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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【前編】。
133/265

第8話 雷槍との戦いと苦戦の理由。

「両者とも、準備はいいか?」


自分の試合エリアに到着してすぐ、審判に促され相手に合わせて頷いてみせた後、対戦相手である中立国の三年の《雷槍》シムラ・サナダから手が伸びて握手を求められた。


「よろしくな」


楽しそうに笑みで手を差し出すシムラを見て、つい苦笑をしてしまうも手を伸ばして握り返す。……その巨体の背中に差している、鋭利な三刃の槍に視線を向け。


「こちらこそよろしくお願いしますが、……可能なら手加減していただけると有り難いですね」

「ふっ、無理な相談だな。オレは手加減が苦手でな。よく相手を病院送りにしてしまうんだよ」


楽に勝ちたいジークからの冗談混じりの願いにも、獰猛な笑みで本気か冗談か分からないことを告げてくる。


そんな様子のシムラを見据え、ジークは心の中で溜め息を零していた。


(こりゃ楽に勝てないな。……できれば、決勝まで、必要以上の消耗は避けたいんだが)


《雷槍》と向き合う中、ジークは脳裏で《死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》残した紙のメッセージを思い出す。


──────────魔導の頂点でお会いしましょう。


そう(つづ)られたメッセージの意味を、ジークは魔導杯と照らし合わせてみせた。


(魔導の頂点とは、魔導杯の決勝を意味すると考えるなら。……奴らの主人は魔導杯の決勝あるいは、その日に動き出す可能性がある。その日に何か起こすのか?)


都合のいい考えかもしれない。……だが相手がジークを魔導杯から下がらせないように、書いてるようにも見えた。

だがジークは幾分かの可能性をかけて、決勝までの日をすべて試合、自分の目的に注ぐことに決めた。


「両者……構え」


審判からの合図がくると、シムラは背中に差していた槍を抜き刃の先をジークに向けて構える。

ジークもそれに習い、拳を構えシムラに向ける。


「では……始め!」

「「!!」」


そうして審判の開始の合図と共に、ジークとシムラの戦いが始まった。



◇◇◇



「あれ?」

「アリスさん?」


ジークの試合が始まる前の貴族席での会話である。

一緒に皆の試合を見ようとリナとアイリスは同じ席に集まって、二人共始まろうとしているジークの試合を観戦しようとしていた。


だが、水晶魔石に映るジークの表情を見ていた、アイリスの方から疑問の声が零れる。


「ジーくんが……いつもと変」

「え、ジークさんが?」


心配そうに映っているジークを見るアイリスと同じように、リナも画面のジークを覗き込む。……しかし、リナには普段のジークと変わらないようにしか見えない。


「あの……」


何が違うのか判断がつかないリナはどこが変なのか、彼女に聞いてみようとしたが。


「すみません、そちらのお嬢さん方」

「「─────え?」」


貴族席に座っている二人に声をかける者が現れた。……本来、一般席とは違う貴族席で声をかける者など、身分的な複雑な問題がある為、普通はしない。


知り合いであれば、話は別かもしれないが、少なくとも今声をかけた女性はリナもアイリスも知らない人物であった。

白銀の髪をした気品溢れた女性の微笑みに、同性ながらドキっとする二人。……彼女は指で彼女達の隣の席を差すと相席を願い出た。


「隣良かったら座っていいですか?」

「え、えーーと」


声をかけれたアイリス自身は別に構わない、だがもう一人の方はどうかは分からない。彼女はチラリとリナの方を窺うように見てみるが、リナも特に反対はないとコクリと頷いてみせ、アイリスが白銀の女性を手招きした。


「ええ、いいですよ。……え、ええと」


続けてなんと言えばいいのか分からずにいるアイリスに、女性がポンと手を合わせて自己紹介を始めた。


「あ、失礼、私の名はシィーナ・ミスケルと申します」

「シィーナさん?」


聞き覚えがあるのか、少しばかり人見知りなリナが恐る恐る返してみると、シィーナはニコリと好意あふれる


「はい、あなた達のお父様にここにいらっしゃると聞いたのと、是非会ってみたいと願い出たんです」

「え、わたし達の父に? お知り合いなんですか?」


どうやら自分達の父と話は通していたらしいと納得したアイリスだが、それがなぜ自分達に会うことに繋がったのか、リナもアイリスも不思議そうに首を傾げていた。


頭に疑問符を浮かべている二人に対して隠すつもりがないのか、シィーナは迷うことなく頷いてみせ、知り合おうとした理由を口にした。


「私はあなた達の友人であるジークの師です(・・・・・・・)


