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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【前編】。
132/265

第7話 彼らの真意と集う者たち。


「話して貰うぞ? 姫さん」

「……突然呼び出したと思えば、一体これは、何の真似ですか? ギルドレット様」


闘技場内にある王族専用の室内で。

午前の試合が終わり休憩に入ったところで、ギルドレットが大事な話があるのだとティア王女と対面すると、彼女に質問して詰め寄っていた。


ちなみに護衛の者は外の扉の前で控えているが、ギルドレットから一切殺気がないので詰め寄っている気配がしても待機している。


本来であれば王女との二人っきりなど許されないし、誑しのギルドレットとなど言語道断であるが、真剣な表情で彼から大事な話があると言われてしまい、渋々引き退がったのだ。


……まあ、仮に本当に何かしようとしても王女であれば何とかしてしまうが、いくら格上の男性であっても少しは抵抗できる上、騒ぎになればすぐに終わるだけである。


「あの魔剣も姫さんがアイツ(・・・)から回収して来たんだろう? 会っているはずなら当然正体も知っているよな?」

「さぁどうでしょう?」


肉食的なギルドレットの言葉と視線にも負けず、ニコリと微笑を浮かべて惚けるティア。

恐らく父のようにギルドレットもジークについて、質問してきたのだと予想すると笑みを絶やさず、決して崩れることのない城壁となっていた。


ジークのこともある、ティアはこれから何を言われても、動じないように全力で努めていた。


「……ジーク・スカルス……か?」

「──────!」


だがその余裕の笑みも彼の一言で、容易く陥落しかけてしまう。


表情こそは先程と同じ笑みである。……しかしその笑みの端が僅かに綻びをみせ彼女の整った微笑に、違和感が出てしまった。


しかも厄介なことに、その僅かな崩れを眼に自信を持つこの男に、あっさり看破されてしまった。


「やっぱ、そうなのか」

「……だから何なんですか? ギルドレット様。もうすぐ午後の試合が始まりますので、席に戻りたいのですが」


何を掴んだのか分からないが、苦しい言い訳だが、今この場でギルドレットと相対するのは危険だと判断したティア。試合のことを理由にこの場から離れることにした。


最悪引き止められてもリンとフウを呼び出してでも、と考えたティアであったが。


「ああ、それで構いませんよ姫さん、……それで納得がいった。姫さんは今、アイツの身に起きていることを何も知らない上、見えてないのか」


詰め寄っていた体を退かせると、確信を持って口したギルドレットの言葉に、ティアはなんとか立て直そうとしていた笑みを消して、探るような目で彼の見上げてしまった。


その彼女の顔を見て、さらにギルドレットはいくつか知ることができた。


「ああ、姫さんはそれも分からないのか。……アイツは関わらせる気がないのか、それとも迷っているだけか」

「ど、どういう意味ですか……? ギルドレット様、あなたは……」

「悪いな姫さん」


いよいよ素で戸惑いだしてしまったティアに、ギルドレットは微笑でウィンクするとこんなことを告げてみせる。


「まずはアンタからも隠していることを教えて欲しいな? オレは美人の頼みには弱いが、大事なことはちゃんと把握したいんだ」

「──────」


ギルドレット本人としては『決まったっ!』とキメ顔でいるようだが、向けられたティア自身は表情にこそ出してないが、彼から見えない服の内側で鳥肌を立ってしまっていた。


(お、お姉様はなぜこの方に惚れ込んだのか、……こうして寒気がする度に激しく疑問に思います……)


顔は決しておかしいわけではない。寧ろ整っており三〇代近くの男前な印象が受けられるのだが……。


世の女性達は目の前の男性に対して、生理的に受けつけることができない、謎の多い拒絶感が彼の体から漏れているように感じられた。



────────だからなのか、彼の口にした言い方について、気付くことができなかったのは。



◇◇◇



「今のところ参加人数が多い聖国の優勢ですが、私の学園のみだと、やはり少々劣勢ですね」

「一年がほぼ全滅で三年の主力も脱落している者もチラホラといるな。……このままだと決勝トーナメントまでウルキアの生徒が何人勝ち上がれるか」


闘技場内に設置している会議室。

そこで集まっていたのはウルキア関係者の者達で、一人はウルキア学園の学園長、リグラ・ガンダール。……貴族達の為に会議を実施したのは彼である。


さらに他に四名、サナの父であるゼオ・ルールブとアイリスの父であるディック・フォーカス。……ウルキアでもトップの貴族の二人であるが、他にもう一人……。


「ふむ、まあしょうがないだろうな。午前の試合も惜しかった奴もいるがな」

「シャリア殿……」


難しい顔をするゼオの視線の先にいるのは、小さな金髪の女性、どこか人間離れした妖艶さを醸し出してる。


ウルキアギルドマスター 《妖精魔女》シャリア・インホード。

彼女に参加を求めたのはリグラである。

滅多(めった)に街の外に出ない彼女がやって来ているという知った時、驚いたリグラだが、是非とも意見を聞きたいと考え参加をお願いしたのだ。……断られかもしれないと思われたが、ウルキアに関わりのあることだと会議に参加したそうだ。


と話していく中、リグラが経過表を見ながら口にしていく。


「一年は残念ながら決勝までは厳しいようです。三年の残りの主力も風鬼委員長のミヤモトさんと副委員長のバルタン君、生徒会のライブさんの三名だけですね。……主力メンバーは残り少ないですが、その分二年が這い上がってます」

