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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【前編】。
135/265

第10話 懐かしき気持ちと帰ってきた彼。

(────────いつからだ……? 戦いに対して辛さしか、感じられなくなったのは……)



◇◇◇



「ほぉ〜〜流石だのん。『限定限界(リミテーション)』の制限外、発現して霧散している自分の魔力粒子を代用にするなんて」

「視えるのか?」


眼鏡越しに試合様子を覗くように見るカムにバルトが問いかける。……彼女なら見えていると確信する。

彼女の魔眼『見定める定義(デフィニション)の左眼』は一部始終を捉えていた。


「うぬん、制限されているのは一度に出せる魔力量だけなのん。ジークは前もって発動して漂わせている魔力粒子を集めて、高レベルの魔法を使ったみたい」


激しい激突が収まり、接近戦で剣と槍を交じり合わせている試合を眺めながら、二人は話していく。……ジークもシムラもまったく揺らいでいる様子はなく、このまま均衡状態に入りそうであった。


「ジークなら漂っている魔力の属性が違っても、波長パターンを変えれる。……仮に戦っている場所がかつて暴れた戦地なら、アイツは最強だろうな」

「うぬん、未だに大半が立ち入り禁止になってるけど、その付近なら彼も操れるし、簡単に自分の地の利に変えれるのん」


暴れた戦地というのは、かつてジークが大戦際に魔法で暴れ回った結果、有害な魔力残滓が多量にその地に残ってしまった禁止区域となった場所のことだ。


シルバーの魔力が原因だと知っている者は少ないが、彼が原因なのだと認知されている為、環境汚染の英雄などと、蔑んで口にして恨みを抱いている元住人もいる。


「けど、それで倒しきれなかったのは痛いのん」


残念そうに呟くカムの視界には、未だ健在の様子で槍を振るっているシムラがいる。

ジークの攻撃で少しは堪えたようにも見えるが、それでも戦いに影響が出るほどではなく、寧ろ凄みが増しているようにも見えてしまう。


「今の僅かな緊張が解けたんだろう。体の動きが前より軽く見える……けど」


しかし、同意見のように口にしていたバルトが、一度に横目でカムを見た後に再びジークの方へ視線を向け直したところで、にやりとした笑みと共に一言。


「それはジークも同じだ。……どうやら緊張が解けたのは、アイツも同じだったようだ───────空気が変わった」


そうバルト告げている中で、試合の流れが今までにない程の変化が生じ始めていた。……観客の中からも動揺と驚嘆な声が上がっていた。



◇◇◇



(──────昔は師匠やみんな……アティシアとも、こうしてよく相手をしてもらったな)



◇◇◇



「ふっ!」

「……シッ」

「っっ!?」


ジークの攻撃魔法とシムラの防御魔法が均衡しあって消滅した後、再び互いに剣と槍をぶつけ合わせていたが……。


その攻防に変化が訪れ出していた。


(馬鹿なっ!? オレの槍術が見切られているだと……!?)