と躊躇わず答えてみせたジークの師シィーナ・ミスケルは、彼女達の隣に座って自己紹介してみせたが……。


「「…………」」


そのあっさりと彼女が告げられた爆弾発言に、彼女達はジークの試合の開始の合図も忘れて暫しの間、ハンマーにでも頭を殴られたような激震を受け、魂が抜けた様子で呆けてしまっていた。


ただ、シィーナの方は画面に映るジークの様子に、敏感に察していた。


「どうやら何かあったようですね。昨日までの彼に比べても、戦いに対する目が明らかに変わっています。それも彼にしては珍しい」


────────なんとしても勝つつもりで戦おうとしている。……何かを得る為に、勝利する為に。


子供の頃からジークのことを見てきたシィーナは、彼の顔色を少し見ただけで彼女には理解できた。



◇◇◇



(試す必要もない、確実に《雷槍》を倒すか)


試合開始の合図が鳴ってすぐ、ジークはシムラにめがけて駆け出した。


(『身体強化(ブースト)超加速(スーパーアクセル)』!)


その際、身体強化で脚力を底上げしてみせるジーク。体、そして足から無属性のオーラが激しい荒波のように走る。

地を蹴った途端、目にもとまらない瞬足となってシムラの前方、相手の射程範囲ギリギリまで一瞬で到達する。


「───! ふ!」


驚異的なスピードで接近したジークに、目を見開いて驚くシムラだが、その対応は素早かった。


驚いていながらも体はしっかり迎撃動作を行なっていたのだ。構えていた槍を片手で回してジークに向かって横薙ぎで、弾き飛ばそうとしている。


その槍にはしっかりと雷が付与されて、先端の三刃からバチバチと雷の鳴りを響かせる。……射程内に入ったジークの横腹に、反射的に迎撃の雷の横薙ぎがピッタリと合わさった。


しかし、シムラの雷の横薙ぎは、ジークの体に接触したように見えたところで、その体をすり抜けてしまう。


「──────!」


これにはシムラも体を硬直させて目を見張る。……確かにタイミングは合っていた筈の自身の攻撃がなぜスリに抜けたのか。


それは霧のように消えていこうとする、彼の体を見て氷解した。


「っ!」


横薙ぎしてすぐさま背後に向かって回すように槍を振るう。気配が感じた訳ではないが、シムラの勘がそこにいると警報を鳴らした。


「っ!?」


だが、そこにいたのも自身の槍で崩れて、消えようとしているジークの体である。……手応えがなかった時点で外れたのが感覚的には理解できたが、思考が追いつかない。


「ふーーー!」


それでも体を崩さず隙を見せない。

学生でありながらAランク冒険者として、何度も危機的な状況に立ってきた経験が彼を動かす。


二つ名の《雷槍》通り、雷の槍を操ると全方位に向けて槍を振り回し、相手の接近を封じてさらにその回転によって雷の力を溜めていくシムラ。……纏っている雷が槍の中心で大きな球体となっていく。……そして


「──────雷電雷光なる震撃『雷闘震の轟天(サンダー・バースト)』ッ!!!」


雷系統最高位の一つ。

Aランク魔法の『雷闘震の轟天(サンダー・バースト)』を自身が戦っている、試合の地に叩き付けた。


ガガガガガッと激しい轟音と共に地を走らせる轟雷。一定以上の範囲を越えようとすると、ジーク達の試合エリアに張っている結界によって、他の者達には影響を及ぼすことなく遮られるが。


結果として行き場を失ってしまった(いかづち)の道は、地面を飛び越えて結界を這うように登っていく。……その勢いは止まることなく天辺まで届くのではと思われ。


「……!」


シムラの範囲攻撃を避ける為、上空に跳んで回避していたジークに向かってシムラの(いかづち)が意思を持つように飛びかかってきた。……跳躍中のジークに避ける手立てはなく、あったとしても既に逃げられはしない。


「───────『魔無(ゼロ)』」


ここにきてジークは対魔法師用の奥の手であり、専用技(スキル)でもある自身の魔力を利用とした魔法無効化エリアの『魔無(ゼロ)』を、自分を覆うように球体状で作り上げた。


───────『魔無(ゼロ)』を形成してすぐ、シムラの(いかづち)が守りに入ったジークに飛びかかったが。


「─────!」


……ジークが覆った『魔無(ゼロ)』の壁がシムラの(いかづち)を妨げる。


ジーク自身の魔力をそのまま使用し、圧倒的な質と量の圧縮によって押し潰して消し去る技。シムラの(いかづち)も消し去る……筈だった。


──────── ここで思わぬ事態が発生する。


完全防御に近かった『魔無(ゼロ)』の球体が、シムラの(いかづち)を受けて蒸発するように、崩れ始めたのだ。


「ちっ!」


その現象に舌打ちしたジークの次なる行動は早かった。


消滅しそうになっている『魔無(ゼロ)』であるが、襲いかかっている(いかづち)に幾分か抵抗を見せている。


(『鷹跳び』ッ)


