に相手の学生も小さく呻いて体をくの字に曲げてしまう。


「ま、だ、まだだーーーっ!!」


そこからさらに一刀。トオルは火属性の込められた剣撃を放ってみせた。


「……!!」


対して相手の生徒は、くの字のまま回避しようとせず、


「───────『─────』」

「─────ッッ!?」



下から振り上げるように、手刀で繰り出した。

トオルの剣戟を迎え討って出た。……交差する際に魔法を一つ行使して。


「な、なんだ、と……?」


飛びかかって横に振り抜かれた状態で、呆然とトオルは立ち尽くしている。……首を横に動かして半分に折られた(・・・・・・・)自身の刀を見て。



◇◇◇



「うっ! かぁっ!」


壁にもたれて顔から汗を流して、胸を押さえて苦し気にジークが呻いていた。

人気のない会場内の通路の中であり、近くには誰もいなかった。


「……ふぅ」


そしてしばらく呻いていると、苦し気な表情も消え、落ち着いた息を吐くジーク。

疲れ切った様子で身体中から汗を流している。胸に手を当てて何か確かめるように眼をつぶると。


「……無事に取り込めたようだ。これでいつでも使える」


眼をつぶっていたのは少しの間だけ。

眼を開けて手のひらに小さな赤い発光を出すと、口元に安堵の笑みをあげる。


「ま、同時に魔力も少し変異したようだがな。……多分良い意味で」


こればかりはしょうがないことだ。

ジークは諦めたような笑みを口元に浮かべて、疲れたように肩を落としていた。


「……にしてもやってしまった」


雷槍との試合を終えて、自分の学園拠点に移動する途中、がくりと肩を落として手を顔を覆っている。

雷槍との戦い。特に後半にかけての部分を想い起こして、酷い頭痛に見舞われていた。


ただし、それはシムラから『古代原初魔法(ロスト・オリジン)』を奪い取ったからではない。それに関してはいずれ絶対に必要となる。必須の魔法の一つなのだ。そこだけは妥協できない。


さらにその際に使用したオリジナル魔法が原因でもない。オリジナル魔法は他の魔法と違い、生きている人から奪うのはかなり難しく、奥義の一つを使うしかなかったから使用したのだ。


落ち込んでいる原因は、相手していたシムラが学生でありながら、実戦経験も豊富な強敵であったことだ。……ついつい楽しくなってしまったのだ。


「つい昔の自分を思い出して、楽しんでしまった。……本当に楽しかったけど」


色々とやらかしてしまったが、それでも懐かしく感じる。

予選会でも心の何処かでセーブしていたのに、まさか雷槍相手に本格的な戦いをするとは思ってなかった。


「はぁ、戻るのが苦しいな」


足取りが重い気がするのは気のせいではない。……あれだけ派手にやれば、騒がれない筈がない。


これから待っているであろう質問攻め。ジークは憂鬱気味に感じ取るも、諦めに近い吐息をついて拠点に戻るため足を進めことにした。


現在、試合会場で起きている異常事態にも気づかずに……。



◇◇◇



(い、今の魔法は……!?)


折られた刀のショックよりも先に、トオルは先程耳に入った魔法名を、かつてのあの日の記憶と共に呼び起こしてしまう。


忘れる筈がない。あの男が使用した魔法を。



────────『絶対切断(ジ・エンド)



確かに目の前の男とは奴と同じ。刀を紙切れのように容易く折ってしまうオリジナル魔法を発現させたのだ。……しかも今回はただの手刀であるが、トオルはジッとその手を捉えていた。


「おまえ、……まさか」


折られた刀を震わせてトオルの眼光は相手に睨みつける。……その瞳からメラメラと復讐の炎が燃え上がり始めている。体の震えも歓喜かそれとも怒りからか、異様なほど震わせていた。


「何者だ……? おまえは……?」

「……」


相手の学生は答えようとはしない。

代わりに先程の剣撃で端が切れてしまった帽子を取ってみせる。……邪魔そうに放り捨て露わになった相手の学生の顔を見たトオルは……。


「っ……!!」


狼狽して言葉を失ってしまった。……不覚にも逆持ちで握っていた短刀の妖刀から微量であるが、妖気が漏れ出してしまう程に。


「……」


対して向かい合いっている相手は一切微動だにせず、クシャっと帽子の所為で乱れていた銀の髪(・・・)を掻くと、その無感情な銀の瞳(・・・)で、今にも爆発しそうなトオルに視線を合わせた。


──────ザワザワ……ッ


さらに周囲の目からも自然と捉えられたことで、観客席からも大きなどよめきが巻き起ころうとしている。


皆、トオルと同じようにある人物を想像したようだ。

聖国エリューシオンが誇るSSランク冒険者の人で、さらに最強の魔法使いと呼ばれた少年。


……《銀眼の殲滅者(ジェノサイダー)》、《大魔導を極めし者(マギステル)》そして《消し去る者(イレイザー)》など数々の異名を持つ英雄の魔法使い。


─────シルバー・アイズの名を、



……だが、そんな外の騒めきなど耳に入らない様子で、


「……排除」

「────!! っ……!」


銀の髪と瞳をした対戦者は、この試合初めてトオルに向かって感情の籠らない口を開いてみせると、守勢気味であったスタイルを一転。


(ヤ、ヤバい! 来るっ!)


その場で拳を構えた。……その姿勢に頭に血が上っていたトオルも熱が冷めたように、今の事態を理解し迎撃体勢に入ろうとするも、魔力が切れてしまっている為、フラついて動けず膝をついてしまった。


「クソ、体が言うことを……!」

「……『短距離移動(ショートワープ)』」


そうこうしているうちに、相手が再び魔法を発現させる。

本人を飲み込むような魔力の渦に飲まれて、姿を消したと思えば、運が良かったのか悪かったのか、気配がして後ろへ顔だけ振り返るトオル。


「……排除」


膝をついているトオルに向かって、至近距離から莫大な魔力を込められた拳を振り下ろそうとしていた。


「ち……くしょ、う」


直撃と同時にトオルの意識は途絶え、その勢いのまま地面へとめり込むように、叩きつけられた。


次回の更新は来週の土曜日です。

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