もう少しで突きつけれるとシムラが思っていた中、ジークが彼の槍からの鋭い突きを、なんと容易く掴んで止めてみせたのだ。

今までは剣で弾くか避けるかしてなかったのに、急な彼の対応の変化をみせた。


しかも、それだけではない。

先程の一撃での魔法戦の後、シムラを褒めるように言ってから様子が変わったジークだが、動きの方にも変化が生まれていた。


身体的な動きのキレや剣を扱い、捌くような振るう鋭さ。


シムラの突きの攻撃を俊敏な動きで躱すと、先程とはまったく異なる鋭い剣戟で押し攻めるジークの戦いは、もう今までは明らかに違っていた。


まるで別人のようなジークの剣捌き翻弄されながらも、シムラは必死に食らいつくが、その顔は驚愕の色で染まっていた。


「シッ! サァッ!」

「っ! ぐ!!」


そんな彼に対して、ジークの攻撃は強烈なものであった。

掴んで無理やり引き寄せたシムラの体を、横から剣で一閃入れようとして、シムラが空いている手で剣を振っている腕を弾いて逸らしてみせる。


「……!」


しかし、掴まれている槍はビクともせず、シムラも距離が取れなくなっていた

攻撃が逸れてもジークは二度三度と剣を振るい、シムラの肩、腕、足、腹を狙い攻めにいく。


「舐めるな!」


そのシムラも簡単にやられるつもりはない。

先程のように手や腕、足などで剣を弾いて、上手く逸らして体を左右に引っ張り、ジークを倒させて拘束から逃れようとしていた。


「カッ!」

「うっ! ──────がぁっ!?」


が、そこで動き回って重心が乱れていたのが、ミスだった。足で剣を弾いたところで、ジークが弾かれた要領で剣を、真上へと投げた。


そこから空いていた手でシムラの肩を押さえて、小さく跳び。片膝で腹に乗せることで、蹴って足場を悪くしていたシムラを押し倒した。


「─────ふっ!」


そしてクルクルと回って落ちてきた剣を掴み取る。片手で槍を掴み片膝でシムラを押さえながらひと突きを。


胸元を狙って剣を突き刺しにいく。


「ぐぅ!! ──────アアアアアッ!!!!」


回避不能なのは考えるまでもなかった。

シムラは回避を捨て、突き刺そうとしているジークの魔剣を、彼は空いている腕を盾代わりにして受け止めた。


本来なら纏っている雷の身体強化の防御魔力で、ある程度の攻撃は弾けれる筈であったが……。


「ぐっ、ぐぐっ!」


ジークの扱う魔剣はそのあたりの魔法とは桁が違う。

鋭い彼の突き刺しは腕を貫通させて、シムラの胸元にギリギリ届いたのだ。精神ダメージに変化する為、怪我や血こそ出てはないが、痛みは的確に襲いかかっていた。


胸が裂けるような激痛。シムラは苦しげに呻くが、気合いを入れてゼロ距離からジークに魔法を放つ。


「っス────────『落……(ストロング)(ボルト)……鉄槌(ハンマー)』ぁぁぁぁぁっっ!!!」


Aランク雷魔法の『落雷鉄槌ストロングボルト・ハンマー


至近距離で発現させることで、力を発揮するタイプの魔法である。

シムラは全開の魔力で強烈な(いかづち)を解放させると、組むように乗しかかっているジークに浴びせた。


不意で突き刺している状態であったこともあり、ジークは回避することなく、その雷の衝撃を体全体で受ける。その衝撃によって後方へと飛ばされてしまった。勢いで刺していた剣も抜ける。


それを一瞥して跳ね上がるように立ち上がったシムラは、槍を持ち直すと発している黄色の雷のオーラが一変。薄く見えて槍に纏っているが、激しさも消えて形もあやふや、存在感も乏しく見える薄い黄色のオーラであった。


見て盛り上がっていた者からも、不審そうな声や少しがっかりした声が漏れているが、当のシムラの目は本気の眼光を発していた。


「調子に乗るなよ? オレを本気にさせたことを後悔させてやる……!」

「……本気?」


倒す。そう目に刻まれているように対面しているジークには窺えた。……闘争心を剥き出しにして、シムラは槍を振り投げるように構える。


(この距離から投げるきか? 躱せない距離じゃないぞ?)


槍を覆っているかぼそい黄色のオーラが槍の先端。三刃の真ん中の刃先に集中していくのが、うすら笑みを残したままのジークにも見えた。一点集中の技なのかと予想とつけているが。


これから発現させる魔法に対して、ほんの僅かであるが、ジークの意識が逸れてしまったのだ。


「『刹那なる破雷の一殺(トニトルス)』」

「─────」


たった今シムラが発現したのがオリジナル魔法だと、認識するよりも前に、ジークの胸の中心に、いつの間にかシムラが持っていた筈の槍が深々と貫通して突き刺さっていた。



◇◇◇



(────────大戦の頃は沢山の人と戦い、殺し合ってきた)



◇◇◇



王都のギルドマスターのガイは難しい顔をし、眉間と腹部を押さえて辛そうにしていた。……ギルド職員用の観戦席で座って、初日から試合を観戦していた。


王都のギルドマスターに就いて四年程経つが、魔道杯のような行事、王都にやってくる他国の貴族や王族に対する対応が多々ある。その為、未だに不安になり胃痛の原因になることが度々あるのだ。


しかも初日の朝、SSランクのギルドレットからの報告で、侵入者が現れたことも耳にしている為、余計に胃が重くなるガイ。……常備している中でも、強いタイプの胃薬を服用して観戦席で眺めていた。


試合が三日目に入っている中、順調に経過してトラブルも起こらず、無事に進行していることに、ガイは心の底からホッとした様子で、試合を見ていた。


だが、それも午前まであった。

午後の試合が始まってしばらくして、ある一点。とある者達の試合、雷槍の対戦者を見ているうちに、胃痛で(うずくま)り出してしまったガイがいた。


「あの融合技法(戦術)と戦い方。……なんかもの凄い見覚えがあるんだが……ぐっ!?」


薬で治っていた筈なのに再発した胃痛で苦しむ中、ガイはジーク()の戦いを見て発狂したくなった。……試合が始まってすぐである。


いつの間にかガイの視線はジークの戦いを捉えて、口元に浮かべる薄い笑みを見ていると、何故か大戦で同士であった懐かしき英雄の姿を思い出してしまう。


……厳密には、色々と派手に暴れて、その後発狂しそうなくらい始末を追われた日々(トラウマ)であるが。


「胃が、キリキリするぅ……! ぉぉ……!」


……できれば、脳裏に(よぎ)っていることが、気のせいであることを期待したいが、そんな現実逃避など許さんと言わんばかりに、彼の胃は激しく彼を締め付けるのだった。




(ようやく勘づいたか。他の奴らも少しばかり怪しんでるように見えるが、思ったよりも遅かったな)