その間を狙って、魔力の脚に込めて弾けさせると、宙を駆け出した。


空中歩行が可能な走法『鷹跳び』で、襲ってくる(いかづち)の間を縫うようして脱出する。


(お返しだ)


(いかづち)を解き放っているシムラの真上に到達したジークは、彼に向かって魔力を込められた手のひらを向けた。


「ッ!」

「──────『翠風の音曝砲(グリーン・バズーカ)』」


急接近してきたジークに驚くも、しっかり反応して対応を取ろうとするシムラだが、既に放出している雷の軌道修正が間に合わず、迎撃の雷を放つことができない。……やむなく槍をジークに向かい投擲しようと、素早く切り替えて構えたが。


その僅かな時間の間にジークの風のスキルが派手に放たれる。緑色のオーラの球体が彼の手のひらから膨れ上がると、そのままシムラの方へ砲弾のように飛び大きくなる。


そして、すべてを飲み込み爆発を引き起こす。……その爆風を背にしてジークは降り立ったが。


「カアアアアっ! 『雷の迅槍(サンダー・ランス)』っ!」

「!」


膨れ上がる爆風の中、直撃していた筈のシムラが勢いよく飛び出し、槍に帯びている雷を操り槍魔法をジークに向かい、投擲のように槍から解き放つ。


飛び出すようにして放たれた雷の槍は、そのままジークに一直線。迫ってくる槍に対してジークは『翠風の音盾』を斜めにして自分の前に展開させる。


彼を狙っていた槍は、阻んでいた風の盾をガリと削りはしたが、貫通することなく逸れるように上へ飛んでいく。


それを見たシムラは鋭い目でジークを捉えると、再度振りかぶって雷を槍に注ぐ。

ジークも彼の動きを見て何か察したのか、纏っていた『身体強化』を切ると、別の魔法を使用した。


「『雷の迅槍(サンダー・ランス)』!」

「『身体強化・風の型(ブースト・ウィンド)』!」


起きたことは至ってシンプル。

先程とは違い、少々小さくなった雷の槍を数十発をジークは風の身体強化を使用し、拳ですべて叩きつけた。……風は雷に強い、属性の相性をジークは狙った。


(いかづち)を纏え─────『身体強化・雷の型(ブースト・サンダー)』」


シムラも得意な雷の身体強化を発現させて、ジークに向かって駆け出し槍を振るってみせる。……だが


「──────!」

「槍の範囲には入らない!」


ジークは身体強化に合わせて『跳び虎』で敏捷性を引き上げ、左右に動きに相手を乱してみせる。……槍の攻撃範囲を見極めて瞬時に回避している。


「『翠風の音切(グリーン・カッター)』」

「く、おぉぉぉぉ!」


シムラの射程範囲外からジークは手刀のように、振るった手から風の刃を何枚も飛ばした。……風の特性である切断力によって放たれた風の刃をシムラは雄叫びと共に槍で弾いていく。


「シッ」


ジークも負けじと次々とナイフのように風の刃を飛ばしていく。

中には大きめの刃を混ぜたり、ブーメランのように横から飛ばしたりするが、シムラの察知能力と反射能力は高く、危うい時もあるが、槍を振るい回避していた。


「これならどうだ? ─────『裂風の円刃(ウィンド・カッター)』!」

「ぉぉおおおおおお! (いかづち)よ!!!」


(スキル)の合間に通常魔法を繰り出したジーク。

風のカマイタチが円のように回転し飛ばしてみせるが、シムラの槍から発せられる強大な(いかづち)によって遮られてしまう。


(このままじゃラチがあかない。……少し不安だがやるか?)


通常魔法の風の円刃を飛ばしながらジークは迷っていた。

だが、それは決して本気を出すのが恐ろしいからではない。……自身の体に纏わせている二つのオリジナル魔法であった。


自身の存在を否定する禁呪『自身否定(パーソナル・エラー)』。

指定した魔力に対して、一定条件のもと制限をかける魔法『限定限界(リミテーション)』。


ジークのこの二つを利用して魔力の存在感を限りなく消して隠蔽状態とし、一度に放出できる魔力放出量に制限をかけたのだ。


今現在、ジークの一度に出せる出力量はAランク魔法中位である。


問題は後者の放出力の制限である。

魔無(ゼロ)』の発動の際にも影響が出ていたが、出力が落ちている。


(別に魔力を無理やり抑え込んでるわけでもないし、一時的に解除も可能だが、今の時点の出力で《雷槍》に負けているのはツライか)


この制限の中で戦うのなら一気に決めるべきだったが、シムラの反応の速さと放出力が上回り、出始めで既に失速してしまった。


次回の更新は来週の土曜日です

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