「そのようだな」


リグラの説明を聞いてゼオは表を眺めるると、二年の者達のトーナメント経過を見て少なからず驚いて、笑みを浮かべていた。


「私の娘が勝っているのは知っているが、午前まででまさか十名中、半分以上の六名が残っているとは……しかも内三名は知っている名だ。……ディック殿はどうだ?」


ゼオに促され特に意見を述べてなかったディックが、初めてトーナメント経過の表を見つめる。……しばし、沈黙後重く閉じていた口を小さく開いてみせた。


「……ジーク君、ですかね」

「お?」

「ほう」

「……」


ボソリと告げたディックの名に三名は共に異なるが、興味深そうに見ていた。


質問したゼオは少し意外そうに声を漏らして、なにやら意味深な瞳を覗かせるリグラ。

そして二人とはまた異なり、その真意を探るような薄い横目で見据えるシャリアだった。


「ディック殿はジーク・スカルスという少年のことをご存知で?」


特に深い意味はなく、興味本位で尋ねてみたのはゼオであった。不思議そうな表情でゼオがディックに顔を向けている。


そんなゼオの何気ない質問にディックの方はというと。


「……少々彼とは、縁がありまして。……娘の方が、ですが」


と黙秘こそしなかったが、具体的な回答はせず最後にボソリと娘と関係があるのだと呟いたディック。


───────などと会話を進めている途中であった。


会議室に新たな参加者が現れたのだ。


「ちょっといいですか?」


長く伸ばした白銀の髪を揺らし、質素な雰囲気あるシャツと長めの白のスカートを身につけ、女性は彼らの前に現れた瞬間────────


「? 誰だ、き───────っ! 君はっ!!」

「「「──────っ!!」」」


目を剥いて驚きの声を上げたのはゼオであるが、他の面々も呆然とした様子で目を見開いていた。皆彼女のことをしているからであるが、……特にリグラは思わず二度見してしまうほど珍しく動転していた。


しかしそれも仕方ないことだ、なにせ彼女はリグラにとって学生時代から続く好敵手のような存在だ。


あと、動転していたのは彼だけではない。

彼と別の繋がりを持っている彼女もまた、内心混乱していた。


(なぜ、お前が出てくるんだ!? ジークは……このことを知っているのか!?)


シャリアも困惑した様子で、表情からも動揺を隠せずにいる。シャリアもまた彼女の登場に目を疑って見つめていた。……直接会ったことはないが、ジークからそれとなく聞いていたのだ。


「突然の訪ねてしまい、申し訳ありません」


それぞれが困惑し、仰天とする中、彼女は柔らかそうな笑みを口元に浮かばせて。


「お久しぶりですね、みなさん。──────《星空の劔》のマスター、シィーナ・ミスケルです。……私個人の事情で申しにくいのですが、この会議の参加を求めに参りました」


ジークの師であるシィーナ・ミスケルの登場はこの場の雰囲気を、崩壊してしまうには十分な存在感であった。



◇◇◇



ジークと雷槍との試合が始まる少し前、魔導杯が行われている闘技場の外で小さな出来事が発生していた。……いや、小さな子が騒いでいた。


「うぇえええっ! 広いですっ!」


いつもジークが世話になって魔道具の店を開いているピンク髪の色の少女、ミーア・ホーガが作業着姿ではなく、女性らしい私服姿で大きく見える闘技場を見上げて素っ頓狂な声を上げていた。


「まったくジークさんもひどい人ですっ! 大会に出るなら教えて欲しかったですっ!」


憤慨の様子で頬を膨らませている姿は遠目から見ても可愛らしいが、幼く見えるのは呪いの後遺症で年齢的には既に大人な彼女。


もし付近の人から『お嬢ちゃんどうしたの?』などと子供扱いで声をかけられたら激昂して雷の蹴りを入れるか、ショックで泣きじゃくるであろう。


「はぁ、とにかく会ってせめてこれだけでも渡しておかないと、ジークさんのことだからほっといたら、ずっと忘れていると思いますし」


うんうんと頷いて持ち歩いているカバンの中にある、小さな小箱と──────────狸の置物が見えた。



◇◇◇



「お? 遅かったなジーク、やっと来たか」

「……ん、ああ」


自分の学園拠点に戻って来たジークは慌てた様子で学生達が集まる中、呆れた顔で同じくいたトオルに頷き返して、設置している試合結果の表と水晶魔石から試合状況を確認した。……不思議ぐらい慌てている学生達の理由が表を見ただけ理解した。


「ガルダ先輩が……負けたのか」

「ああ、僅差でな、けど相手にも相当ダメージが与えてた。……その証拠にそいつ、次の試合は棄権するらしい」


話によると相手は帝国の《剛腕》は相当なパワー重視のタイプだったようで、強固なガルダの防御を正面から破ろうと何度も属性が付与され、専用技の強化された拳で殴り続けたそうだ。……衝撃でガルダの硬化魔法が砕けるほどだった。


だが、ガルダも負けじと『一体化』で応戦し、ギリギリのところで力尽きたそうだ。……相手の方もボロボロで勝利コールと共に気絶したそうだが。


「そうか……見てないが、惜しかったんだな」

「そこが意外だようなぁ、お前のことだから絶対見てると思ったが」

「ははは……」


返答に困り苦笑してやり過ごすことにしたが、正直言うなら見てみたかったと内心は惜しむジーク。そうしてトオルと少し話した後、《雷槍》との試合の為、試合場へと移ることにした。


「オレももう少したら試合だから、あんまり見れないが、頑張れよジーク。……ま、お前なら余裕か?」

「あははは……どうだろうな」

「……?」


笑みでトオルの冗談に答えるジークだが、その笑みはいつもと違って、どこか固いものがあるのをトオルは指摘はしなかったが、なんとなく感じ取ったのだった。


三日目にして既に影響が出始めている魔導杯。

各視点で起きようとしてる混乱が、やがてどのようにジークに向かうのか……。


すべての答えは五日後に行われる、魔導杯の決勝で明らかになる。


次回の更新は来週の土曜日です。

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