……と、そんな彼の様子に見ていた。同じくギルド職員用の席にいたウルキアのギルドマスターのシャリアは渋く眉を寄せて、横目でガイを一瞥した。

他の観戦者達の様子を僅かに目だけを動かして、他に気付いている者がいないかも確認する。……そのシャリアの様子に気付き、後ろに座っていたキリアがひっそりと声をかける。


「ジークさんもこうなることは分かっていたと思いますが……」

「うむ、予想よりも早いかもしれんな、……やはりあの策を講じる必要があるか」

「ギルドマスター?」

「……」


ボソボソ話し合っている最中に黙り込むシャリア。どうも難しそうな様子に、キリアが首を傾げて一旦会話を中断する。シャリアの表情を見て、今は邪魔しない方がいいと判断した。


声をかけられなくなり、浮かんだ疑問に思考を巡らせるシャリアであるが、感じ取った疑問は思ったよりも不明確なものだった。


(やはり妙だな。この違和感はなんだ? 朝から何かがおかしいぞ)


朝から感じる鈍く肌に突き刺さるような感覚。シャリアは自分の知らないところで何か起きてるのでは、と思案顔でジークの試合に意識を向き直した。……その直後であった。


試合場に鋭い雷光が走った。


「んっ!」

「ジークさんっ!?」


優勢であった筈のジークの胸元に、一瞬にしてシムラの槍が射抜いたように見えた。悲鳴のような声を上げるキリアの横で、シャリアの顔も一瞬強張ったが。


「────ん、あれは……」


だが、それも少しの間だけである。初めは焦っていたシャリアだったが、次にはに目を凝らして貫かれたジークを─────────ではなく。


(ほう……)


少し離れた場所で槍を投げた状態で立っているシムラ──────の隣に立っている彼に目を向けた。



◇◇◇



(────────今はどうだ? 俺はどんな気持ちで戦っている?)



◇◇◇



「オレの勝……「誰が?」────ッ!?」


既に槍を投げた形で立ち、勝ち誇った声音を漏らしたシムラの真横から声が……。

見ていた観客から激しい歓声が立ち上りかけたが、すぐさま動揺の声へと変わっていた。


シムラの槍はオリジナル魔法『刹那なる破雷の一殺(トニトルス)』へと変化して、一秒にも満ない刹那の一槍。確実にジークの胸元を射抜いた筈であった。


……現に射抜かれたようにシムラや周囲の者達にも見えた。普通なら回避不可で防御も間に合わないのだ。


だが、それも一瞬だけ。射抜いたと思われていたジークは霧のようにぼやける。次の瞬間、シムラの横に姿を現した時には、その霧の幻影も消えてしまっていた。


「バカなっ!? そんなことが────」


これにはシムラも驚かずにはいられない。破られた経験がほぼ皆無な切り札といっていいオリジナル魔法での一槍を躱されてしまった。

……約一秒間にも満たないが、幻影を射抜いたと気付いた瞬間、シムラは無防備となってしまった。


「『空撃一喝(スカイ・ショック)』」

「っ─────ぐぅあああああっーーー!!」


ガラ空きとなった横腹を蹴り衝くように、ジークはスキルを込められた蹴りを放つ。


“空天”の魔力を込められた足蹴り。穿つようにして横腹をめり込ませると、シムラの体は糸の切れた人形の如く反動で横に少し曲がって、自分らを覆っている結界へと飛ばされて激突してしまう。


「──────ッ、ガハっ!?」


《雷槍》のシムラ。この試合初めて軽傷どころではない、即KOレベルの大ダメージを負われてしまった。


「ぐ、ぐううう!」


致命傷ではなく、精神ダメージへと変化しているが、激痛のあまり反撃に移れずにいた。


「……懐かしいな。あの日々を思い出す」


苦しみ膝をつくシムラをよそに、ジークはどこか遠い目をして懐かしげに呟いている。……その表情は微かな笑みであるが、先程のような疲れたような笑み以外に、悲しみも混じり合っている。


「何年にも渡る修業の日々と僅か一年の大戦。ほんの短な間だったが、戦いに対する気持ちがこんなに違っていたなんてな」


心の底から楽しかった頃の思い出と、胸が張り裂けるような悲痛な記憶。

昨夜のことが原因なのか、それ以外の何かか分からないが、ジークは雷槍と戦っていくうちに、戦いに対する二つの記憶が入り混じり出していた。


……それは精神的な混乱かもしれない。

……まともではないかもしれない。


しかし、その二つの彼の記憶には共通の答えがあった。すると握っていた“空天”の魔剣の柄を離して、まるで捨てるように地面に突き刺すと、ジークは立ち上がるシムラに告げる。


「もっと本気で来いよ《雷槍》。この程度じゃオレ(・・)に勝つなんて、夢のまた夢だぞ?」


大戦時以来かもしれない。

前を向いて彼が勝つつもりで立ったのは。


──────揺るぎのない勝利を確信したのは。


まだ歪であるかもしれないが、それでも確かにこの瞬間だけ、ジーク・スカルス(シルバー・アイズ)は──────────勝利を求めて帰ってきた(・・・・・)



次回の更新は来週の土曜日です。

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